特訓って描写難しいですね
あと轟ファンの方ごめんなさい いいように使われてます たぶんこれからもいいように使います
前知識として、敵襲撃直後で緑谷がセンチメンタルになっているという前提です
「なんで心操までいるんだ?」
次の日の朝、HR前に俺達は相澤先生に話を聞きにきていた。
「ただの付き添いです」
「そうか。まあいい、用件は?」
「エネルギーの補給係をA組の誰かにお願いしたいんです。使うとなくなるので」
「自分のクラスの奴では出来ないのか?」
「残念ながら、俺が吸収出来るタイプはいません」
「分かった、考えておく。ちなみに個性の練習はどこでやるつもりだ?」
どこで?選択肢は1つしかないぞ?
「自宅です」
「周囲への被害は考えたか?」
「・・・出力を抑えます」
「それでは高出力の訓練が出来んだろう」
「・・・ごもっともでございます」
「昨日見た限りではお前は高出力の射出精度が甘い。やるなら雄英の訓練場を使え」
あそこを使えるのか。それならいい練習が出来そうだ。でも昨日は特例みたいなこと言ってたよな。
「使用許可は要らないんですか?」
「そんなわけないだろう。ここに書類を置いておくから、それに必要事項を記入して提出しろ。俺がいない時は机の上に置いておけ」
そう言って、相澤先生が1枚のプリントを渡してくる。訓練場使用特別許可証という名目のそれには、氏名や日付、使用する理由等を書くスペースがあり、一番下に、「使用時間:30分」と明記されている。
うん?これ「特別許可証」だよな?あれ?
「これってこんな簡単に渡していいものなんですか?」
「本来は教師の指示で生徒を連れ出す際に使用するものだが、上からの通達による特別措置だ。入試で優秀な成績を修めた特典とでも思っておけばいい」
特典か。要は俺のヒーロー科編入の後押しって訳だ。ありがたく受け取っておこう
「それと心操。お前も使いたいなら自由に持っていっていい」
「俺も・・・ですか?」
「ああ。ヒーロー科を目指すなら、時間は有意義に使うべきだからな」
「・・・ありがとうございます」
感謝を述べつつも、どこか訝しげな表情の人使。
そりゃそうだ。人使は俺と違って、相澤先生に会ったのは昨日が初。人から聞いた話である程度の人となりは知っているが、向こうから話があるとは思ってもみなかっただろう。
(けど、だからこそだぜ人使。お前をよく知らないからこそ、お前を知ろうとしてる)
資料を見たのなら、個性のことも、ヒーロー志望なのも知っているはずだ。それを分不相応な夢と嘲笑うことなく、真摯にその心と向き合おうとする。まだ数回しか会っていないが、俺が知る相澤先生はそういう人だ。
その日の放課後から、俺達の居残り訓練の日々が始まった。
「俺から言うことは特にないから自由にやれ。分からないことは聞きに来い」
そう言い残して相澤先生は人使の方へ向かう。
先生がいるのは、「ヒーロー科以外の生徒が個性を使用する場合、教師が同伴しなければならない」からだそうだ。
「さて、まずはこれだ」
指先にエネルギーを集めてはたくような動作を行う。エネルギーは、ゆっくりと進んでいく。
続けて、同じように指先にエネルギーを集め、飛ばすイメージを浮かべる。エネルギーは微動だにしなかった。
(イメージだけじゃ飛ばせない。やっぱり飛ばすにはそれ相応の動作が必要か)
俺のエネルギーは、イメージで指向性を持たせることは出来なかった。体を動かすことで初めて指向性が生まれる。
動作によって速度は変わるが、威力は込めたエネルギー量に比例する。昨日の試験による体感だと、おそらく50以上で一般的な人間が爆発四散するレベルの威力になる。
(動きの中でタイミングよく切り離すイメージ。ズレるとあらぬ方向に飛ぶから要練習だな)
その日はとりあえず飛ぶ方向をコントロールする訓練を行った。他人からはただのシャドウピッチングにしか見えないだろう。
ちなみにエネルギーの補給係は轟になった。氷の微細な調整が苦手で、しょっちゅう訓練場に来ているそうだ。轟は「氷を溶かす手間が省けて助かる」と言っていた。
敵の襲撃があり、雄英が臨時休校になった翌日の朝。重傷を負ったはずのその人は、さも当たり前のように自分の机の前に座っていた。
「なんで動けてるんですか」
怪我の具合などそっちのけで、真っ先に湧いた疑問が口をついて出てしまった。
「寝てる場合じゃないからだ。お前らは知ってると思うが、雄英体育祭が迫ってる」
顔と両腕を包帯でぐるぐる巻きにされてミイラのようになっている相澤先生。いや、寝てた方がいいと思います。
「いや、寝てた方がいいと思います」
人使も全く同じ意見だった。
「心配するな。やることやったらすぐ寝る」
(そんな状態で何をする気ですか)
そもそもやることってなんだ?
