━━フガクも万華鏡を開眼していたのか!?
俺の知る限り、フガクが万華鏡を開眼していたという描写は無かった筈だ。
ただしそれは俺が漫画を読んでいたナルト達がカグヤを倒すまでのストーリーの中の事なので、その後に語られた新たな部分において隠されたストーリーとしてフガクの万華鏡も描かれていた可能性がある。
とは言え、だ。フガクの万華鏡がどんな効果のものなのか俺は知らないので、このまま両者が静止した状態を眺めていて良いのか不安だ。
今のうちにイタチに攻撃してみるべきか、しかし攻撃する事でフガクが行っている何かしらの瞳術が解けてしまうかもしれない可能性も存在する。
そう考え始めるとやはり迂闊に行動する事が憚られ、俺はジッとただ見つめるしかなかった。
しかしそれも束の間、フガクが突如苦しげな声を上げて倒れ込めば、次いでイタチの目がミコトへと移り、するとミコトも同様に苦しげな声を上げてやはりフガク同様に倒れ込む。
俺には何が何やらさっぱりなのだが、恐らくフガクが写輪眼という万華鏡の瞳術合戦で負けたのだろう。
そう認識した俺に、イタチが万華鏡へと変化させた瞳を向けて口を開く。
「三代目から密命を受けた者なのか?」
多分、万華鏡を使用した反動もあるのだろうが、それ以外に何やら悩んでいるように俺には思えた。
「やはり三代目には事後報告する事を選択して正解だったな」
大きく、それもゆっくりとした様子で溜め息を吐くイタチは、額に浮かぶ汗を拭うと更に言葉を続ける。
「俺の目の前に居る獣を放った者よ、何処からか見ているのだろう? 悪いが邪魔をしないでもらおうか。一族を滅ばせねば、里が壊滅しなかねないのは知っている筈だ。
……それに、根の者とは取引が済んでいるしな。無論、一族を滅ぼした後は三代目に直接お会いして報告もする。俺の望みを聞いて貰わねばならん事もあるしな」
イタチの言っている事の内容は、原作を知っている俺には全て理解出来た。
根の者との取引とは、それはつまりクーデターを企むうちは一族を滅ぼす事だろう。そして三代目に対する報告と望みとは、根の者との取引の事の報告やサスケを守って欲しいという個人的な頼みの事であるのは明白。
里を守る為に一族を滅ぼした悲しき男。弟を守る為に根の者を脅し、里のトップに弟の命を守って欲しいと頼む悲しき男。
本当ならイタチも救ってあげたかった。他のうちは一族の者達については、術の研鑽だけで心を鍛える事を疎かにし、その結果傲慢になってクーデターを企むような面々なのでそれ程に感慨深いものは無いが、やはりイタチは救ってあげたかったと心底思う。
だが、俺に出来るのは少しの事だけであり、望む全てを叶えられる程に強く万能ではない。
故に、どうか許して欲しい。
でも、それでも、最悪の未来よりは少しでも明るいものへと俺が変えてやると誓うから、これからする事をどうか許して欲しい。
「……返答は無いが、獣が動かぬという事は理解してくれたと受け取って良いのか?」
そんなイタチに心の中で何度も許しの言葉を吐く俺は、サスケが此処に駆けて来ているのを匂いで感じ取り、そして俺が事前に放っていたモンスター達がもう身近にまで来ているのを同じく鼻で感じ、サスケがこの一室に入った瞬間行動に移した。
「父さん、母さん!」
サスケが床に倒れ込んでいる御両親を視認した直後、悲痛な声で呼び掛けた。
それと同時に俺は床を蹴り、フガクとミコトが倒れている場所まで移動し、イタチと倒れ込む二人の間に割って入る。
「兄さん、何でこんな事を!?」
「己の器を図る為。己の力量を試す為」
「ふざッ……ふざけんなァッ!!」
倒れて動かない二人へと駆け寄ったサスケは、イタチへと怒りの形相で叫び駆けた。
俺を無視して話が進んでいるが、サスケの場合だと俺が誰かの口寄せであり仲間だと思ってるからだろうが、イタチは俺が立ちはだかるように割って入ったが大して障害にならないと理解しているからだろう。
しかし、それは大きな間違いだと言いたい。
確かに俺はサスケ達の見方なのでサスケが俺を無視するのは良いが、イタチの認識は少し間違っているのだという証拠を見せ付けてやる。
「「シャァアーーーー!!」」
「クゥーーーー!!」
道場のような一室の引き戸をぶち壊して、モンスターである人食い虫とハネクリボーが乱入。
それを事前に察知していたのか、イタチは然程驚きもしないが、サスケは新たな乱入者に戸惑い足を止める。
俺はその隙に、サスケを短い手で拘束すると共に床に倒れているフガクとミコトの所まで無理矢理移動した。
そして人食い虫の一体が特殊効果を発揮して、先程まで目に見えぬ程に素早く動いていたイタチと同レベルの速度でイタチへと接近し、人食い虫の名前に恥じぬ行動を取る。
大きな口でイタチの頭へと齧り付いたのだ。
しかし、その特殊効果ですらイタチという化け物からしたらそれ程には脅威とはならないらしく、恐らく影分身の術を使用して変わり身の術としたのか、人食い虫が自身の命を犠牲にして使った一瞬の戦闘力上昇は無駄に終わった。
だが、人食い虫はもう一体いる。
命を犠牲にして特殊効果を発揮し影分身を補食した人食い虫が音も無く霞のように消え去ると、残っていた人食い虫が再び命を犠牲にして同様の特殊効果を使用する。
ハネクリボーと俺の距離は十メートル、人食い虫が特殊効果を発動しイタチへと襲い掛かる、ハネクリボーと俺の距離は七メートル、人食い虫が特殊効果を使用して凄まじい速度を見せるがイタチはそれ以上の速度で人食い虫を避ける、ハネクリボーと俺の距離は三メートル、人食い虫はイタチが避けきると霞のように消え去った、俺とハネクリボーの距離は一メートル。
「己の力の無さを嘆くが良い。弱者には死あるのみ」
イタチがフガクやミコトにしたように、サスケに向かって万華鏡を駆使して攻撃を図るのを肌で感じた。
当然そんな事をさせるつもりなど無いので、ここで俺はクリボーの特殊効果を使用。
クリボーの特殊効果は、自身の命を犠牲にして敵の攻撃を一度だけ無効にするというもの。
故に、イタチの瞳術は決して効きはしない。
「何ッ……!?」
しかし命を犠牲にした
━━ハネクリボー、頼んだぞ。お前の特殊効果が頼みの綱なんだからな。
そう内心で叫びながら消える俺の目の前で、イタチが驚愕の眼差しを浮かべつつ再度万華鏡の瞳術をサスケに向かって放つのが見えた。
しかしその術は、送れてこの状況に新たに登場した最後のクリボーの特殊効果によって、再び防がれる。
と、それにホッと胸を撫で下ろした瞬間、俺の意識は布団にくるまる自分の肉体へと戻っている事を認識した。
そして俺が横になるこの部屋に、サスケを含めたサスケの御両親もハネクリボーの特殊効果によって転移して来た事を認識し、今度は先程よりも大きく胸を撫で下ろすのだった。