時間を追うごとに増える数字に喜び半分怖さが半分と言う状態でした。
評価もしていただき感謝です。
励みにさせていただきます。
またアンケートもご協力下さり、重ねてお礼申し上げます。
丁度良いと少ないが多かったので3,000字から5,000字程度を目処にキリの良いところで切り上げるよう書いて行こうと思います。
PS.評価はありがたいのですが、低評価の際は直すべき点などを合わせてご指摘くださいますと幸いです。
母さんの協力を取り付けられた翌日。
日の出と共に目を覚ました僕は、7時半までに帰る、と書き置きをした後家を出た。
「ココは片付ける前のまんまだなー…。」
都立多古場海浜公園。
その波打ち際。
海流の影響で海からゴミが打ち上げられ、それらが堆積している。
更に輪をかけて、ゴミを増やしているのは不法投棄。
元々ゴミだらけなんだから少しくらい増えたって良いよね、と大衆の心の内の何処かで囁くーー所謂『割れ窓理論』のモデルケースだ。
当時中学三年。
オールマイトからの課題により、この海浜公園の清掃を行った。
小さなものは割れたビン。
大きくなれば家電製品や果ては軽自動車まで捨てられていた。
現状をざっと見回しても、ボロボロのトラックタイヤが数本転がっているのが見えた。
自己研鑽に励む一環として、ここの片付けも並行して行おう。
以前は十ヶ月と言う縛りがあったが、今度は年単位で時間が取れる。
成長に合わせて行うこととする。
「さて。周りを見ても早朝と言うこともあり、誰もいないし…現状の確認をしよう」
お茶子さんは個性の成長は変わってない、と言っていた。
操作に関してはそうなのかもしれない。
受け継いだ当初は全身に0か100しか出来なかったが、昨日試した時は右人差し指のみを強化することが出来た。
ただ許容上限に関してはどうなのだろうか?
出来ることと出来ないことの線引きの為に来た。
「フルカウル」
全身常時強化を起動。
1%で全身を強化し、親指で押さえ付け、引き絞った人差し指を弾き出す。
技として2番目に習得した"デラウェアスマッシュ"
まだ強化が低いからか特に反動はない。
今回の検証方法としてフルカウルで全身に纏い、デラウェアスマッシュで問題がないかを確認する。
フルカウルの上限では纏うだけで全身に負担が掛かり、デラウェアスマッシュは最悪指の腱が切れ、内出血を起こすだろう。
そのギリギリを見極める為に1%ずつ強化度合いを上げて行く。
痛みが走れば、その場で終了。
…なのだが。
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「 SMASHッ!!」
海面が左右に割れ、白波が飛沫を立たせる。
渦巻く風が水平線を目指して直進し、遥か彼方の雲に風穴を開けた。
「…100」
僕は唖然としていた。
今の僕は何の鍛錬もしていない子供の体のはずだ。
死柄木との戦闘直前に確認した上限はフルカウル80%だ。
瞬間的には100%も扱えるようにはなっていたが、それでも痺れや突き指の覚悟を持って扱っていたのだ。
それが幼いはずの今の自分はいとも容易く上回る結果となっていた。
フルカウルによる痛みはない。
デラウェアスマッシュでの骨折も起きていない。
ならばと今度は拳を握った。
「テキサスSMASHッ!!!」
小さな拳が空気の壁を叩き壊す音が聞こえた。
その快音は衝撃波を伴って水上を突き進み、水平線の向こう側へと消えていった。
ゾクリ、と僕の身体震える。
オールマイトの後継者として選ばれて以来この領域に至るべくずっと鍛えてきたのだ。
『筋肉が増せばそれだけ扱える領域が増える』とオールマイトは言っていたが、筋肉が無い状態の今の僕が100%を扱えた。
「…今までよりも使えてる…これならば、もっと助けることができる…もしかしたら、鍛えれば更に出力が上がるんじゃないか…ならば、筋トレは当然として、身体の扱いが下手と言う僕の弱点の克服のために何か訓練すべきだな…リズム感の形成にダンス、可動域拡張の為にヨガ、それに我流の戦闘術よりも何かを習うべきか…?時間はある、取捨選択の幅は広い…以前の弱点克服と幼少期ならではのバランス感覚や戦闘勘などのセンスの形成…幼い頃、鈍臭く運動が苦手だった僕はそれをひっくり返すチャンスを得たんだ…下地の発育は急務だ…戦闘勘はグラントリノに稽古つけてもらえないかな…オールマイトとの接触を含めて一石二鳥だ…」
