「いっ!?いきなり何をする!!」
「もうあなたの言いなりになるのは辞めです!大切な焦凍や冬美、夏雄、燈矢だって…あなたのオモチャじゃ無いんですよ!?それなのにあなたときたら…義務だなんだと自分の都合ばかり…!!子供達にだって自分の未来を選ぶ権利があるのよ!?親がそこに責任はあれど、義務を押し付ける権利なんて無いわ!!」
早口で捲し立てる白髪の女性。
エンデヴァーの上に跨り、左右交互に平手を打ちかます。
一撃一撃に腰が入っており、それらを受けて辛うじて、ガードが出来ている程度のエンデヴァー。
初撃から凡そ十発は食らっているが、未だに目を白黒させて、ただ漫然と攻撃を受けている。
「…ゴメン、デクくん。ちょっと煽り過ぎてもうた…」
足音を殺してそばまで来ていたお茶子さんが、顔の前を手刀を立てて謝罪している。
ああ、カウンセリングとやらが覿面だったわけだ。
「…何言ったの、お茶子さん?」
「いやぁ、このままだとあなたも子供達も耐え切れず、家庭崩壊を招いてしまう…って言うのを懇切丁寧に並び立てて説明してたら…思ったよりも冷さん溜めてたみたいで、結果がああに…」
…ああ、すごく納得だよ…。
「子供にも権利があるのを棚上げにして、自分のものの様に扱い、何でも『個性』『個性』『個性』って!!!いい配分で現れた焦凍以外に見向きもしないで、何が親よ!?ふざけないでよ!!」
「冷」
「その上、『最高傑作』ですって!?子供を望んで産んだのよ!?せめて『作った』言うのは私よ!産んだどの子も私の『最高傑作』よ!!あなたの作品なんかじゃ無いわ!!」
「冷」
「そんな単純で大切なことも分からない人の言いなりになっていたなんて…思い返しても腹が立つわ。親権なんてあげない。全部私が貰う。実家に帰らせてもらうわ。離婚よ!!」
「冷!!!!!」
今まで叫んでいた冷さんに代わりエンデヴァーが更なる大声で呼び止める。
「な…何よ…」
「麗日のお嬢さんに何を言われたか知らんが、俺も同じように緑谷くんに色々聞かされて間違っているのを自覚した…すまない」
落ち着き払った声で、冷さんに組み敷かれながら謝罪の意を述べるエンデヴァー。
それは相当に衝撃だった様で、冷さんはマウントポジションのまま目を見開いて固まっていた。
「冷よ。俺には体温調節という難がある。それを克服出来る焦凍は俺を超え得る逸材だ。期待している。故に行き過ぎ、結果他の子らを軽んじていた。ヒーローとしても人の親としても誤った行動だった…すまなかった…。本来であるならば、等しく、均等に愛を注ぐべきだったのだ…まだ間に合うか分からんが、そうなるべく俺も親として成長しようと思う…。だから、離婚は待ってくれ。俺を見ていてくれ」
そう言って、冷さんの両手を取る。
そこで耐えきれなくなったのか、冷さんは声を上げて泣き始め、身体を全てエンデヴァーに預ける。
その冷えた身体を熱く滾るその身で抱きしめ、ようやく動いたそのままに頭を撫でつけ始めた。
「結果オーライ…かな?」
「うん、そうだね…とりあえず、僕らは移動しようか…」
ぐすぐすと鼻をすする音が響く中、僕らは気配も音も消して、そっと部屋から抜け出した。
「雨降って地固まる、ってヤツかな?」
「それにしてはドラマを見せつけられた気分だよ…」
ジャンル的には相当古いメロドラマの雰囲気だ。
完全に僕らのことを忘れられてたと思う。
まぁ、いい方向に転がったし、良しとしようか。
そう結論付けて振り返れば、廊下の角に轟くんが白い髪の側だけを出して覗き込んでいた。
「デク、お茶子…。母さん、大丈夫かな…?」
その目にはありありと心配の気配を浮かばせ、微かに潤んでいた。
僕とお茶子さんは顔を見合わせ、笑い合う。
「もう大丈夫だよ。お父さんと仲直りしたみたい」
「で、でも、母さんのあんなに怒った姿…初めて見た…」
「大丈夫。もしかしたら、焦凍くんの弟か妹が出来るかもしれんよ!」
お茶子さん、何言ってんの?
