Armee du paradis ー軍人と戦術人形、地の果てにてー   作:ヘタレGalm

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先客の少女たち

 救難信号を打って早2日、一向に救助のヘリはこなかった。

 しかし、今日は久しぶりに屋根の下で眠ることが出来そうだ。

 

 

 俺たちがたどり着いた施設は、山岳地帯の小さな盆地を丸々使って設営された基地の一棟だ。基地全体の敷地は明らかに正規軍の本拠基地サイズで、カリフォルニアのSEALs本拠基地と同等の大きさがあった。門はその役割をなしておらず、無機質なコンクリート壁に刻まれた弾痕や血飛沫、焼け跡などの戦闘の跡は生々しいものの、修理すればまだ使えるレベルだ。正直言って、この基地が放棄されているのはありえない。実際、積もっている埃にはうっすらと足跡が見える。

 しかし、埃が取り除かれていないというのも本当だった。

 

 まあ、あれこれ考えていても仕方ないが……。

 

「とりあえず、ありがたく宿にさせてもらおう」

 

「そうね」

 

 大きなロビーの吹き抜け部分に堂々と荷物を下ろす。

 コンクリート製の屋根に大穴が開いているせいか、ぼんやりと星明かりが差していた。案外、廃墟という言葉が似合うのかもしれない。

 

 背負っていた重い荷物を冷たい床に下ろした俺とFALは焚き火の準備を始める。暖と睡眠と娯楽は取れるときに取っておくに限るからな。

 枯れていた並木から取ってきた薪を取り出し、火口となる綿クズや落ち葉をライターで炙った。赤い炎が火口を舐め、直に燃え移る。それらを中心に手早く薪を組むと、あっという間にメラメラと燃え上がる焚き火になった。

 

 

 FALが山で狩った鹿の腿肉を二つ取り出し、ナイフを棒代わりにして豪快に炙っていく。血抜きはしてあるものの、生臭さは残っていた。まあ、環境と時間を考えれば妥協点だろう。山奥にふたりぼっちということもあるが、それ以前にこんなご時世、夕飯にありつけるものはそれだけで幸運者なのだから。

 

 大勢の犠牲と土地の核汚染を引き起こした第三次世界大戦が終わってから、まさに「終末世界」としか言いようがない世界になってしまった。国家がほとんどの力を失い代わりに企業が台頭する世界。こんなありさまでは、人類という大きなまとまりなど脆いものだ。皆が国家や宗教、民族のために戦い、そして失望した。食うものと住む場所に困った人間ほど分かりやすいものはいない。

 

 最後に頼れるのは死線を潜った仲間だけ。

 それが、俺が見つけ出した唯一無二の真理だった。

 

「自分の身は自分で守れ、ってところね……」

 

 崩壊液と人間の醜さに侵された世界は、もう優しくなどなかったのだ。

 

「肉、焼けてるぞ」

 

「あらほんと」

 

 じゅうじゅうと肉汁を垂らす鹿肉をFALから受け取り、大口を開けて頬張った。獣臭さはあるものの、悪くない。

 うん、こういう重いことは食べて忘れるに限る。所詮、人は一人分のモノしか背負うことはできないのだ。自分だけ生き残ってしまった負い目はあるが、それを責めても始まらない。同じ過ちを繰り返さないてはいけないが、悩んでいる余裕はなかった。

 明日の悩みよりは今日のメシ、というのは変わらないのだ。

 

 そんな己のありように苦笑しながらも、タンパク質の補給を終えた。

 こんな廃墟にシャワーなどという気の利いた設備はないから、もうあとは寝るだけだ。じゃんけんでどちらが先に寝るかを決め、その結果俺が先に寝ることになった。

 隣に座るFALの距離が若干近いことを感じつつ、自分のHK416を抱えて瞼を閉じる。

 

「おやすみ、ディビッド」

 

 俺は、浅いまどろみへと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 動く気配を感じて、まどろみから目を覚ます。すでにFALも気がついていたのか、ブローニング拳銃をホルスターから抜いていた。銃を構えながら立ち上がり、気配へ向けて狙いをつける。先客がいることはこの建物の床につもる埃を見た段階で察知しており、あとはいつ襲撃してくるのか、そもそも敵なのかということだけだった。

 

「……動くな!」

 

 低い声で警告した。英語が通じなかったとしても、一応ニュアンスは伝わったはずだ。予想ならば、“先客”は鉄血やELIDのような明確な敵ではないはず。鉄血ならば俺一人なのを好機と見て強襲してくるはずだし、ELIDならば崩壊液の残滓が残っているはずだ。それらがなかったため、おのずと限られてくる。

 

 さて、鬼と出るか蛇と出るか。

 

 

「こんばんは、こんな山奥の廃墟に何の用ですか〜?」

 

 

