防御寄りな個性の少年の話   作:リリィ・ロストマン

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 騎馬戦難しすぎんだろぉ!結局大半端折るしかなかったわ!!
 トーナメントは大河の個性のせいでわりとあっさり終わります
 最後はド派手な花火をぶち上げでやったぜ!!・・・うちの大河くんはどこへ向かってるんですかね(困惑)



体育祭(後)

 

 

 「なんでこんな軽いの!?」

 

 「坊主だから」

 

 「冗談にも程があるぞ人使」

 

 騎馬戦スタート前、尾白が俺のあまりの軽さに驚いていた。

 

 「ちなみに何キロ?」

 

 「最後に測った時は52キロだった、ちなみに身長は170くらい」

 

 「あはは、モデルみたいだね・・・」

 

 だって太らないんだもん。しょうがないじゃん?

 

 「スタート!!」

 

 ミッドナイトの合図で、騎馬戦が始まった。

 

 

 

 緑谷の近くにいた騎馬はこぞって緑谷チームに突撃していた。

 緑谷は背中のバックパックを使って飛んだ。

 

 「あいつまた飛んでる!」

 

 「たぶんサポートアイテムだ!サポート科は自分で作った分は持ち込んでいいらしい!」

 

 「あれを作った奴がチームにいるのか」

 

 俺達は見を決め込んでいる。人使の個性のことを考えると待つのが得策だ。

 

 「右から1チーム来たぞ!」

 

 「4人か。こっちが3人だからって狙ってくるなんて、卑怯な奴等だな」

 

 「そっちが勝・・・」

 

 返事をしてしまえばこっちの勝ちだ。1人が止まったせいで相手の騎馬はそのまま崩れた。

 

 「女だからって手加減して貰えるとでも思ったのかよ?」

 

 「「「ふざけ・・・」」」

 

 残りの3人も返事をしてしまった。完全に静止したのを見て、悠々とハチマキを奪う。

 

 「罪悪感がハンパないね、これ」

 

 「人使のヒールっぷりもだいぶ凶悪だと思う」

 

 「知らない人を洗脳する場合、煽って怒らせるのが一番いい」

 

 「「うわぁ・・・」」

 

 最初に立てた作戦はどこへやら。とりあえず2つ目のハチマキを手にいれた。

 

 「崩すのはダメって言ってなかった?」

 

 「崩したんじゃない。向こうが勝手に崩れたんだ」

 

 「ルール上は問題ない。ミッドナイト先生から直接注意されるまでは大丈夫だ」

 

 「2人とも考えがえげつないね・・・」

 

 「悪いな。俺達はまだヒーロー科じゃないからさ」

 

 「形振り構ってる余裕はないんだ」

 

 「分かってるつもりだよ。その気になれば、俺を洗脳して自在に操ることも可能だったはずなのに、心操はそれをしなかった」

 

 あれ1人語り始まったな。まぁ近くに敵いないから止めなくていいか。

 

 「勝つために個性を使うことは、悪いことじゃない。少なくとも、俺はそう思ってる!」

 

 かっこいいね。人使が洗脳しなかったのは、尾白のこういう部分を知ったからか。

 

 「まぁ、罪悪感が無くなるわけじゃないけどね・・・」

 

 「後で謝りにいこう」

 

 「取り合ってもらえればな」

 

 人使さぁん。事実だけど一言多いっすよぉ。

 

 

 

 

 その後、俺達は男2人組のチームを無力化し、ある4人組のチームと対峙していた。

 轟が大多数のチームを氷浸けにしたお陰で、今動けるのは俺達含め6チーム。そのうち緑谷と轟のチームが氷の壁の向こうに、爆豪チームが嫌味たらしそうな金髪ストレートのチームとやり合っていた。

 

 「くそっ!まさか衝撃で洗脳が解けるとはな!」

 

 俺達の前にいるのは鉄哲と呼ばれていた男のチーム。1度騎手を洗脳してハチマキは奪ったものの、「悔い改めなさい」とか言いながら茨髪の女が騎手の男をぶっ叩いたせいで、せっかくかけた洗脳が解けてしまっていた。

 さらに、骨々しい顔をした男の個性なのか、騎馬である人使と尾白は体が半分以上地面に埋まっている。

 おそらく2分以上は経っている。この状況で俺達がまだハチマキをとられていないのは、単に俺の個性のお陰だった。

 

 「大河!あとどれくらい保つんだ!?」

 

 「わからねぇ!あいつ次第だ!!」

 

