お楽しみください。
「えいちゃん、個性の制御はどうなん?」
「おう。大体思い通りにオンオフは出来るようになったぜ!」
練習場として作った砂浜の上。
僕とお茶子さんは自分の鍛錬に追加して一緒に鍛えるようになった
あと数日でやり直してから半年が過ぎようとしていた。
目標としていたオールフォーワン対策、ヴィラン の先回り対策は概ね順調だ。
USJを襲撃した際に居た脳無の素体にされた男の保護ができ、仕事の斡旋が出来たので推定ヴィランより除外することと相成った。
コレで少なくとも『ショック吸収』の個性は持たないし、対オールマイト用脳無の根幹を絶った為、あのUSJ襲撃事件は起こらない。
その他にも犠牲になる"予定"の人々は多々いるが、オールマイトやサー・ナイトアイ他全国に散る協力者のおかげで『脳無素体犠牲者』や"犯罪予報"に列挙された『推定ヴィラン』をも保護・監視下に置くよう着々と進んでいる。
その上、ヴィラン 連合の中核を成したトゥワイスこと分倍河原仁とMr.コンプレスこと迫圧紘の確保に成功したとナイトアイより連絡があった。
どちらもまだ軽犯罪程度しか犯しておらず、十分に社会復帰可能だとか。
それならば、敵に回さず味方に引き入れてしまえ、とばかりに現在グラントリノの下で共同生活をしている。
…かっちゃんに悪影響が無いよう祈るばかりだ。
他にも大きな犯罪を犯す前に捕らえることに成功してる推定ヴィランは他にもいる。
傷害事件で逮捕されたヴィラン名『ムーンフィッシュ』や乱波肩動など、未来で僕らが脅かされた脅威は徐々にとは言え、減らすことに成功している。
僕らが動いたことによって本来の時間軸では落とすはずだった命を救うことが出来ている。
その結果は僕もお茶子さんも満足している。
そう、満足はしている。
しかし…
「…でく…おい、デク!」
肩を掴まれ、現実に呼び戻された。
「ど、どうしたの、えいちゃん?」
「いや、この後のトレーニングはどうするのか聞いてんだよ?なんか考え事でもしてたのか?」
キュッと口を引き結ぶ。
何か呟いてやしないか、心配になる。
一応、口に出す癖は矯正しつつあるのだが、気を抜くと度々やらかしている為自信がない。
視線をお茶子さんに向けると笑顔のまま首を縦に振ってくれたので、大丈夫そうだった。
「何でもないよ。ちょっと考え事」
「そうか?お前は何でも出来るかもしれないけど、悩み事なら相談くらいには乗るからな?」
彼の心根は以前と変わらず…と言うと変な感じだ。
この年頃からヒーローになってからも変わっていないってことだ。
段々自分でも何を考えているか分からなくなってきて、頭を左右に振る。
「デクくん、何考えてたん?」
「あぁ、お茶子さん」
飲み物を切島くんに渡してから、僕にも差し出してくれるお茶子さん。
その顔はありありと心配を映していた。
「最近、ヴィランの動向が読めなくなってきてるって話があったじゃない?」
つい先日、ナイトアイとオールマイト、エンデヴァー、ベストジーニストの
「マグネもマスキュラーも見つからない。監視を振り切ったらしいし、袋小路に入ったと思ったら消えたとかそんな報告ばかりじゃない?何か悪い予感がして気持ち悪くて…」
「そうやね…それにオールフォーワンの動向も何一つ掴めていないのも不気味やね…」
「未だに黒霧の尻尾すら掴めていないしね…」
僕らは既に知り得る情報は吐いた。
しかし、これ以上の結果が得られないのか、と考えに暗雲が立ち込める。
「あとは…そうだ、ステイン。彼もまだ行動に移していないはずだ…確か調書や記事では10代末頃は街頭演説みたいなことをやっていたって書いてあったはず…。どうにかこちら側に引き込めないものか…」
「ええ!?いや、確かに戦闘力やカリスマ性はあると思うけど、素直にヒーローになってくれるかな…?」
ガチガチに固まった理想を追い求める思想犯。
そりゃあ、固まり切ってしまえば変わらないだろうが、そうなる前であれば…
「…どうとでも出来る…」
ギュッと拳を握り締める。