「今日の訓練だが、やるなら俺も行く」
「いや寝ててくださいよ!他の先生じゃダメなんですか!?」
「ダメだ。前も言ったと思うがこれは特別措置。俺以外の教師には許可が出ていない」
「なら訓練をしなければいいんじゃ「それもダメだ」なんでですか!?」
「体育祭はヒーロー科を目指すお前ら2人にとって最大のチャンス。限られた時間を有効に使わないのは合理的じゃない」
分かってる。体育祭は俺達にとって重要なポイントだ。けど、その為に怪我人を利用するなんてヒーローのやることじゃない!
「俺はやります」
「お前・・・っなんで!!」
俺の葛藤をよそに人使はやると言った。その理由も俺にはもう分かってる。
「心配なのは俺も同じだ。無理はしてほしくない。けど、俺の知ってる相澤先生は無理なものは無理ってちゃんと言う人だ。それと」
そうして俺の目を真っ直ぐに見つめて、諭すように、言葉を紡ぐ。
「俺達は生徒だ。教師が手を差し伸べてくれたら、素直に受け取るのが生徒ってもんだろ」
絶対的な信頼を寄せている親友の言葉が、その思いが、俺の心の葛藤を鎮めてくれた。
人使だって不安はあるはずだ。それでも迷わず、伸べられた手を受け取れる心の強さ。そして、迷っている俺に手を差し伸べる優しさ。
人使はいつだってそうだ。俺が迷ったり立ち止まったりした時に救けてくれる。
「・・・俺も、やります。ただ、本当に無理はしないでください」
「俺の心配より、自分の心配をしてろ。こんな状態でも雄英教師、生徒の不安を徒に煽るようなことはしない」
「分かりました」
心配は無くならないけど、今は、先生のその言葉を信じよう。
その日の昼休み。俺達は久々に、麗日達と会った。
「なるほどなぁ。でも、人のためなら立派な夢だと思うよ」
麗日は、両親の生活を潤すためにヒーローを目指しているそうだ。
「人によっては、邪道だって言うんだろうけどな」
「心操君!君という人は!!」
「『人によっては』って言ったろ。俺はそう思ってない」
「うん、ありがとう!」
人使は事実はちゃんと言う。でも、人を嘲笑うようなことはしない。
「ところで、2人はどうしてヒーローになろうと思ったの?」
「「憧れたから」」
声が揃った。
「憧れ・・・そっか、そうだよね!」
「目標としているヒーローはいるのか?俺は兄のインゲニウムが目標だ!!」
「俺はイレイザーヘッド」
「「「相澤先生!?!?」」」
それはさすがに知らなかったぞ人使。お前憧れの人に師事してたのか。
「そんなに驚くことか?」
「そりゃあ驚くよ!イレイザーヘッドはメディア嫌いで有名だからテレビにほとんど顔を出してなかったしネットで調べてもろくに情報が手に入らない謎に包まれた・・・」
「デクくん!?落ち着いて!?」
「緑谷君!!落ち着きたまえ!!」
早口でスラスラと情報を吐き出す緑谷を麗日と飯田が止める。なんだいまのちょっと怖かったぞ。
「あっ・・・ごめん、ヒーローの話になると、興奮しちゃって・・・」
えっ興奮したらそうなるの。ますます怖くなった。
「えっと・・・それで、畑中くんは?」
「俺は父さんだ。ヒーロー名は『キャンセラー』。今は活動してないから、知らないかもな」
「キャンセラー・・・って、確か僕らが5歳だった頃に」
「ああ、殉職してる。飲食店で、逃げ遅れた子どもを庇って敵に殺された」
重くなる空気。
「あの・・・畑中くん・・・もしかして、その時の子どもって」
「緑谷」
人使が緑谷を制止した。
「それ以上言うな」
威圧を込めた射抜くような視線。次第に語気が強まる。
「あの事件を知ってるんだよな?なのになんでそんなことを聞こうと思えるんだ?」
人使は怒っている。俺から聞いて、あの日の惨状を知ってるから。
「お前に分かるのか!?目の前で父親を殺された子どもの気持ちが!!なぁ!?」
涙を流しながら、絶望に潰されそうになっていた俺の姿を、その目で見ているから。
「絶望と恐怖に心を塗りつぶされたそいつの気持ちが!!お前に分かるのかよ!!!」
「人使!!!!」
廊下中に響き渡るほどの声で、俺は人使の暴走を押し留めた。
俺のために怒っているのは知っている。だからこそ、俺が止めなきゃいけないと思った。
周りの視線が俺に集中する。でもそんなことを気にする余裕はない。
俺は緑谷に、さっきとは打って変わってか細い声で呟いた。
「緑谷。・・・俺は、その時の光景をこの目で見てる」
瞬間、表情が絶望と恐怖に染まる。おそらく、想像してしまったのだろう。