 俺は、前方に盾を作るようにエネルギーを形成していた。土壇場で作ることに成功したのだが、既に2枚は破られている。

 一定以上の衝撃が蓄積すると自壊する。新事実だが、この状況ではあまり好ましくない。

 

 「俺達はもう何も出来ない!!頼んだぞ、畑中!」

 

 「全力を尽くす!!」

 

 相手が全方位バリアだと思っているのか、真っ直ぐにしか向かってこないのが唯一の救いだ。

 

 「無駄なことしてないで、他のチームを狙いに言ったらどうだ!?」

 

 「んんんんんんんん!!」

 

 洗脳のタネも既に割れている。必死に人使が話しかけているが、騎馬の3人は応えず、騎手は口を閉じながら叫んでいた。

 

 『残り時間は1分を切ったァァァ!!』

 

 「あと1分もあんのかよ!」

 

 盾はあと2枚。と思っていた矢先、通算3枚目の盾が破られた。

 

 「くっそ!これだから増強系は!!」

 

 俺の個性は増強系と相性が悪い。特に体を硬くするタイプは相性最悪だ。吸収が出来ないため、ゴリ押されてしまう。

 

 なんとか耐えきりたい。その思いも虚しく、残り5秒で最後の盾が破られた。

 

 「大河!!」「畑中!!」

 

 「まだ、だぁ!!」

 

 俺は万が一に備えて作ってあった棒状のエネルギーを、両手で持って思い切り振り抜いた。

 衝撃でエネルギーが霧散していく。普通の人間なら意識が飛んでもおかしくないはずのその衝撃を、男は耐え抜いた。

 

 

 

 

 「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!」

 

 鉄哲は、ハチマキを1枚奪って、そのまま意識を失った。

 

 

 

 

 『タァァイムアァァップ!!』

 

 「っああくそ!1枚取られた!!」

 

 「しょうがないよ。むしろよく耐えたと思う!」

 

 「さすがに4枚あれば上位には入れるだろ」

 

 ほっとする2人と憤る俺。どうせなら守りきりたかった。

 

 「まあでもとりあえずあれだな」

 

 喜びを一旦置き、俺達は口を揃えてさっきまで対峙していたチームに向けて言った。

 

 「「「救けて」」」

 

 

 

 

 

 

 

 騎馬戦の順位は、1位が轟チーム、2位が俺達、3位が爆豪チーム、4位が緑谷チームとなった。

 最終種目であるトーナメント戦に際し、15人では不平等が生まれるという理由で、5位チームから1人選抜されることになった。最後まで諦めずに戦った鉄哲が、満場一致で選ばれた。

 

 そして今は昼休み。食事を終えた後、俺はいつものように人使と駄弁っていた。

 

 「いやー許してもらえてよかった」

 

 「さすがはヒーローの卵、ってな」

 

 あの後、洗脳を掛けた人達に謝りに行き、騎馬戦が終わったことを伝えた。人使の洗脳は、掛けている間の記憶が残らないからだ。

 みんな悔しそうにしていたが、最終的には「気にしてない」と言ってくれた。

 ただ女子に関しては、ちょっと怯えていたように思う。尾白は人当たりの良さそうな顔立ちだが、俺と人使はどちらかと言えば悪人面をしているので仕方がない。

 

 「しっかしあのサイドテールの子可愛かったなあ」

 

 「遂に声に出したな変態」

 

 「あれ出てたか?」

 

 「あのさ」

 

 ピシィッ!!あ、あれ?な、なんか、き聞き覚えのあるこ、声が・・・。

 ギギギ。やたら固くなった首を無理矢理回し、横から聞こえてきた声の主を確認する。

 ああこれがジト目か。でもそんな顔も可愛・・・って違うそんなこと考えてるから今こんなことになってんだろーが!

 

 「エロいことはまだ考えてないぞ!?」

 

 「まだ?」

 

 「あっいやそのすいません言葉のアヤです・・・」

 

 「こいつはこういう奴なんだ」

 

 「救けてくれないのか人使!?」

 

 「口に出したのはお前だろ」

 

 ・・・ごもっともです、はい。

 仕方ない。嫌われてもいいから正直に言おう。

 

 「俺はたまにエロいことを考えます」

 

 「・・・それは私でってこと?」

 

 「人っていうよりは仕種。可愛いって思った瞬間にスイッチが入る感じ」

 

 「・・・・・・ぷっ」

 

 おっ。どうやら功を奏したらしい。

 

 「まさか開き直るとはねー」

 

 「許してくれとは言わない。俺はこういう人間だから」

 

