「待て、待て待て待て待て待て! 待つのじゃ!
それ以上はならん! 何処でその秘密を知り得たのかは分からんが、それ以上を話すのは許さんぞ!」
これ以上は絶対に話させないと、そう告げる三代目の表情は非常に強張っていて、本気で焦っているのが分かる。
しかしその反応によって、俺の話た内容が全て真実であるのだという証明にもなり、それによってサスケの表情はどんどん暗いものへと変化していく。
そんな状況にあって俺は、サスケから三代目へと視線を移すと決定的な言葉をぶつける。
「イタチさんと約束したからですか?」
先程までの話の内容でも爆弾を放り込んだに等しいものであったが、たった今俺が発した言葉によって室内の空気は凍りついた。
それもその筈、知るのは三代目とダンゾウだけの話なのだし、あまりにも今回の話の根幹になる事柄だけに、場が凍りつくのは必然だった。
「イタチとの約束……!?」
「うん、そうだよ。サスケ、ここからは本当の本当に話の根幹になる部分だ」
「ならん! ゲンセイ、やめよ! イタチの想いを踏みにじるのは許さんぞ!」
三代目から死を幻想させる程の濃密な殺気が溢れ出るが、俺はそれを懸命に我慢して三代目へと睨み付けた。
そして三代目の殺気に負けてたまるかと、そう思い強く、然れど決して声を荒げないよう注意しつつ言葉を発する。
「全てをサスケに伝えなかったら、サスケが真実を知らずにこれからの日常を過ごすのなら、きっとサスケの心と性格は捻曲がってしまいます。うちは一族にはさっき説明した通り、大きなデメリットがあるんです。なのに心を鍛えようとしないで、復讐を考えて生きるようになってしまったなら、辛く厳しい心の製錬を蔑ろにして、サスケはきっと目に見える結果である術ばかりに傾倒するようになるでしょう。
三代目、あなたは判断を間違っている。真にイタチさんの想いを大事にしたいのなら、ダンゾウを罰してサスケに危害が加えられないようにするべきです。それこそが━━」
「黙らんかッ!! イタチがどんな想いで今回の事をしたのか、それを子供のお前が分かったような口で言うでないッ!!」
「イタチさんが三代目に事後報告で今回の事をした理由、それが分かりますか?」
「まだ言うかッ!!」
「はい、言わせて頂きます。例え生意気なガキだと思われようと、人の想いを踏みにじるクズだと思われようと、僕は………俺は、あんたが理解するまで何度だって言ってやる!! 分かったら黙って聞いてろッ!!」
事ここに至り、自分でも驚く程に我慢の限界にきていたのか、予定とは違って声を荒げてしまった。
しかしそれが功を奏したのか、三代目はギョッとして口を閉じた。
それを見てチャンスは今しかないと思い、俺はこの勢いに乗せて言の葉を紡ぐ。
「あんたが誰の血も流れないようにと日和見だったから、だからイタチは里を守る為に己の一族を滅ぼさねばならなかったんだよ! あんたがダンゾウをさっさと殺しとけば、こうはならなかった! 或いは、うちは一族のクーデターを何とか抑え込もうとしていたフガクさんの全面的な味方をしていれば、うちは一族の一部の馬鹿も黙らせる事が出来たのかもしれない!
確かにサスケの命を助ける為にとは言え、かなりイタチ自身が暴走して今回の事になったと言えるが、あんたが今俺が言ったどれか一つを選択していれば、それで大きく結果は変わった筈だ! 少なくない血は絶対に流れるが、今のように糞みたいな結果じゃなかった筈だ!」
里を大事に思うばかりに、三代目は非情な決断を取れなかった。
そしてその結果、ダンゾウが闇で動き、イタチは動かざるを得なくなった。
そう、全て三代目のせいというのは違うが、二割くらいは三代目のせいじゃないかと俺は思っている。
原作を読んでいて、俺からするとそう思わざるを得なかったのだ。
ともあれ、物凄く口汚く言い募った俺に対して、三代目は歯を食い縛って沈黙してしまった。
決断が少し遅かった事を、本人は本人なりに悔やんでいたのだと察せられる。
当たり前だ。三代目は心底この里を愛しているのだし、この里の住人を心から守護しているのだから。
それを見て悟った俺は、感情とその場の勢いで声を荒げ言い過ぎたと思い、少し後悔した。
だが、両親が俺に向かって発した言葉により、目が点になってしまって、思わず幻術にでも掛けられたのかと悩まされる事になる。
「ゲンセイ、やめなさい。相手は老い先短い火影様ですよ」
