いきなり実技試験はっじまっるよー!
本当はトレーニングとして対人組手とかやらせたかったんですが、筆者が知識不足なためバッサリ割愛しました
あと基本は大河視点なんですが、一部表現の都合で第三者視点があります 読みづらくなっているかもしれませんがご了承くださいm(_ _)m
俺達は今、雄英高校入試の実技試験会場に来ている。
「倍率がヤバいとは聞いてたけど・・・マジでこれ全員受験者なのか?」
「年々倍率上がってるらしいからな。今年は300倍超えたなんて噂もあるぞ」
「みんな本気でヒーロー目指してるんだろうな・・・俺帰ってもいい?」
「ここまで来たんだから腹くくれよ。・・・つっても大河にこの空気はちょっと重いか・・・」
俺はヒーローを目指していない。周りの奴等はどこを見てもギラついたオーラを醸し出している。さすがの俺にもこの空気感はキツいものがある。
「でもお前は化け物だから大丈夫だろ」
「その理屈はおかしい。てか俺が化け物っていう前提がそもそもおかしい」
いつものように軽口を叩く人使。こいつは本当に鋼の心臓してるな。
・・・と思った矢先、人使の表情に、おそらく俺しか気付けないであろう僅かな緊張感が見てとれた。
そうだよな。お前はずっとヒーローを目指してきたんだもんな。
「やれることはやったんだ。あとは試験の内容次第!だろ?」
「・・・そうだな」
人使は個性の都合上こういう個性ありきの試験は不利になりやすい。担任からも、ヒーロー科の合格は厳しいと言われている。それでも諦めずにここまで来た。
「お前ならやれるって信じてるぞ」
「折れそうなフラグ建てるなよ。でもまぁ、気持ちはありがたく受け取っとくよ」
人使が突き出した拳に自分の拳を合わせ、俺達は試験会場に入っていった。
定刻が過ぎ、実技試験の説明が始まる。今回の試験の内容は、ロボット型の仮想敵を倒し、制限時間内により多くのポイントを獲得することが目標だそうだ。
(詰んだ。俺達の個性まるで役に立たねぇ)
隣にいる人使も同じことを思ったのだろう。悔しそうな表情を浮かべている。
(戦闘力しか見る気がないのか。確かにヒーローにとって強さは大事だと思うけど)
明らかに自分達に不利な試験内容だが、嘆いても仕方ないので気持ちを切り替える。
(おそらく外装は堅いから素手じゃ倒せない。他の受験者が壊したロボのパーツを利用するしかなさそうだな)
今のうちにこの試験で出来ることを考えておく。記念受験とは言ったが、手を抜くつもりはない。それは他の受験者を、何より唯一の親友を侮辱する行為にあたる。
途中堅物そうなメガネが質問し、0ポイントのロボの説明があった。要はお邪魔ギミックだな。
その後は試験会場の説明。同じ中学の生徒が一緒にならないようにある程度のグループに分かれるという話があった。
人使と別会場になったことに僅かな悲哀を抱きつつ、指示に従ってそれぞれの場所へ移動した。
会場に着く。制限時間は10分だ。
スタート前に改めて動きの確認だ。とりあえず武器を確保してからが本番だから開始直後は様子見し『スタートォ!!』てロボの破片を・・・?
『どうしたぁ!?実戦ではカウントダウンなんざねぇぞ!?もう試験は始まってるぜぇ!!?』
試験官の声が会場に響く。慌てて受験者達が駆け出していった。
(いきなり始まるのかよ!?っああもうとりあえず武器探しだ!!)
走りながら取り回しの良さそうな破片を探す。ほどなくして、ハンマーのような形状の破片を見つけた。
「とりあえずこれを使うとして、その前に!」
堅さを確認するために破片を殴る。
(やっぱ堅ぇ。特攻しなくて正解だった!)
何も考えず思いっきり殴っていたら、おそらく拳が壊れていただろう。
自分が立てた作戦の成功に一先ず安堵し、即座に次の行動に移る。
「あとはコイツでアレを倒せれば!!」
近くにいた大きく『1』と書かれたロボに突撃。突き出してきた腕を目掛けて、両手で持った破片を全力で振り抜く。
「よいっ・・しょぉ!!」
ゴンという鈍い音と共に、破片が伸びた腕の横っ面にあたる。破壊こそ出来なかったが、衝撃でロボがバランスを崩した。
(チャンス!)
