Side:"A" girl
先週、変な二人組がウチの教室に入ってきた。
緑のモサモサした髪の男の子と茶色の髪のふわふわした女の子。
初めて来た日、綺麗なお姉さんに連れて来られた。
多分似てるし、緑くんのお母さんだ。
「基礎コースの体験に来ました。よろしくお願いします」
そう二人して頭を下げてお辞儀する。
多分同い年だと思うんだけど、喋り方とか動き方が何となくお兄さん・お姉さんっぽく思えた。
初日は体の動かし方、何度もやった簡単なステップ、身振りの心構えなんかを先生が付きっきりになって教えていた。
茶色ちゃんは何となく出来ていたけれど、緑くんがてんでダメ。
初歩のボックスステップを繰り返しているうちに頭がこんがらかったのか、足まで縺れて転びそうになっていた。
その度に茶色ちゃんが手を差し伸べて、緑くんを宙に浮かして助けてたり。
それを見て先生が注意するんだけど、
「いやぁ…つい手が出てしまいましてー…」
と頭を掻きながら言っていた。
なんだか、二人のやり取りが大人の…それこそ夫婦の様なやり取りで少し羨ましく思えたのだけど何でだろう?
それからも一通り教わって基礎コースはお終い。
むりょうたいけんコースだから、これで終わりなんだって。
その後は、私たちの練習の見学をして教室の雰囲気を感じてもらって、入るかを決めてもらうんだって。
さっきまでの退屈なメトロームの音から解放されて、課題にされてる曲が何度も掛かる。
そうやって練習を続けてたんだけど、茶色ちゃんは手拍子打って見てたのに、緑くんは何かをノートにガリガリ書いていた。
休憩と言われてコッソリ近づいて覗き見たけど、まだ習ってない字がたくさん、小さく並んでてあたしは読むことを諦めた。
何となく読めたのはカタカナばかりで『ダンス』と『ステップ』と『カウント』くらい。
もしかして習ったことを書いて覚えてるのかな?
そうだとしたら字がたくさん書ける緑くんは頭が良いのかもしれない。
天才、って言うのかな?
そのまま練習を続けていると鏡越しに見える二人が気になった。
何やら書いていることを二人で相談してるみたい。
ひと段落付いたのか、ノートと鉛筆を鞄にしまって、そこから代わりに携帯電話を取り出した。
ズルい、いいな、羨ましい。
あたしも欲しいってお願いしたけど、小学校に上がってからって約束をして諦めた。
それで後ろから写真?を撮っていたみたい。
良いな良いな、羨ましい。
その次の練習の日。
今日。
また二人が来ている。
そうしたら、驚いた。
前の練習の時はダメダメだった緑くんがステップをバッチリ覚えてきたのだ。
まだぎこちない所もあるし、リズムがズレる所もあるけど、それでも二度目にしては凄すぎる。
茶色ちゃんにおいてはほぼ完璧。
きっと凄い練習をしてきたんだなって、そう思った。
でも、驚くのはそれだけじゃなかった。
その後の曲を掛けた練習にも参加したいと二人が言うので一番前の先生がよく見える所に呼ばれた。
真ん中があたし。
左右に二人の並び順。
イントロが流れ始めて、カウントを始める先生。
先生のカウントがないとまだあたしも入りがズレてしまうステップ。
中級コースに上がって初めての課題で何度も練習してるけど、それでも出来ない。
なのに二人はピッタリ合わせてきた。
他のみんなも驚いたみたいで先生と少しずつズレていた。
あたしは先生の背中を睨んで、必死に着いていく。
ふと、その先の鏡に映る二人が見えた。
緑くんはまだ余裕がなさそうだったけど、先生が言ってた『身体を大きく見せる様に』ってダンスの心構えをすごく意識しているのが分かった。
手の振りが指先まで伸ばし切ってて、すごくカッコよく見えた。
反対の茶色ちゃんは余裕がありそう。
目が合うと振りとは関係なしに小さく手を振ってくれていた。
ニッコリと可愛い笑顔で笑いながら、楽しそうに踊ってる。
そうだ、ダンスは楽しいんだ。
だから、勝手に笑っちゃうよね?
