緑谷夫妻のやり直し   作:伊乃

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今回はお茶子目線のヴィラン連合抗争の状況。
彼女の死因に触れてなかったので、そこを落とし込みました。

麗日夫妻は最後にちょびっとだけ。
大人デクはかっちゃんばりに燃えてるシーンが出てくるくらいです…。

今回、ちと難産でした。
また後で直すかもしれない…。


8.The end of heroine(彼女の最期)

Side: Ochako Uraraka

 

 

ヴィラン連合との決戦。

それは私とデクくんで死柄木を抑え、その間に黒霧を捕らえる作戦であった。

 

付随する作戦として、私とセメントス先生でコンクリート塊の投下による新造脳無のチャンバー同時破壊を先行して行い、黒霧の取れる択を削る。

その後の捕物は黒霧に対する波状同時攻撃による人海戦術を予定していた。

 

神野の悪夢の時にオールマイトたちが取った作戦と奇しくもほとんど同じで、【ワープ】という個性の対策法としてこれ以上ない対処法であった。

 

しかし、その手法は八年前の作戦で既に手の内が割れている。

 

 

ヴィラン連合の対策としては単純。

脳無が足りなきゃ増やせばいいじゃない。

一つで足りなきゃ増やせば良いじゃない。

、と。

 

 

神野区の時は一箇所だったためにそんな単純な策が思いつかなかった、と作戦を立て指揮していたヒーロー:センチピーダーが無線越しに吠えていたのを聞こえた。

 

私の役割はコンクリート塊の指定ポイントへの投下だけだったので、その結果については死柄木の真ん前で聞く羽目になる。

 

「全ヒーローに告ぐ。狼狽えるな。黒霧を抑えれば、被害を極小まで抑えられる。脳無が出た場合のプランに切り替えろ。好き放題させるな、僕らが来たことを教えてやれ!!」

 

死柄木を睨みつけながら、オープンチャンネルで大声を張り上げるデクくん。

 

"勝ちたいって気持ちが強くなると言葉遣いが荒くなる"

爆豪くんのお葬式で寝顔の彼に言っていた。

一生言えないと思ってたって言葉を添えて。

 

"勝ち"のイメージ。

"勝利の権化"

ヒーロー爆心地は粗暴で粗野な口ぶりが目立つもその鮮烈な闘いぶりで人気を博した。

 

その彼が後押しするかの様に、死柄木と言葉を交わすデクくんの語調は荒れて行く。

 

私もサポートとして戦いながらその言葉に奮い立たされて、いつも以上の動きが出来ていたと思っている。

 

 

 

その均衡が破れたのは、デクくんと死柄木の最初の衝突から凡そ三時間ほどしてから。

 

誰かから無線に黒霧を見失ったとの報告が入る。

脳無が暴れた隙に相澤先生の…イレイザーヘッドの抹消を逃れた、と。

そこからは早かった。

 

数秒前まで飛び跳ねながら瓦礫を無重力にして吹き飛ばし解除して、を繰り返していた私に突如何かが触れる…生暖かく不気味な感触を。

感じた時には全てが遅かった。

 

 

まず、視界が傾いていくのを感じた。

右足で踏み込んでバランスを取ろうとするも一向に改善出来ない。

慌てて受け身を取ろうと両手を出すも左手が肘から下がなかった。

 

パッと後ろを振り向けば、黒い靄から覗く病的な青白さの両手が見覚えのある足と手を左右の手に持っていた。

 

(…やられた…っ!?)

 

死柄木の崩壊によって瓦礫だらけの街に変貌して、真面に足場と呼べる箇所がなくなっていたのが災いした。

 

右の太腿から下が無くなったがために受け身が取れず、瓦礫の山を疾走の勢いそのままに転げ落ちた。

 

右手だけで抑えきれず顔面を打ち付け、バイザーが粉々に砕けた。

打ち付けた際に頭も切ったようで心臓の鼓動のたびに全身あちこちから血が出てることを薄っすらと知覚した。

 

狭まる視界を無理に巡らせると、驚いたことに女の子がいた。

怪我は擦り傷程度で大したことがなくて本当に良かった。

崩壊と超パワーと言う二人の個性の組み合わせ上、周りに甚大な被害が出ることは予想出来ていたため、全ての住人を予め避難させたはずだった。

 

「…こちら、ウラビディ。"会場"にて…要救助者一名を…発見。…至急、保護願います…」

 

無線越しに誰かが誰かに指示を出している。

その無線の中で一番大きな声が響く。

 

『ウラビディ、自分の負傷の報告は!?大丈夫か!?』

 

デクくんだ。

物凄い風切り音が無線越しに聞こえる。

彼は駆けながら、居なくなった私を心配したのだろう。

 

『こちら、ドミナント。黒霧をこちらで捕らえた。イレイザーによって抹消されているので、逃亡の恐れなし。【個性拘束薬】を注入。無力化完了』

 

 

ドミナント…心操くん…。

遅いねん、と私は心の中で毒づく。

そもそも、なんでこんなに時間掛かってん。

死柄木と交戦始めてからもう結構経っとるんよ?