そして緑谷は、膝から崩れ落ちた。
「・・・どう・・・して・・・?」
地面に手をつき、顔を下に向けたまま、涙声で呟く。
「・・・なんで・・・だって・・・目の、前で・・・なんで・・・そんな・・・!!」
余程リアルに想像してしまったのだろう。緑谷は今、絶望と恐怖に心が押し潰されそうになっている。飯田は下を向いて立ち尽くしていた。
麗日は目に涙を浮かべ、ふらふらと歩き出す。そして、思いがけない行動に出る。
麗日は、緑谷の前で膝を落とし、その体を抱き締めた。
救けたい。その一心だろう。麗日は、緑谷の体を力強く、でも優しく、抱き締め続けた。
いつの間にか、麗日も嗚咽を漏らしていた。
どのくらい経ったのだろうか。俺は、緑谷の浮かべていた絶望の表情が和らぐのを見て、そっと2人に歩み寄った。
麗日の手をほどいてゆっくりと体を引き離し、倒れないことを確認してから2人の頭に手を乗せた。
「ありがとな」
出来る限りの優しさを込めて呟く。2人はまだ泣き止んでいなかった。
「飯田。人使。お前らは先に教室に戻ってくれ」
「分かった」
「待ってくれ!君が残ると言うのなら代わりに俺が」「ダメだ」
一言で全てを理解する人使。飯田の反応も予想通りなので、きちんと説明する。
「無断で授業を欠席するのは得策じゃない。飯田は、先生に今の状況を報告して欲しい」
飯田は真面目だから、こう言えば嫌でも引き下がるはずだ。納得はできないだろうが、俺はこんなことしか思い付かない。
「・・・分かった。友を頼む!」
そう言い残して、飯田は教室へ戻っていった。人使は既にいない。
(怒られるのは、俺だけでいい)
数分後、なぜか相澤先生がやってきた。
「とりあえず授業は欠席扱いにした。というわけで」
そう言うと、先生の雰囲気が明らかに変わった。
「今から説教を始めます!」
地を這うように低く怒気のこもった声。思わずたじろぐ。緑谷と麗日は、一瞬で涙が止まった。
「まず畑中!事の経緯を詳しく話せ!」
「緑谷が俺の父さんが殺された事件の事を知っていて、その時の子どもが俺だったことに気付いて、その光景を俺が見てたって言ったらこうなりました」
俺の話を聞いて、相澤先生はそのド迫力のオーラを引っ込めた。そして俺の正面にしゃがみこんで、いつもの声色で緑谷に話しかけた。
「緑谷。お前は何があった?」
「想像して、耐えられなくて、心が壊れそうになりました。そこからは、あまり覚えてないです。誰かに抱き締められていたような気がします」
「麗日は?」
「デクくんが、膝をついて泣いてるのが見えて、どこか遠くに行っちゃう気がして、なんとかしなきゃって思って。気が付いたら抱き締めてて、一緒に泣いてました」
「そうか」
そう言って立ち上がった相澤先生は、包帯越しにも関わらず、とても穏やかな眼をしているように感じた。
「説教するつもりだったんだが、俺もそこまで鬼にはなれん。次の授業には遅れるなよ。それと畑中」
でも、俺に向ける視線だけは怒気がこもっていた。
「罰として、今日の訓練の時間を説教に当てる」
まるで殺害予告のように言い残し、先生は去っていった。
ヤバい。俺今日死ぬのかな。鬼になれないとか嘘ですよね。逃げちゃ駄目かな。
「あの、畑中くん」
おう緑谷。現実に引き戻してくれてありがとう。
「なんだ?」
「畑中くんは・・・どうやって立ち直ったのかな、って。僕なんか、想像しただけで、あんなになっちゃって・・・それで、その、なんていうか・・・気に、なっちゃって・・・」
「私も・・・その・・・あっ!話したくないことなら、あの、無理しないでね!?」
「はは、ありがとな。でも、無理はしてねえよ。俺は、救けられたんだ。いろんな人に」
むしろ、こっちも話さないと、お前らが抱え込んじまうだろうからな。
「最初は、母さんだった。つきっきりで、俺の傍に居てくれてな。その後、たまたま救けた人のありがとうって言葉に救われた。それからは、いろんな人を救けて、たくさんのありがとうを貰って、ようやく立ち直れたんだ」
全部話した。2人の心が、少しでも軽くなることを願って。
「緑谷の真似する訳じゃないけどさ。俺も、人に恵まれたんだ」
2人の心が、少しでも救われることを願って。
「・・・話してくれて、ありがとう」
やっと、2人に笑顔が戻ってきた。
放課後、2人の様子が気になって1ーAの教室に向かうと、教室前に人だかりが出来ていた。
(何してんだこいつら?)
