Armee du paradis ー軍人と戦術人形、地の果てにてー   作:ヘタレGalm

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気分はBLACKLAGOON、あるいはヨハネスブルグ。



第3章 不穏
魔境R07地区


 元グリフィン支配下、R07地区。

 R06地区やR08地区、S09地区と並ぶ対鉄血の最前線であるが、比較的規模の小さい丘陵地帯だ。しかし、環境は他のどの地区よりも厳しい。

 

 なぜなら、年中粉雪が舞い時には低濃度放射能を含んだ牡丹雪が降る寒さの厳しい汚染地帯だからだ。即死すると言うわけではないが必然的に平均寿命は短くなり、平均寿命は60を下回る。

 もっともこんなご時世、放射能や崩壊液に蝕まれて死ぬよりも鉛玉を浴びるか鉄の刃で貫かれるかのほうが遥かに多い。

 

 それ故か、R07地区主街区は〈アウトローズヘブン(無法者の楽園)〉と呼ばれるほどに治安が悪化していた。悪党が蔓延り、裏路地で銃声が鳴り響くのは当たり前、表沙汰にできないような取引も平気で行われているのだ。

 

 治安維持を担うはずのグリフィン部隊の指揮官はとうに失踪、残された人形部隊は街の中に関しては基本的に見て見ぬ振り、市民からの通報があった時のみ出動していた。

 

 ある日、街はグリフィンに代わる新しい客を迎えた。

 彼らは瞬く間に、()()()と街に馴染んで見せた。

 

 R07地区には今日も粉雪が舞う。

 ちらちらと、ちらちらと────。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

「指揮官、第3戦闘班市中警邏より帰投した」

 

「了解。損害は」

 

「見ての通りゼロだ」

 

「オーケイ、じゃあ適当に暇つぶしててくれ」

 

「了解だ」

 

 R07地区郊外に存在する基地の司令室で、俺は市中警邏から帰投したリー・エンフィールドから報告を受けていた。

 

 市中警邏とは言っても比較的安全な地帯をパトロールするだけだ。本当に治安の悪い地区も見て回ったが、5分おきに強盗に襲われるという信じたくもない結果となった。

 

 無論、強盗は全員額に風穴を開けられる羽目になったのだが。

 

 副官のFALをちらりと見やる。

 

「なあ、FAL。お前まで無理してここに来なくても良かったんだぞ?」

 

「何言ってるのディビッド、ずっと一緒って言ったでしょ? ……ほら、襟が乱れてるわよ。直してあげる」

 

「ああ、悪い」

 

 FALに襟を直してもらいつつ、考える。

 クルーガーが押し付けてくるあたりで激戦区ということは予想がついていたが、まさか治安悪化も甚だしい場所だとは思わなかった。

 人間相手に殺されるなど馬鹿馬鹿しいため、ここには最低限の兵力しか常駐させていない。無論、完全武装だ。

 

 あのクソヒゲめ、今度会うことがあったら髪とヒゲに脱毛クリーム塗ったくってやる。

 

 

「────よし、終わったわよ」

 

「ありがとう」

 

「それで、なんで私たちがこんな悪徳の街にいるかだって? ……それは、貴方がここにいるからよ。それに、ここには私たちの知らないなにかがあるかもしれない……ま、一番は買い物を楽しみたかったんだけどね」

 

 先ほどの俺の問いに、FALが答えた。最後におどけてみせたのは俺への気配りなのかもしれない。

 まあ、事実として買い物を楽しんでいる彼女の姿がここ最近よく見られるのだが。

 

 不意に、扉を叩く音が聞こえた。

 

「しきかーん、UMP45が“報告書”を持ってきましたよー」

 

「今日は私もです」

 

 扉をあけて入ってきたのはUMP45とAR-15。

 それぞれラップトップ端末を小脇に抱えているあたり収穫はあったらしい。

 

「ネカフェでハッキングを仕掛けてきました。2.5GHzの筐体は少々心もとなかったですけど、必要なものは収穫できたので良しとします」

 

「で、こっちはバーで情報収集。ビンゴだったよ」

 

「そうか。連中は動きそうか?」

 

「武器弾薬を買い集めてますからね。隠蔽したつもりでしょうが、教会のカメラをハッキングしたら1発でした」

 

「どーも殺気立ってるみたいだねぇ。それで指揮官、どーするの? 打って出る?」

 

 答えは決まっていた。

 

「当たり前だ」

 

 

 

 街にはいくつかのマフィアが根城を張っており、中にはグリフィン部隊よりも勢力の大きいものもある。まあたかが数体の人形で編成された部隊だ、マフィアに越されていたとしてもおかしくはない。

 