さっきまで先生の背中を睨んでてしかめ面になっていたけど、茶色ちゃんに笑い返してからあたしも楽しく踊ることにした。
ダンスは大きく、鋭く、そして楽しく。
振り付けがズレたのは知ってた。
左右のステップも踏み間違えた。
いつもならやらない。
そんな失敗。
でも、楽しかった。
「ねぇ!」
練習が終わった後、お母さんが迎えにくる前。
あたしは二人に話しかけた。
「ダンス!凄かったね!びっくりしちゃった!」
そう言うと二人は同じ仕草をしながら照れていた。
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Side:"I" boy
僕は兄さんを尊敬している。
まだ高校生ながらヒーローの心構えが出来ていて、父と母にも恥じないヒーローになるであろう。
自身の鍛錬に一部の隙も無い。
それでいて周囲への気配りも完璧だ。
近所の皆さんの評判も凄くいい。
将来はお兄さんのようなヒーローになってね、とスーパーのおばさんにも言われてしまうほどだ。
無論、僕もそうならんと努力している。
まだ4歳だが、ねだって買ってもらった辞書を使いながら難しい本も読んでいる。
兄さんに教えてもらった本を片端から読み、既に20冊は読んだだろうか?
段々と辞書を使わずに読めるのが楽しくなってきて、つい兄さんに図書館に行って見たいとねだったこともある。
その時、印象的な二人の男女を見た。
兄さんと一緒に走り込みをし、一緒にお風呂に入ってから出かけたその日はありきたりな冬の晴れた日だった。
風もなく、歩くに合わせて体が温まり、過ごしやすい日だった。
初めて行く図書館に浮かれていた僕は、やや先行して兄さんの前を行く。
兄さんが来ているか確かめるのに振り返ったその時、いきなり突風が吹いて、思わず目を閉じた。
それは一瞬で過ぎ去ったので、その風の行く末に目を送ると、遙か遠くへ行く同じくらいの子供が目に映る。
「あの子ら個性使ってるなぁ…一応、止めておいた方がいいか。悪いがここで待っててくれ。すぐに戻るから」
そう言って僕が了解の意を返すや否や、兄さんが駆け出す。
速さを史上とする我が家で現最速の兄さんだ。
きっとすぐにあの二人を捕まえて、個性の無断使用はいけないと注意してくれるだろう。
だから、僕は待つ。
兄さんからきっとすぐだ。
だから待つ。
昨年の誕生日に買って貰った腕時計で20分が過ぎた頃、兄さんが戻ってきた。
「お待たせ。待たせて悪かったな」
「大丈夫だ兄さん。あの二人にちゃんと注意できたのかい?」
当たり前にそうだろうと思っていた。
しかし、兄さんの表情は
指先で頬を掻く仕草は、気不味いと思う時だと兄さんから借りた本に書いてあった。
「すまない。追い付けなかったよ」
とても驚いた。
誰より早いと信じて止まなかった兄さんが"速さ"と言う種別で負けるとは思いもしなかった。
「大通りに差し掛かったところで大きく飛び越えられて、そのままビルの上を行かれてしまったよ。足には自信があったんだがなぁ…」
女の子を抱えた男の子の速さはそれほどの物だったのか。
確かに先ほど通り過ぎた突風を考えればあり得なく無い話だ。
「兄さん。彼らはきっと僕の同世代だ。いつか兄さんの仇を取るために今からもっと鍛えるよ」
どちらかと言えば身体を動かすよりも本を読んでいる方が肌に合っているが、それは置いておく。
「我が家が速さにおいて劣らないことを僕が証明するよ」
「エンジンが足についているお前ならきっと俺よりも早くなるはずさ」
兄さんに手を引かれ、図書館へ向かう道すがら。
僕は決意を新たにした。
かの印象的な暴走二人組に勝たんと。
修行をしつつ邂逅編。
いやぁ、いったい誰なのかてんで分かりやせんで(お約束)