緑谷夫妻のやり直し   作:伊乃

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やや難産。

過去改変フラグを二本取りに行く。


16. A little step, Maximum change(小さな一歩、最大の変化)

Side:Katsuki Bakugou

 

俺はどうやら凄いらしい。

幼稚園の誰より早く個性が出て、しかも自分の意思で爆発させられる汗って言う強い個性だ。

先生も言ってた。

凄い個性だ、強い個性だ、ヒーローに向いてるって。

 

みんな言ってる。

俺は凄い。

俺以外は凄くない。

 

 

…あの二人以外は。

 

 

俺は勝己。

負けるのが嫌いだ。

 

負けを認めたくない。

けれど、アイツらには勝てない。

今はまだ。

いっぱい鍛えて、絶対に勝ってやる。

 

ヒーローで一番凄いオールマイトにだってそのうち勝つんだ。

 

だから、あんな奴らに負けちゃダメだ。

 

「…ちくしょお…いずくのヤツ…なんで急に強くなったんだ…?」

 

帰り道、いずくとあの女を空き地に置いて走ってきたけど、息が切れて今は歩いてる。

 

随分視界が悪いけど、コレは涙じゃない。

汗だ。

汗って言ったら汗なんだ。

 

ついこの間、いずくにも個性が出たらしい。

どうやら、デタラメに強い個性らしく、何がどうしてそうなるのか分からないくらい強い。

 

この俺が吹き飛ばされるくらいの風をデコピンで作れる。

 

どう言った個性なのかは聞いてない。

 

きっと風を操る個性なんだ。

風を出される前にいずくを捕まえれば勝てる…と思う。

 

それにあの女だ。

アイツも強い。

今すぐには勝てないくらい強い。

 

なんでも、触った相手を浮かすらしい。

 

たったそれだけの弱個性。

俺が勝てないわけがない。

 

…なのに。

 

「なんで触れないんだ?目の前にいるのに手が届かない…」

 

悔しい悔しい悔しい…。

強くなるにはどうしたらいいんだ?

 

「ちくしょお…」

 

「どうした、坊主?喧嘩でもしたか?」

 

不意に知らないおじさんに声を掛けられた。

 

「なんだよ…見んな…!」

 

総白髪の背の低い爺さんだ。

足が悪いのか腰が悪いのか杖をついてる。

 

それなのに、白のボディスーツを着て黄色のマントとグローブ、ブーツを付けている。

 

爺さんのヒーロー?

少なくとも見たことがない。

 

「ハハハ、元気があるなら結構。何やら悩んでいるように見えたが、どうかしたのか?」

 

「別に…なんでもねーし…」

 

強がりなのは分かってる。

そうやって自分を大きく見せるしか、こういう時どうしたらいいか知らない。

 

「実はな、大分前からお前と友達のことを見てたんだ。随分遊ばれていたな?」

 

胸の辺りがカッとした。

右手を握る時にパチッと弾ける音がする。

 

「知ってて聞いてんのか…?」

 

「さあな」

 

どっこいしょ、と近くの電柱の脇にあるゴミ捨て場のブロックに腰を下ろす爺さん。

その誤魔化す言い方が気に食わなかった。

 

「強くなりたいのか?お前さんは、どんな大人になりたい?」

 

両手で杖の柄頭を押さえ、視線をこちらに向けている。

 

「俺は…ヒーローになりたい」

 

口からスルリと答えが出た。

捻くれてるのは自覚している。

そんなすんなり出て来るほど弱っていたのか…?

 

「ほう、ヒーローか。君の個性は掌の爆破能力、で良いのかな?随分、汎用性に富んだ良い個性だ」

 

「でも、アイツらには敵わない…どうしたらアイツらに勝てるように強くなれるんだ?」

 

「なるほど、それが小僧の悩みか」

 

左手で顎を抑える爺さん。

ヒーロースーツのようなものに身を包んだ爺さんだ。

きっと強くなる方法を知っているかもしれない。

 

俺は四の五の考えるのを辞めた。

 

「どうやったら強くなれる…んですか?」

 

一応目上だから、と敬語にする。

先生にもそうするのが正しいって言われた。

 

素直に聞いたんだから教えろ、じじぃ。

 

「ワシも教鞭を取ったし、弟子も取ったことがある。お前さんも知っとるヒーローを育てたこともあるんじゃが…」

 

「とあるヤツにな、困ったことに負けてしまっての。今鍛え直しとる最中なんじゃ」

 

俺でも知ってるヒーローって誰だろう?

まさかオールマイト…?

