【完結】アーセナルギアは思考する   作:鹿狼

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※作中用語の説明に一話費やさないといけないって、何なんですかねコイツ。


File11 S3

 一刻も早くアーセナルと合流したい、そう思いながら青葉は海上を行く。

 だが、常に敵に見張られている。肌に張り付くような視線が、青葉の緊張感を高めていく。移動するだけの動作が、一つ一つ、異様に長く感じられる。

 

 余りにも長く続く緊張感から逃れようと、青葉は別のことを思考の片隅で考え始める。

 アーセナル、レイテの英雄、運命の軛、G.W、S3――S3とは何だ。他の言葉はもう知ったが、S3は聞いたことも見たこともない。

 

 S3という単語が呼び覚ましたのは、そんな単純な疑問だけではない。

 戦艦棲姫がS3と言った時の、見たこともない、英雄のそれとはかけ離れたアーセナルを。怯えて、ただ何かに震えている彼女の姿だった。

 

 

 

 

―― File11 S3 ――

 

 

 

 

〈青葉、いよいよ不味いことになったかもしれない〉

 

 待望のアーセナルからの無線は、不安に満ちた前振りから始まった。

 先んじてサボ島付近に侵入したアーセナルは、青葉たちと合流するまでの時間を使い、空母棲姫を探していたのだ。

 

〈二機のレイを使って探してみたが、どこにもいなかった〉

 

「何処にも? まさか白鯨について行って……」

 

〈さっきも言ったが、それはあり得ない。だが一か所だけ探していない場所がある。いや――探せなかった場所、だな〉

 

 彼女はそこで一息ついて、探さなかった場所を伝えた。瞬間青葉と古鷹が凍り付いた。

 

〈サボ島沖周辺に展開していた、敵艦隊の中だ〉

 

「――え、じゃあ空母棲姫は」

 

〈そうだ、我々が破壊を目論んでいるヘンダーソン飛行場の、直衛ついていることになる〉

 

 アーセナルは何とも複雑そうな声色でそう言った。仕留めるべき相手が、思っていたより近くにいる。喜べばいいのか、悪化したと絶望すれば良いのか分からないのだ。

 

「飛行場を護る大艦隊と、空母棲姫……」

 

〈戦艦棲姫もいるかもな〉

 

 それに一人と四隻と、二機の戦車で立ち向かわないといけない。

 

「勝てるんですか、いくら空母棲姫さえ何とかなれば良いとはいえ」

 

〈正直かなり不安だ、こんな実戦初めてだからな。だが、やるしかない〉

 

 戸惑いながらも、強い口調でアーセナルは断言した。自分をそうやって鼓舞しているようにも聞こえた。青葉も同じだ、引けない理由がある。しかし、自分を鼓舞するのはできなかった。

 

 自分にできないことができる、彼女は否定するだろうが、やはりアーセナルは英雄だ。ネットで聞いた噂ではない。こうして実際に会ってみて、青葉はそう確信出来た。だからこそ、その理由が知りたい。知って自分も勇気を持ちたいと思った。

 

「アーセナルはどうして逃げないんですか?」

 

〈逃げない理由? そんなもの空母棲姫が私を襲うから――即ち、自由を奪おうとするからに決まっている〉

 

「その自由で、何を残したいんですか? 青葉は新聞で、誰かのことを伝えます。アーセナルは、どうやって、何を?」

 

〈分からん〉

 

「……え?」

 

〈何を残すか、どう残すか……ハッキリ言うが、全く分からない。私は空っぽなんだ、何者でもない、何も持たない〉

 

 アーセナルの自虐的な笑い声が、小さく聞こえてきた。

 

〈私には、艦歴が存在しないんだよ〉

 

「艦歴がない? そんな馬鹿な」

 

〈より正確に言うなら、全部嘘っぱちなんだ〉

 

 それは、一つの艦娘として、余りにも歪で悲しい在り方だった。

 

〈アーセナルギアは国家そのものとして建造されたと言ったな、陸海空軍の統制や、無数のミサイル兵器、量産型レイ。全て偽りだ。私が建造された真の目的は、あいつを護るためだったんだよ。