 「まぁいい気分にはならないけど、でもあんたは悪いやつじゃないんだろ?」

 

 「なんでそう思うんだ?」

 

 「謝りに来てくれたから」

 

 なんだろう。やたら俺を買ってる気がする。

 

 「ルール上は問題ないのに、それでもすぐに謝りに来てくれただろ?だから、あんた達は悪いやつじゃないって思ってる」

 

 「買いかぶりだよ」

 

 嫌われてもおかしくなかったんだけどな。そう言ってもらえると、心が軽くなるよ。

 

 「なぁそろそろ突っ込んでいいか?」

 

 「どうした人使?」

 

 「なんだ?」

 

 「すげぇ見られてるぞ」

 

 俺達がいるのは会場の通路。人々が行き交う場所だ。

 

 「俺達は構わないけど、女子はいろいろ大変だろ」

 

 「それもそうだね。それじゃ、またな!」

 

 「おう、またな」

 

 「あっそうだ最後に1つだけ!そういうのは時と場合考えろよ!」

 

 サイドテールの女の子はそう言って離れて言った。

 

 「・・・女の子に言われるとは」

 

 「洗いざらい話したからだろ」

 

 「嘘を吐くよりはましだと思った」

 

 「知ってるよ。さて、俺達も行くか」

 

 「そうだな」

 

 ここから先は敵同士。親友だが、この場に限りはライバルだ。談笑もそこそこに俺達は別れ、それぞれの最終調整を行った。

 

 

 

 

 トーナメント前のレクリエーションの時、なぜかA組女子がチアガールの格好をしていた。どうやら上鳴と峰田に黒髪のポニーテールの女の子が騙されたらしい。

 はぁ、分かってない。そういうのは無理矢理じゃダメなんだ。恥じらいの種類が違う。残念だが、同じ男でも俺はお前らとは分かり合えない。

 

 俺が見たいのは、自ら着替えて「あの・・・ど、どうかな・・・?」って恥ずかしそうにしながら上目遣いで意見を求めてくる女の子の姿だ!

 

 脳内で謎の力説をしている俺をよそにレクリエーションが終わり、最終種目であるトーナメントの組み合わせが発表された。

 

 (人使とは別ブロックか・・・人使にとっては、僥幸だろうな)

 

 人使の洗脳は俺に効かない。天敵ってやつだ。

 

 (俺の相手は・・・芦戸ってやつか。てか俺爆豪と同じブロックだな)

 

 準決勝で当たる。勝ち上がれればだが。

 

 (とりあえず、まずは初戦に集中しないとな)

 

 吸収できる個性であることを祈ろう。

 

 

 

 

 トーナメント1回戦の初戦。人使が緑谷に洗脳を掛け、場外へ出そうとしたが、すんでの所で緑谷が踏み留まった。

 

 (指ぶっ壊して意識を取り戻したのか!てか、タネが割れてるのにどうやって洗脳したんだ!?)

 

 緑谷は洗脳のことを知っている。その緑谷に洗脳を掛けた人使と、意識がないはずなのに指を暴発させた緑谷を、俺は食い入るように見ていた。

 2度目の洗脳は掛からなかったらしい。回避をメインに取っ組み合っていた人使だったが、次第に動きが鈍くなり、最終的に場外に追い出された。

 

 (体力切れか。でも、大健闘だったな)

 

 結果としては負けたが、その熱意は伝わったらしい。会場全体が、人使のことを認めてくれたような気がした。

 

 

 

 『ドンマイ!ドンマイ!ドンマイ!』

 

 会場中に響くドンマイコールの原因は、轟が規格外の大氷塊で瀬呂を拘束したことによるものだ。あいつの個性なら、相手次第でもっと上位に食い込めただろう。くじの神様は非情である。

 

 

 

 

 第3試合、第4試合は、尾白VS上鳴と飯田VS発目で、それぞれ上鳴と飯田が勝ち上がった。尾白は無差別放電に対抗出来ず、飯田は相手のやりたかったことに利用され、実質不戦勝だった。

 

 そして第5試合。俺の出番がやって来た。

 

 (女の子かよぉぉぉ)

 

 芦戸三奈と呼ばれた目の前の相手は女の子だった。

 

 (男なら迷いなくぶっ飛ばせたんだがなぁ)

 

 予定では、エネルギーを投げつけて場外へ吹き飛ばすつもりだったが、さすがにそれを女の子相手にやるのは腰が引ける。リカバリーガールが居るとはいえ、徒に傷を付けるようなことはしたくない。

