翌日。
僕らは多古場海浜公園に来ていた。
「こんな汚いんね…」
「僕が掃除した時はこれ以上だったよ…」
見渡す限りのゴミの浜。
砂よりも目に付くのは大小様々な流木やら不法投棄物など。
今より十年後に清掃した時は今は無い軽トラックなども放置されていたほどだ。
現在は大きくともまだ冷蔵庫程度で済んでいる。
それより小さくなると液晶が割れ、横倒しになった45インチのテレビくらいか。
「裸足で走れるくらいを目指して片付けよう」
「そうやね…こんなんじゃ、マトモなトレーニングすら出来ないね…」
「と言うわけで…お茶子さん。両手出して?」
うん?と疑問を顔に浮かべるも素直に両手を差し出すお茶子さん。
僕はその両手の中指に少し大きめの絆創膏をして指サックを付けた。
「大丈夫?緩くない?」
「キツくも無いし簡単にすっぽ抜けそうにも無いよ?それでこれは何?」
「五指の肉球に触れたものの重さを無くすお茶子さんの個性を簡易にだけど封じたんだ。筋トレするんだし、負荷を掛けなくちゃ」
ニッコリと笑んで顔を見やると、お茶子さんの顔は分かりやすく青褪めた。
「ま、待って、デクくん?コレを個性無しでやるん?」
「そうだよ?僕も使わない。基礎筋力を鍛えるためにもゼロにしちゃダメでしょう?」
筋トレするのにダンベルの重さをゼロにしちゃあ、何のトレーニングにもならないじゃないか。
そう思っている僕の目の前で、青から白に変わった顔色でお茶子さんはその場で固まっていた。
「さぁ、少しずつでも始めよう!」
そう言って僕は手近にあった千切れたゴムタイヤを担ぎ上げた。
「…お、おー…」
数秒のラグがありながら、お茶子さんは片手を握り、天へと突き出した。
両肩にタイヤを抱えて、砂浜を仕切る防波堤の階段の手前まで駆ける。
帰りは軽いので出来るだけ早く。
行きは持てるだけ持って、重心等バランスを考えながら足元に気を付けて駆け足。
そうやって僕らは約二時間ほどで、ゴミの無い縦横5メートルほどの空間を作り上げた。
「はぁ!はぁ!…はぁ…。もう、今日はムリ!…明日絶対筋肉痛や!」
「お疲れ様。僕ももう腕上がんないや」
そう言って両手に持ってたペットボトルの水の内片方を差し出す。
「ありがと。でも、コレより酷いのを一人で…かつ十ヶ月で片付けろってオールマイトも酷やなぁ…」
両手をその水で洗い流し、残りを一気に吞み下すお茶子さん。
傍から見てる僕は口の端から零れる雫に釘付けになり、襟首に消え行く水滴を見送った。
不意に視線を外して、僕も同じように手を洗い流し、残りを口に含む。
「今、『雫がエロいなぁ〜』って思ったでしょ?」
飲み込む前に吹き出した。
僕は我慢出来ず、凄絶に咳き込んで口内のあらゆる水分を砂浜に撒き散らした。
「な、何を言ってるのかなぁ!?そ、そそそそんなこと思ってないよ!?」
僕は否定を込めて両手を、口が開いたままのペットボトルをも振り回し、その中身が四方八方に散っていく。
「うそ。だって私もおんなじこと考えたもん」
はえ?