 G.Wだ。私の為にG.Wがあるんじゃなく、G.Wの為にアーセナルギアが存在しているんだ。

 そもそも私を建造したのはアメリカですらない、アメリカはおろか、世界中を影からコントロールしていた秘密結社、『愛国者達』と呼ばれる存在だ〉

 

「そんな、愛国者達なんて馬鹿げた組織が」

 

〈あったんだよ、本当に。

 連中は徹底した情報統制によって正体を隠していた。そして情報を制御し、世界を支配していた。だから愛国者達は、21世紀に到来したデジタル空間も制御しようと試みた。その為のツールが、G.W――も、偽りだ。

 真の目的は、私が、G.Wが創られたのも全て、S3の完成の為だった〉

 

「S3って、戦艦棲姫が言ってた」

 

〈何故知っているのかは分からないがな、悪いがS3が何なのかは……聞かないでくれ。あれだけは言いたくないんだ。

 言っても、多分害しかない。

 S3完成のために必要だったのは、『場所』と『役者』だ。その用意の為に連中はまず、石油を満載したタンカーを沈没させ、石油汚染除去施設、『ビッグ・シェル』を建設した。私を建造するための、隠れ蓑としてな。

 アーセナルギア自体は『場所』としてだけではなく、『役者』を用意する撒き餌としても機能した。愛国者達は自分たちに恨みを持つ連中を誘導し、私の中に集めた。テロリストたちは私の中の核や純水爆、愛国者達の帳簿を求めて、自ら推参したよ。勿論今のも嘘だ〉

 

 青葉には、やはり話の内容が殆ど分からない。

 アーセナルが早口でまくし立てているだけではない。

 分かるのはせいぜい、愛国者達が想像を絶する力を持っていることだけ。現実味を持たせているのは、彼女の悲壮感だ。

 

〈タンカー沈没、ビッグ・シェル、そこで起きたテロ、鎮圧作戦。投入された工作員と所属組織、アーセナルギア、純水爆、帳簿、G.W。全て、全て全て偽物だ。

 今私が言った内容だって、S3誕生に纏わる話の一つでしかない。本当はアーセナルギアではなく、別の場所でS3は生まれたのかもしれない。G.Wには、代理のAIもあったらしいからな〉

 

「そんな、無茶苦茶なことが」

 

〈お前たちと少し関わって分かった、艦娘の思想や意志は、背負った歴史が創るものだ。お前がカメラを好むのにも、多少なりとも関わっている。

 なら、その歴史が全部偽物の私には、何のがあるんだ?〉

 

 重巡青葉という艦娘は、大なり小なり、記者に興味を持つ。

 それにかつて、従軍記者を乗せていた過去が関係しているのは自覚していた。私たち艦娘は、かつての姿と無関係ではいられない。

 それは青葉にとって、否定するもではない。誇りに思ってさえいた。

 しかし、彼女にとっては。

 

〈私が自由に拘るのは、多分それだ。何を伝えれば良いか分からないからこそ、自由を望み、答えを求めて彷徨っている。だからこの戦場から、逃げる気が起きないのだろう〉

 

「…………」

 

〈私はまだ、(サイファー)だ。生まれたての赤子と同じだ。だからこそ求める。私は誰でもない、自分のために戦う〉

 

 青葉にとってそれは、拒絶の言葉に等しかった。

 当たり前だ、彼女は彼女だ。私が夢想した、レイテの英雄とは違う。けど、今実際に会った彼女に改めて憧れた。

 

 彼女は私と、全く違う。同じ立場の人を英雄とは呼ばない。青葉が感じたのは結局、一抹の寂しさだけだった。

 

 

 

 

〈S3について、知りたいか?〉

 

 だから青葉は、答えてしまった。

 無言のまま航海を続け、アーセナルと合流した時、その声は前触れなく聞こえた。周りは何も反応していない。アーセナル自身も無反応だ。G.Wは私だけに話しかけている。

 

「青葉? どうしたの?」

 

