Armee du paradis ー軍人と戦術人形、地の果てにてー 作:ヘタレGalm
先に言っておきます。キャラずれてるかもしれません……。
AR-15の半身
「私の電子戦の能力? おかしなこと聞くわね」
私は、目の前に座るUMP9の言葉に首を傾げた。
AR小隊において電子戦を担当していた私だが、最近は専らラップトップPCを駆って鉄血のネットワークに忍び込む毎日だ。
自分の電子戦モジュールを使わずに敢えてキーボードを叩くというのは不思議な感覚だ。しかし、データベースに仕掛けられた鉄血のウィルストラップを回避するための確実な手段である。
だからこそ、私の電子戦能力は一概には言えないのだ。
「私は大抵コレを使っているわよ。ハッキングを受ける心配もないしね」
自分のラップトップPCを指し示しながらパスタモドキを口に運ぶ。ちなみに、これは今日の厨房番であるUMP45とスコーピオンがここで栽培した小麦粉を用いて試験的に作ろうとしたものだ。その結果パスタともそうめんとも言える謎の麺Xが出来上がってしまっだが。
まあ食べれなくはないのでよしとする。
それはさておき、私の言葉を聞いたUMP9は言った。
「じゃあ、助手はいる?」
「猫の手も借りたいくらいね。電子戦のできる9A-91は工廠にかかりっきりだし、UMP45はエドワーズ指揮官と辺境偵察に忙しい。かと言ってこの基地は脳筋ばかりだから……」
「誰が脳筋だって?」
隣で麺を口に運んでいたM4が額に青筋を浮かべているが、見なかったことにする。
別に脳筋でいいじゃない、事実なんだから。
そこで、私はふと思いついた。
「待って、UMP9は電子戦ができるの?」
「もちろん、404小隊は電子戦も多いからね。私もある程度はできるよ……このパスタ、あんまり美味しくない」
「それは助かるわね。ちなみに食事が微妙に不味いのはUMP45とスコーピオンのペアだけよ」
これは私が血の滲むような努力の末に見つけ出した法則だ。食事が残念な味になるのは、UMP45とスコーピオンがよりにもよってペアになってしまった時。食事担当は公正なくじ引きで決められるので予測は不可能だ。ちなみにM4の作る食事も本人が半ば諦めていることもあって微妙に美味しくない。
ふと指揮官を見ると、不平を言わずに黙々と食べ続けている。UMP45はにっこり笑っているが、FALと9A-91の顔が引きつっているのはバッチリ見えた。
それにしても指揮官はすごいわね、文句を言わないのは彼なりの流儀なのだろうけど。
食事を食べ終え、私はUMP9を連れて工廠の方へと歩いていた。彼女のバイタルチェックもあるが、今日私の新しい銃を作ってくれている手筈になっていたのだ。
無機質な機械たちがならぶ真っ白な空間で、工廠担当の9A-91がスコーピオンの手に包帯を巻いていた。
「……何やったの、あなた」
「いやー包丁でスパーンと」
「なるほどよくわかりません」
要するに調理中の怪我らしい。へらへらと笑っていられるあたり傷は深くないようね。
スコーピオンから目を外し、テーブルの上を見た。
そこに置かれていたのは、黒塗りのガンケースだ。ギターケースと見間違うほどの大きさがあるそれの表面には、「ST AR-15」と大書されていた。
「……これは?」
「文字通りですよ。開けてみてください」
9A-91の言葉に従って、ガンケースを開いた。中に入っていたのは、ニッケルシルバーに塗装された一丁のアサルトライフルだ。アクセサリー類はともかく、銃本体は記憶にあるのと寸分違わない、私の半身。
「ST AR-15。バレルを30口径仕様に換装しているため.300BLK弾仕様となっています。アイアンサイトなのは取り付けられるスコープがなかったからですが……」
「いえ、十分すぎるわ、ありがとう」
「設計データはあなたにIOPから盗んできてもらったので結構楽ができました。とりあえず、これはあなたの半身です。それを忘れないであげていただけると幸いです」
「そこまでかしこまらなくてもいいわよ……。ありがたく受け取るわね。感謝するわ、9A-91」
「どういたしまして。……さて、UMP9さん。楽しい楽しいバイタルチェックの時間ですよ? まさか逃げようなんて……」
「思ってないよ? うん」
「ならいいのですが」
そんなことを言いながら隣室へと消えていく2人を見送り、私は足早に射撃場へと歩みを進めた。
