やや説明回。
「お、お、お…オールマイト!?え、本物!?ですか!?」
数秒前のフリーズから解消され、かっちゃんと同じく椅子の上に立ち上がるトガちゃん。
「ひーちゃんあかんよー?どっかの爆発さん太郎みたいなお行儀の悪い子にはサンタさん来ないよー?」
そんなトガちゃんの隣に座るお茶子さんがすかさず戒めに入る。
立ち上がった勢いと同じように、すぐにお尻から座面に着地した。
「爆発さん太郎って誰のことだ!?」
「そうやって反応するっちゅーことは、自分でそうだと認めてるようなもんやと思うけどなー?」
そう言いながら、意地悪い笑みを浮かべかっちゃんに目配せするお茶子さん。
あんまり見せないその姿に少しドキリとするが、ゆっくりと呼吸することで事なきを得る。
高校時代もヒーロー時も朗らかな笑みばかりが印象に残っているので、そんな表情も出来たのかと改めて驚いた。
そう言う言い方をする事で子供自らに考えて学ばせるのは合理的だ。それなら今後誰かを教育する際はこう言う方法も一種の手段として…「出久、口に出てる」…ハッ!?」
口の前で止まっていたカレーをそのまま収める事で、言葉ごと飲み込んだ。
癖というものは中々に難儀なものだ。
「HAHAHAHA!!そう!本物のオールマイトさ、渡我少女!!何を隠そう、この私の第二の師匠の家だからね!仕事明けにトレーニングにも来るのさ!」
HAHAHAHA!とアメリカンな笑いを上げるオールマイト。
その姿を見ながら、固まっているトガちゃんはお茶子さんに新しく用意してもらったスプーンを握らされながら、食事そっちのけで見ている。
僕も同じ立場なら同じ行動を取っていただろう。
いや、もっと酷い対応をしていたに違いない。
食事を投げ出して、サインを求め、溢れる行動力のままに行動し、全霊を持って突撃していただろう。
そう考えると僕も大人になったものだ…とそこまで考えた。
トガちゃんに何事かを耳打ちし、意識をカレーに再度向かわせたお茶子さんがこちらを見る。
「デクくん、楽しそうやね?」
そう僕に問いかけてきた。
「そりゃあもう。仲のいい人たちとご飯が食べれるんだもの。楽しいよ」
そう答えれば、一層笑みを深めて返してくれた。
「よぉし、いずく!!ご飯食べ終わったら勝負だ!!あの頃とは違うから覚悟しとけ!!」
先程お茶子さんに揶揄われてから黙々とカレーを掻き込んでいたかっちゃんがスプーンをこちらに向けて宣戦布告してくる。
「それは行儀が悪いよかっちゃん?」
ニッコリと笑んで返してやれば、喉に詰まったなような音を出した後、再度食事にガッつき始めた。
「おっと、申し訳ないが爆豪少年。食事の後は緑谷少年と麗日少女への用事を優先させてくれないかな?私はトレーニングをしに来たからね。早めに済ませておきたい」
そうオールマイトがお願いすれば、二つ返事で了承するかっちゃん。
僕らへの用事って何かな?
…まさか、アジト襲撃の予定とか?
「以前、打診のあった件、結果が出たからそれを伝えるよ。それに後でサーも来るから」
打診…?
