Armee du paradis ー軍人と戦術人形、地の果てにてー   作:ヘタレGalm

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基地再起動

 翌朝、9A-91の案内の下基地を回ることになった。

 3㎞四方もあるこの広大な基地を作ろうと思ったロシアは本当にすごいと思うが……ほとんどの施設は死んでしまっているようだった。

 

 東端の滑走路と飛行場施設から見て回り、ミサイルサイロや要塞レールガンと続いて現在は南棟、本来はツニートチェマッシ社の工廠があった地区に来ていた。

 

 大破した装置類が多いものの、修理すれば使えそうなものも多い。大型兵器用や人形用の自動工場は完膚なきまでに破壊されているが、昔ながらのコンピューター制御のフライス盤などはほとんど無傷だった。

 

 そんな無事な機械類の中に、俺は宝物を見つけた。

 ラッキー、これが生きてたとしたらかなり心強い! 

 

「なあ、9A-91。あれは動くか!?」

 

「……旧世代の弾薬製造機? ですが、7.62mm×39用と9mm×39用、それに30mm砲弾用です。私はともかく、45さんや416さん、M4さんは使えません」

 

「なに言ってるのよ、ここには人間用の武器庫もあるでしょう?」

 

 FALの言わんとするところに気がついたらしく、416がポンと手を打った。

 

「つまり、私たちにAKを握れってこと?」

 

「どちらにせよ、戦力は必要だからね〜。私は躊躇なく手に取るよ。まだ死にたくないし」

 

 死にたくない、それは人類共通の真理なのだろう。

 

 

「私は、一応一通りの工作技術も習得しています。ですから資材があれば施設の修理もある程度可能ですが……どちらかというと電力を確保してAIを再起動した方がいいかもしれません」

 

 いくらソーラーパネルがあるとはいえ、空襲で半壊したそれらだけでは必要とする電力の1割も満たせない。故に、食糧プラントと修理用の鋼材の生産が精一杯だったらしい。

 

「AI、ですか?」

 

 初耳だったのか、M4が聞き返した。ちなみに、俺とFALはその正体に予想が立っていた。

 多分、施設の維持と拡張の権限を与えられた管理システムのことだろう。これくらいの基地ならば搭載されて当たり前だった。あくまでアメリカでの話だが。

 

「はい。建設ロボットや清掃ロボットを一括管理するシステムですね。正確にはAIじゃないのかもしれませんが、施設の維持を自動で行います。拡張も設計図を入れるだけで可能ですよ?」

 

「……そんなものあったんだったら、先に言ってほしかったです」

 

 不満げに漏らすM4。案外綺麗好きなのかもしれないと思いつつ、俺はほかの機会の観察も進めていく。

 天井がぶち抜かれているものの、完膚なきまでに破壊されなかったのは僥倖だった。

 

「ほいほい、じゃあ先に原子炉の方見に行く?」

 

「そうしましょう。電力確保は至上命題ですし」

 

 UMP45の提案にしたがって、電力の確保から始めることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この基地の原子炉は、当時最新型の原子力空母に積み込まれていたものと同型らしい。出力は800メガワット、レールガンやレーザー砲を何百発もぶっ放してなおお釣りがくる。

 原子炉の制御室にたどり着いた俺たちは、9A-91がコンソールにつないだラップトップを弄る様子を見ながら雑談に興じることにした。

 口火を切ったのはM4だった。

 

「そういえば、ここの基地はヴォルナヤクリアポスト、山の要塞って意味らしいです」

 

「地味な名前ね」

 

「地味ね」

 

「地味だな」

 

「地味すぎるわね」

 

「正直地味ですよね」

 

 9A-91込みの全員からの地味コールだった。

 ならば当然、新しい名前を考えようという話になる。

 

「新しい名前、何がいいかしら?」

 

「ホープフォートレスなんてどう?」

 

 一番に手を挙げたのはUMP45だった。

 彼女に続き、ほかの面々も発言していく。もちろん俺もいるが。

 

「トップマウンテン」

 

「タイコンデロガ」

 

「グロズニィグラード」

 

「ハードリアンライン」

 

「アローン」

 

「マローン」

 

 厨二な名前からダサい名前、安直な名前まででるわでるわ。

 というか誰だよアローン(独りぼっち)なんて言ったのは。マローンに至っては食欲が先走ってるじゃねえか。俺だけど。

 

「ランドアローン」

 

「陸の孤島……もっといい名前なかったの?」

 

「やっぱFALもそう思うか」

 

「山岳秘密基地の方がましじゃない?」

 

