「なっ、何が?! 此処は?!」
サスケは自身の両親であるフガクとミコトの二人の傍で、突如目に映る光景が大きく変化して驚愕の声を上げ、頻りに視線を右往左往させている。
然もありなん。兄による凶行に心底混乱していたのに、突然自分の居た場所とは別の場所へと目に映る光景が変わっているのだから、冷静で居られる筈が無い。
「サスケ、此処は僕の家だよ。だから警戒しなくて大丈夫」
「ゲンセイ!?」
布団にくるまって横になっている状態から上半身だけ体を起こして声を掛けると、目が溢れ落ちんばかりにサスケが目を見開く。
俺はそんなサスケを見てまず落ち着けるべきだと判断し、口寄せの印を敢えてサスケでも理解出来るように遅く結んで見せ付け、俺固有の能力であるデュエルモンスターズのモンスターを呼び出す。
ここで召喚するのは、サスケに理解させる為にサスケが先程まで見ていたモンスターの二体。
音も無く、陽炎のように空間が揺らめき、次の瞬間にはクリボーとハネクリボーが姿を現す。
「これは……!? げ、ゲンセイ、お前の口寄せだったのか?!」
「うん、そうだよ。サスケの御両親とサスケを助ける為に行動させてたんだ」
「兄さんがあんな事をすると知っていたのか?!」
「いや、それは知らなかったよ。僕はただ単純に口寄せの修行と口寄せした忍獣との親交を深める為と、忍獣の能力を十全に使いこなす為の修行の意味で里内をブラブラさせてたんだ。
で、たまたまうちは一族の土地で不穏な物音や血の匂いを感じて、サスケの事が心配になって忍獣をサスケの家に向かわせたんだけど……どうやら正解だったみたいだね」
「……う、嘘だ、あの場にお前は居なかった! 此処で布団に入っているのがそれを証明している!
それなのに、此処に居てどうやって忍獣に指示を出せるって言うんだ! お前は兄さんとグルなんだろ!」
自身の兄の凶行に混乱しているせいもあるだろうが、サスケは俺が味方であると素直には信じられないようだ。
これは仕方ない。混乱しているのだから、寧ろ当然の反応だと言えるだろう。
ただし、混乱しつつもサスケが指摘した部分に此方としては鋭いと思わずにはいられなかった。
将来ナルトと同等の強者となるサスケの片鱗を垣間見たような気がする。
「確かに僕は此処でずっと横になっていたのは認める。でも、それでも僕は自由に忍獣へと指示を出せるんだよ」
「嘘を付いても無駄だ! 俺は口寄せ契約を結んでないから忍獣との交流なんて無いが、それでも多少の知識くらいはある!」
「僕の忍獣は少し他の忍獣とは違うよ。……と言うより、忍獣っていう認識がそもそも間違ってるんだけど、それを今説明するとなるとややこしいから説明をはしょるね。
えっとね、僕の忍獣の場合だと、僕の視覚・嗅覚・聴覚とかを忍獣と連結する事が可能で、思考すらも連結させる事が出来るんだ。それが理由で離れていても忍獣に僕の意思を伝えられるし、何なら忍獣自体を自分の手足のように動かせる事も可能なんだよ。
まぁそうは言っても、一度に複数の忍獣と感覚を共有するのは無理だし、コントロールするのも一体が限度なんだけどね」
「………感覚を共有? そ、それじゃホントにたまたまだったのか……?」
「うん、たまたま運が良かったから助けられたんだよ」
俺の言葉を脳内で反芻しているのか、少しずつ強張っていたサスケの表情が和らいでいく。
それを見て俺はもう大丈夫だと判断し、サスケとこうやっていてもピクリともしないフガクとミコトの方へと視線を移し、俺は布団から出て近付くと二人の状態を確かめ始めた。
あまり医療には詳しく無いが、それでも大人として多少の知識くらいはあるので、写輪眼による特殊な瞳術に対しての対処はどうしようも無くとも怪我の応急処置くらいは出来るという自負はある。
それに何より、俺にはデュエルモンスターズの力もあるので、より効果の期待出来る処置が可能な筈。
