サスケの悲痛な慟哭は日の出寸前まで続き、俺の両親が終始そんなサスケを抱き締め、日の出直前になってサスケは気を失い眠りに就いた。
精神的負担が限界になったからなのだろうが、まるで電池が切れてしまったかのようにプツリとサスケの意識が途切れたのである。
それからは両親がサスケの御両親が眠る俺の部屋へとサスケを運び、独り孤独にならないようフガクとミコトの間に新たな布団を敷いた。
目が覚めたその時、室内にポツンと独りっきりでは良からぬ方へと思考が進むかもしれないし、それに何より両隣に自分の両親が寝ていると気持ちが安らぐだろうと考えての事だ。
そうした後、再び居間には両親と三代目と俺が集まり、今回は両親が俺を挟むように隣へと座って、三代目の両隣と後ろにサスケの御両親を治療していた暗部達が座った。
これから話合うのは、恐らくは何故俺が知らぬ筈の事を知っているのかという理由を尋ねる………いや、尋問を行う為なのだろう。
暗部の人達も俺が三代目に口汚く発言したのを聞いていただろうし、きっと敵意を持っているのだろうと察せられ、尋問は厳しいものへとなるだろうと覚悟しなければならない。
だが勿論、暗部達から殺気を向けられるという事は無く、しかし仮面をつけているので表情は分からないから、怒っているのかどうかが分かりづらいので若干不安になってしまう。
目に見えず分からないというのは、こんなにも不安を掻き立てるものなのかと、そんな風に思い、また緊張感が否応なしに増していく。
「全く……お前達夫婦は相も変わらず口が悪いのう」
三代目が居間に漂う緊張感を払拭するように、至極呆れた表情で呟いた。
すると俺の両隣から、それぞれに三代目をからかうような口調の言葉が発せられる。
「三代目の自業自得です」
「そうですよ。苦言を呈する部下が存在しなかったら、里の長が間違った方向へと進み続けちゃうじゃありませんか。
ゲンセイもそう思うわよね?」
「へ? え、あ、いや……」
「良いんだぞ、ゲンセイ。人間は年を取ると、色々な柵とか昔のあいつは正しい決断をしていたから昔のようにきっと正しい判断を下すだろうとか、そんな風に現実を受け止められず間違った判断をしてしまう事が多くあるんだからな。
だからな、こういう時はズバッと言って良いんだ」
「ぅん、あ、いや、えぇと……。わ、分かったよ」
目の前に三代目や暗部達が居るのに、両親はズバズバと躊躇無く言葉の鞭を打つ。
俺がそれに何と答えて良いものか迷いつつ頷くと、三代目がガクッと項垂れ、暗部達が小さく何度も頷いていた。
それを見て益々俺としては困惑が深まるのだが、両親が罰せられないかと心底不安が募ってしまう。
「お主達の長男が亡くなってから、お主達は随分静かになったと思っておったのに……。どうやら噂は本当のようじゃな」
「噂?」
三代目の言葉に疑問符が浮かんだ俺は、知らず知らず疑問の声を出してしまっていた。
それを受けて三代目は、「うむ」と呟き頷くと、疑問に答えるように言葉を紡ぐ。
「二年程前から、長男のムジロが亡くなる前の時だったかのように、明るい口調で人を食ったような発言が戻ったと聞いておったのじゃ。
そのせいか、今日……ゲンセイ、そなたに叱責されて納得した。ムゲンとミルの両性格に大きく影響されておるのを、嫌になる程に理解させられた」
二年前というと、多分俺が前世を思い出した瞬間からなのだろう。
そしてそれが理由で、両親が罪悪感を抱えていたのを理解した俺が、それを払拭しようと色々やったり言ったりした結果、両親は長男であるムジロが生きていた時のように振る舞うようになったのだと察せられる。
……が、しかし、まさか両親が三代目すらからかい口調で苦言を……いや、忠言をするような立場の人達とは思いもしてなかった。
俺が知らなかっただけで、両親はもしかすると結構凄かったりするのかもしれない。