包帯を巻いたスコーピオンも付いてくる。
「スコーピオン、あなたも射撃場に?」
「うん」
結局、私は日が暮れても撃ちまくっていた。新しい銃を手に入れて調子に乗っていたのだろう。しかし.300BLK弾を3箱、300発も撃ってしまったのはやりすきだった。もともと私しか使わない以上数は少なく、残りはたったの200発。何回か襲撃に出れば撃ち尽くしてしまう量しかのこっていない。
しかし、その時の私はそんなことも考えずに浮かれていた。
そして何も考えずにジョナスさんの誘いに乗ってしまった。
その結果が
「……
私は小さく呟いた。
同じく山札を囲みポーカーに興じるスコーピオンとジョナスさん、そしてUMP45のニヤケが止まっていない。FALと指揮官は呆れ顔でグラスの中身を呷っている。
スコーピオンが声高に叫んだ。
「フラッシュ! これで掛け金は私の分だね!」
ジョナスもニヤリと笑いながら手札を見せる。
「フォーカード。まあ、こんなもんだろ」
UMP45が若干の不満顔で手札を明かした。
「ストレート、負けた……」
一番大きな役を作ったジョナスさんが全員の掛け金を手に取った。ちなみに合計400米ドルだ。ドルの価値は下落しているとはいえ、下手な酒瓶一本が買える額はある。
諦めきれなかった私は叫んだ。
「も、もう一回!」
「おういいぜ、
「望むところよ」
「じゃ、私もやろっかなー」
それぞれ財布から100ドル紙幣と10ドル紙幣2枚を取り出して場に出した。
ちなみにここまでの損失が一番大きいのは私だ。逆にぼろ儲けしているのがジョナスさんで、すでに利益は1000ドルを超えているはずである。私? たったの120ドルよ。損失の方が大きい。
最初に勝ってから調子に乗って、負け続けてもムキになった結果がコレって笑えないわね。
にしても、次賭けられるお金が手元にない。どうしよう、指揮官かFALに借りるか。
ジョナスさんによって山札が切られ、各々5枚ずつ配られた。
私は受け取ったカードを表にする。
うん、十分勝てるカードね。
手始めにジョナスさんが3枚ドローし、スコーピオンとUMP45がそれぞれ2枚ドローした。私も2枚を捨てる。山札から引いたのはスペードのキングとハートの10。
思わず舌打ちを打ちかけた。
勝負から降りれば賭け金は全額返ってくるが、もしも勝てば全員の掛け金を得ることができる。そして、負けず嫌いな私は散々負けたというのにまだ勝負を続けていた。
でも大丈夫、次のドローでなんとかなる。
「おっと、スコーピオン。山札は一番上から引けよ」
「はーい」
唐突に指揮官の声がした。スコーピオンさんがどうやらイカサマをしようとしたらしい。指揮官の動体視力の前では丸見えだったようだけど……。
「うげ」
UMP45が事故ったわね。
私はクラブのエースとダイヤのエース、役は揃ったわ。
「さて、カードをオープンしようか」
ジョナスさんの声でそれぞれカードを明かしていく。
私はフルハウス。他の面々は……。
「ストレートフラッシュ」「フォーカード」「スリーカード」
嘘……またジョナスさんの一人勝ちじゃない。
「さて、もう一回やるやつ?」
「ハイ、私! 賭け金150ドルで!」
「じゃ、私もー」
「賭け金が……ごめんなさい指揮官!」
私は酒を楽しんでいる指揮官に声をかけた。
つまり、借金を頼み込むために。
「350ドル貸していただけないでしょうか」「だが断る」
即答だった。
賭けられなくなった私に呆れるように、指揮官はつづける。
「だいたい、こんな場所で金かけてやるもんじゃねえだろうが。それでも小遣い適度なら黙認したが、誰かに借金するのはナシだな」
正論に、返す言葉もなかった。
指揮官はジョナスさんからトランプを奪い取り、宣言する。
「つか……AR-15はギャンブルしてはいけない類の人間だろ……ほら、お開きだお開き! 合計何ドル賭けたんだ」
くぅ……私はギャンブルしてはいけない人間なのでしょうか。でも、たしかに負けず嫌いだけど、流石にここまでとは思わなかった。自分でもちょっと驚きだ。
「金欠組は明日から頑張って仕事してくれ、俺はニートを養うつもりはないからな。働かざる者食うべからずだ」
「正論っぽく締めようとしているが全然論点ズレてるぞ……ほら、解散だ解散!」
ジョナスさんの言葉で、お開きとなった。
はあ、今日はいい日だったのかしら、それとも悪い日だったのかしら……。