ミコトは兎も角、左腕を失っているフガクは重症の為、取り敢えずフガクを優先して俺が怪我の状態を確かめ始めると、サスケは思い出したように焦った口調で喋り始めた。
「そ、そうだ、父さんと母さんが!」
「うん、分かってる。僕のお母さんとお父さんを起こしてくれる? お母さんは医療忍者だし、お父さんも少しは医療忍術を齧ってるって言ってたから」
「わ、分かった!」
ドタバタと荒々しい足音を響かせてサスケが俺の部屋を飛び出した瞬間、サスケの「ムゲンさん、ミルさん!」という大声が家の中だけでなく隣近所にまで響き渡った。
俺はその声を耳にしつつ、サスケが両親を連れて戻って来るまでに簡単な処置を施すべく魔法カードを発動させようとする。
しかし、両親は既に俺の部屋で何やら騒音がしているのを不審に思って起きていたのか、サスケが部屋を出て叫んだ瞬間には扉の近くまで来ていたようで、すぐにサスケと一緒に俺の部屋へと入って来た。
我が親ながら、流石は上忍だと感心させられる。
「何があったの?!」
「フガクなのか?! これは一体何が?!」
ピクリとも動かないミコトとフガクを見て、両親は驚愕の表情を浮かべる。
そして、フガクが片腕を失って大量の血を流しているのも相まって、尚更に両親の驚きが大きくなったようだ。
「何があったのかは後で説明するから、今は処置をお願い。僕とお母さんはフガクさんを見るから、お父さんはミコトさんを頼むね」
「分かった!」
「分かったわ!」
大粒の涙を無数に流すサスケが見つめる中、二人の重症患者の処置が始まった。
しかし、俺が出来る事はそれ程には多くない。
それというのも、俺が使用出来る回復系統の魔法カードは、まだその殆どを使用出来ないからだ。
現状使う事が可能なのは、モウヤンのカレーとレッドポーションくらいである。
モウヤンのカレーは食べる必要があるので、意識を失っている二人には使用不能。
故に、現状使えるのはレッドポーションのみになる。
だから俺は口寄せの印を結んで薬を出したのを装うと、レッドポーションを怪我をしているフガクの傷に振り掛けるだけだった。
それでも多少の効果はあって………いや、正確に表現すると結構な効果があり、大量に出血していた血がピタリと止まった。
しかしながら、皮膚の再生まではレッドポーションだけでは不可能のようで、それに関しては母が医療忍術によって適切な治療を施していた。
俺に出来たのは、治療時間の短縮くらいであったと言うしかない。
だがそれでも、母は俺を精一杯に誉めた。
そしてその後は、二人が意識を失っている原因が何なのかを父と母が話し合い始める。
「ミル、原因は分かるか?」
「ごめんなさい。私には分からないの。……毒でも無いし出血による意識喪失でも無い事は分かるんだけど、それ以上は……」
「そうか……。すると、特殊な幻術の類いかもしれないな」
「ええ、その可能性はあるわね」
「と、するなら、だ。紅を呼んだ方が無難かもしれんな」
この火影の里において、五本の指に入る程の幻術使いである紅を呼ぶのは英断だと言えるだろう。
しかし、万華鏡写輪眼という特殊な瞳術によって掛けられた忍術になるのだから、紅上忍を呼んだとて大した効果は見込める筈も無い。
だがそれを知っている人間は、此処には俺だけである。
けれども流石にそれを指摘するのは目立ち過ぎるという意味で憚られるので、俺はその部分においては何も発言しない。
ただし、それ以外の提案は勿論する。
「お父さん、三代目を呼んで欲しいんだけど」
「三代目を? 理由は……いや、分かった。何があったのかの説明を、三代目にも直接するという事だな?」
「うん」
「しかし、それだとお前の血継限界の事も話さなければならないかもしれんぞ」
「うん、分かってる」
「そうか……。すまんな、ゲンセイ。
……ミル、お前は二人の容態を見守っておいてくれ」
「ええ、任せて」
父は俺に申し訳なさそうに、そして母には強い意思を感じさせる表情を告げると、その場からまるで手品のように消えた。