一応、自分の中では納得出来る落とし所になったと思ってます。
お義父さんが号泣しながら、自分の意見を叫ぶ。
ここは無理を言ってはいけない場面。
当初の目的はお茶子さんと会うこと。
それが満たされ、今後も定期的に会えるよう理解してもらえたのは、望ましい結果だ。
お義父さんの言い分は十二分理解できる。
娘を何処の馬の骨とも知らぬ子供に連れ去られるのと同じだ。
同じ状況になったら、例え大人であっても僕は取り乱す自信があるぞ。
「時たま、ウチに帰ってくるんやからそれで妥協してよ、父ちゃん。一生帰ってこん言うてるわけとちゃうんやし」
椅子に立ったまま、腕組み、頬を膨らませてご立腹ポーズ。
学校にいる間は天真爛漫な彼女しか見てこなかったし、幼い見目もあって、僕とお義父さんに大ダメージ。
「…んん…。それでもダメだ。親には子供の成長を見守る権利と義務がある。例え、好き同士で将来を誓い合った仲だとしてもその権利は主張させてもらう」
先ほどまでえらく剛健な態度を示していたために、そのカッコつけながら弱気な発言をする姿はどこか滑稽だった。
どちらも攻勢を崩さず、にらみ合いが続く。
「ほんなら、出久くんをウチで預かるんはどうや、父さん?」
動かぬ情勢に一石を投じたのはお義母さん。
確かにそれならば、お義父さんとお茶子さんの意見に食い違いは出ないが、あちらを立てればこちらが立たぬ…。
母さん的にはどうなのだろうか…?
「ええ、いいじゃないですか。そうしましょう。」
え。
どうしてそんなアッサリ?
「デクくんと居れるんなら私はウチでも構わんよ?」
お茶子さんもその提案に同意する。
…あー…状況が読めてきた。
母さんとお義母さん、お茶子さんの女性陣が巧みなアイコンタクトを交わしているのに今気が付いた。
とどのつまりは心理学的セールスの応用のなんと言ったか…?
「無茶な大きな頼み事の後に本命の通したい頼み事をすると断りにくい」と言う人間的心理を巧妙に突いた二段構えの【オネダリ】だったようだ。
僕は気付けたが、術中にハマっているお義父さんは「それなら…」と見事に要求を飲まされている。
「ウチで一緒に暮らすんやけど、東京方面には何度か行く必要があるし、相手方が捕まらなければ日を跨ぐこともあるから、毎日家に帰って来れるとは約束出来ないけど、それは仕方ないよね?」
「まぁ、そう言うこともあるだろう。」
「その時はデクくんとインコさんのところにお泊りするからいくらか向こうに着替えを送っといた方が都合がいいと思うんよ?」
「いちいちお借りするよりも自分のがあればそれが使えるし、合理的だな。」
「じゃあ、何日か分の着替えとお泊りセットをデクくんたちが帰るときに持って行くね」
お義父さんは話の流れに沿って首を縦に振ってい続けていたが、突然出掛けるよ、と言われギョッとする。
「いやいや、待ちなさい。なぜそのまま向こうに行くような話になっているんだ?」
「今後はデクくんと常に行動しようと思って。今回別れたら、また会う時に二度手間になっちゃうんよ?移動するときも常に一緒なら合理的よねー?」
ハイ、論破。と言いたげなお茶子さん。
お義父さん、目に見えて萎れている。
「大丈夫よ、父ちゃん。あくまで拠点はここやから。急に居なくなったりせんよ?」
「お、お茶子ぉ…」
潤みきった両目から滂沱の如く涙が溢れる。
…ちなみに。
彼女が通した【オネダリ】は以下の通り。
・同居の許可
・長期外出の許可
・長短期の外泊許可
・合理的判断の優先
僕を除くお義父さん以外のみんなが敵の状態で説得と言う名の悪徳セールスに僕は発言していないにもかかわらず居た堪れない気分になった。
お義父さん、なんかすみません…。
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「それじゃあ、今夜はここをお使いください。後で布団を用意してお持ちしますんで」
部屋へ案内してくれたお義母さんに会釈を返し、母さんと中に入る。