ああ、《アレ》のことか。
「分かりました。二階の応接室で良いですかね?」
「勿論だ。なぁに、数分で済む。悪いが辛抱してくれ、爆豪少年」
何も乗っていないスプーンを噛んでいるかっちゃんに両手を合わせ、軽く頭を下げるオールマイト。
相変わらず見た目にそぐわず、可愛い仕草の人だなぁ。
「オールマイト!後で私にサインください!大ファンなんです!」
速攻で食事を片付けたトガちゃんがテーブルをそのままに立ち上がり、オールマイトへ駆け寄る。
突撃されるオールマイトはその脇に手を差し込み、持ち上げ、自らの肩に担ぎ上げた。
「元気なのは良いことだ!HAHAHA!サインは勿論さ!まだ緑谷少年も麗日少女も食事中のようだから、少しお相手しようじゃないか、レディ!」
わーわー、きゃーきゃーと子供ながらの甲高い声で喚きながら、オールマイトに遊んでもらっている。
昔の自分が見たらものすごく羨ましい状況だなぁ、と微笑みながら最後の一口を口にする。
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「お待たせしました、何分高速道路が渋滞しておりまして」
「気にするな、サー。細やかな連絡をしてくれていたし問題ないさ」
三人掛けのソファに座る僕とお茶子さん。
奥のデスクにグラントリノ。
一人掛けには各々オールマイトとサーが腰を掛けた。
「緑谷出久。麗日お茶子。以前話していた"ヒーロー活動認可資格免許"の件だが、いくら能力があろうと認めることはできない、と国から回答があった」
膝の上で結んだ拳に力が入る。
ふと、横を覗き込めばお茶子さんは唇を噛み締めていた。
「従来、年一度の資格試験にて仮免許を交付されるものだが、その試験は早くとも高校生で受けるのが一般的であった。それすらもないのに、どうやって認可資格を渡せば良い、と言うのが国からの見解だな」
分かっていた。
簡単にそんなものが手に入るはずもない。
ならば、無許可のまま、ただの一度だけを見逃してくれ、と言うのも問題になってしまうであろう。
どうするべきか、と僕の脳内に幾重にも考えが広がっていく。
「とここまでが表向きの筋書きだな」
え、と力の入っていた全身が弛緩した。
「あくまでも法律に則った形式的なもので考えればそうする他ないが、今回法律を動かすと言う荒技でその括りを捻じ曲げると言う判断をしていただく運びとなった」
バッとお茶子さんと顔を合わせる。
それってつまり…。
「一度きりの特例とも行かないだろうからな。手順さえ踏めばどのようにも使うことが出来る制度を作ることとした。"限定的ヒーロー活動認可資格"と言う新制度。コレは現職プロヒーローの五人に認証されて初めて国より認可が下りる、謂わば"ヒーローの推薦制度"のようなものだ。敢えてコレに年齢の制限を付けないことで君らの活動が可能となるようにしていただく方針だ。その認証した五人の下でのみヒーロー活動を可能とする仮免よりも縛りは厳しいが、非合法よりは問題が少ない。既に根回しは済んでいるので、可決を得られればすぐにでも発行してもらう手筈となっている。コレで合法的にオールマイトの手助けを可能とする」
「と言うわけだ。少年少女。話の都合上、驚かせたみたいだが悪いね。サーも人が悪い。先に結論から述べてやればよかったじゃないか!」
「あくまで順序立てて説明したに過ぎません。結果は問題ないでしょう?」
カチャリとメガネのツルを押し上げるサー。
その鉄面皮にわずかに笑みの色が滲んでいるような気がした。
「わざわざ対応していただきありがとうございます!」
「僕からも、ありがとうございます。…ちなみにつかぬことをお聞きしますが、その五人と言うのは誰でしょうか…?オールマイトとサー、エンデヴァーとベストジーニストなのは分かりますが…」
「おいおい、俺を勘定に入れてねーじゃねぇか!」
そう奥の席から声が掛かる。
「グラントリノ!?え、それじゃあこの話は元々ご存知だったんですか!?」
「当たり前よぉ?結論が出るまで黙っとけって言うから黙っておっただけじゃ」
呵々、と沈めたデスクチェアで腹を抱える。
参った、ドッキリにハメられた気分だ!
「そう言うわけで緑谷少年、麗日少女。改めて協力お願いするよ!」
「「はい!」」
僕とお茶子さんは声を合わせて、返答を返した。
コレで奴を合法的に叩くことが出来る。
未来に於いても一度として拳を交えることはなかったが、悪の大将を叩くチャンス…未来で殺された幾人もの人々の敵討ちのチャンスであると、先ほどとは違う意味を込めて両の拳を握り締めた。