「だめだ、FALのネーミングセンスは史上最低ランクだった」

 

「では、ラ・パラディス(楽園)なんてどうですか?」

 

 決着をつけたのは、9A-91だった。楽園を表す英語パラダイスのフランス語読みだ。なぜフランス語読みなのかは知らないが……。

 

「……悪くはないな」

 

「賛成」

 

「さんせー」

 

「賛成です」

 

「悪くないですね」

 

 満場一致でこの基地の新しい名前はラ・パラディスに決まった。まあ、アローンとか山岳秘密要塞なんて名前になるよりははるかにましだな。

 それを受けたUMP45がぽつりとつぶやいた。

 

「じゃ、私たちは大方ソルダット・デュ・パラディス(楽園の兵士)ってところね」

 

「この世の地獄から解放された楽園と、それを守る兵士たち。うん、なかなかいいんじゃない?」

 

「……ハッキング完了しました。原子炉、再稼働です!」

 

 その時、場の空気を完全に無視して9A-91が叫んだ。地の底から響いてくる低いうなりは、確かに原子炉のそれだ。さすがこの基地でロールアウトされただけはある、というところか。

 よくやった、9A-91。

 

「メインフレーム再起動、パッシブレーダー起動。原子炉安定運転を確認」

 

「よくやった、9A-91!」

 

「これで埃だらけの寒い夜からおさらばです!」

 

「ふにゃ!?」

 

 UMP45とM4が抱き着いた。二人とも感極まって涙しているように見えなくもない。

 冷静だった416があきれてため息をついているが、まあ大目に見てやれよ……。

 

「……ルーカサイトさん、これで鉄血もこの基地に気が付いてしまうでしょう」

 

「……確かにな。ただ、いまさらと言えなくもねえぞ。俺たちご丁寧にレーダー誘導ミサイルで撃ち落されたし」

 

「一つ言えるのは、ここからは時間との勝負ってことね。応答がない以上米軍は期待できないし、グリフィンもおそらくは動かないから。ロシア軍なんて論外よ」

 

 座して死を待つか銃を取って戦うか。

 後者を選択したのだから、こうなることは自明の理だった。

 

「9A-91には負担かけそうだけど……フォローしていくしかないわね、ルーカサイトさん?」

 

「へいへい、一応能力テストは通ってるんだ、それなりのことはしますよっと」

 

 そんなことを言いつつ、じゃれあう3人を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数日が立った。

 

 この基地には、弾薬も資材も戦力も何もかもが足りていない。

 原子炉を復旧させたことにより電力は確保できたが、工作機械の大半が破損している以上修理がままならない。人形の製造など夢のまた夢だ。最低限の衣食住が保証されているだけまだましだろうか。

 

「資材不足解消のために鉄血のパーツを奪いに行く。目標は山を下りた先の鉄血歩兵部隊小規模ベースキャンプ、基地の防衛もあるから全戦力は投入できない。……FAL、悪いけど居残りを頼める?」

 

 全員の前で、UMP45が告げた。

 

「了解したわ。少佐をよろしく頼むわよ、この人すぐ無茶するから」

 

「そりゃもちろん」

 

「ノーマル相手だったらまだ余裕はあるけどな」

 

 左腕を欠損しているFALが居残りになり、残りの5人で攻撃を仕掛けることになった。基地の車両は使えるものの、大型車が通れるトンネルは崩落しているため軽車両で細い道を行くしかない。

 

 ガレージでリーダー役のUMP45が選んだのは、UAZ-3151という小型4輪駆動車だった。非装甲車両なので心配があるが、歩兵戦闘車や装甲兵員輸送車の通行できない道を通るため妥協するしかないな、こりゃ。

 

「物資を運ぶことを考えればバイクって線は無しだからね。まあ、ルーフに23mm機関砲を搭載するから、撃たれる前に撃て見たいな感じで」

 

 とは選定した本人の弁。

 実際作戦内容を考えれば悪くない車両だった。俺もこのミッションなら同じ車を選んだだろうな。

 

 点検と整備が済んだ車両の前で、俺たちはそれぞれの装備を広げた。

 

 偵察してきた情報によれば人形が30体程度、大体一個小隊が駐屯している計算だ。兵種は基本的にガードとヴェスピド、そしてプラウラーの混成、どちらかというと警備所と言ったイメージだ。

 だから、遠距離からの狙撃で可能な限り敵数を減らす。そのためにわざわざ用意した武器を見たUMP45が話しかけてきた。

 

「おー、それFALちゃんの銃?」

 

「ああ、今回だけ特別にな。代わりに俺の銃を預けてある」

 