反動で崩れかけた体勢を整えつつロボの懐に潜り込み、人間でいう心臓の部分を狙って全身全霊の一撃を叩き込む。
「うおおぉぉ・・らあぁ!!!」
ゴォンとさっきより一回り大きな音が響き、ぶち当てた箇所が大きくへこんだ。
今度も破壊は出来なかったが、ロボは徐々に動きが鈍くなり、やがて完全に動かなくなった。
(機能停止・・・なら倒したことになるはず!)
ここまでで1分は経っただろうか。出遅れた感は否めないが、この戦法は通用する。
(あとは時間内に、出来るだけ多く!!)
時間は有限、立ち止まる暇はない。次なる標的を目指して俺は走り出した。
2ポイントも倒せることが分かり、順調だと思っていた作戦。だが、6体目に攻撃した際にある違和感が訪れる。
(手応えが・・・弱くなった?)
破片を見ると、十字部分の根元に割れ目が出来ていた。度重なる衝撃で、武器が壊れかけているのだ。
(しまった!頭から抜けてた!!)
ハンマーのような形状の破片。取り回しに優れているそれは、壊れやすいという欠陥も抱えていた。
(つっても今は戦闘中だ!頼む、なんとか・・・倒すまで保ってくれ!!)
目の前のロボを倒すことを優先し、攻撃を仕掛ける。しかし祈り届かず、無情にもその攻撃で破片が折れ、手元に残ったのは柄の部分のみ。
ダメ元で攻撃を仕掛けるが、ロボはびくともしない。
(しゃーねぇ。一旦離れて武器探しだ!)
ロボの攻撃範囲から逃れる為に後ろへ跳ぶ。が、瓦礫に足をとられ体勢を崩し、倒れた際に後頭部を強く打ち付けてしまった。
(いっ!?)
意識が途切れた。
おそらく数秒だったのだろう。俺が意識を取り戻して最初に見たのは、さっきまで俺が戦っていたロボの頭を、男が蹴り砕く姿だった。
「君!大丈夫か!?」
聞き覚えのある声。試験前に質問してた堅物そうなメガネだった。
「あぁ、大丈夫だ」
返事をして起き上がる。痛みはあるが体は無事だった。
「危ないとこだった。ありがとう!」
「礼には及ばん。ポイントを横取りのようなものだからな」
ふくらはぎに排気筒のようなものがついているその男は、イメージに違わず堅物っぽい口調だった。
「以後気をつけたまえ」と言い放って走り去る男の背中を見ながら、俺はひどく冷静になった頭であることを考えていた。
(ポイント目当てかもしれないがあいつは俺を救けてくれた・・・救けることはヒーローの活動の1つ・・・だとすれば)
思い出せ。試験前の説明を。
(あの時・・・試験官は1度も、ポイントの獲得方法がロボだけとは言ってなかった・・・)
確証はない。でも可能性はある。
(もしそうなら俺がとるべき行動は・・・!!)
新たな決意を胸に、俺は走り出した。
「今年も活きのいい奴がイッパイいるぜぇ!?」
「雄英目指してんだ。このくらいは出来て当然だろ」
「シヴィー!!」
モニター室に響く、やたらとテンションの高い声と、対称的にひどく落ち着いた低い声。
「しかしこの試験のシステムはどうにかならんのかね」
「なんだ?なんか気になることでもあんのか?」
「戦闘に重きを置きすぎだ。このシステムだと、俺みたいな個性の奴は必然的に不利を強いられる。合理的じゃない」
「言うねぇ。けど、これより適切な案が出てこなかったんだから、諦めるしかねぇよ」
「それはそうなんだがな・・・ん?」
「どうした?」
2人は数あるモニターの1つを注視する。そこには、他の受験者とは動きが異なる1人の少年が映っていた。
「こいつは・・・」
「さっきまでロボの破片で戦ってたよな?」
「ああ、だが・・・」
その少年は、人を救けるために動いていた。
「気付いたのか?」
「みたいだな。明らかに動きが違ぇ」
俺は、他の受験者を救けるために動いていた。
(おそらくこの試験は、人を救けることでもポイントが加算される)
レスキューポイント。試験前に説明されなかったもう1つの採点基準。
少年は、この隠された要素に自力で辿り着いていた。
(勘違いの可能性もある。無駄な努力かもしれない。それでも)
元より少年は、記念受験としてこの場にいる。試験に合格することが目的でなかったからこそ、迷わず選択できたのかもしれない。
(困ってる人を救ける!!)
