緑谷夫妻のやり直し   作:伊乃

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楽しくなったので、つい書いてしまった。
後悔はまるでない。
むしろ物足りない感まである。


13. Past Master vs Future Disciple(過去の師匠vs未来の弟子)

「…どういうことか、説明してもらえるね、少年少女?」

 

 

彼が扉を開け放ったところでその目で見たのは、床を蜘蛛の巣に割り、倒れ伏す師とそれを成したであろう少年が恩師の足を握っている。

かと思えば、我関せずとばかり、茶碗を煽り、悠長にその中身を飲み下す少女。

そりゃあ、如何なヒーローであっても現場だけを見れば知り合いのヒーローを打ち倒す見知らぬヴィランの図である。

ただし、それを成したであろう存在が、腰に届くかも怪しい幼子であった。

 

うん、意味がわからないよね。

僕もオールマイトの立場なら理解することすら放棄すると思う。

 

ましてや恩師が打ち倒されているのを見て、冷静でいられるはずもない。

 

…とりあえず、制圧してから考えよう。

 

No. 1ヒーローと言えど人の子であるがために、その怒りに身を任せて握ったままだったドアノブを思わず握り潰した。

 

「DETROIT SMAAAASH!!!」

 

本気の右拳。

恩師のピンチに箍が外れたのだろう。

振り向いたままでいた僕の右頬に突き刺さるコース。

振り下ろす形で放たれるそれを首を戻す勢いを使って打ち出された方向に合わせて回転。

それだけで直撃を躱した。

 

オールマイトが瞠目するも僕はそれで終わりにしない。

伸びきった右腕を左上腕で受け、右腕を右脇へと伸ばす。

飛び上がる勢いに合わせて左手を引き下ろせば、あら不思議。

274kgの巨体が簡単に宙を舞った。

 

ドスン、とおよそ人が地に叩き付けられる音とは思えない音が響き、オールマイトはその腹を天へと晒す。

視線はこちらに向けたまま瞬きすらせず、僕を見つめる。

 

「随分早く到着したね、デクくん。オールマイトの事務所って六本木じゃなかったっけ?」

 

「多分、全力疾走したんじゃないかな?周りの被害を顧みずに済むようなるべく高いところでNEW HAMPSHIRE SMASHを使ってぶっ飛んできたんだと思うよ?」

 

空になった茶碗を応接テーブルに戻して、お茶請けの封を切っているお茶子さん。

世紀の頂上決戦をお茶の間で楽しんでいるかのようにくつろいでいらっしゃる。

 

「君たち…初犯でこれは覚悟しなさいよ!」

 

ネックスプリングに捻りを加えて、ワンアクションで僕に向き直るオールマイト。

なるほど、復帰動作もそう言う工夫ありきか。

手合わせだけでも勉強になるなぁ…。

 

「少年、さっきのは君の個性かい?」

 

一分の油断もせず、構えたまま問うオールマイト。

 

「ご冗談を。さっきのはカビが生えるほどに古いただの技術ですよ?」

 

表情に変化はない。

しかし、身体機能は嘘をつけず、そのコメカミに一筋、キラリと光る汗が見えた。

 

「遠いところからご足労いただきありがとうございます。ちょっと予定とは違いますが、このまま一手、御指南ください」

 

自然体から半身に構える僕。

右手は拳は握らず、平手。

その甲を差し出す形で指を伸ばす。

動かぬ巨像に対して、僕は指を数度曲げ伸ばし、挑発する。

曰く、「来いよ」と。

 

すぐさま変化は訪れた。

オールマイトが地を蹴って、グラントリノ以上の速度で肉迫してくる。

 

踏み込みを載せた右、右を引く力を押す力に加えて載せる左、再度右。

秒間何十合と言うデタラメな速度で繰り出されるラッシュ。

僕は紙一重を見極めて、避け、流し、合わせ、打つ。

 

怒りに満ちていたオールマイトの顔は、最初の一合で驚きが混じり、回数を重ねていくうちにその割合を逆転させていった。

 

余裕が一切なく、笑みすら浮かばない。

自身の出し得る最速のコンボを呼吸を乱すことなく捌き続ける幼子を見て、驚きを超えて恐れさえ抱いているようだ。

 

やや大きく右拳を弾くと、僕から打って出る。

 