 問題はそこではない。

 この街を牛耳る犯罪組織の一つが不穏な動きを見せていた。軍人崩れのロシアン・マフィアや自称レジスタンス、そして人権団体などは沈黙を保っているが、おそらくは当て馬にするつもりなのだろう。

 そしてこちらの技量を見極めるのだ。

 

 いいだろう、特殊作戦部隊は伊達ではない。

 

 ただし、いくつか問題があることも確かだった。

 

「今回使える戦力はここにいる俺たちと第4戦闘班だけだ。他は楽園で深部偵察やら打撃作戦やら野戦訓練に忙しい。第3戦闘班と第5戦闘班はバックアップにあてる」

 

 戦力の大半を楽園に温存してある以上、即応できる戦力が少ないのだ。

 

 R07の残存グリフィン部隊は5体、一〇〇式とAUG、SVD、M500、PPK。

 SVDを狙撃班に回し、M500は突入担当の第4戦闘班に配属したため代わりに新規発注したIDWとASValを加えることで第5戦闘班を編成した。

 

 ちなみに現在はジョナスとスコーピオンにシゴかれているはずである。合掌。

 

「俺は出るつもりあまりないんだが……」

 

「とはいえ第4戦闘班は2人も抜けているわ。ロニーがいるとはいえ流石に戦力不足が否めないわよ」

 

「はあ……悪いがUMP45、突入チームに臨時で入ってくれないか?」

 

「あなたの頼みを断れるはずがないでしょ? いいよ、やってあげる」

 

「サンクス。俺は根回しをしておこう」

 

 なに、ロシアンマフィアに脅しをかけるだけさ。

 

「いいですけど、あんまり無茶はしないでくださいね?」

 

「単身で乗り込むわけじゃない、久しぶりに9A-91を連れてみるさ……準備は進めてくれ、すまないが明日には行動に移りたい」

 

「了解」

 

 とりあえず、この話はここで仕舞いになった。

 

 

 

 

 ここに来てから購入したトレンチコートの襟を立て、R07地区の裏通りを歩く。この辺は特に治安が悪く、何か踏んだと思ったら死体だったということがざらにある場所だ。銃声がどこかで聞こえているのは日常茶飯事。

 転がる死体を見ても驚かないあたり自分はこの街に慣れてしまっているのだと思う。

 

 他の面々はどうだろうか。

 ジョナスはスコーピオンを連れて行くのを嫌がっているが、それくらいだ。

 一方で、M4やリー・エンフィールドのように何かない限りは極力行きたくないと主張する者も少なからず存在する。彼女たちがこの街を歩いているときは、堂々としているように見える反面コートに隠したアサルトカービンを握りしめていることがよくわかるのだが、それは本能的な防御反応なのだろう。

 

 逆に、瞬く間に馴染んでしまった人形もいる。トンプソンは平然と裏通りを歩くし、404の連中もそうだ。意外なところではFive-seveNとAR-15か。Five-seveNは情報量が格段に増えた代わりに朝帰りも増えた。何をしていたかは聞くだけ無駄だろう。逆に、AR-15はしれっと人混みに紛れ込んでいるからタチが悪い。最近は電子部品を買い漁っていると聞いた。

 

 こんな世紀末、悪徳の街ごときに怯むようでは戦闘職は務まらない。むしろ片足突っ込んでなんぼだとは思う。まあ、それを強要するつもりはないし、正直M4やリー・エンフィールドには負担をかけてしまっていることも事実だ。

 

 ふと、足を止める。

 

 微かに血と硝煙の匂い漂う裏路地の、とうの昔に捨てられたようなコンクリート製のマンション。しかし、その一室が俺の目的地だ。

 

「ガンスミス“コルト”か。なかなか趣味の悪いネーミングセンスじゃないか」

 

 呟き、古びた木の扉を叩く。

 扉の奥から若い声がした。

 

「今日はお客さん多いなぁ……はいはい、今出ますよっと」

 

 ガチャリと音を立てて扉が開く。

 顔を見せたのは若い男だ。

 

「ようこそ、お入りください」

 

「ああ」

 

 男に案内される。

 バーのマスターから聞いたが、このガンスミスは相当腕がいいらしい。武器の仕入れも行なっているらしく、知る人ぞ知る穴場のような人物だ。何回かAKS-74Uを持ち込んだが、新品同然にまで整備してくれたあたり腕は確かだ。

 

「ところで、今日はどのようなご注文で、エドワーズさん?」

 

「ああ、まずはコイツのメンテを頼む。それと、新しく7.62mm口径以上のアサルトライフルを見繕ってほしい。年代は2010年以降で頼む」

 

 そう言って、背負っているガンケースを指差した。

 中に収められているのは俺の半身と言って差し支えないほどに使い込んだHK416Dアサルトライフル。

 

