緑谷夫妻のやり直し   作:伊乃

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9. Three family conferences(三家族会議)

「まず、状況を掻い摘んでご説明させていただきます」

 

そう言って僕は話し合いの口火を切る。

 

「先ほども言ったように僕とお茶子さんは未来から戻ってきました。ちょうど2X39年の9月1日に就寝したところ、2X19年9月2日にお互いの実家にて目を覚ました、というのが僕らが認識している状況です。現在のところ何が理由で戻ってきたのか不明ですが、僕はこの状況を喜ばしく思います。」

 

そう言ってお茶子さんの目を見ると、僕の言いたいことを汲んでくれたようだ。

 

「私とデクくん…出久くんは二人ともトップヒーローとして仕事をして充実した毎日を送ってました。まだ、子供は出来てなかったけど、それでも幸せな毎日でした。そんな幸せな日々を過ごしていても、望まない結末ってのはいくらでもあると思います。」

 

少しずつ、伏し目がちになるお茶子さん。

続いて目を向けるのは母さんにだ。

 

「インコさん。もう出久くんからお聞きになって、その事を信じていると思います。本来私たちが高校生で出会うはずが、12年も先んじて会っているのは、私たちのタイムリープの証明になると思いますが、信じてもらえますか?」

 

母さんは言葉は出さず、首肯だけで答える。

 

「父ちゃん、母ちゃん。信じてもらえると思えなかったから、デクくんと相談してこの場を設けさせてもらったんよ。出来る限り、説明するから私のお願い聞いてもらえんかな…?」

 

母さんに対する話し方と違って、幾分砕けた話し方。

僕と話す時とそう変わりない。

 

あまりに突飛すぎる話である。

お義母さんは目に見えて慌て、お義父さんをチラチラと見ている。

逆にお義父さんは両腕を組み、背凭れに体全体を預け、瞑目していた。

 

「緑谷…出久くん、と言ったかね。」

 

「はい。」

 

「ウチの娘が君のことを『デク』と呼んでいるがその経緯について説明してもらえるかい?」

 

僕はその質問に思わず首を傾げてしまう。

何故今その質問なのだろうか?

 

「…もともとは僕の幼馴染がいつまでも個性が出なかった僕に対して名前の読みと何もできない『木偶の坊』を(もじ)った蔑称でした。」

 

机の下で指遊びをする。

遠回りに、コレは馴れ初めを聞かれているのだと、答えながらようやく気付く。

 

 

「まだ自己紹介もしていなかったので幼馴染が叫んだデクが僕の本名だと勘違いした彼女に初めてそう呼ばれたんです。その時、彼女がこう言いました。『デクって頑張れって感じがして好きだ』と。その時嫌いな蔑称が好きなあだ名になりました。」

 

あれは入学日、二度目の邂逅。

僕らA組は式やガイダンスをすっ飛ばして個性の把握テストを行ったあの日。

まだ0か100かしか調整できなかった僕は、人差し指の痛みとともに覚えている。

 

気づかぬ間に机に落ちていた視線を持ち上げ、お義父さんと目を合わせる。

 

「そうして、自らに付けたヒーロー名がデク。いつの日か役立たずになるための名前です。」

 

目を開け、聞いていたお義父さんは再度目を瞑り、姿勢は変わらず不動のまま。

 

一呼吸吸って吐き、そこに微かに納得を思わせる唸りが混じった。

 

「20年後と言ったね。高校を卒業してプロとして働き始めてそこそこの頃合いだろう?若手注目とかで取り上げられたりとかしていないのか?」

 

これまたひょんな質問だ。

意図が分からず、聞き返そうかと思ったが、お茶子さんに機先を制される。

 

「ウチらの代は『次代の象徴』って呼ばれてるんだから。デクくんだって、師匠に恥じない人気っぷりだよ?」

 

何たって三強の一角ですから、と腰に手を当て胸を張るお茶子さん。

見たまま幼いなりなので、思わず「可愛すぎか!?」と叫びそうになるのをぐっとこらえる。

 

「…名門出で、稼ぎよし、性格も良く、夫婦仲も良好…。」

 

…顎に手をやり、呟くお義父さん…なんだか不穏だが、よく僕がやるポーズだと対岸から指摘を受ける。

 

「よろしい。ならば、俺は全てを信じよう」

 

結論、お義父さんが出した答えは全肯定だった。

 

「いいの、父ちゃん?自分で言うのもなんだけど、相当荒唐無稽だよ、私たちが言ってること?」

 

「構わんさ。会話の端々で分かる知力と堂々たる様、目に映る覇気。どれを取っても(よわい)4つの子供に出るもんじゃない。未来から戻ってきた、なるほど十分納得出来る。」

 

そう言ってお義父さんは初めて見慣れた笑みを顔に浮かべた。

 

「母さんは質問大丈夫か?慌ててる間に俺が仕切っていくつか聞いたけどよ」

 

「私はええよ?お茶子とあなたが納得してるならそれで」

 

お義父さんの隣でお義母さんが、お茶子さんの麗らかな微笑みよりもいくらかおっとりさせた笑みを浮かべる。

 

本当に気持ちのいいご両親だ。

2年ぶりに会った義父母は最後に会った時よりもはるかに若い姿だった。

 

「それで、お茶子?お願いっちゅーのは何なんや?」

 

「あ、それなんやけど。」

 

言われて思い出したかのようなそぶり。

一瞬のタメの後、彼女は言う。

 

「父ちゃん、母ちゃん。私、デクくん一緒に暮らしたい!」

 

空気が瞬間凍結する。

凄いや、お茶子さん。

いつのまに轟くん張りの冷却が出来るようになったんだ?