 俺は考えた。なるべく相手を傷付けずに降伏させる、最善の策を。

 

 「1回戦第5試合、芦戸さんVS畑中くん、スタート!」

 

 「勝っても負けても、恨みっこなしだよ!!」

 

 芦戸が突っ込んでくる。俺も作戦を悟られないように走る。

 芦戸が手から液体を飛ばしてきた。だが当然それは俺の体に当たる前に消える。

 

 「うっそ!なんで!?」

 

 芦戸が驚き、一瞬動きを止める。はじめからその瞬間を狙っていた俺は、あらかじめ作ってあった盾で芦戸の頭をかち上げた。

 

 「っ!!」

 

 見えない何かにぶつかり驚きを隠せていない芦戸。そして、衝撃に耐えきれず仰向けに倒れた芦戸の体を盾で押さえつける。

 

 「なん・・・っで・・・!動けない・・・!!酸も・・・!!」

 

 「俺の個性だ。相手の個性を吸収して、俺にしか見えないエネルギーに変えてる。今は、それを使って押さえ付けてる」

 

 淡々と説明しているが、力を抜くと拘束から逃れられる恐れがあるので、力は入れたままだ。筋力差があれば押し返せるだろうが、幸い俺の方が力は強いらしい。

 

 「どうする、このまま情けない姿を晒し続けるか、それとも降参するか」

 

 「ぐっ・・・うぅ・・・」

 

 なおも抗い続ける芦戸。あの、そろそろ周りから見た絵面がヤバイと思うんで降参してもらえないですかね。

 

 「うぅ・・・降参、します・・・」

 

 「芦戸さん行動不能!勝者、畑中くん!!」

 

 やっっと終わったぁ。長かったぁ。

 

 「うぅぅ悔しいぃー!ずるいー!」

 

 「ずるくねぇよ!歴とした個性だ!」

 

 反論するも芦戸は聞いていない。よっぽど悔しかったんだろうな。

 

 (少しは補充できたがあと172か・・・保つか?)

 

 残エネルギー量を心配しつつ、観客席に戻った。

 

 

 

 続く第6試合は、常闇が八百万を完封。第7試合の切島と鉄哲は両者戦闘不能で再試合が決定した。

 第8試合の麗日VS爆豪では、麗日の特攻を迎撃し続けていた爆豪への罵倒を相澤先生が一蹴。その後、溜まりに溜まった瓦礫の流星群を爆豪が大規模爆発で一掃、それを見て糸が切れたように麗日が気絶して爆豪の勝利となった。

 切島、鉄哲の再試合は腕相撲に決まり、接戦の末切島が勝利した。

 

 2回戦第1試合。轟の氷に対し緑谷が指と腕を犠牲にしながら対抗。何か話していたようだが、最終的に緑谷の全力パンチと轟の豪炎が激突。大爆発が起き、その衝撃で緑谷が場外へ吹き飛ばされ轟が勝利した。

 第2試合は、飯田が上鳴を蹴り飛ばし、飯田が勝利した。少し痺れていたのを見るに、放電は多少食らったらしい。

 

 そして第3試合。俺と常闇の試合だ。

 

 「黒影!!」

 

 「アイヨ!!」

 

 常闇の個性と思われる黒い影が迫る。

 

 (利用、させてもらうぜ!!)

 

 影でこちらが見えないのをいいことに、俺はピッチングの要領で、エネルギーを飛ばした。

 出力は30。当たった常闇は場外まで吹き飛んだ。

 

 (やべっ!やり過ぎたか!?)

 

 勝利宣言を受け、常闇に駆け寄る。骨折などはしていなかった。

 

 「不可視の一撃・・・見事だ・・・」

 

 弟子の成長に感極まった師匠のような台詞を言い残し、医務室へ運ばれていった。

 

 

 

 (はぁ・・・やっぱり爆豪か・・・)

 

 2回戦第4試合は怒濤の爆撃連打で切島のガードを崩し爆豪が勝利。続く準決勝第1試合が轟の勝利で幕を閉じる。

 そして、準決勝第2試合、俺と爆豪の戦いが始まる。

 

 「クソ坊主!!」

 

 叫びながら真っ直ぐ突っ込んでくる。俺は機動力では勝ち目がないからカウンターを狙っていた。だが、爆豪は爆発を駆使して直前で俺の目の前から消えた。

 

 「くたばれェ!!」

 

 後頭部に衝撃が走る。どうやら蹴られたらしい。

 

 (個性が効かないのは分かってるってか!)

