ですので、イタチ関係はそれに基づいて書きます。
母とサスケと俺の三人で、フガクとミコト用に布団を用意して二人を寝かせていると、父が三代目や暗部と思わしき複数の忍びを伴って帰って来た。
そうして直ぐ様、暗部達は意識を失ったままの二人の治療を始め、俺達親子やサスケは治療の邪魔となると判断されたのか別室へと移動させられた。
移動した場所は、居間である。
サスケは自分の両親が心配なのか頻りにそわそわしているものの、俺の左隣に座り込み沈黙しており、テーブルを挟んで真正面には三代目が、その三代目を挟むように俺の両親が座った。
事情を知らない三人が真正面に座ったのは、恐らく意図的なものなのだろう。
多分、事情を知っている者と知らぬ者の立ち位置を分かり易くしたのだと察せられる。
「さて、何が何やらと言った感じじゃが……。ゲンセイ、じゃったか? 兎に角、この度の事を説明してくれんかのう?」
本当は既にイタチから報告されて知っているのだろうが、それをおくびにも表情に出さずに三代目が言葉を発した。
その表情は本当に自然で、大したものだと感心してしまう程だ。
「御説明する前に、まずは今回の被害者であるサスケに俺が知り得る全ての話をさせて下さい。そうでなければ、話の途中でサスケが黙っていない筈が無いので」
「ふむ……まぁ良かろう」
「ありがとうございます」
少し怪訝な表情へと変えた三代目だったが、特に反論する気は無いようで、至極あっさりと此方の要望が通った。
これには若干驚いたものの、恐らく俺が殆ど何も知らないと思っているからだろう。
そう思いつつ俺は、そわそわ忙しないサスケへと視線を向け口を開く。
「サスケ、これから俺が話すのは、俺がさっきお前に説明した特殊な力で見聞きした事で、紛れもない事実だという事をまず認識しておいて欲しい」
「あ、ああ、分かった」
「ありがとう。それじゃあ説明するね」
「頼む」
俺が真剣な表情をしているのが原因なのか、サスケは俺へと全力で集中してくれている。
両親が死ぬ程に心配な筈なのに、それでも俺の表情を見て真剣に耳を傾けてくれるサスケにこれから辛い話をしなければならないと思うと、正直心が押し潰されるかのような感覚を覚えた。
だが、サスケが闇の世界へと身を落とさない為にも、ここでそれを食い止める為にも、どんなに辛かろうが苦しかろうが、どんな感情にも関係無く話さなければならない。
故に俺は覚悟決め、少し強い口調を意識して説明を始める。
「まずは、うちは一族が抱える問題について話そう」
「うちはの問題? 兄さんの……イタチの話ではなく?」
イタチを兄さんと呼ぶ事に躊躇いが生じているらしいサスケは、少し渋面を浮かべてイタチと呼び捨てにした。
それを聞いて益々心にくるものがあるが、それを押し殺してサスケの疑問に頷く事で言外にその通りなのだと示して説明を続ける。
「うちは一族が有する力、写輪眼。これはとある脳内物質が分泌される事で、特殊な遺伝子を持つ者だけが開眼するに至る血継限界。そしてその脳内物質というのは別にうちは一族の者だけに限った事ではなく、人間なら誰もが分泌される物質であり、その効果は多幸感や全能感と言った感じでアドレナリンやエンドルフィンに似た物質なんだよ」
「そ、そうなのか? あ、いや、話の腰を折ってすまん。続きを頼む」
「大丈夫、理解出来るように分からない部分があったら質問してくれて良いよ」
うちは一族であっても知らない者が殆どだろうから、サスケが知らなくても不思議ではない。
故に俺は笑みを浮かべてそう告げたが、チラリと三代目を見たら驚愕の表情で何故その秘匿された事実を知っているのだと言いたげな様子だ。
だが敢えて俺はそれを無視して、尚も説明を続ける。