「その通りだ。私達はお前の説明で何となく理解出来るようになったから言うが、火影様は火影様で無駄にお考えになる事が山のようにあるのだ。
だが、確かにゲンセイの言葉にも一理ある。故に、ゲンセイ……もっと言ってやれ!」
かなり強めの口調で俺を嗜める両親、とか思った瞬間の母から父へと繋がる怒涛の御言葉。
死体に鞭打つような非情な御言葉である。
先程まで生意気に言い募った自分だったが、両親の意外過ぎる言葉に唖然とし、そして呆然となってしまう俺。
そんな俺とは裏腹に、サスケが小さくポツリと呟く。
「俺を助ける為………? ゲンセイ、それはどういう……」
「へ? あ、ああ、それは━━」
まるで消え入りそうなか細い声で発せられた言葉に、俺は現実に帰って返答しようとした瞬間、三代目によって中断させられる。
「良い、ゲンセイ。もう良い。その先はわしから話す」
殺気は何処に消え去ったのやら、今の三代目からは殺気どころか何の気迫も感じられない。
しかし確かに、三代目の目は意を決したかのうよな力強さが感じられた。
「サスケよ、今から話すのはイタチの真実じゃ。心して聞け」
「わ、分かっ……りました」
「うむ。……イタチはの、里をうちは一族の被害妄想の為に蹂躙されるのを良しとせず、里の未来を守る為に今回の凶行に走ったのじゃ。わしが平和に解決する事に傾倒するあまり、うちは一族の抱える問題を軽んじてしまったばかりに、そしてダンゾウが闇で動いておったばかりに、イタチはわしの考えを無視して独断で行動に移した。
そうして、本来はサスケ以外のうちは一族の者は滅ぼした後、イタチはわしに事後報告するつもりじゃったらしい。しかし、イタチが言うには何やら邪魔が入ったとかで、サスケだけを生き残らせる筈がフガクとミコトも生き残ったらしいのじゃが……それはもしかしなくとも、そこにおるゲンセイが理由なのじゃろうな」
「一族を滅ぼすってのは、ゲンセイの話で理解した……しました。でも何で、それで何で俺を救うって話になる……ですか?」
「うむ、それはダンゾウが原因じゃ。根、という組織を知っておるか? 父親から聞いた事は?」
「いえ、無い……です」
「そうか……。根とは、火影直轄の暗部とは別組織の、暗部達の組織名じゃ。そしてその組織のトップが、志村ダンゾウという男じゃ」
「志村……ダンゾウ」
「そうじゃ。そのダンゾウは、最初こそ何が目的かわしも分からなかったのじゃが………いや、クーデターを企んでおるうちは一族を危険視したのか、うちは一族の者でも腕利きの者を秘密裏に始末し始めた。そうわしは認識しておった。
それ故にわしは、ダンゾウに命じてうちは一族の者には手出し無用と言い聞かせ、お主の父親であるフガクと平和的に解決しようと幾度も話し合っておった。しかし、ダンゾウの目的は他にあったのじゃ。決してクーデターを企んだうちは一族を危険視したから動いていたのではなかったのじゃ。
………いや、より正確に言えば、クーデターを企んでいたから危険視したというのも事実なのじゃろうが、しかしダンゾウはそれだけの理由ではなく、うちは一族の血継限界である写輪眼を狙って丁度良い口実が出来たから襲ったというのが真実なのじゃろう。
故に、ダンゾウは次々と腕利きを狙って殺し、写輪眼を奪っておった。……わしがその事実に気付いたのは、今日イタチが凶行に走り、わしのところに事後報告来た時じゃった」
体全体を押し潰すかのような重苦しい話の内容は、サスケが薄々察し始めている事実へと繋がって、決定的なものを三代目から言葉として耳に入っていく。
「イタチはの、ダンゾウと取引したそうじゃ。『里の存続を危ぶむ一族を滅ぼすのは仕方ないが、サスケの命だけは奪わないし奪わせない。もしもサスケに手を出せば、貴様のやった事を暴露する』と、そうダンゾウを脅したそうじゃ。
そして今日わしにイタチが最後に言うたのは、『三代目様、どうかサスケを守ってあげて下さい。俺の事は秘密にし、どうかサスケの事をお願いします。……父や母も殺さねばならなかったのですが、それは邪魔が入り出来なかったので、勝手とは思いますが、どうか父と母も同じくお願い致します』と、そう告げて里を出て行った」
サスケはもう、三代目の言葉を聞けているのか分からない程に嗚咽しつつ泣き叫んでいた。
まるで命を燃やし尽くしてしまうような、そんな風に思える慟哭だった。
そしてサスケの両目は、それぞれに二つの勾玉が浮かび上がっていて、不完全ながらもうちは一族の血継限界である写輪眼を確かに開眼していた。