「デクくんも口の端から溢れてて、それが胸元に伝い落ちてたんだよ?気付いてないでしょ?」
そう言われて僕は乱暴に袖口で頬から口周りにかけて拭い取る。
確かに、頬から顎から喉元に向けて少し濡れていたようだ。
「ホント、考えること一緒、だね?」
砂浜に座り込んだままお茶子さんはこちらに笑顔を向けてきた。
「わっ!?いつものブサイク顔!」
ブッ、と少しはしたない笑い方。
それでも彼女の笑みには力があった。
「も、もう!休憩は終わり!次の訓練やるよ!」
僕にはそんな照れ隠ししか出来なかった。
「えー、全然休めてへんよー。もうちょっと休憩しよーよー」
両手を振り上げ、そのまま後ろに倒れ込むことで抗議を示すお茶子さん。
そんな仕草にクスリと来た。
「もう…もうちょっとだけだよ」
「うん」
少し肌寒くなってきた潮風に火照った体を委ねて、僕らは砂浜に並んで横になった。
横になって…目を閉じて…しばらく。
危うく寝てしまいそうなほど心地よい空間に雑音が混じる。
ざりっ…ざりっ…と砂を噛む音。
僕は体を起こしてその音源を辿ると
「あれ?君は…?」
「なぁ、何でこんなゴミだらけの浜辺で寝てんだ?家出?」
鼻頭に絆創膏を貼った如何にも"ヤンチャ坊主"な男の子が一人立っていた。
髪色は暗めな茶色。
親譲りか開く口にはギザッ歯が見え隠れしていた。
その面影に見覚えがある。
だが、彼のイメージとは大分違う気もする。
「僕、緑谷。」
「私は麗日ー。君はー?」
寝転がったまま顔を向けて、そう問うお茶子さん。
秋も深まり、涼しい気候だがタンクトップにハーフパンツの出で立ちの男の子は特撮のヒーローのように格好付けて自己紹介を始める。
「おれは切島!友達はエイちゃんとかって呼ぶぜ!」
ギザッ歯を噛み合わせて、笑んだその顔はかつての級友の笑顔のままだった。
少し潤みそうになる涙腺を必死に押し殺し、震える声を抑えるだけで精一杯だった。
「それじゃ、私もエイちゃんって呼んでいいー?」
「おー、良いぞうららかー。んでお前らここで何してたんだ?」
円らな瞳に疑問を浮かべて、再度僕らに問う切島くん。
「僕はデクって呼んで。僕らここを綺麗にして特訓場にしようとしてるんだ」
「特訓場!カッケェ!なぁなぁ!おれも混ぜてくれよ!」
ものすごい勢いで距離を詰められた。
近い、そして近い!
「う、うん。二人だけの特訓場にするつもりはなかったから大歓迎だよ」
「おお!二人はヒーロー目指してんのか?だから、掃除して綺麗にしようとしてるのか!おれな!ヒーローならクリムゾンライオットが一番好きだ!なんたって後ろに引かないカッコいい男だぜ!おれもああいう漢になりたいって前からずっと…」
お、おう…子供のテンションってこんな感じだったっけ…?
と言うか僕がヒーロー談義してる時ってこんな感じなのかな…改めないとかっちゃんがまた怒る…。
捲し立てる切島くんにたじたじな僕。
そんな姿を傍から見て、また吹き出すように笑い出すお茶子さん。
「ぶっふ!?デクくんがたじたじや!!」
お腹を抱えて文字通り転げ回るお茶子さん。
笑われるのは良いけど、流石にそれははしたないよ…?
ほら、切島くんがポカンとしてるからそろそろやめて、ほら立って。
「麗日とデクは仲が良いんだな!」
「んっふ!フィアンセだからね!」
そう言って胸を張るお茶子さん。
控えめに言ってクソ可愛い…!
「ふぃあんせ…ってなんだ?友達より上の親友みたいなやつか?」
そう言われるや否や文字通りズッコケるお茶子さん。
いや、そんな芸人根性出さなくていいよ?
と言うか、そうか。
地頭がいいかっちゃんと轟くんとしか同年代の子たちと会ってないから分かってなかった。
通常の四歳児は知らない…知っている方がマイノリティなんだ。
つくづく思う。
幼い頃からかっちゃんって凄かったんだな…。
「婚約者、ならわかる?」
「それなら分かるぜ!将来結婚して父さんと母さんになる、だろ?」
立ち上がって、同じ目線で切島くんと話すお茶子さん。
精神年齢を抜きにしてもお姉さんっぽい…。
「…ん?ふぃあんせって婚約者の事なのか?ってことはデクと麗日は結婚するのか?」
「そーやよー?大人になったら一緒になろーね!って約束しとるんよ!」
再度、腰に手を当て胸を張る。
切島くんの目の彩度が爆上がりした。
「おおおおおお!そうなのか!おめでとう!ん?おめでとうでいいのか?いや、嬉しいことだもんな!おめでとう!」
脇を締めて拳を握り、そう言う切島くん。
その身体に力を込めて喜びを露わにするその様は小さくなっても変わってなかった。
今後の展開についてアンケートを取りたいと思います。
ご協力のほどよろしくお願いします。
今後の展開について。
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