特に荷解きする意味もないので、母さんに先ほどの話し合いの件を聞いてみることにした。
「結局、母さんも保護者として常に同行。ここに半同棲の状態なんだけど、それで良かったの?」
母さんはボストンバッグを開けて、中をみて足りないものの有無を再度(4回目?)確認しながら僕に目を向けて答える。
「だって、旦那さん。折れるはずないもの。奥さんもそれが分かってたから、ああ言う助け船を出したのよ」
まぁ、その後のお茶子ちゃんの詰め方はお上手だったわね〜、とやや呑気なコトをおっしゃる母さん。
「途中でアイコンタクトに気付いて、三人で結託してやってるのに気付いたけど、女性陣の絆が怖いと思ったよ…。」
あの後も何だかんだで小学校はお茶子さんの地元に、中学校は折寺中に通う事を確約させられていた。
勢いに飲まれて「男に二言はねぇ」なんて言ってしまうものだから、もう引くに引けなくなってしまった。
お義父さんは漢だった。
しかも、漢を見せれば損をするタイプの漢…。
烈怒頼雄斗…切島くんもそうだったな…。
ふと、トンガリ赤髪がトレードマークだった同級生を思い出し、口角が弛む。
最後に見たのはかっちゃんより前だったから3年前かな…。
デトラネット社強襲の際に情報リークによるカウンタートラップをうけた。
地下フロアを丸ごと水に沈める大雑把かつ大胆、そしてこれ以上ない策で、僕ら強襲部隊を大混乱に陥れた。
何とか水の出入りは轟くんの氷結で事を収めたものの、スケプティックの機械人形が至る所から現れ、階段へ殺到する僕らの後ろから急迫してきた。
その時に殿を務めたのが切島くんだった。
ここは俺が食い止めるから先に行け、と階段入口の両端を両手で穿ち硬化させた彼は叫んでいた。
問答は覚えていない。
ただ、かっちゃんが待っててやるからすぐに来いと、言っていたのだけは覚えている。
その数十秒後に見慣れた光と音を伴って下階に振動。
その後すぐ様階段の踊り場までが暗く淀んだ水で埋まった。
施設破壊用にと全員に配給していたかっちゃん製の手榴弾だ、と誰もが皆すぐに分かった。
それが故意になのか敵によるものなのかは判断が付かなかったが、彼の最期である事は皆理解していた。
殿には彼でなく、僕やかっちゃんが回っていれば…。
「デクくん?」
思考の海から引き揚げられる。
顔を上げれば数ミリ先に彼女の鼻先が有って、思わず飛び跳ねた。
「お、おちゃぁ!?ちかぁっ!?」
唐突にやられると心臓に悪い。
いくら、慣れがあるとは言え、覚悟なく急にド至近距離に異性の顔があって驚かない人間がいるだろうか、いやいない…こともない…?
「もう。四回は呼んだよー?後一回呼んで答えなかったらチューしてやるとこだったのにー」
むぅ、と焼けた餅の如く頬が膨れる。
かわいい。
周囲を見渡せば、考えているうちに母さんはどこかに行ったらしい。
それを確認してから膨れた彼女の頬を指で突いてやれば溜まった空気が強制的に排出される。
お付き合いを始めてからお約束の一幕。
こうすることにより、お互い自然と笑みを浮かべられるからだ。
「誰のこと考えてたか当てよっか?」
微笑みのまま彼女は僕に問う。
「誰だと思う?」
「切島くん」
僕が問い返せば、間髪入れずに正解を口にする。
「なんでそう思ったの?」
「父ちゃんの態度がなんか似てるなぁって私もそう思ってね。デクくんなら、昔のことを思い出してたんじゃないかなーって。」
すごいや。
「ピンポン。大正解」
「わーい!賞品はデクくんからのチューが良いな!」
はしゃぐ彼女を見ると未来の彼女よりも幼い身なので、見た目に沿う態度を取ろうという姿勢が見て取れた。
彼女のリクエストに応じ、柔らかな頬に唇を一つ落とす。
数秒、和気藹々とした空気が流れるも次第に鎮静。
「…頑張ろうね…」
「うん。」
文法的に色々欠如した会話。
通じているので関係はない。
僕の決意はその時、僕らの決意であると再確認したのだ。
そういえば…本誌の方でヴィラン連合の改名があったんすけど、それに合わせてこっちも変えて行くべきか…。