次第にギチギチと音が鳴るも構わない。
「デクくん…それはヒーローっぽくないわ」
「え」
握り込んだ拳を両手で包むお茶子さん。
思わず、込めた力が霧散した。
「その言い方じゃ、悪くも出来るみたいじゃない。私たちは最善より最高を選ぶ…でしょ?」
そう言われてハッとする。
前提がすり替わっていた。
「そうだね…僕らの思想に染めるんじゃなくて、快く協力者になって欲しいんだもんね…。僕が間違っていたよ…」
「分かればよろしい!!」
両手を腰に当て胸を張るお茶子さん。
むふー!と鼻息を荒く吐き、口角が吊り上がっていった。
「おーい、そろそろ休憩終わりにしよーぜ!」
少し離れたところにいた切島くんから声が掛かる。
いつまでも休憩にしててはトレーニングも意味がない。
「今度は私が指導してくるよ。なんかあったらよろしくねー?」
「あ、うん」
そう言って立ち上がるお茶子さんを見送る僕。
切島くんに駆け寄ると打ち込み稽古を始めた。
まだ始めたばかりなので、ギクシャクしている部分もあるが始めた当初よりも大分速くなった。
基本技、一つ一つを確認するためにあえて緩やかに行う組み打ち。
受けの練習なので、使う型や順序を事前に取り決め、スローモーションの様にゆっくりと動く。
傍から見れば遊んでいる様に見えるかもしれないが、歴とした訓練だ。
特に切島くんの個性に於いては重要な訓練と言える。
「焦らんでいいよ。丁寧に受けることを考えて」
「押忍っ!!」
相手の攻撃をバカ正直に受ければ、それだけ消耗する。
常に気を張って全身を硬化させるよりも、必要な時、必要な箇所に、必要なだけ硬化できる様にする訓練だ。
全身常時硬化状態の『
早い内からこの訓練をしておけば、彼の継戦能力は飛躍的に上がるだろう。
「っ!?…ぐぅ…!」
「ほら、打点をズラす!遅れるとゆっくりやってるとは言え痛いよ!!」
「…お、押忍!」
「無理な姿勢では受けない!下がるか、姿勢を整えつつ前に!今はまだ手技の型しか使ってないんだよ!もっと視野を広く持って!足技や投げ技が増えるともっと周り見ないと対応できないよ!」
「押忍っ!!」
ゆっくりやり始めたはずなのに、結構な速さになってきた。
熱が入り過ぎてるなぁ…。
「お茶子さん、ペース落として!それじゃあ、普通の打ち込み稽古になっちゃうよ!!」
あ!と一言。
そうして距離を取って仕切り直し。
また速くなったら声を掛けよう。
ピリリリリリリ
とオーソドックスな着信音が鳴る。
特に設定していない番号からだろう。
近くに転がしたカバンから電話を取り出し、ディスプレイを見るとそこには『サー・ナイトアイ』の文字。
「はい、デクです」
『緑谷出久。2分ほど時間をもらう』
大丈夫です、と返せば長いため息が受話口から聞こえた。
『お前の協力の下、現在遂行中の作戦の件だが、先日話した通り進捗率で言えば概ね六割を超えた。未だ見つかっていないヴィランないし推定ヴィランも目下捜索中だ。直に結果が出るはずだ』
「はい、その件は一昨日のお電話でお伺いしました。…もしかして何か問題が…?」
『ああ。監視もしくは保護をしている推定ヴィランたちなのだが…監視担当者、保護監督者数名から突如行方不明になったと報告を受けた』
「ッ!?」
思わず息を飲み込んだ。
それは上手く行っていたがために恐れていた事態だ。
『いずれも本日、先程。脱走や失踪ではなく、つい数秒から数分前まで目の前に居たはずなのに急に姿を消したと言う…。その報告の中に2件『黒い霧の様なものが見えた気がした』と言っていた』
間違いない。
「それは…ヴィラン名『黒霧』で間違いないでしょう…」
『ああ。そして今、私はお前と同じことを考えているだろう』
「ええ」
「オールフォーワンが動き出した」
オールフォーワンがアップを始めました。
皆さん、感想いつもありがとうございます。
コレからもくだらないことから話の先読みなどなどどんな些細なことでも構いませんので、どしどしお送りください!
…今のところ100%返信出来ると思います、それが誇りでもありますw