「うちは一族の血継限界っていうのは、本当に強力だ。そしてあまりにも強力なせいで、写輪眼を開眼した者は術を研鑽する事に緻密を注いで心を鍛える事を軽視してしまいがちになる。それが非常に問題なんだよ。特にさっき説明した脳内物質のせいで、全能感や多幸感を覚えてしまった者達は尚更不味い。
サスケ、何が良くないのか分かる?」
「え? ……いや、俺には分からない」
「デメリットがあるのに心を鍛えなかったせいで、視野狭窄に陥るんだよ。しかもそれだけじゃなく、視野狭窄に陥る事で、それに併発して被害妄想も抱きがちになってしまうんだ」
「視野狭窄と被害妄想……?」
「そう、視野狭窄と被害妄想だ。だからこそ、うちは一族の人達は親しい者を亡くすと突飛な行動に出たりするし、或いは自分の力に酔って傲慢になったりあらゆる事に我を通そうとする自己中心的な性格になりがちだ。
サスケの回りの大人で、今例に上げたような人は居なかった?」
「……居た」
「だろうね。しかも沢山居たんじゃない?」
「……ああ、確かに多かったと思う。他の一族の大人と比べて、確かにゲンセイが指摘するように沢山居たと思う」
自分の記憶を手繰るかのように首を少し傾げつつ答えたサスケは、しかしどこか納得出来ないような、そんな表情を浮かべている。
恐らく、自身の属する一族を馬鹿にされたと感じたのかもしれない。
「今説明したうちは一族についてのデメリットを、良く覚えといてね。ここからが本題になるから」
「分かった」
「うん。それじゃ本題に入るね。
うちは一族の大多数は、術を研鑽する事はあっても心を鍛える事はしなかった。目に見える分かり易い術という力、それだけを追及してしまったんだよ。デメリットを一ミリも理解しないままでね。
その結果近年のうちは一族は、この里の警備部隊という世襲性の安定した職を他の一族から優遇されて代々独占してきたのに、里の中枢に関われるような権利も寄越せと言い出した。本来は優遇されているからこそ、里の中枢まで関わってしまえばパワーバランスがうちはに偏り過ぎるのに、それを無視して権利を主張し始めてしまった。
しかし当然、他の一族からすればこれ以上の優遇を許せる筈が無い。だって、それだと他の一族が馬鹿みたいじゃん?
でも、視野狭窄で被害妄想的な思考に囚われるうちは一族の多くは、『うちは一族は優秀な一族だ! 他の一族の者達は嫉妬してるんだ! だから俺達を抑え込もうとするんだ! 断じて許してやるものか!』って突飛な考えに至り、『全ての権利をうちはに寄越せ! 俺達が優遇されるのは当然だ! 地位も名誉も、それら全て俺達のものだ!』って考えがうちは全体に流れてしまい……」
俺が敢えて言葉を止めると、サスケが生唾を飲み込む音が響いた。
勿論、それはサスケだけではなく、俺の両親も同様である。
そして三代目は、ここまで俺が今回の事についてこれ程に深くまで事情を知っている事に心底驚いているらしく、目を見開き顔を強張らせていた。
しかし三代目はそれだけでなく、これ以上は不味いと思ったのか慌てて話に割り込もうとし、「やめ━━」と言葉を発する。
だが、サスケの為には必要な事なのだ。
故に俺は躊躇せず、そして三代目の割り込みを絶ちきるように言葉を続ける。
「最悪な事に、うちは一族の大多数の人達は、クーデターを計画するに至ってしまったんだ。そして、そのクーデターを計画した人達の纏め役は、サスケの父であるフガクさんだよ」
「なっ!? そ、そんな馬鹿な!?」
「サスケ、一番最初に言っただろう? 俺の特殊な力で知り得た紛れもない事実を話すって、俺はそう言ったよね?
サスケ、これは紛れもない真実だよ」
サスケは愕然とした様子で、俺の真剣な顔を見て絶句した。