緑谷夫妻のやり直し   作:伊乃

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展開に悩んで随分遅くなりました。

今後、どうするか未だ悩み中なのでまた遅くなるかも…。


29.Blood Madness Muscular(血狂いマスキュラー)

Side:Force Kind

 

何も見えない。

 

先程まで、作戦のために路地裏を歩いていたはずだ。

見た目が厳ついということもあって、抜擢された潜入任務だが、相手が転移系個性持ちによる半誘拐が一番あり得るとのことでヴィランらしい見た目を心掛けて作成してもらった任侠風ヒーロースーツに身を包み、チンピラ同然に振る舞う日々を送っていた。

 

路地裏の喧嘩に介入し、ヒーローが来るまでやって逃げる、とほぼヴィランみたいな活動はヒーローになったと言うのにどうしてこうなったと釈然としない。

 

そんな風に過ごしていたところ…どこからか声がした。

 

『何やら不満が溜まっている様子。その不満、我々の元で振る舞っては如何ですか?』

 

偉く紳士的な物言い。

誰だ?と誰何するも答えは貰えず、低い笑い声だけが響く。

 

『ふふふ、ご心配には及びません。これからご招待いたします』

 

そう言って黒い霧に全身を包まれた。

 

(マジかよ…事前の情報通りじゃねぇか…!!)

 

そう考えるや否や、手首に取り付けられたボタンの横を押し込む。

GPSとエマージェンシーコールが内蔵されたサポートアイテムで、現在位置とリアルタイム通信、録音が一気に為せる小さいながらもハイテクなアイテムだ。

 

特殊な電波を使用しているので、阻害されることはほとんどないが…こちらからは送れてもあちらからのは届かないのがむず痒い…。

 

(頼む…ボロが出る前に救出してくれ…)

 

そう考えたのが1分前。

 

気付いた時には、昼下がりの路地裏ではなく真っ暗な部屋にいた。

ここがどこだか見当も付かないが、少なくとも両手を伸ばすくらいの広さはありそうだ。

 

慎重に手を伸ばすも、壁や天井に触れそうな感じはしない。

 

自分以外の息遣いや衣擦れなどは無く、多少の心細さを感じる。

下の右手でズボンのポケットを探るも、移動する際に抜き取られたのか入れていたはずの携帯がなかった。

 

その他に明かりをつけるに相応しいアイテムと言えば…。

 

「チッ…ライターくらいしかねぇが…燃えたりしねぇよな…?」

 

カチャン、と音を鳴らして蓋を開き、やや有って慎重に火を灯す。

 

何かに引火する事もなく、点いた火で辺りを照らすも見える範囲に何もない。

足元の安全が確保出来たので、辺りに伸ばしていた手を戻す。

出来るだけヴィランらしく…そう思い、下の両手をポケットに。

上の両手で辺りを照らしながら歩く。

 

(風はねぇ…密室なのか…?だとしたら酸欠になる可能性もあり得る…。天井すら照らせないとか相当広い部屋らしいな…)

 

そうやって歩いていると漸く壁に突き当たる。

 

(白い防音壁。屋内なのは確定か。こんな高さと広さがある部屋は都内には用意できないか…となると…ここはどこなんだ?)

 

そう考えた直後、バンッと大きな音を伴って全ての照明が点く。

 

暗闇に目が慣れ始めていたので、その照度に目を焼かれた。

突然のことに全ての腕を使って目を庇うも、視界が明るさに慣れるにはしばらく掛かった。

 

『四堂腕くん…だね?』

 

先程、路地裏で掛けられた声とは違う、低くそれでいて響く声がする。

 

「おう、コラ。人を勝手に連れてきやがって何様だ。出て来いよ」

 

ヴィランらしくを心掛けて、声を出す。

出来るだけ悪ぶって、短気的で、自尊心あり気に。

 

『ここに連れてきた彼には招待するように言ったんだが、お気に召さなかったかな?君の活躍は画面越しだが観ていたよ。ここ数ヶ月で路地裏の支配者になっていたようだが、君の力を誇示するには足りないようだ。どうかね?私の元で働いてみないか?』

 

人の心の内にスルリと入ってくるようなその声に違和感を抱かないことに逆に身震いする。

恐怖を抱けないことが一番怖い、とはこのことなのだろう。

 

「ハッ、誰かの下に付くなんて考えたことねぇよ。それとも何か?俺を納得させられるような報酬でも貰えるのか?」

 

『報酬に相応しいか分かりかねるが、君の力を存分に振るえることは約束するよ?金品が欲しいのであれば、仕事の都度渡すことを約束しようじゃないか』

 

もしも、捕まってしまった場合出来るだけ協力的でいろとお達しがあったが、どうにも納得できない。

 

「招待してもらって悪いんだが、予定があってな?出来れば今日のところは帰りたいんだが、帰してもらえないか?」

 