救けるとは言ったが、あくまでも自分が出来る範囲でだ。俺を救けたあいつはロボを粉砕してたけど、俺にそんな能力はない。
せいぜい出来たのは、瓦礫に挟まれた人の救助と、怪我をした人の応急処置くらいだった。
(自分用に持ってきた応急処置セットがこんな形で役に立つとはな・・・)
携帯用のため量は少なかったが、あからさまに大怪我をしている人のみに対象を絞ることで、なんとか保たせていた。
(あと2人分あるかないか・・・本当は使わずに済むのが一番なんだがな)
そんなことを考えながら捜索を続け、新たに瓦礫に足を挟まれている人を見つけ、救けに行こうと走っている最中に、それは来た。
(なっ、なんだ!?)
強烈な揺れ。バランスを崩し勢いのまま地面に倒れ込む。地震とは明らかに違うその揺れは、数秒の後に収まった。
立ち上がれなかった。揺れのせいでも、転んで怪我をしたからでもない。視界に入ったそれが、絶望となって俺の体を縛りつけていた。
規格外の大きさのロボット。高層ビルを思わせる圧を持ったそれが、目の前にそびえ立っている。
(おいおい馬鹿かよ!あんなのに潰されたら大怪我どころじゃ済まねぇぞ!!早く救けないと・・・でも)
少年は動けない。頭では救けたいと思っていても、体が言うことをきかない。
彼は幼い頃のトラウマのせいで、『命懸けの救助に対して体が拒絶反応を示してしまう』。
(このままじゃあの子は救からない。なにか、なにかやれることはないのか・・・!)
頭をフル回転させ、俺もあの子も救かる方法を考えるものの答えは出ない。
俺にはなにも出来ない
見捨てるしかない
諦めが頭を過った直後、俺の視界の端で、緑色の閃光が迸り、視界から消えた。
思わず上を見上げると、さっき見た緑色の閃光を纏った男が、ちょうど巨大ロボの顔の辺りまで飛び上がっていた。
(あいつ・・・今までどこに・・・っていうか、まさか!!)
そのまさかだった。そいつは、緑色の閃光を迸らせながら、巨大ロボの顔面をぶん殴った。
どこからそんなパワーを出したのか、ロボがその衝撃に耐えられず、仰向けに倒れていく。
(・・・っ!今なら!!)
命の危機が去り、ようやく動けるようになった俺はすぐさま走り出し、瓦礫に足を挟まれていた女の子を救けた。
「動けるか?」
彼女は俺の質問には答えず、立ち上がってふらふらと歩き出す。
「このままじゃ、あの人が死んじゃう・・・!!」
彼女の言葉にはっとする。さっき巨大ロボをぶっ飛ばしたあいつが、今まさに落下を始めたところだった。
「私の、個性なら、救けられる!!」
彼女は真っ直ぐに空から落ちてくる男の方へ向かっていく。俺は邪魔をしないようにしつつ、彼女の後ろをついていく。
(この状況で『救けられる』って言ったってことは、彼女の中に確信があるってことだ。なら俺は、その言葉を信じる!)