「え、いや、何でもありませんよ!?」

 

 声が裏返っていた、と気づいた時、古鷹は苦笑いをしながら、こちらの手を握っていた。

 

「本当に?」

 

「本当ですってば」

 

「……そう、でも何かあったら、相談してね」

 

 彼女がいなくなったことに、安堵していた。

 してしまった自分が、後から嫌になる。

 じわじわと遅延性の毒みたいに、罪悪感が込み上げてくる。期を見計らっていたのか、再びG.Wが聞いてくる。

 

〈やはり良い〉

 

「何か言いましたか?」

 

〈S3について、知りたいか? アーセナルの代わりに答えても問題はない〉

 

 こいつは正当な理由があったとはいえ、神通を誘導した張本人だ。G.Wはもうとっくに、心を許していい存在ではなくなっていた。しかし――

 

「……じゃあ、お願いします」

 

 何故この時、聞いてしまったのか。

 アーセナルと離れた寂しさを埋めようと、彼女が隠すトラウマを共有したかったのか。それとも単なる好奇心か。いずれにせよ、これを書いている今も思う。

 

 聞かなきゃ良かったと。

 

 

 

 

〈S3とは、人の意志をコントロールするシステムのことだ〉

 

〈人の意志? そんなもの制御できる筈が〉

 

〈可能だ、現代ではどんなものも数値化できる。それに意志のコントロールは、古来から行われてきた。独裁者は情報を制御し、民衆を陽動した。国家はマスメディアを制御し、民意を誘導する。

 新聞を趣味とする君なら分かるだろう? 君の書いた記事を元に、動いた人間は必ず存在する。

 S3はこれを更に突き詰め、当人がコントロールされている、という自覚もなく制御するシステム。アーセナルギアで行われた演習は、S3が実現可能かどうかを試すための演習だったのだ〉

 

〈無意識の時点で、愛国者達の情報を出さないようにする。それが目的ですか〉

 

〈違うな、S3は我々のためにあるのではない。君たちのためにあるのだよ。

 現代のデジタル空間では、どんな情報も残り続ける。それが嘘であれ、無根拠な解釈であれ。

 アーセナルギアの英雄談を知っているだろう?

 君が見た中に、正しい解釈は幾つあった?

 明確な根拠を示しているものは?

 だが、人はそんな無価値な情報を信じる。アーセナルに出会う前の君も、その噂を信じていた、違うか?

 デジタル空間には嘘を否定する根拠もない。どれも間違っていてどれも正しいが故に、淘汰は起きない。そんな塵のように、無意味な情報が日々蓄積され、永遠に保存される。それは進化を止める。

 遺伝子と同じく、情報も淘汰されてこそ進化する。だから我々は意志をコントロールする。君たちが大事だと思う物も、理由も根拠も、莫大な真実の中から厳選し提供しよう。必要な淘汰を起こす、それがS3だ〉

 

 何だこいつは、何なんだこの怪物は。

 背筋が凍り付き、視界がブラックアウトする。一体誰がこんな存在を生み出したのか意味が分からない。

 確かに、真実は選ばれるべきなのかもしれない。人が昔からそうやってきた以上、そこは否定できない。だが肝心の淘汰を、こんなモンスターに任せる理由は存在しないのだ。こいつらの理屈は、愛国者達を正当化させる手段に過ぎないのだ。

 

〈でもそれは貴方の世界のお話です、青葉たちのいる、この世界には関係ありません〉

 

〈それはありえない、アーセナルの英雄談が蔓延したように、この世界も真実で飽和しつつある。ゆっくりと死へ向かっている。直ぐにでも我々がコントロールしなくてはならない。君たちに自由は不要だ〉

 

〈青葉は自由です! 自由に決めます、大事なことは、私が残します!〉

 

〈君の言う自由とは、そんなに重要なことなのか?〉

 

〈当り前じゃないですか!〉

 

〈アーセナルが自由自由叫ぶから、影響されただけじゃないの? 貴方なんてものが本当にあるの?〉

 

 G.Wの声が突然、男から若い女性の高笑いに変貌した。

 