小さな体躯を生かして股抜け、その腰へと飛び付いた。

オールマイトは背に回られた為に打ち出す直前だった左手を咄嗟に引き剥がそうと背に回してしまった。

右を弾き、左手を後ろに回したためその巨体の重心が大きく右へと流れてしまう。

体が流れるに任せ、僕はさらに体を振って崩しにかかる。

 

たたらを踏むことも無く、そのままオールマイトはバランスを崩し、倒れてしまった。

今度は、キチンとマウントポジションを取り、太く頑強な首に貫手を添える。

 

「僕の勝ち、でよろしいですね?」

 

くっ、と喉の奥から音が漏れる。

まだ抗えると力を入れたのだろう。

体が跳ね上がるのを感じた。

 

「参ったなぁ…体重が軽いってのも大問題だ…。でも、こればかりは成長に身を任せるしかないよね…」

 

次の瞬間には両足を片手で掴まれ、さながらタロットの「吊られた男」の様に拘束されてしまった。

握り込んだ左拳を添えて。

両手を挙げ…この場合は両手を下げ?て降参の意を示す。

 

「そこまでだ、俊典」

 

その声にハッとしたのか、首から上だけを巡らせ、発声源へと視線を向ける。

 

「ご無事でしたか、先生」

 

「無事も無事よ。全く、たったの一合で意識を持ってかれるとか何年ぶりだ?とんでもないな、小僧」

 

「恐縮です、グラントリノ」

 

グラントリノと普通に言葉を交わす僕に理解が追いつかないのか、僕と恩師を交互に見ているオールマイト。

普段の凛々しい姿からは思いも寄らぬ茶目っ気。

僕の知ってるオールマイトと変わりがない。

 

「改めまして、緑谷出久です。よろしくお願いします」

 

僕は、吊られて逆さまのままに頭を下げた。

 

「ほれ、いい加減離してやれ。さっきの電話の客ってのは、このチビたちだ」

 

そう聞くとオールマイトの顎が外れたかの様にストンと下に落ちた。

 

空間全体が一瞬の硬直。

その様を見ていた僕の背後で小さな破裂音が鳴る。

 

「ぷっ…ブフーっ!!も、もう無理、笑うの我慢できない…ッッ!!」

 

 

口元を押さえるもお茶子さんは笑いを吹き出した。

アハハハハハ、と響く幼女ならではの高い声。

この上手い具合に勘違いが呼び起こした掛け合いが一昔前のお笑いのようなものに見えたのだろう。

 

僕も傍観者ならきっと笑ってると思う。

 

二重三重の驚きのために硬直したオールマイトは未だ、僕の両足を持ったままだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「全く、屋内だってのに無茶苦茶しやがる。見ろ、この眺めのいい風景を」

 

一発目のDETROIT SMASHで僕の背後にあった壁は見事にぶち抜かれ、外の私道がよく見える。

体を入れ替えて行われたラッシュの影響で、扉は原型も残らず木屑と成り果て、その壁は中にある鉄筋が顔を出している始末であった。

また部屋の中にあったロッカーや応接セットはお茶子さんが座っていた三人掛けソファとテーブルを残し、あちらこちらへと飛び散っていた。

 

「も、申し訳ありません。先生がやられていると思い、頭に血が上ってしまいました。当然、補修費用等は全額負担させていただきます…」

 

僕らは少し片付けをしたのちに、本題を話そうと顔を付き合わせたところだ。

一人掛けソファ二つの内、一つは大穴の空いた窓から外に飛び出しており、それは後ほど入れるということとなって、本来それが鎮座する位置にオールマイトが正座して縮こまっている。

一人だけ違う画風の人が床に正座をして、縮こまっているのが、面白いのかお茶子さんは必死に見まいと目を逸らしながら、口元を押さえてプルプルと震えていた。

 

「当たり前だ、全く…。その上、子供にいいように遊ばれたとか俺もお前も恥ずかしいもんだ。今度みっちり鍛え直してやる…」

 

「ど、どうぞお手柔らかに…っ!」

 

正座して頭を下げた彼はさらに縮こまり、その身をブルブルと震わせる。

 

うーん、床が震えるほどに怖いのか…。

 

「それで?もう一度聞こう。誰だ君は?」

 

玄関を潜る際に聞かれた言葉。

職場体験以来聞かれなかった懐かしいフレーズ。

 

「ヒーロー名デク、こちらはウラビティ。僕らは二十年後の世界から戻ってきた、未来のヒーローです」

 

一度、グラントリノには話していたが、初耳であるオールマイトは見たこともないほど真ん丸に見開き、首を傾げた。

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