 

椅子の上に立ち上がり、机に両手を叩きつけたお茶子さんは気炎を上げながら、尚も息を巻く。

視線で彼女を追うと、僕の口からは意図せず「へ」と「あ」の中間音が出ていた。

 

「私たちは未来から戻ってきてるから、助けられなかった命が助けられるかもしれないんよ。先手先手で、対処出来るから、対策も取りやすいし、更に一緒に居れば互いにトレーニングもできるし、支え合うこともできる。それに何よりも好きな人と一緒になったのに10年単位で別居とかやってらんないし、幼い見た目の好きな人とかむしろ近くで見ない方が無理っていうか、つまりはそう言うことなの!」

 

…沈黙が更にもう一枚降り掛かる…。

 

でも、言われてみればその通りだ。

今まで手を出せなかった事件もオールマイトやサーに協力を頼んで、手を回してもらうことだって十分に可能なはずだ。

僕の求める最高へのステップとして中核になるオール・フォー・ワン征伐戦を前回よりも少ない被害で終わらせ、オールマイトの現役を維持させ、平和の象徴を存続させる。

それから、トレーニングの件もそうだ。

同世代のヒーロー科の仲間にも出来るだけ早くコンタクトを取っておこう。

出来ることは沢山ある。

失わずに済む未来を勝ち取るために…。

 

それにお茶子さんと離れて暮らすのは、好きになってから別居の期間がなかったからか出来るだけ一緒にいたい…。

あっても一月程度の出張のすれ違いくらいだったので、この数日間とてもモヤモヤしてた。

そして、好きな人の幼い頃を写真でなく生で見れるんだ。

この天使を収められるなら同居、ナイスな提案だ!

 

「異議な…「認められるわけあるかボケぇ!?」ですよねぇ…」

 

 

冷静、沈着だったお義父さんはその態度をガラリと変えて、椅子を蹴飛ばして机に両手を叩きつける。

 

僕は賛同して挙げかけた右腕をおもむろに下ろす。

お義父さんの言うことはもっともだ。

どうにかこの無茶な要求を通すことは出来ないのか…。

 

「アホ抜かせ、お茶子!?お前中身は大人でもナリはまだ子供やぞ!?」

 

「なら、父ちゃんは母ちゃんと別居してても平気だって言うんやね!?」

 

「それとこれとは話が…っ!?」

 

「いーや…!!」

 

 

会議テーブルの対岸でオロオロ慌てるお義母さんを挟みながら、二人は喧々囂々と声を上げている。

 

隣に座る母さんを覗き見ると困っているのに笑っているような不思議な表情をしていた。

 

「ねぇ、母さんはどう思う…?」

 

母さんにだけ聞こえるように小さく問い掛ける。

母さんはすぐに視線をこちらに向け、片手メガホンの要領で、耳元で呟いた。

 

「…ウチでお茶子ちゃんと一緒に暮らせるのが一番よねー?」

 

キョトンとした。

驚きのあまり母さんと目を合わせる。

ハト豆状態で目を合わせると数秒しないうちに母さんが噴き出した。

 

ややあって、笑いを抑え込むと、咳払いを一つ。

 

「ねぇ、麗日さん。」

 

母さんが声を掛けると、お義父さんもお茶子さんもパタリと言い合うのをやめた。

 

 

「娘さんをウチに預けるだけで構いません。特に問題が無ければ、夏休みとかの期間で帰省することも出来ますし、この子たちも思考の上では大人なので出来るだけ、自ら動けるようにしてあげたいんです。先程言ってた先手先手の対応をするにも必要ですし。親として出来る限りの譲歩を私はしてあげようと思うのですが、ご協力していただけませんか?」

 

母さんの静かなのに芯の通った声は、決して広いとは言えない会議室の中に転がった。

 

「そりゃあ、娘たちの言い分を信じるって言った手前、出来る限り手伝ってやりたいって思うに決まってるじゃないですか。でも…それとこれとは別でしょう?」

 

勢いそのままお義父さんはお茶子さんの両脇を抱えて持ち上げる。

 

「可愛い盛りの娘を手放す親がどこにおりますか!!」

 

今日で一番熱の入った言葉だった。

たしかに…同じ立場なら僕でも手が出るかも。




やや、難産。
かつ、話がまとまらずTo be continued…w
明日、出来れば。
出来なきゃ週明けですので悪しからず(´・x・)
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