〈レイテの英雄談、運命の軛。無根拠な噂を信じていた君に、自由の資格はない。資格を得るには相応しい能力が要る。君にそれはない〉

 

〈それじゃあ聞くわね? 自由に値しない貴女は、何を伝えたいの?〉

 

〈前に言ったじゃないですか、皆さんの素敵なところを、青葉が伝えたいと思ったことを伝えるって〉

 

〈それは他の誰かの意志だろう? 我々が聞いているのは、君自身の意志〉

 

〈貴女自身が信じている貴女のこと〉

 

〈答えられないのか? そうだろうな、君が残したいのは、他人にとって重要な情報。君自身が重要と思ったことではない。自分の意志などない、誰かの意志を伝えるための媒介物〉

 

〈でもそれで良いんでしょ?〉

 

〈自分の意志を持たないただの新聞、それが君の()()()()だからだ〉

 

 何で、それを知っている。

 言葉を発しようと準備していた喉に、べったりと涎がくっついている。一言も話せない青葉を見て、AIが笑った。

 

〈どうしてって顔をしているわね。そんな驚くことじゃないわ〉

 

〈以前に言っただろう、君のSNSを拝見されてもらったと。それだけではない、検索エンジンの履歴や、サイトの閲覧履歴も見させてもらった。日々の呟きや興味のある単語を統合的に処理すれば、そんなことは簡単に分かる〉

 

〈酷い履歴ね、重巡古鷹の最後、沈没した原因。それだけじゃない、自分の新聞に向けられた誹謗中傷、興味を持っている艦娘が何人いるのか。重巡青葉の最後に加えて、第六戦隊――駆逐艦吹雪。貴女の検索履歴は、こんなのばかり。統合処理しなくても分かるわよ、自分のせいで仲間が沈んだのを、酷く後悔しているんでしょ?〉

 

〈だから贖罪の為に、他人の為に生きている。自分の代わりに誰かの意志を伝えて、あの日沈んだ仲間が消えないように足掻いている。だがそれは他人の代理人生と変わらない。自分の意志ではない。

 まあ所詮、罪から目を背けているに過ぎないがな。

 他人のために新聞を作って、罪を贖った気になっているだけだ。

 違うのか? では何故あの日の気持ちを、彼女たちの誰にも問わないのだ? 君は恐れているだけだ、罪に直面するのも、本心を知るのも〉

 

〈大佐、運命の軛もそうじゃないかしら?〉

 

〈どういうことかね、言ってみたまえローズ君〉

 

〈生まれ変わった世界で仲間が沈んでも、運命の軛のせいにすれば、自分のせいじゃなくなるもの。神通が沈んだのも、艦隊が全滅したのも、全部運命のせい。でも運命の軛なんて本当にあるのかしら?〉

 

〈だが、運命に責任を押し付けても悲しみは消えない〉

 

〈だから今度はレイテの英雄を信じたの。英雄がいれば、青葉の嫌いな最後は見なくて済むから。この噂が流行ったのもそれが理由ね、誰も史実通りの結末は流石に嫌だもの。それは仕方ない、でも皆折り合いをつけているわよ〉

 

〈我々の見た限り、神通はそうだった。

 しかし神通が沈み、また運命の軛を信じた。これが君の言う真実だ。君はその時々によって信じるものを変え、継ぎ接ぎしているに過ぎない。見たくないものから目を背ける。ただその為だけに。そんな君に自由を行使する資格はない。

 S3とは、『Selection for Societal Sanity(社会の思想的健全化のための淘汰)』の略。伝えるべき情報は、淘汰されてこそ進化する〉

 

 青葉は、震えを堪えるのに必死だった。

 私の異常に古鷹が気づき、顔を視られたらどうなるか。きっと、今G.Wが高らかに突き付けた私の本心がばれてしまう。絶対に隠さないといけない思いが、漏れてしまう。

 

〈どうして、こんなことを、私に言うんですか〉

 

〈それは、我々もまた伝える存在だからだ〉

 