 

 爆豪は変幻自在に動きまわりながら、個性を使わず直接攻撃してきた。全身に張っていたバリアで軽減は出来ているが、補充が効かないためいずれ割られる。

 そして遂に、バリアが割られ重い一撃を入れられた。

 

 (がぁっ・・・!!)

 

 俺はその場に片膝をついた。

 

 (終わった・・・完敗だな・・・)

 

 だが、次の一撃は来ない。不思議に思いながら、どうにか立ち上がると、俺を真っ直ぐに睨んでいる爆豪と目が合った。

 

 「おいクソ坊主。なんであの力を使わねぇ」

 

 「・・・エネルギー切れだ」

 

 「・・・そうかよ」

 

 小さく呟き、爆豪が歩いてくる。そして、俺の目の前で徐に掌を向けた。

 

 

 

 瞬間、100しかなかったエネルギーが1126まで回復した。

 

 

 

 「・・・どういう、つもりだ?」

 

 「全力のテメェを叩き潰さなきゃ意味がねぇんだよ」

 

 「・・・そうかよ」

 

 爆豪が、空中に飛び上がりきりもみ回転を始めた。おそらく、あの勢いを利用して突っ込んでくる気だろう。

 

 (・・・・・・後悔すんなよ・・・・・・)

 

 俺は途切れそうな意識をどうにか保たせて、爆豪がくれたエネルギーのすべてを頭に集中させ、巨大なキューブを作り出した。

 

 『んなっ!!なんだありゃあ!?』

 

 『避けろ、爆豪!!』

 

 実況が叫んでいる。爆豪はどうなったか分からない。

 

 そして、俺の記憶はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めて最初に見たのは武骨な天井だった。

 

 「目、覚めたか」

 

 人使の声がする。俺はベッドに運ばれたらしく、人使はベッドの横に座っていた。

 

 「・・・どのくらい寝てた?」

 

 「ピッタリ1時間だ」

 

 「・・・爆豪、生きてるか?」

 

 「1位になったのに表彰台で暴れてたよ」

 

 「・・・そうか」

 

 体を起こす。怪我はリカバリーガールのおかげかすべて治っていた。

 

 「リミッター、超えたんだ」

 

 「だろうな・・・あれは、やばかった」

 

 「やっぱり、見えたのか?」

 

 「見えたなんてもんじゃない。あれは・・・この世のすべてを否定するような、どす黒い、負の塊だった」

 

 負の塊。その言葉を聞いて妙に納得する。

 あの時俺は、力のコントロールをしなかった。ただ目の前の敵を抹消するためだけに動いていた。

 絶対的な死。あの日父さんが殺された時に焼き付いた記憶。あの力は、それの集合体だ。

 

 「・・・今はどうなんだ?」

 

 俺は人を殺そうとしたんだな。そう言うより先に、人使が声をかけてくれた。

 

 「今は大丈夫だ。けど、この先どうなるかは分からない」

 

 「それを何とかするのが、俺達の仕事だ」

 

 聞き慣れた低く落ち着いた声。どうやら外で話を聞いていたらしい相澤先生が入ってきた。

 

 「俺には、お前が出したあれが泣き叫んでいるように見えた。俺以外の人間もだ。事実、A組は飯田、緑谷の2人と女子全員が泣いていた。あの爆豪ですら、悲しみに顔を歪めていた」

 

 (知ってますよ。あれは、俺のトラウマが生んだ悪魔だから)

 

 「お前が言ったリミッターは、おそらく心のリミッターだったんだろう。それが外れた結果ああなるのなら、俺達は教師として、ヒーローとして、それを見過ごすわけにはいかない」

 

 (ああ、やっぱりこの人は、俺を真っ直ぐに見て未来を示してくれる)

 

 「お前が闇に飲まれるなら全力で救ける。お前が道を踏み外すなら全力で止める。お前も、全力で乗り越えてこい」

 

 「・・・・・・はい・・・!!」

 

 かろうじて涙を堪えて、返事をすることができた。

 あんなことがあっても、俺の事を見捨てないでくれる。この人に、そして隣にいてくれる人使に、誇ってもらえる人間に、なりたいと思った。

 

 

 





 爆豪戦は、そのまま倒されるか全力を出させるかの二択で、後者を選びました。
 結果、大河が恐ろしい爆弾を抱えた化け物と化しました
 ちなみに爆豪が放ったのは、麗日戦で見せたあれの両手バージョンをイメージしてます

 今回の話を書いてるうちに、AFOの息の根を止めて捕まって終わりという最悪のバッドエンドが浮かびました なんとか回避するためにがんばります

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