火遁の術、水遁の術、風遁の術、土遁の術、雷遁の術という五つの属性の術を始めとして他にも陽遁の術や陰遁の術などという扱うのが困難な術、更には血継限界と呼ばれる固有の遺伝子を持つ者にしか扱えない特殊な術も存在する『NARUTO』というタイトルの漫画世界。
下忍、中忍、特別上忍、上忍、暗部等々の区分された役割により忍者として活動する者達が、日夜凌ぎを削る血生臭い『NARUTO』というタイトルの漫画世界。
……そんな世界に、俺という魂が五歳児の体を新たに得て降り立った事を、この体が五歳の現在まで生活していた記憶を思い出す事で認識せざるを得なかった。
衝撃、動転、混乱、そんな言葉では決して表現出来やしない心の極致へと追い込まれた俺は、一周回って冷静な程に無表情で事実を噛み締める。
そして謎の石像から魂へと刻まれた力が、魂に刻まれた由縁のせいなのか、はたまたそれ以外の理由によってなのかは不明だが、確かに不思議な力を自分が持っているのだと認識出来た。
そう、自身が置かれた状況や自身の力については冷静に認識出来たのだ。
だが、一体全体どうして俺がこんな状況に立たされなければならないのかという疑問は解消しておらず、そしてこの世界が『NARUTOの世界』であって、その主人公と同世代だという事実に文句を叫びたい。
「ふざけるな!」とか「明日の仕事はどうすんだよ!」とか「この世界の俺は、親に滅茶苦茶嫌われてるじゃん!」とか、様々な文句を内心で叫んだ後、力無く畳の上に腰を下ろした。
━━これは夢なのだと思いたい………が、どう考えても現実だ。
石像に向かって内心で叫んだ後、俺は諦めたように悟り、事実を事実として受け入れた。
否、受け入れるしかなかった。
そして受け入れると同時に、この世界での俺は両親から死ぬ程に嫌われている事を思い出し、大きく溜め息を吐く。
どうやらナルトに九尾が封印された日に、俺の十三歳年上の兄が死んだらしく、当時零歳だった俺に対して「何故ムジロが死ぬんだ! 忍びとして優秀なムジロを失うくらいなら、この生まれたばかりのゲンセイが死ねば良かったんだ!」と両親は叫び泣き、それ以来冷たく扱われているようだ。
とは言え、両親は両親でその時の発言を心底悔やんでいるらしく、ちゃんと愛情持って俺へと接するべきだと考えてもいるようなのだが、一旦口から出してしまった言葉のせいで、どうしても俺へと素直な感情で接する事が出来ず、今もって冷たく扱われているというのが現状。
「ハァァァ」と、それそれは大きな溜め息を吐きつつも、俺はこの世界の両親の気持ちも少なからず理解出来るので、特に腹立たしくは思わなかった。
それと言うのも、やはり肉体は別としても精神は大人であるのが大きな要因だろう。
普通の子供ならどうして自分の親はこんなにも冷たいのだろうかと、そんな風に心底悩み苦悩するのだろうが、大人の精神を持ちながら大人になるまでの記憶を持っている俺からしたら今生の両親の気持ちが痛い程に理解出来るのだ。
本来は愛情を持って接したいが、悲しみによって混乱して思いもしない言葉を自身達の愛すべき赤子にぶつけ、そのせいで自分達を許せずどう自分達の子供に接して良いのか分からない両親。
今や五歳となった俺を両親としては抱きしめてやりたいが、しかし自分達の子供に暴言を吐いた自分達が決して許せない両親は、まるで俺という子供を慈しむ事をしない事こそが自分達の罰であるかのように日々を過ごしている。
謎の石像に向かって、もう一度叫びたくなった。
もうこの世界に降り立つのは決定事項で構わないが、こんな複雑な家庭ではなく普通の家庭にして欲しかったと伝えたい。
或いは、両親が存在しない子供という立場でも構わないとさえ伝えたい。
生活するのに困るだろうが、孤児院とか存在するだろうし、何より肉体は五歳でも中身は成人なのだから別に独り暮らしであってもそれ程には苦労しないだろうと思えるので、やはりここは切実に謎の石像に伝えて現状とは違ったものにして欲しいと思わざるを得ない。
まだこの世界に降り立った事を認識してから十五分程しか経過してないが、既に何度目か分からない大きな溜め息を吐く。
そうやって愚痴とも悪態とも表現出来る事を内心でひたすら叫ぶと、事ここに至ってもう全てがどうしようも無い事であり、俺が受け入れなければならない事なのだと思い素直に心を開いた。
すると不思議なもので、この世界に来たのだからこれからの事に対して色々考えるべきだと思え、心に少しの余裕を持って思考の海に沈む。
━━まず考えなければならないのは、幾度も訪れるであろう死の山を越える事。
そう、この世界では何度も避けられない死に直面する時が存在する。
ペインやら戦争やらという事柄の、避けられぬ闘いだ。
そこで生き抜く事を考えると、俺が謎の石像から貰った力だけでは厳しいだろう。
何故なら、石像が述べていたようにこの力には規模が限定されているからに他ならない。
一つ、デュエルモンスターズの力は俺の知っている物語の内容部分までに登場したカードしか使えず、また神のカードは存在する事は存在するが現状は何故か使用出来ないと感覚で分かっている事。
二つ、身体能力を上げる魔法カード等は自分だけにしか作用せず、他の人間どころかモンスターにさえ作用しないという事。
三つ、一日に何枚もカードを使用出来るが、使える同一カードは三枚までという事。
四つ、召喚出来るモンスターは、召喚したモンスターが死ぬか儀式召喚の生け贄にしない限りは、新たに召喚出来ないという事。………つまり、予め五体召喚していた場合、先程述べた二通り以外には新たに召喚出来ないのである。
等々と、他にも様々に制限があり、決して魂に刻まれた力が万能ではないのだというのが感覚で理解出来た。
はっきり言って、これは由々しき問題である。
化け物みたいに強い者達の集団に襲われたら、或いは雑魚集団でも尋常ではない数の忍者集団に襲われたら、デュエルモンスターズという一見すると強力な力を有する俺とて容易く殺されてしまいかねないのだ。
そして、まだまだ大きな問題がある。
━━モンスターカードやトラップ・魔法カードは、俺の精神と肉体の二つの上限によって使用出来るカードが制限される。
この事が一番大きな問題であり、これを改善しない限りは魂に刻まれた力もゴミクズと変わらなくなってしまう。
例えば、今俺が召喚出来るモンスターは何かと言えば、攻撃力と守備力が150までという体たらく。
そして、人間の………いや、現状の俺の力を数値化すると大体攻撃力と守備力が共に5という感じなので、恐らく大人で100くらいだろうと予想出来、しかも忍者となれば下忍でも500、中忍で1000、上忍で1500相当になるだろうと思われるので、現状召喚出来るモンスターなど一般人相手にしか意味を成さないだろう。
この世界特有の力の源、チャクラ。
それはつまり、精神エネルギーと身体エネルギーを混ぜ合わせた物で、忍者ならば誰もが使えるエネルギー。
そのエネルギーを生み出す為に必要な精神と身体の両方を、この世界の忍者と同じく鍛えなければ、俺も必然的に十全に使えないのがデュエルモンスターズの力だ。
その事実を考えると、正直頭が痛くなってくる。
俺は畳の上に座った状態で、思わず両手でもって顔を覆う。
━━チクショウ! 五歳児の手では顔も覆い隠せねェぞ!