『答えを聞いてからじゃダメかい?仲間になると約束してもらえれば帰すことを約束するよ?』

 

ならないと言えばどうなるのか…気になるところだが、博打を打つのは嫌いじゃない。

 

「ならない、と言ったら俺をどうするつもりだ?」

 

『なに、嫌でもなってもらうさ。君の四本の腕…使い道はいくらでもある』

 

敵は個性を奪い取る個性を持っていると聞いた。

ならば、本当にやりかねない。

負けるのが分かっているならばコレは博打ではない。

 

「オーケー、分かった。アンタの下に付くよ」

 

『ふふふ、素晴らしい。それでは次の話に移るよ?』

 

ゴゴゴ、と床に響く音がする。

視線の先の壁が迫り上がっていくとそこには一人の男がいた。

 

『四堂くん、街尾くん。申し訳ないのだがね、二人にはコレから戦ってもらいたいのだよ。入学試験だと思ってもらいたい。勿論、どちらかを不合格にするつもりはないが、全力でやってもらいたい。まぁ、どちらかは死んでしまうかもしれないけれど、頑張ってくれたまえ』

 

そう言うとブツリと音が途切れる。

ああ、参った。

こんなのは想定外だ。

見たところ、高校生くらいの筋骨隆々の男。

どんな個性を持っているか分からない…いや、待て。

この潜入捜査の仕事を受ける際に見た資料に居たぞ…?

 

「あー…兄さんは仲間になるかも知れねぇんだよな?だけど、本気でやれって?俺は個性を自由に使えるって言うからここに来たんだが…」

 

そう、確か街尾拳。

その個性は…。

 

ビュルッと音がしたと思うと皮膚を突き破って赤い筋繊維が肩口から現れる。

腕に纏わり、手首までをガッチリと覆っている。

 

「最近気付いたんだ。俺って、こんな個性だからか、昔から物を壊しやすくてなぁ?喧嘩の時にも相手を壊し過ぎちまって加減が出来ねぇんだよ。んで、その壊れ方がよ、相手を血だらけにしちまうんだけどな?どうやら、好きらしいんだ。…相手の血がよ?」

 

そうだ、『筋力増強』

溢れる筋繊維で力を強化する個性。

 

「兄さんはその腕が個性だよな?なら、力はそこまで強くねぇよな?なら、俺の力には敵わねえだろ…何って?自慢だよ!俺の力は!俺の個性は凄えんだってな!!」

 

ま、不味い!

 

「本気でって言うし…兄さん。本気で遊ぼう!!」

 

足にまで巻きついた筋繊維、距離にして10mほどだが、その強化された筋力ですぐに食い潰されてしまうだろう。

 

後ろは先ほどたどり着いた壁。

左右の壁までおよそ5mほど。

逃げ場はない。

 

「はぁ…異形型と発動型のミックスか…参った、増強系は苦手なんだ…」

 

垂れる冷や汗。

それを悟られないよう努めるが…相手の笑みは深まるばかりだ。

 

「とりあえず…血ぃ見せろッッ!!!」

 

踏み込みの一歩で肉薄され、筋繊維で覆われた巨大な拳を振り下ろされた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「どのような展開になっているか不明だが、既に彼が拉致されてから二時間が経過している。可及的速やかに救助せねばなるまい」

 

連絡をもらってからすぐさまオールマイトの事務所に集合した僕ら。

この場には現職のヒーローのオールマイト、サー・ナイトアイ、エンデヴァーと選りすぐりのヒーローがいる。

 

しかし、僕らを含めてたった五人。

悪の親玉を叩くには些か戦力が不足しているようにも思える。

 

「個性を抜き取られているか、あるいは既に脳無の素体にされているか…」

 

「いずれにせよ、あやつの命が損なわれる恐れがあるならば、是が非でも救いに行かねばならんだろう?」

 

「ええ、ちょうど精鋭が集まっています。ヤツと対峙するとしてもこれ以上ない布陣と言えましょう」

 

「だけど、私達が直接戦闘するのは本命が出張ってきた場合のみ…で良いんですよね、サー?」

 

「ああ、君たち二人は最悪の事態でのバックアップだ。出来れば隠れたままやり過ごせるのがベストだ…。しかし、奴が出てきた場合はその限りではない。出来るだけ不意を打って一撃で収めて欲しい」

 

「「はい」」

 

「では、行こうか。なぁに、ちょっとしたハイキングだと思えば良いさ!HAHAHAHA!!」

 

「何がハイキングだ。そんな調子では足元を掬われるぞ?」

 

「ええ、もっと言ってやってください、エンデヴァー。彼のコレは悪癖と呼ぶべきモノですので」

 

「ちょ、ちょっと、二人とも…些か辛辣すぎやしないかい?」

 

「「そんなことはない(です)」」

 

「む、むぅ…。さ、さぁて出発だぁ!」

 

「し、締らんなぁ…」

 

「あ、あはは…」

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