いや、そんなバカな。

こんな爺さんに教わってたなんて考え…ありえない。

 

「お前さんも一緒にやるか?」

 

そう誘われ、俺は…。

 

「やる」

 

間を置かずに即答。

当たり前だ。

俺は誰にも負けない、そんなヒーローになるんだ。

 

その後、爺さんとウチに帰って、色々母ちゃんにお願いした。

 

幼稚園は辞めて、修行するって言ったらめちゃくちゃ殴られたけど、最終的に許してもらった。

 

爺さんのところで色々教わるつもりだ。

小学校は家から通う約束をして、その日のうちに家を出た。

 

こうして爺さんは親公認の師匠となった。

 

 

 

師匠の名前はグラントリノと言う。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

かっちゃんが居なくなった。

行き先は知ってる。

グラントリノのとこだ。

 

オールマイトは仕事のない夜、かっちゃんは昼、と言った具合に鍛えているらしい。

 

グラントリノの移動術はかっちゃんの個性にピッタリだ。

 

将来的には全てセンスで獲得するだろう技術を先んじて習得するのだ。

 

彼なら当然強くなる、以前より、もっと。

 

 

 

そんなことを考えながら僕はお茶子さんと電車に揺られ、家から一時間ほどのところで降りた。

 

二度ほどしか来たことのない土地なので、イマイチ土地勘がない。

都内の住宅街を抜け、やや人も疎らだ。

 

記憶を頼りに歩くとその土地の地主だろうか、大きな日本家屋の並びが見えてきた。

道に影を落とす竹笹が秋が深まる中でも青く揺れている。

 

「はー…空気が澄んできたねぇ…」

 

そう言うお茶子さんは目を閉じて、鼻から深呼吸をしている。

左手で繋ぐ彼女の手は、僕の手をしきりににぎにぎとさせており、少しむず痒い。

 

「携帯、買ってもらえたから遠出したけど、母さん心配してないかな?」

 

一般的に見て、幼稚園児の僕らが二人きりで出歩いているのを見掛けられれば、補導されても仕方ないが、一応そう言った場所は狙って通らなかった。

別にやましい事をしているわけでもないし、逃げなくても良いんだが、対応を考えると面倒で…。

 

「GPSも有るし、大丈夫やと思うけど?最近、パートを休みがちだったから、良い加減出ないとって言ってたし、仕方ないんじゃない?」

 

「一応、一回連絡しておこう」

 

そう言ってショルダーバッグから取り出したスマートフォン。

小さくなった僕らには少し使いづらい。

 

「『もう少しで目的地、心配しないでね』送信、っと」

 

打ち終わると画面をロックし、バッグに戻す。

一度離した手をまた繋ぐ。

その顔を見てみれば、いつもの麗らかな笑みにパッと変わった。

 

「前のゴツゴツした手も好きだったけど、まだ小さくて、可愛い手も好き」

 

そう言いながら、僕の手を引いて腕に左手を這わし始める。

 

「はは…歩きにくいから、それは辞めてほしいな」

 

「やー、なのー」

 

今度は僕の手の甲を自分の頬に押し付け始める。

困りはするが、この様子を見るのも好きだ。

 

しかし、その時間に終わりを告げる。

 

「ここ、だね」

 

「私は一度も来た事ないから知らなかったけど、大きなお屋敷だねー…」

 

開かれたその門扉と武家屋敷のような高い漆喰の壁。

日本家屋と言えばこの形、と想像出来る風貌だ。

 

「あちゃあ…インターフォンは後付けか…。仕方ない。中に入って声を掛けよう」

 

門の周りを見渡すもそれらしきものが見当たらないため、諦めて侵入する。

 

ずっと繋いでいた手を離し、身嗜みをお互い再確認。

気付かないうちに彼女の頭に赤い楓の葉が付いていたので取ってやる。

 

「すみません、どなたかいらっしゃいませんかー!」

 

すみませーん!と玄関の前で声を張り上げる。

そうするとどこか遠くから「はーい」と応答があった。

 

待っていれば1分もしないうちに、その引き戸が開かれる。

 

「どちら様ですかー?」

 

現れたのは小学校高学年くらいのお姉さんだ。

銀色に輝く髪に疎らに赤が混じる彼女。

 

何度もあったことがあるから知っている。

 

「こんにちは。焦凍のお友達かしら?」

 

記憶の彼女と違い、まだメガネをしていない。

 

「初めまして、緑谷出久と言います。こっちは麗日お茶子です。」

 

この世界では初めて会う、轟くんのお姉さんだ。


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