落ちてくる男を見る。緑色のモジャモジャした髪に、全体的に細身な地味目の少年。落下の恐怖からか涙を流しながら、ぐしゃぐしゃの顔でパンチの体勢をとっていた。
地面に着くか着かないかの瀬戸際、彼女が少年の頬を右手で叩いた。
瞬間、少年の体は、まるで時が止まったかのようにピタリと止まった。
その後彼女が指の腹をつけるようにして手を合わせる。すると少年は、まるで『そこから落下が始まった』かのように地面に崩れ落ちた。
少年に駆け寄り状態を確認する。何をしたらそうなるのか、両足と右手が常軌を逸した壊れかたをしている。
「せめて・・・1ポイント・・・!」
本来なら意識を失っていてもおかしくない大怪我。そんな状態の彼が発したのは、仮想敵を倒そうとする気概だった。
ほどなくして試験終了のブザーが鳴り響き、彼はその音と共に気を失った。
あまりの状況に終了後も動けずに固まっていると、後ろの方からしゃがれたおばあさんのような声が聞こえた。振り返ると、雄英きっての看護教諭である、リカバリーガールが歩いてきていた。
治癒を施してもらい、地味目の少年の怪我は見た目はほぼ完治したが、気を失っていたので、会場にあった簡易ベッドまで運び、待っていた試験官に引き継いだ。
「あの、救けてくれてありがとう」
地味目の少年を心配してついてきていた彼女が、思い出したように話しかけてくる。
「あのモジャモジャの人、『せめて1ポイント』って言ってた・・・もしかして、0ポイントだったんかな・・・」
「かもな・・・にしても、なんであの巨大ロボ相手に突っ込んでったんだろうな」
「よーぅ。まだいたかお前ら」
声がした方に振り向くと、さっき行き会った試験官が、ヒラヒラと手を振りながら歩いてきていた。
「そっちの坊主頭に1個だけ聞きてえ事があってな」
「俺に?何ですか?」
「ズバリ聞くぜ。この試験の仕組みに気付いたのはいつだ?」
試験の仕組み。てことはやっぱり救助も加点対象だったのか。
「堅物そうなメガネが俺を救けてくれた時ですね」
「なるほど、それで救けるって行為に目ぇつけたわけだ」
「半信半疑でしたけどね」
「試験の仕組み?なんかあったの?」
「えーっと・・・これ言っちゃってもいいんですか?」
「試験はもう終わってるからな、ノープロブレムだ」
許可を得て、この試験の隠された仕組み、救助によるポイントの存在を説明する。
「ほえぇ~、全然気付かんかった・・・」
「俺も途中まではロボしか頭になかったからな」
「けどお前は気付いた。見てた限りじゃ、この会場で気付いたのはお前だけだぜ?」
そりゃそうだろ。俺が気付いたのもたまたまだからな。・・・待てよ、てことは。
「あのモジャモジャ頭って、もしかして」
「あぁ。あいつはあの時、ただ救ける為だけに動いたんだ。それも、ロボを1体も倒せてなくて0ポイントの状態で、それでも迷わずに救けることをチョイスした」
驚愕の事実だ。横を見ると、彼女も俺と同じ反応だった。
終了間際の動きから察するに、あいつは記念受験とかじゃなく、本気で合格を目指してた。
つまりあいつは、『試験合格』と『人命救助』を天秤にかけた上で、迷わず『人命救助』を選んだんだ。おそらく、自分の体が壊れることを承知で。
「おい、いつまで話してんだ」
突然、無精髭を生やした顔色の悪いオッサンが割って入ってきた。
「よぉイレイザー。どうした?」
「どうしたじゃない。他の受験者はほぼ帰ってるぞ。お前らも早く帰れ」
どうやら試験官の知り合いらしい。言われてみれば、あれだけいた人がほぼ居なくなっていた。
「あの人、合格出来るんかな・・・」
「採点基準が分からないからなんとも言えないな」
俺達は、自分達の合否そっちのけで、あの地味目の少年について話しながら門まで歩く。
「そういえば名前聞いてなかったね。俺は畑中大河。君は?」
「私は麗日お茶子。次会えるとしたら雄英入学してからだね」
「そうなるね。それじゃ、また会えることを祈ってるよ」
帰り道が違うので門の前で別れる。そして、おそらく俺を待っていたであろう人使と合流する。
「浮気か?」
「どこからツッコめばいいんだ?」
「冗談だよ。試験はどうだった?」
「案の定ってとこか。人使も似たようなもんだろ?」
「大河に言われると釈然としないけど、そうだな。正直、ヒーロー科の合格は無理だと思ってる」
試験内容を振り返りつつ、いつものように2人で家路を辿る。
「そういえば妙に出てくるの遅かったけどなんかあったのか?」
「帰り際に試験官に捕まった」
「ナンパなんかしてるからだろ」
「俺がそんな軽率な男に見えるか?」
「見える」
「親友からの信頼(別方向)が厚すぎてツライ」
もはや恒例行事と化した人使の俺イジリ。露骨に不利な試験だったので心配していたが、引きずってはいないようでほっとする。改めて人使の心の強さを実感した。
「んじゃ、またな」
「おう」
そうこうしているうちに人使の家に着く。いつも通り見届けた後、やたら濃厚だった今日という日を噛み締めながら、俺は普段より緩やかな足取りで家路を辿った。
戦闘ポイント0を回避するのが大変だった
早くも現1ーAメンバーとの絡みがありますが、書く前は完全オリジナルの予定でした ですが、書きたいことに対して筆者の想像力が追い付かなかった為、このような形になりました
次回は、今回ちらっと出てきた大河のトラウマを掘り下げる予定です