 もう50年以上前に設計されたものだが、今でも対人作戦では現役だ。ただし、装甲兵相手には効きがかなり悪い。正規部隊の装備が12.7mm口径のアサルトライフルに更新されているのはELIDを仮想敵としているからであるが、俺たちもこの先ELIDと対峙しない保証はないのだ。

 

「ちょっと待ってくださいね、先客のメンテが途中なので」

 

「先客? まあ、そっちからでいい」

 

「じゃあ少々お待ちを」

 

 そう言って俺は工房に案内された。ソファには俺の見知った顔がいた。

 

「あれ、指揮官!?」

 

「M1911か」

 

 ソファで雑誌を読んでいたのはウチの第3戦闘班所属、M1911だった。おそらく市中警邏から帰投してすぐにここに来たのだろう。

 

「指揮官もコルトさんに武器のメンテを依頼しに来たんですか?」

 

「そんなところだ。ついでに新しい銃も見繕ってもらおうと思ってな」

 

 壁際にもたれかかり、タブレット端末を開く。

 ざっとデータベースを見ていると、M4からの哨戒任務の報告を見つけたため目を通す。

 鉄血の人形部隊は定数配備が完了していないため動きはあまりなかったらしい。

 

「そうだ、ガバメントさん。無改造で使われている二丁目をM45CQPモデルに改造しましょうか? コルセアの時みたいにASSTを崩しちゃったりはしませんし、お安くしておきますよ」

 

「うーん、改造ですか。確かにサイレンサーが使えないのはキツイんですよね……ふむ、これを機に趣味全開のカスタムを依頼しちゃいましょうかね!」

 

「ほほう、例えば?」

 

「えーと、側面に『9mm Outlow cop』って刻んで、バレルを半インチ延長して消音器用のネジ切って、トリガーを穴あきモデルに変えて、ハンマーを大型のものにして……」

 

「ちょ、ちょっ、待って! とりあえず君はいつもの通り紙に書いて! 混乱しちゃうから!」

 

 コルトとM1911の微笑ましいやり取りを眺めつつ、ガンスミスの腕前に感嘆する。話しながらも相当手慣れた動作で銃を分解整備しているのだ。すでに一丁目は終わったようで二丁目に取り掛かっている。

 

 ふと、自分のMk23はどうだろうかと思った。

 基本的に使用後には清掃を行なっているが、最近分解はしていなかった気がする。

 

「はい、終わり!」

 

「やっぱ早いし上手ですね、コルトは! 9A-91ちゃんも悪くないんだけど、本職に任せると使ってる感覚が違うね〜」

 

「あ、やっぱり違う?」

 

「うん。なんか軽いんですよ、銃が」

 

 戦術人形にはASSTシステムが搭載されているから当然だと思うが。

 そんな野暮なツッコミは置いといて、ガンケースからHK416Dを取り出す。セイフティはもちろんかけてあるし、マガジンの中もチャンバーの中も空っぽだ。

 M1911からこちらに視線を向けたコルトに、HK416Dを手渡した。

 

「さて、お待たせしました。メンテナンスはこちらでよろしいでしょうか?」

 

「ああ」

 

「ふむ、HK416Dですか……あれ、ストックが曲がってますよ、どういう使い方したんですかこれ。それにスプリングもだいぶヘタってますし」

 

「そりゃそうだろうな。最後に部品交換を伴う整備をしたのが半年前か?」

 

「逆に言うと半年でここまで使い込んだんですか。まあ、『他人の便所は覗かない』がこの町で生き残るコツですからね、詳しくは聞かないでおきますよ」

 

「ああ、こっちもお前とM1911がやけに親しい理由は聞かないでおく」

 

 この悪徳の町では、詮索したものは容赦なく殺される。

 基本的に他人の問題ごとには首を突っ込まない方が良いのだ。

 

「はは、これは別に隠すことでもないですけどね」

 

「この人がアラスカに来た時に知り合ったんですよ。それからネット越しにおしゃべりしたりメンテナンスやら改造を依頼していたんですけど、なんやかんやあってこうして再開したってワケです」

 

「確かに、隠すようなことでもないかもしれないな。ああ、そうだ。メンテナンス終わってからでいいんだが、少し話があるんだ」

 

 まあ、大したことではない。

 しかし、悪徳の街で生計を立てている男は想像以上に勘が鋭かった。

 

「それは……勧誘だったりしますか?」

 

「さぁて、どうだろうねぇ」

 

 適当にはぐらかして、時計を見る。

 

 午後4時32分。

 彼の仕事のペースを考えれば、遅くても夕食前にはR07基地に帰りつけそうだ。




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