 柱の裏から可憐な少女が現れた。

 俺の姿を視認するためか、両手を挙げながらゆっくりと歩いてくる。パチパチと爆ぜる焚き火に照らされた彼女の顔は、どちらかといえば可愛い部類に入る端正な顔立ちだった。戦闘服とは思えないシャツとスカートだが、俺はその正体を知っている。

 ふと、その装いに既視感を感じて胸が軋んだ。

 

「当分の宿にしようと思ったところだ。……お前は誰だ?」

 

「人に名前を聞くときは自分から名乗るのが礼儀でしょ? ……私はUMP45、見ての通り戦術人形よ。そっちの野戦服着崩した左腕ないのは戦術人形のFALとして、あんたは?」

 

「俺か? ……そうだな、〈ルーカサイト〉とでも呼んでくれ」

 

 俺のコールサインだ。ミッション中はコールサインを使うことが習わしであり、俺もそれに倣っていた。らしくない名前だというのは理解しているが、ジョナスが悪ふざけで登録してしまったのだ。結局なあなあで使い続けている。

 

「ルーカサイト……白血球? なかなかのネーミングセンスね。特殊部隊の隊員さんにしては」

 

「……流石にバレるか」

 

「いい名前だってよ、よかったわね。……とりあえず、そこの一人と後ろの二人も含めて敵意はないみたいね?」

 

「あ、わかる?」

 

 UMP45の後ろに一人、俺の後ろに二人いることはもう分かっている。しかし、悠長に話している間に撃たれていないことや呆れた雰囲気が漂っているあたりで敵意がないことは察知できた。

 銃をわざわざ突きつけながら話すことにも飽きてきたので、カスタムしすぎて重くなった銃を下ろす。FALも片腕で保持していた拳銃を下ろした。それを見て、UMP45も他の三人に向けて声をかける。

 

「M4、416、9A-91、降りてきて。『今のところは』害はなさそう」

 

 吹き抜けの階段を使って、さらに三人の少女が降りてきた。

 

「……話は聞きましたよ、ルーカサイトさん」

 

「45、大丈夫なの?」

 

「わかりませんが……45さんを信じるしかありませんね」

 

 彼女たちは俺の隣をすり抜けて、UMP45の隣に並んだ。彼女は、人当たりの良い笑みを浮かべてひらひらと手を振る。

 

「試したみたいになっちゃってごめんね~、一応米軍ヘリのエマージェンシーとあんたの救難信号は受信していたんだ。だから、ここにたどり着くことも予測はしていた」

 

「……救難信号は、一応受信されていたのか」

 

「うん。でもここらへん一帯、鉄血のジャミングのせいで衛星回線が使えないのよ。通信塔なんてないから軍用6G回線も使えやしない。しかも険しい山の上だから陸の孤島なのよね。ここは鉄血の支配域内だから脱出なんて無理無理」

 

「……クソッタレ、とんでもないところに落ちちまった」

 

 思わず頭に手を当て、オウジーザスと叫んでしまった。別に熱心なクリスチャンというわけでもないが、神に愚痴の一つぐらい言ってもかまわないと思う。

 

「ちなみに、ロシア軍がここを放棄した理由は鉄血の空爆喰らったから。尻尾撒いて逃げ出したみたいなんだけど、鉄血自体は少し離れたところにFOBを設営しちゃってるし、陸の孤島にわざわざ設営する理由ないよねってことでだれも手を付けてないってわけ」

 

「で、あんたらは迷い込んだと」

 

「私とM4と416はね。9A-91は元からいた。この話も彼女から聞いたものよ」

 

「そう、か」

 

 脱出できない、と知った俺の心中は不思議とフラットだった。横目でFALを見ると、彼女もあまり感じていないようだった。

 

「意外とケロッとしてるね……どういう根性よ」

 

「なに、本国に必ず帰りたいってわけでもないからな。ただ部下は回収せにゃならんが」

 

 火の前に座り込み、水筒のキャップを外した。中には俺がヒイコラ言いながら集めた朝露と草の露がぎっしりだ。

 

「とりあえず座りましょう。突っ立ってるのも寒いでしょ?」

 

「それもそうですね」

 

 M4が率先して俺の向かいに座った。続いて416や9A-91、UMP45も火を囲んで座る。

 パチパチと爆ぜる火は暖かかった。

 

 そういえば、彼女たちの所属はどこだったんだろうか? 