 片腕ではどうせ使えないから、と預けられたバトルライフルは、ずっしりと重い。

 

「へー、烙印システム無しでも使えるんだ」

 

「使って見せるさ、相棒の武器ぐらい」

 

 そんなことを言いながら、銃の二脚を調整する。すでに持ち主によって暗視スコープのゼロイン調整は済んでいるため、あとはドットサイトと二脚の調整、機関部の整備だけだった。ちなみに機関部の整備はすでに済ませた。

 

 スコープ上のレールに小型のドットサイトをマウント、電池を確認。銃口のマズルブレーキを外して代わりにサイレンサーをねじ込んだ。

 

「相棒、狙撃の時は暗視ゴーグルは外した方がいいわよ。ピントが合わなくなる」

 

「了解。……ソ連製の暗視ゴーグルなんて実は使ったことないんだけどな」

 

 任務の都合で俺は暗視ゴーグルを持っていなかった。その結果、ここにある暗視ゴーグルを使うことになったんだが……。

 10年以上前の代物だが、まだ動くあたりすごいと思う。

 

 赤外線レーザーサイトを側面のピカティニーレールに固定し、フラッシュライトやアンクルフォアグリップなど俺のHK416に搭載していたアクセサリーを換装していく。

 全て終わる頃には、見違えるほどゴテゴテした銃に変化していた。

 合成樹脂製のストックこそ変わらないものの、スリムさは失われているようにも見える。

 20連弾倉に入っているのは7.62×51mmNATO弾、その中でも装甲をぶち抜けるM993徹甲弾だ。本来は狙撃銃用のそれをFALは愛用していた。

 今回は対人形狙撃だが、外骨格モジュールと防弾盾を装備したガードがいるため損はないだろう。

 

 もう一丁は、この基地の武器庫から持ち出した骨董品のアサルトカービンだ。AKS-74Uショートカービン、気休め程度にサイレンサーを取り付けてある。

 銃の下にグレネードランチャーを取り付けた所為で総重量がクソ重くなっているが、我慢だ我慢。火力は裏切らない。

 

 中の防弾プレートが丸見えになっているボロボロのJPCを纏い、マルチカム迷彩のポーチをサスペンダーに装着していく。右腿にMk23のホルスターを、左腰にAKのスリングを引っかけ、暗視ゴーグル付きの鉄帽を被れば準備は完了だ。

 

 周りを見ると、他の面々も武装を終えていた。

 

 UMP45はいつもの服の上にロシア製のボディーアーマーを装着し、ブッシュハットまで被っていた。

 416やM4、9A-91も同じような装いだ。

 さすがに9A-91がVSS担いでいるのはどうかと思うが……突っ込まないのが身のためだな。PKPとかOSE-35とか担いでいないあたりまだましか。

 ちなみに、OSEレールガンは俺に言わせれば欠陥兵器だ。射手の位置が速攻でバレる上にマガジン全てぶち込まないと戦車を撃破できない。人間が食らったら一瞬で爆ぜとぶが。

 

 俺のHK416をぶら下げた留守番役のFAL(相棒)に手を振り、車の助手席に乗り込む。

 

「行ってくる」

 

「はいはい、無事に帰ってきて頂戴」

 

「じゃ、留守を頼むよー。侵入者いたら容赦なく40mm(機関砲)を撃ち込んで」

 

「安心しなさい、ブービートラップだけで完封してあげるわよ」

 

「それは頼もしい。……またここで会おう、FAL」

 

「ええ、行ってらっしゃい」

 

 簡単なやり取りを交わし、UMP45がアクセルを踏みこんだ。ハンドルを切り、格納庫を出た。

 

 見送るFALの姿はすぐに見えなくなった。

 

 

 

 

 




現在の基地の戦力
戦術人形:UMP45,416,M4A1,9A-91,FAL(負傷)
兵士:元DEVGRU所属『ルーカサイト』
使用可能銃器:AKS-74U×32、ほかにAN-94,9A-91,AK-15,VSS,OSV-96,OSE-35,PKP,Kord,KPV,RPG-30等少数
使用可能兵器:UAZ×2,IMZウラルバイク×4,BTR-90カスタム×1,BMD-4×1,T-14×1,Mi-24×2

基本的に放棄された際に残された装備なので旧式のロシア兵器たちです。動くものも少ないのは年月のため、取り残された9A-91ちゃんだけでは整備に限界がありました。また、ほとんどの兵器はエネルギー確保の都合上電気駆動に換装されています。

ちなみにOSEは携行型レールガンです。虎の子の一丁。


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