脳無を無力化するのにそんなに手間取ってたんやろか…。

 

 

「こちら、ウラビディ…。左上腕…右大腿部を喪失…それと頭部出血…。程度は…不明。現在、身動き取れません…」

 

無線の向こうで誰かが誰かに何かを伝えてると言うことは分かっても、誰が誰に何を言っているのか理解出来ない。

ガヤガヤとした雑音にしか聞こえない。

 

 

 

 

少しの間意識が飛んでいたようだ。

遠くにいたはずの女の子が私に縋り付いて泣いていた。

決して声を出さないように片手で口を押さえながら。

されどその嗚咽は殺しきれず、小さくしゃくりを上げていた。

 

「デクぅぅぅううう!!!」

 

突如少女が叫ぶ。

次の瞬間には暖かな手の感触が背中から消えていた。

首を動かす余力もない。

倒れた時のまま右を向いてうつ伏せる。

 

視界の端に見覚えのある緑の服が映った気がした。

先程の少女が言ってたように彼が来てくれたのか。

 

「遅くなってごめんね…お茶子さん…」

 

やはり来てくれていた。

私の心は喜びでいっぱいになり、痛みがどこかへと飛んでいくのを感じた。

 

「あー…デクくん…。おつかれさまぁ…」

 

しかし、血を流しすぎたのだろう。

普通に受け応えしようにも、どうにも間延びして、途切れ途切れになってしまう。

 

気絶して休んで落ち着いたからか、頭が少し回り始める。

私の救援要請を聞いて、飯田くんがエリちゃんを連れて走っているようだ。

 

…正直に言えばデクくんはともかく私は無理っぽい…。

 

そう考えていたら、デクくんがヤバめの吐血をした。

呼吸器系と消化器官のいくつかをまとめてダメにされてるみたい。

 

「お互い…間に合いそうに…ないねぇ…」

 

「そー……だねぇ…。」

 

その後私たちは、二人分の血溜まりに溺れた…。

 

 

…はずでした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

まだ真っ暗だったのに目が覚めた。

今のが夢だった?

いや、それにしては随分と鮮明な夢を見たものだ。

 

体を起こし、ベッドの脇のチェストに手を伸ばす。

いつもそこに携帯電話を充電クレイドルに入れておいているのだ。

 

寝惚け眼を擦りながら、手探りで取ろうとするも…違和感を感じた。

 

手に触れる感触は畳。

うちはベッドのはずだからまだ空を掻いてる高さのはずなのに、確かな硬さを伝えてくる。

慌てて体を起こしてみれば、仕事による生傷の痛みなどまるでない。

手を翳せば、両手がセットで付いており、見慣れた肉球も十本一セットで付いていた。

 

ホッとするのも束の間、先ほどを上回る強烈な違和感。

吹き出る冷や汗を無視して、明かりを付けようと布団から出ようとする。

 

立ち上がり、その第一歩が引っかかり、…強烈に隣に眠る人を蹴りつけた。

 

「ぐぼぉっ!?」

 

何かに引っ掛けた、と咄嗟に両の手のひらを指先で触れ、壁に足から着地した。

 

「ご、ゴメンね!」

 

「…な、何すんねん…お茶子ぉ…」

 

「ゴメンね、デクく…ん?今の声…父ちゃん…?」

 

今度は引っ掛けないように、ゆっくりと移動し、明かりをつける。

 

「ここ…実家やん…?」

 

「凄い声が聞こえてきたけど、何してんの?」

 

襖の開く音に振り返ればエプロンをつけた母。

その見た目は幼い頃のままのよう…。

 

そこでようやく自分の異常が何なのか気付いた。

 

「…コレ、タイムリープってやつとちゃう…?」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「それで、カレンダーやら自分の個性のこととか色々確認してるうちにデクくんから連絡来たんよね」

 

時は流れ、麗日建設会議室。

僕と母さんは一足先にお茶子さんと再会出来た。

 

お義父さんが打ち合わせの関係で十五分ほど遅れるとのこと。

お互いにもう既に慣れたが、出会ってすぐはお互いに三分ほど固まってたと思う。

 

僕も彼女も上から下まで舐めるように視線を動かす。

だって、あんな可愛い子見たことないよ?その服装も精一杯背伸びしたオシャレをしているように見え、輪をかけて可愛く見える。それに加速度的に染め上がるその頬の丸みもまた可愛らしい。

 

たっぷり時間を溜めたのちに、僕らは奇遇にも同じセリフを吐いた。

 

 

 

「「…天使か…」」

 

 

それを聞いた瞬間、二人して声を上げて笑った。

その後はお茶子さんが認識している限りの情報を聞かせてもらって、ようやく現在に戻る。

母さんは気付いたら部屋から居なくなっていたが、しばらくすると麗日夫妻と共に部屋へと入ってきた。

 

「こんにちは、初めまして。僕は緑谷出久です。未来から戻ってきました」

 

まず挨拶のストレート。

挨拶と目的を簡便かつ強烈にイメージさせる文句。

様子見のジャブじゃ余計に時間かかるので効率化。

ぶっちゃけ、頭が悪いと思うけど現状をありのまま伝えれば、このようになるので仕方ない。

 

「こんにちは、麗日お茶子です。未来のデクくんのお嫁さんです」

 

隣で母さんに挨拶するお茶子さん。

更なる協力者を得る為に必要な説明会が始まった。




んー、やりたいことは決まっているのだが、説明会なんて…ぶっちゃけたるいw

とりあえず、お茶子の"お願い"をさせたいだけなんですwww
次回もお楽しみに

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