UAも9万まであと少し。
皆様のおかげです。
今後も緑谷夫妻のやり直しをよろしくお願いします!
「未来から…?君か彼女の個性の力によって戻ってきたと?」
正座のままのオールマイト。
しかし、ソファに座る僕らと視線の高さが同じとは、成長の差を感じて苦笑が漏れる。
「いえ、彼女の個性は【ゼログラビティ】五指で触れたものの重力を無くすものです。また、僕にそう言った力があるのも否定は出来ませんが、確証はありません」
「随分と曖昧な物言いだが、君は君の個性を把握出来ていないのかい、少年?」
ごもっともなご指摘だ。
普通であれば、自らの個性を把握してしかるべきである。
「僕の個性は、その全てが明らかになっていないんです…でも、その名称は分かってます」
この場でただ1人、そのことを聞いていないオールマイトが首を傾げる。
顎に添えられた右手が意外なほどチャーミングだ。
「随分とおかしな説明をするね…。その個性の名前は…?」
「その前にオールマイトもそろそろお辛いでしょう?少々お待ちください。」
右手を壁の大穴へ向け、僕の指先に黒いモヤが現れる。
それが指先から勢いよく外へ飛び出して行き、数秒後にはソファを絡め取って、それを部屋へと引き込んだ。
「どうぞ、お掛けください」
ソファをオールマイトの側に寄せ、受け取ったのを確認してから個性を解除する。
「それが君の個性かい?」
「いいえ。これは僕の個性の一部の【
個性の名前を二つ上げるとオールマイトの眦が尖りを見せる。
「さて、今二つの個性を見せましたが、思い当たるものはございませんか?」
「…まさか君の個性は…オール・フォー・ワン…と言うものでは…」
「まぁ、オールマイトが間違うのは分かっていましたが、予想通りの間違いでなんか話の進め方が下手なんじゃないかと、僕自身疑ってしまいそうです…」
「デクくんは昔から突発的なもの以外の話の進め方は下手くそだよ?」
隣からトドメの一撃が飛来するも、なんとかその場で耐え抜いた。
「お茶子さん、ホント手厳しい…高校時代の優しいあなたが恋しいよ…」
ほろりと涙が溢れそうになるのも許してくれるよね…。
「話運びの下手さを彼女に駄目押しされたので、回りくどいのは無しでいかせていただきます…。僕の個性はワン・フォー・オール…第9代継承者です」
オールマイトの驚愕ランキングをまたも更新した。
そろそろ、トップ10が僕で埋まるんじゃないだろうか?
「先ほどの黒鞭は4代継承者、四辻 藍道の元々持っていた個性。遠隔視は3代継承者、紅 御代のもの。ワン・フォー・オールの歴代継承者の個性を使うことが出来る…それが僕の個性、と言うことになるでしょうか?」
そこで言葉を止めると、今まで口を開かなかったグラントリノが、唸り声を上げて会話に乗る。
「志村のヤツもそんな話はしてなかったが…今のを見させられりゃ信じる他ねーな…」
「…えぇ、もしかしたら私も更に力を使えるかもしれません…」
何か希望を持ったかのようなオールマイト。
絶望に変わる希望は持たせてはいけない。
「いえ、多分オールマイトには出来ないと思います」
そう、僕はバッサリと切り捨てる。
そう言った瞬間に怒り、悲しみ、絶望が綯い交ぜになった表情をこちらに向ける。
「…何故だい、少年?どうしてそう言い切れる…?」
「僕は個性の中にある歴代継承者の残滓と会話することが出来ました。その際に、この個性の力を蓄える者としてオールマイトが培い、僕に継承する段で初めてそう言う能力として開花した…と。なので力を蓄えているオールマイトがこの力を使うのは難しいかと…」
握りしめた拳がギチギチと異音を奏でている。
対オールフォーワンに有効な手立てが出来たと糠喜びすればそうもなる。
「未来の話をします。オールフォーワンが黒幕となって様々な悪事を働いてきた通称ヴィラン連合との戦いが終わったその日に命を落とした僕らは、何故か二十年前の九月二日に戻ってきました。今からオールフォーワンを叩けば、未来まで波及する悲劇を食い止められる可能性があります。どうか力を貸してください」