「ハァァァ……。まぁそれは良い。ゲンセイ、お主が何故イタチの事やうちは一族の事について知っていたのか、それを話してくれるかのう?」
三代目は大きく溜め息を吐いた後、やはり当たり前だが今回のイレギュラーである俺について詳しく知る為の疑問を尋ねてきた。
これは予測していたので、俺は両親の事は兎も角として、思考を切り替えると真剣に喋り始める。
「僕の事は両親から聞いていましたか?」
「それはどういう……?」
「僕の力、血継限界についてです」
血継限界というワードを口にした瞬間、三代目を含めた暗部達全員からザワザワとした驚きの声が上がった。
それもその筈、俺の一族は固有の忍術を持たないし、血継限界も勿論持っていないのだから、彼らが驚くのは必然である。
しかし俺は、彼らの疑問を無視して言葉を続ける。
「僕の血継限界は、恐らく誰も見た事も無いし聞いた事も無い力になるでしょう。この世界とは別の、別次元に住む者達の力を借りて、別次元からこの世界へと口寄せするのが僕の力。
それはつまり別次元の物、自然現象、生物、と言った感じで様々な物を呼び出す力が僕の血継限界となります。そして僕はそんな力を、『デュエリスト』と呼んでいます」
三代目を含めた暗部達が、口々にデュエリストと呟いている。
この世界の住人である彼らが、デュエリストという単語を呟いているのが少し違和感を伴い、若干面白くもあった。
だがここで笑みを浮かべてしまえば、信じて貰え無くなるかもしれないので必死に我慢し、彼らが俺の説明した事をちゃんと脳内に刻むまで黙して待つ。
すると数十秒した後に、三代目から疑問の声が上がった。
「口寄せというのは、別の場所から術者本人が居る場所へと、物や生物を呼び出す忍術。お主が言うデュエリストとやらの力は、その口寄せと何ら変わらんと思えるが?」
「いえ、明確に違います。その証拠を御覧になりますか?」
「うむ、それを確認せずには話が進まぬからのう。当然確認させて貰う」
「分かりました。では、実際に口寄せします」
いきなり口寄せを始めたら暗部の人達に殺されかねないので、口頭で己の行為を認めて貰ってから口寄せの印を結び、精霊界から人の言語を話せる者を選んで召喚する。
今回召喚するのは、エルフの剣士だ。
昨日までなら……サスケとサスケの御両親を救うまではとても召喚出来なかった高いステータスを持つモンスターである。
それを何故か日付が変わった瞬間に召喚出来るようになった事を、サスケにアレコレ説明している途中で気付いていた。
昔ナルトを助けた時の翌日と同じ現象だ。
この謎の現象の理由は分からないが、俺としては非常に有り難いので文句などなく、今回に至っては人語を話せるモンスターが必要となるので尚更有り難い。
もっとも、エルフの剣士よりも低いステータスで人語を操るモンスターも居たんだけど、俺としては思い入れのあるモンスターを召喚してみたかったからエルフの剣士を選択しただけだったりする。
ともあれ、居間の一角が陽炎のように揺らめくと、次の瞬間音も無くエルフの剣士が姿を現す。
それを見た三代目や暗部達は感嘆の声を漏らすものの、その反応はあくまでも八歳の俺が口寄せした事に感心しているだけであり、精霊界とか血継限界とかを信じた故の驚きでないのは明白。
だからこそ、俺は信じて貰う為に召喚したエルフの剣士に向かって命令する。
「エルフの剣士、君とは初めましてだね。よろしく」
「宜しくお願い申し上げます。我が君」
「此方の人達に、この世界とは別次元の精霊界の事とか、精霊についてを説明してやってくれない?」
「御安いことで御座います。お任せ下さい」
両親は精霊とか精霊界の事を信じていたが、まさか人語を操る存在も居たのかと驚いている。
しかしそんな両親を置いておいて、俺がエルフの剣士と普通に会話を終えると、その時にはまるで達観したかのように少し遠くを見るような目を両親がしているのが俺の視界に映った。