人の波を掻き分けて前に出る。ちょうど歩いてきていた爆発頭と目があった。
「・・・テメェ誰だ」
「うぇっ!?畑中くん!?」
「大河くん!?なんで!?」
「君も敵情視察に来たのか!?」
教室まで来たことがなかったからか3人は驚いていた。
「おーう!様子が気になってな!」
「オイコラ俺を無視してんじゃねーぞクソモブが!!」
なんだよやたら突っかかってくるなこいつ。
「誰だよお前」
「俺が聞いてんだよテメェが名乗れやクソが!!」
「クソモブ。これでいいか?」
「・・・上等だテメェ表出ろや!!」
あ、キレたっぽい。
「爆豪君!喧嘩は良くないぞ!!」
「黙ってろクソメガネ!!」
「あっ・・・あの・・・かっちゃ「あ゛ぁ!?」ひぃぃ!」
2人が止めようとしたが止まらない。教室にいる他の奴等は、御愁傷様と言いたげな態度で俺を見ている。おそらく爆豪と呼ばれたこいつはいつもこんな感じなんだろう。
「なぁ爆豪」
「気安く名前呼んでんじゃねーぞクソ坊主!!」
「そろそろ相澤先生来るぞ」
「来ねーわクソがおちょくってんのか!?」
「お前ら何してる」
あ、来た。1ーA寄るから人使に伝言頼んだだけだったんだけど本当に来た。
「さっさと帰れ」
鶴の一声って言うんだっけ。あれだけいた人達がこぞって帰ってった。
「それで、お前らは何してる」
「絡まれました」
「テメェが無視したからだろうが!!」
「おい爆豪」
「・・・・・・チッ」
あっこいつ先生の前ではさすがにやらないのか。まぁ除籍の可能性考えたらそうなるわな。
「爆豪」
「・・・んだよ」
「俺は畑中大河だ」
「・・・そうかよ」
そう呟いて、爆豪は帰っていった。
「うちの生徒がすまんな」
「大丈夫です。あいつ根は悪くなさそうなんで」
途端にザワつき始める教室。「クソ下水煮込みに理解者が!?」とか「初対面で暴言吐かれたのに!?」とかなんとか言ってるのが聞こえる。間近で見てた3人に至っては有り得ないものを見たような顔で口をあんぐり開けていた。
「それならいい。さて諸君。こいつが、今日2人の欠席者を出した原因だ」
「ちょっ先生!?」
「事実だろ」
「事実ですけど!!」
なんで俺に対してだけ風当たりが強いんだ!?貴重な時間を無駄にしたからか!?
「ちょうどいい。自己紹介もしていけ」
「この流れでですか・・・?」
ダメだ。今の先生には逆らえない。しょうがない。
「えー普通科1ーCの畑中大河です。ヒーロー科への編入を目指してます。ちょうどここにいる3人の友達です。大切なクラスメイトを泣かせてしまってすみませんでした」
(あぁぁ居たたまれないぃぃ奇異の目が痛いぃぃ帰りたいぃぃ)
「同じく普通科1ーCの心操人使だ」
俺含め、全員が声の方向に目を向ける。教室の入り口に人使がいた。
「俺もヒーロー科編入を目指してる。よろしく」
「こいつらだけじゃなく、他の科にはヒーロー科への編入を目指している人間が多くいる。諸君らも、自らの力に驕ることなく、気を引き締めてかかるように。以上」
言い終わるや否や、先生は教室を出ていこうとする。
「相澤先生!今日の訓練は?」
「中止だ。思ったより傷の治りが悪い」
「分かりました。お大事にしてください」
小さく笑って、相澤先生は去っていった。
その後俺達は、案の定1ーAメンバーの質問攻めに遭った。俺は切島、上鳴と特に仲良くなり、人使は尾白、青山と仲良くなっていた。
どうあがいてもシリアスにしかならなかった
心操君がどんどんイケメン化していく・・・なんでかは僕も分かりません
麗日のあれは母性本能です 泣いてる子どもを抱き締めるみたいな 最初は大河の声かけで戻ってくる予定だったんですが、書いてるうちに「これ声かけるだけじゃ戻ってこれねぇな」ってなって変えました
あと爆豪が書いてて楽しかった アニメ見た影響なのか、台詞の読み方とか顔が簡単に想像できました
次は、訓練挟むかいきなり体育祭かで迷ってます