ブツブツと口に出して頭の中を整理する。
誰にも見られていないのだし、気にせずブツブツ続け、自らの成長に必要な要素を列挙する。
「筋トレやヨガによる身体作り、ダンスによるリズム感育成と体幹形成、我流でなくキチンとしたセオリーを習い移動術や捕縛術の習得、力を正しく振るう為に拳法などの技術鍛錬…幸いワン・フォー・オールの運用技術に問題はない。けれどただの力押しでは過剰な攻撃で相手を殺してしまう可能性だって大いにあるんだ。その可能性の排除の為にそう言った適切な力の振るい方を学ぶ必要がある。」
打ち寄せる波に目を向けながら自らの課題を口にする。
「まだ時間はある。ヴィラン連合が組織される前にオールマイトに協力して決着を着けるんだ…」
海上にその全貌を露わにした太陽を翳した手の隙間から覗き見ながら、最終目標を口にした。
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一通り確認を終えた僕は手ぶらで帰路を駆ける。
フルカウルでの移動は試していなかったので、試験も兼ねて100%で路地裏などの悪路を走る。
踏み込みで足元を壊さないように走り、壁や柱を足場に立体的に駆け、商店街の路地裏から壁蹴りの要領で上に上がり、そのまま屋上を飛び跳ねながら家を目指した。
「パルクールの技術指導してくれる人って誰かいたかな…」
基礎訓練だけでも構わないから、我流移動術の穴埋めをしたい。
家の近くまで来て見覚えのある一軒家の屋根から飛び上がり、マンションの三階へ向け、飛び出す。
そのまま、欄干を掴んで強化した膂力で引き上げ、自宅の前の廊下に着地した。
「出来ていたことはそのまま出来る…と言うことでいいんだろうか…?それにしても全力疾走で帰ってきたのに息が上がるどころかじんわり汗をかく程度しか変わりがないや。強化なしだとどの程度の運動能力なんだろう?」
そんな疑問を口にしながら、右手でポケットを漁って家の鍵を取り出す。
左手首に付けた子供用の腕時計(オールマイト仕様)の時間を確認する。
7時25分。書き置きに書いた五分前だ。
「ただいまー」
遠くからお帰り、と声が聞こえた。
焼ける魚の匂いがする。
シャワー浴びるね、と靴を脱ぎながら母さんに伝え、自室の扉を開いた。
着替えを用意して風呂場に直行。
数分で潮風を浴びてベタベタになった体を汗と一緒に洗い流す。
風呂から出て、髪を乾かしながらリビングに向かうと食卓には既に料理が並んでいた。
「手伝わなくてごめんね、母さん。今の自分にできることの確認をしてきたんだ」
席に着きながらそう言い、母が差し出す茶碗を受け取る。
「いただきます」
シャケの塩焼きに手を付けると母さんから疑問が投げかけられた。
「自分の【個性】のこと?未来ではヒーローになってたって言ってたけど、どんな【個性】なの?」
「一応、突然変異型(ミューテーション)らしいんだけど、オールマイトみたいな超パワーだよ」
継承云々は言うわけにはいかないから、言い訳は嘘で誤魔化す。
その後、僕は茶碗を置いてデモンストレーションを見せる。
パリッと緑光が迸り、隣のダイニングチェアを親指と人差し指の二本だけでつまみ上げた。
本来子供の力で持ち上げるのが難しいだろう重さの椅子を持ち上げてみせた。
デモンストレーションの結果、母さんは目を開いたまま固まり、箸に乗っていたご飯がテーブルに転げ落とした。
「母さんや父さんみたいな【個性】だと思って物を引き寄せようとしたり、火を吹いたりする練習をしてたんだよね。確か、無個性だって言われた後だから今時期か。懐かしいな」
ゆっくりつまみ上げた椅子を下ろし、僕は食事を続ける。
母さんが思考停止から戻る頃には僕の前には空の食器しかなかった。
それらを一つにまとめ流しに持っていく。
しかし、流しに入れようにも手が届かなかった。
幼く低い身長が恨めしい。