「弟か妹…?俺の!?」
ああ…食いついちゃった…。
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「それでは、本日は失礼します」
「ああ、またいつでも来なさい。今度は、個性ありで勝負しよう」
ガッシリと握手する僕ら。
サイズ感が違いすぎて、図らずも握り潰されてしまいそうで、やや怖い。
「デク、お茶子!またトランプやろう」
「うん、今度はウノとかも持ってくるから色んな遊びしようね!」
そう言って手を振り合う轟くんとお茶子さん。
もう、絵面からして可愛らしい」
「デクくん、口に出てるよ?恥ずかしいからあんま大きな声で言わんといて?」
そう言われて自分の口を押さえるも既に遅く、お茶子さんの顔を見れば、分かりやすく朱が射していた。
「君たちは見た目だけ子供だが、そのやり取りを見ていると新婚夫婦のままだな…」
苦笑いを浮かべながら、そう言うエンデヴァーに何一つ言い返せない。
「デクとお茶子はもう結婚してるのか…?」
キョトンとした顔のままそう言う轟くん。
まぁ、確かに結婚しているけれど、それは未来の話だ。
「ちゃうよー?いつか結婚しようね!って約束してるだけだよ?なんて言うか知ってる?」
「え、と。えと。こん…こんやくしゃ、だっけ?」
「そう!凄いやん、やっぱ頭いいんやね焦凍くん!」
お茶子さんに褒められて顔を赤くし縮こまる轟くん。
満面の笑みはやはり誰にでも効果のある劇毒だ。
お茶子さんが取られないように僕もしっかりしなきゃ…!
「あ、そうだ。一応来た時に冬美さんに菓子折りをお渡ししたんですが、中身が葛餅なのでお早めにお召し上がりください」
「何!?それを早く言わんか!冬美!どこにいる!?」
パッと踵を返し玄関に戻ろうとするエンデヴァーを冷さんが服を掴んで阻止する。
「あなた。せめてお見送りくらいしっかりしてください」
「こうしてる間に冬美が全部食ってしまう!早く俺たちの分を確保しなくては!!」
そう弁明するも冷さんはどこ吹く風。
冷さんの個性で足元を凍らされてまでいるのに砕いて進もうとしている。
「見送りはここまでで結構です。また来る際はご連絡いたしますので。それでは」
「それでは失礼します」
ペコリと二人合わせて頭を下げる。
その後踵を返して門に向けて歩き出せば、轟家の面々も家へと入っていくようだ。
「母さん、俺に弟か妹が出来るかもって言ってたけど、ホント?」
「なっ!?何を言っている、どっちに言われた!」
「お茶子」
「あらあら、それもいいかも知れないわね」
「…冷」
これ以上はプライベートだし、耳をシャットアウト。
門をくぐり抜けた先で、僕はお茶子さんを抱え、お茶子さんは個性で僕の重さを消した。
「行くよ、お茶子さん」
「うん」
誰もいないことを目視で確認してから僕らは、家へと向かって最短距離を走り出した。
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Side:???
今ありえないものを見た。
ここらで有名なNo.2ヒーローの屋敷から出てきた子供。
見た目的には俺と同い年だ。
男の子が女の子を抱えるとピンク色の薄いモヤみたいなのが男の子を包み、その後緑色の稲妻が男の子の全身を包んだかと思うと、二人の姿が消え去った。
強風が吹き荒れ、2人のいたところへ走り見上げると、物凄いスピードで屋根伝いに飛んでいくのが見えた。
「すげぇ…」
見上げたままポカンとしてしまっていた。
彼らの姿が見えなくなるまで見ていたが、それほどの時間は経っていないようだった。
「アイツらもヒーロー目指してるのかな…?」
凄い奴がいるって知った。
俺も頑張らなきゃ…。
「カモシレナイナ…同ジクライダシ、頑張ラナキャダナ!」
後ろに伸びた影にそう言われた。
「そうだな…相棒」
このガキンチョは一体誰なんだ…!?(何回目…?)