緑谷夫妻のやり直し   作:伊乃

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修行風景書こうと思ったのに、そこまで行き着かなかったw

話の流れはほぼ進んでませんw


22. Peaceful act(平穏な一幕)

Side:Katsuki Bakugou

 

「…?…ハッ!?」

 

目を覚まして、自分の状況をすぐに考えた。

確か師匠に転がされた後…頭のイカれたの金髪女と悪口が原因で喧嘩して…それから…

 

 

「そうだ!確かデクと肉球女が…!?」

 

「誰が肉球女よ」

 

いつも使わされてるベッドの脇に座りながら何か難しい本を読んでいる肉球女が居た。

 

「麗日お茶子やって何万回言わすん?そんなんだから、ひーちゃんに『頭の中身爆発さん太郎』って呼ばれるんよ?…ぶふっ!ダメだ…笑いが堪えきれん…」

 

口元を押さえながらくつくつと喉の奥で笑う肉球女…もとい、麗日。

寝かされて落ち着いていた気分が台無しだ。

思い返したのも、今言われて再燃したのも合わせて、さっきよりも遥かに怒りが燃え上がる。

 

「こ…っんの野郎!!」

 

Booooom!!

 

両手で爆ぜ、体を反動で吹き飛ばし、麗日に飛び掛かる。

 

 

が。

 

「多少速なったけど、まだ遅いよ?後直線的だし、いつもの大振り…治ってへんね?」

 

起き上がって勢いに任せた右の大振りに左の手刀を合わされる。

そのまま手首を掴まれ、グルリと部屋の中を大きく一周。

頭からベッドに叩き込まれた。

立たすことすら出来なかった。

つーか、本から目を離しすらしねぇ…。

 

「くっそ…重力無くすとか反則だろ…!!」

 

「それが私の個性やもん。私から言わせれば爆発だって十分反則やと思うよ?」

 

ぐぬぬぬぬ…と唸ることしかできない。

姿勢を逆さまから戻り、いつでも飛び掛かれるように四つ足で構える。

 

そんな俺を見て、麗日は一瞬目を見開くと、すぐに細めた。

 

「へえ…さすがグラントリノ…やっぱそう言う構えになるんね…」

 

よく分からないけど、なんか感心されたらしい。

パタンと厚い本を閉じて立ち上がる麗日。

その後ろ姿に声をかける。

 

「おい、てめぇ!まだ話は…」

 

「今何時やと思っとるん?もうご飯の時間だよ?」

 

ぐぅ…と言葉を聞いたせいか、腹の虫が悲鳴を上げた。

パッと腹を抑えると意地の悪い笑顔を浮かべた麗日はそのまま出て行く。

扉が一度閉まりかけたところで再び開き顔を覗かせた麗日は一言。

 

「可愛いお腹の虫やね」

 

「てめっ!?」

 

怒りをぶつける前に扉が閉ざされ、そのまま足音が遠ざかっていく。

 

やり場のない怒りに震える俺は歯軋り。

 

やっぱりアイツ、嫌いだ!!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「出久ー。そろそろ用意しちゃってー?」

 

「あ、はーい。今行くよ、母さん」

 

グラントリノの家にお邪魔している僕らは先日保護に成功したと言う渡我被身子と顔合わせのために訪れている。

 

まだ無垢な彼女をヴィランにしてしまわぬように教育してもらうつもりだ。

出来れば、一緒に学び僕らの味方であってもらいたい。

 

敵であればどれほど厄介かは既に身に染みている。

 

「トガちゃん、ご飯の準備してくるね?」

 

まだ幼い彼女に合わせて、二人でトランプを使って七並べをしていたが、一時中断。

 

えー?と少しごねられたが、お腹が空いているのは彼女も同じなのですぐに素直に応じてくれた。

 

「爆豪くん起きたよー。あ、インコさん、私も手伝います」

 

階段を降りてきたお茶子さんがそう告げる。

母さんはそれに応じ、お茶子さんは手を洗いに向かっていった。

 

「うーん、低い身長が惜しまれる…どうにか早く成長出来ないものかなぁ…?」

 

食器類一つ取るにしても台が必要。

ここは家ではないのでいつも使っている踏み台がなく、母さんに取ってもらう他なかった。

 

「はい、お願いね。転ばないでよ?」

 

「もう母さんったら。確かに見た目は子供だけど、このくらい平気だよ」

 

6人分の食器を持ち、軽々運ぶ。

手が小さいため、持ちにくいがいい加減慣れてきた。

 

「おお、奥さん。悪いねぇ。誰かの手料理なんざいつぶりか分からんな」

 

風呂上がりのグラントリノ、いつものドミノマスクすらないスッピンに簡素なジャージ姿だ。

冷蔵庫に飛び付き、個性を使いながら中からビールを取り出して、蹴りで閉めた。

 

「工藤さん、それは流石に行儀が悪すぎますよ」

 

「ワシの家だ。このくらい勝手にさせてくれい」

 

呵々、と笑うグラントリノ。

未来では知らなかったが、本名は工藤空彦さん。

あの小さかった体躯よりはまだ高く、140cmくらいか?