 

「……そういえば、あなたがたの所属はどこだったの?」

 

「私はグリフィン404小隊ね。……みんな、バラバラになっちゃったけど」

 

 グリフィン、大手のPMCだ。404小隊は俺たちと同じ非公式部隊、おそらく任務には色々きな臭いものもあるのだろう。

 

「失敬な、私がいるでしょう? ……私も404小隊です」

 

「私はグリフィンのAR小隊でした。AR小隊も404小隊も独立して作戦を行う特殊部隊ですね。AR小隊の場合は指揮官を人形が代替する遊撃部隊、404小隊は『存在しない部隊』です」

 

「……なんか、お二人に比べると私は見劣りしますけど、私はロシア軍の独立実験部隊所属でした。ツニートチマッシ社製の人形を集中運用していたんです」

 

 最後の一人が洒落にならないが、それは置いておこう。

 なんか期待の目で見つめてきているから答えるか。

 

「本来答えちゃいけないんだけどな。俺とFALはアメリカ海軍NavySEALsグループ6所属だ」

 

「え、SEALsのグループ6ってDEVGRU!?」

 

「あの対テロ部隊……まだあったのね」

 

 食ってかかったのは、9A-91と416だった。ロシア軍所属だったのだから、思うところがあったのかもしれない。416についてはよくわからないが……ドイツのGSG-9にでもいたのだろうか。

 

「なんてことはない、今のDEVGRUの実態は鉄血支配域深くに進出できるからって便利屋状態よ。統合作戦コマンド(JSOC)から下される命令なんて大抵突入からの強襲(ハックアンドスラッシュ)、損耗も馬鹿にならない。……この腕も、先日無茶しちゃってね」

 

「……そう、ですか」

 

 9A-91のしょげた声をよそに、俺はFALと頷き合った。もうバディを組んで何年にもなる、意思の疎通くらいは朝飯前だ。

 

 彼女たちひとりひとりを見つめて問いかけた。

 

「ところで、提案がある……今、俺たちは鉄血の支配地域に取り残された状況だ。脱出するには協力するしかない」

 

「それで?」

 

 UMP45が興味深げに見つめてくる。

 その視線を真っ向から黒瞳で見据え、言った。

 

「座して死を待つくらいなら、共闘しないか?」

 

「いいわよ」

 

 即答だった。

 

「そもそも、いがみ合っていたらみんな揃って死ぬだけでしょ? 私はそんなの勘弁願いたいからね」

 

「そうね、それに貴方は悪い人ではなさそうですし」

 

「照れてるんですか、416? ……私は協力します。他の家族(AR小隊)も探しに行かなきゃいけませんしね」

 

「私には協力以外の選択肢はありません。それに、ここの設備を動かせるのは私だけですし」

 

 うし、決まりだな。

 

「じゃあ、俺たちも仲間に入れてくれると嬉しい。これでも銃撃戦はできるからな、足は引っ張らないと約束する」

 

「ええ、左腕が治ったらエリート人形でも相手してあげるわよ」

 

「むしろ指揮を取ってもらいたいくらいよ……よろしくね、ルーカサイトさんとFAL」

 

「こちらこそ、だ」

 

「ええ、よろしくね」

 

 俺は時計を確認した。

 午前1時、夜明けまであと5時間近くもある。寝なくても耐えられるが、5日間ろくに寝ていなかった以上身体が睡眠を欲していた。

 

「……あんなこと言ったあとに悪い、朝になったら起こしてくれ……」

 

 情けないことだが、思いのほか気が抜けてしまったようだった。

 

「寝足りなかったの? ……まあ、いいわよ。頑張ってたからね……」

 

「はいはい、任せなさい」

 

 そんなFALとUMP45の声を最後に、俺の意識は闇へと落ちていった。

 

 

 

 

 

「あらら、本当に寝ちゃいましたね」

 

 銃を抱えてうつらうつらしている彼を見て、9A-91がつぶやいた。ノリなのかなんなのか知らないけど、頬をツンツンするのはやめといた方がいいと思う。

 

「つつくのはやめなさい、9A-91。私たちには睡眠は不要だけど……」

 

「寝たいならそう言ったら?」

 

「……はい、寝たいです」

 

 素直ね、M4は。

 まあエネルギーの節約は大事だから止めはしないけど、さ。

 

「さてと、私も休ませていただこうかしら。……ああ、変なこと考えたら彼も私も一発で起きるから。その辺よろしく……ね……」

 

 まるでスイッチが切れたかのようにFALも寝てしまった。ご丁寧にルーカサイトのすぐ隣で。

 この娘、むっつり気質があるんじゃない? 

 

 私は寝るつもりはないけど、さ。

 

「悪い416、9A-91。私は適当にほっつき回ってくるよ」

 

「また日課? 飽きないわね……」

 

「はい、いってらっしゃい」

 

 彼女たちに外に出ることを伝え、西棟を出る。

 

 すぐに、私の姿は夜闇へと溶け込んだ。

 今日は想定外の来客が来た。明日が楽しみだ。

 




なるべく気をつけますが、キャラ崩壊あるかもしれません。
ヤベー奴らだらけなのは突っ込みなしの方針で。

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