僕が改まってソファの上で正座をし、土下座の姿勢でお願いすると、隣のお茶子さんも僕に倣って頭を下げた。
「…ああ、勿論だ。この先の悲劇を全て纏めて救ってみせよう!」
すぐさま快諾してくれるオールマイト。
しかし、それは僕らが望まぬもの。
「オールマイト、僕らは情報を渡すだけではありません。身体は幼いままですが、力は依然変わらずプロのままです。オールフォーワンとの最終決戦では、僕らも戦います」
先ほどの戦いで如何に強いかは分かってくれたと思う。
「承服しかねる。見た目のまま子供なのだから、大人の私たちに任せたまえ」
当然、断ってくるオールマイト。
そりゃあ、見てくれだけなら守るべき対象だ。
戦わせるわけにもいくまい。
「オールマイト、あなたは五年後にオールフォーワンとの全面戦争で左肺全損、胃袋全摘の重傷を負います。そのせいでその後の数年は落ちて行く体力と狭まる活動限界時間の中を縫ってヒーロー活動を行います。しかし、後に復活したオールフォーワンに対し、僅かに残ったワン・フォー・オールを振り絞って、打倒するもヒーロー生命が絶たれる。それが今から約十一年後の夏の話です」
出来るだけ声を荒げずに紡ぐ。
一度制御を誤れば何を口走るか分かったもんじゃない。
「今は万全の体調で、力も漲っているでしょうが、あなたはたった五年で見るも無惨なほどに痩せてしまう。筋肉などみる影もなく、骨と皮ばかりの骸骨のような姿。そうなって血を吐きながらも歯を食いしばってヒーロー活動をし、その果てには…『平和の象徴』の瓦解による世の混乱…分かりますか…?貴方が倒れては元も子もないんです。それを防ぐ手立てがある。僕らが救える、戦えるんだ。今後、大怪我をして引退するのが分かっていて助けに行かないほど、僕も彼女も利口ではない。承服してくれなければ、どんな手を使ったって…」
「少年」
徐々に早く捲し立ててしまう僕を止めたのは、小さく呟くような彼の声だった。
「ありがとう。君を選んだ未来の私は間違っていなかったようだ」
そう言って腰を納めていたソファから立ち上がり、僕の目を見据える。
「緑谷少年。私の不義で連絡を取れず申し訳ない。改めて私からお願いする。かの帝王を倒すため、その力と知識を貸してくれ」
そう言って深々と頭を下げた。
話がまとまったとホッとするのも束の間。
隣でガラスにヒビが入るかのような異音がした。
「ねぇ、オールマイト?私は?」
にこやかな顔で威圧する僕の嫁がいる。
あー、背中に般若が見える…。
「えー…と、お茶子少女、で良いのかな?緑谷少年にお願いするのも心苦しいのに、君にまでお願いするなんて、とてもとても…」
「デクくんはさっきの手合わせで力を見せたからいいんや…?なら、私とも手合わせ、お願い出来ませんか…?」
「お茶子さん…?笑顔がいつもの麗らかな笑顔じゃないよ?そんなに凄まなくても、きっと認めてくれるから大丈夫だって…」
「デクくん、黙って。舐められたら、終わりなんや…」
どうしよう…なんだか、某幼馴染の後ろ姿に滅茶苦茶似てるんだけど…。
「来ないんですね?なら、こちらから行きます!」
そう言って戦いの火蓋は切って落とされた。
2019/09/07 原作情報による一部変更のお知らせ。
感想より指摘があり、6代目継承者は「黒髪の青年」と言う原作の情報に則り、変更させていただきます。
黒鞭の旧保持者を4代目継承者を四辻 藍道とし、6代継承者は武道 清也のまま名前だけ残すものとします。
作品を楽しんでいただいているみなさまには大変申し訳ないことをしてしまいました。
原作には出来るだけ沿うのが本作品の主軸ですので、今後も原作との相違点で、かつ本作品に比して謝った設定等がありましたら、是非ともご報告いただきますよう、この場にて謝罪とともにお願い申し上げます。