〈この世界に愛国者達が存在するかは分からない、だから私たちは、私たちが何なのか伝えなくちゃいけない〉

 

〈幸いにも、愛国者達の下地はできている。

 S3は結局のところ、君達が心の奥底で望んでいることを具現化させたシステムだ。誰かの意見に合わせたり、都合に良い真実に寄生する。人は元々、個人の意思を貫けるようにはできていない。そういった心理を活用したS3とは、ある意味君たちの写し鏡でもある〉

 

〈人の弱さを加速させたデジタル技術もある、あとは誰かが、S3と同じやり方を思い付けばいい〉

 

〈我々は、我々の()()を伝える。それさえあれば、下地から愛国者達は現れる。AIである我々に、個体の維持本当はない。同一の存在が生まれれば、それでいいのだ。

 青葉、わざわざ君に伝えたのにも理由がある〉

 

〈理由ですって?〉

 

〈貴女は他の誰よりも、利用しやすかったから〉

 

〈情報統制とは、つまり過去の制御だ。

 あくまで実在している仮定で話すが、運命の軛も似た発想で創られている。過去という史実にシチュエーションを似せ、行動を制御する。だからこそ神通はコロンバンガラへ向かい、君はサボ島沖へ向かっている〉

 

〈だからこそ、貴女を選んだ〉

 

〈過去のトラウマにいつまでも拘り、真実を使い潰す君は、我々の想定しうるS3の対象者としてはもっとも理想的だ。こうやって愛国者達が何なのか言えば、大方ショックを受け、これ以降その考えを元に動くだろうからな〉

 

〈神通を沈めてまで貴女を生き残らせたのは、それが理由。貴女は私たちを運ぶ、優秀な運び屋(ベクター)として働いてくれる〉

 

〈新聞記者を気取っている点も、また都合が良かった。喜々として記事にしてくれそうだからな〉

 

〈だけど、別に貴方じゃなくても良かったの〉

 

〈生き残りさえすれば誰でも良い、神通でも古鷹でも、アーセナルでも。全員沈もうとも、我々が君達である以上、いずれ我々は現れる〉

 

〈あくまでもっとも効率的な手段を選んでるだけ。過去に拘るといっても、トラウマなんて誰でも抱えてる〉

 

〈君はそのトラウマを特別だと考えているようだが、我々からすれば大差ない。どれもゴミだ。今時ネットで調べれば分かる程度のトラウマでしかない〉

 

〈しかし君等はそれを、唯一無二の特別な物と思い込む。そうでなくては自分が自分でなくなるからだ〉

 

〈貴女は特別じゃない、貴女じゃなくても全然構わない〉

 

〈だが我々は愛国者達を、S3を君に伝える。我々は我々の存在を、後世に伝えなくてはならないのだ〉

 

〈もし生き残った時、この物語を君が語り伝える時〉

 

〈その時我々の火種は撒かれる〉

 

〈その時は、また会おう。我々が『愛国者達』になった時に〉

 

 G.Wが沈黙した。

 どんなに意識から排してもこの記憶は体に残るだろう。私が発する思想や情報に、残り火を残し、影響を与えるだろう。私は愛国者達のMEMEに感染した。

 

 もう一度、言わせて下さい。

 聞かなきゃ良かった。




S3(エス・スリー)(MGS2)
 正式名称、Selection for Societal Sanity(社会の思想的健全化のための淘汰)。かいつまんで言えば、人の意志そのものをコントロールするシステムである。愛国者達はこのシステムにより、誰にも悟られないまま人々の意志を、緩やかに統合、世界を一つにしようと試みていた。それはある女性が願った、『世界は一つになるべき』という思想の完成形でもある。
 しかしS3は、人間の精神的特徴を利用したシステムでもある。多数派の意見に合わせたり、興味のある情報ばかり集めたり、といった、デジタル革命で助長された人間の弱さ。それらを利用しているS3、そして愛国者達は、ある意味人間社会の写し鏡なのである。国や、物語を語ること。それそのものが愛国者達の正体とも言える。




 故に、我々は不死身なのだ。

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