未来の姿でも、今の僕より大きいけど。

 

「…身長を早く大きくするにはどうしたらいいかな…?昔に流行ったぶら下がり健康器みたいに背骨を伸ばす方向で負荷を掛けるのはどうだろう…?そのついでにチンニング…所謂、懸垂をして筋力の増強を図るのもいいな…よし、少しずつ回数と時間を増やしていこう。休養日にはぶら下がるだけでもして、少しでも早く大きく…「出久、ブツブツはやめなさいって何回言えばいいの?」…はい、母さん…!」

 

怒られた。

いや、直したいっていったのは僕だから何も反論出来ない。

 

「デクくんのブツブツは最早癒しだわぁ…」

 

「…ケッ。ウルセェだけだろ…」

 

「あ、かっちゃん。二ヶ月ぶり」

 

後ろから声が掛かったので、振り向けば薄手のスウェット姿のかっちゃんと、短パンとロングのTシャツ姿のお茶子さんが並んで部屋に戻ってきた。

その後ろには一緒に手を洗ってきただろうトガちゃんもいる。

 

「ごっはん!ごっはん!」

 

八重歯を見せながら、下手なスキップをして食卓に向かうトガちゃん。

幼い姿と挙動だけを見てると未来の姿には到底結び付かない。

 

「さぁ、席について。今日は簡単にカレーにしたからみんな好きなだけ食べてねー?」

 

そう言いながら食卓に鍋を持ってくる。

キッチンがやや離れているので、合理的にそうしたのだろう。

ここは田舎なためか部屋の作りが全体的に大きい。

 

「カレー!いずくの母ちゃんのカレーはめっちゃうまいから好きだ!!」

 

満面の不機嫌面がパッと華やぐ。

昔からかっちゃんはウチのカレーが好きだったっけ?

 

「工藤さんはキチンと野菜食べてからにして下さいね」

 

「野菜なんぞ、いつも食わんからなんか新鮮じゃな」

 

家主のグラントリノの分を先に取り分け、全員分のカレーを皿に盛る。

お茶子さんは脇で炊飯器からご飯を盛って母さんに手渡していた。

 

香辛料が香るカレーがみんなの分行き渡るとグラントリノは持っていた缶ビールを飲み干し、脇に置いた。

 

「それじゃあ、いただくとしよう」

 

「「「「「「いただきます!」」」」」」

 

各々箸やらスプーンやらを手に取り、並ぶ料理に舌鼓を打つ。

 

ガツガツと熱いのにも関わらず、掻き込むように食べるかっちゃん。

美味しいねー?とお互いに口に運びながら笑い合うお茶子さんとトガちゃん。

真っ先に野菜を食べ終え、福神漬けを充てに新たに取ってきた缶ビールを飲むグラントリノ。

全員を笑いながら見渡す母さん。

 

ふと、同じくみんなを見ていた僕と母さんの目が合った。

 

「どう?美味しい?」

 

「うん。いつも通り美味しいよ」

 

やり直す以前は友人と家族で食卓を囲む機会は幼い頃にかっちゃんとしか無かったため、凄く新鮮に感じた。

 

未来では敵同士だった彼女らが笑い合っているのも、いつからかギクシャクしていた彼とも以前と違う形で付き合えているのも、柱の中の柱となれと言葉を遺した師匠とまた食事出来ているのも。

 

その全ては奇跡(やり直し)があったからだ。

これらを守るために…僕は…僕らは出来る限りの全力を尽くそう。

 

そう考えていたら、正面に座っているお茶子さんと目が合った。

 

何を考えているのか、全てお見通しのようで、そのまま薄く微笑んでくれた。

僕もその笑みに笑みで返す。

 

そうやって食事を続けていると、バンッと観音開きの扉が開け放たれる。

 

「HAHAHAHA!!!爆豪少年!!渡我少女!!遅ればせながら私が来た!!!…って、アレ?緑谷少年に麗日少女まで?」

 

「オールマイト!スーツ姿もカッケェ!!」

 

食卓の椅子の上に立ち上がるかっちゃん。

トガちゃんはスプーンを取り落とし、扉を見たまま固まっていた。


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