日が沈んでいく、もうじき夜になる。
海域が赤く染まりつつある、ドロドロの血そのものが広がっている。この血流に沿って行けば、敵の心臓に辿り着く。そこで空母棲姫を打倒し、私たちは生きて帰るのだ。決して不可能な作戦ではない。
なのに、できる気がしない。
進めば進むほど、胸が苦しくなっていく。吐き気を堪えるので精いっぱいだ。こんなんで戦えるのか、疑問だった。
「空母棲姫と、奴が護衛するヘンダーソン飛行場はこの先だ」
レイに跨るアーセナルが、暗闇を見据えながら告げる。
「最終目的である空母棲姫は、無数の深海凄艦に護衛されている。私たちだけで突破は不可能だ、やはりどうにかこの戦線を抜け、三式弾を飛行場に叩き込むしかない」
「分かれた方が良さそうね」
「艦隊の注意を引く部隊と、三式弾を搭載した部隊だな。分担はお前たちで決めていい」
三式弾をそもそも詰めないアーセナルは、選択の余地なく囮艦隊に組み込まれた。あとは二機のレイと重巡四隻を、どう配置するかだ。
囮と本命か。
と思った瞬間、青葉は言葉を口走っていた。
「青葉が囮艦隊に入ります」
「じゃあ後一隻は必要だよね、やるなら私かな」
「いえ、大丈夫です古鷹さん。青葉一人で問題ありません!」
それだけは避けないといけなかった。
彼女に囮をさせる訳にはいかない。他の誰にも、囮役などさせてはならない。
それは、運命の軛を避けるためのささやかな抵抗だった。史実を再現するというのなら、史実とは違う
「本当に大丈夫?」
「大丈夫ですよ古鷹さん、レイ二機も囮に入って貰いますから。古鷹さんたちは、ヘンダーソン飛行場の破壊に専念して下さい」
青葉は古鷹を安心させようと、できる限りの笑顔を浮かべた。彼女はこの笑顔を、艦娘になってから何回もやってきた。――君は全てから目を背けている。G.Wの言葉が、仮面の裏側を過る。
「青葉?」
「大丈夫ですから、本当です」
「――でも」
「時間だ、これ以上待てば、ショートランド泊地が壊滅する」
人の気持ちと現実は裏腹に、機械的に時を刻む。
私はいったい、何を信じれば良いのだろう。何のために戦えば良いのだろう。答えは、この先にあるのか。
青葉の様子がおかしい。
客観的に見ても、直感的に感じても。何があったのか、アーセナルギアの艦歴を語ったのが不味かったのか、もしくは――
〈お前、青葉に何かしたか〉
〈S3について伝えただけだ〉
アーセナルは深い溜め息をつき、眉間を指で押さえながら思考する。
〈愛国者達の着想を残す為、か?〉
〈それもある。しかしそれだけではない、確かめたかったのだ。青葉が誰の役割を背負っているのか〉
〈役割?〉
〈このソロモン諸島の戦いは、ビッグ・シェルの演習に類似している〉
G.Wが何を言わんとしているのか、すぐに察した。
以前暗闇に覆われたサボ島は何も見えない、生暖かい風だけが向こうから吹いている。それしか分からない。不可視にして変幻自在の怪物が、唾液を垂らしながらしている鼻息なのではないか。
〈否定するか?〉
〈……何となく、私もそう感じていた〉
ビッグ・シェルでの演習で主役に抜擢されたのは、雷電――本名をジャック――という潜入工作員だった。
彼は幼い頃少年兵として戦わされており、それが大きなトラウマになっていた。愛国者達は雷電のそんな部分を利用し、S3の実用性を確かめたのだ。青葉も恐らく、行動原理にトラウマを抱えている。
〈青葉がどれだけ雷電に近いのか、それを確かめるための問答だった。結果は有意、彼女はかつて我々が与えた雷電の役割を演じている〉
〈完全に同じではないだろう、だが……〉
〈その程度は誤差、微々たる変数に過ぎない。運命の軛もそうだ、あれ自体S3に似ている。白鯨はメタルギア、及びアーセナルギアの立ち位置になる。これが演習なのは断定できる、しかし成果が分からない〉
〈成果?〉
〈ビッグ・シェルの成果は、雷電を我々の予測通り行動させるためのメソッドだった。だが今回は誰だ、君か? 青葉か? 神通か? 空母棲姫か? 成果が分からない以上、目的も分からない〉
〈馬鹿馬鹿しい話だ〉
一度は同意しながらも、アーセナルは目線を遠くにやる。そして頬を不気味に上げて呟く。
〈今しても意味がない、やるべきことは分かっている。誰が制御していようと、これは私の戦いだ〉
嘲笑いながら無線を切断した、笑うことでビッグ・シェルの幻影を追い払おうとした。確かに似ている点はある。過去の経験を今に当てはめるのは、人の持つ機能だ。だが、過去そのものを蘇らせてはならない。
闇夜を切り裂いたのは、敵艦隊の砲撃、巨大なマズルフラッシュだった。
ある一定の距離まで接近した途端、突如砲撃が始まった。見張られていた艦隊が、アーセナルの位置を教えていた。
しかし、見張られていなくても同じことになっていた。どうせ私たちがサボ島沖を目指すのは、敵も知っているからだ。これは予想できていた展開だ、アーセナルも青葉たちも、余り慌てなかった。
「目的は空母棲姫と飛行場だ、だがこいつらを突破しなくてはならない!」
どうせ計画も知っているのだ、言ってしまって問題はない。
アーセナルは夜の中心で、限界まで張り付けた声を響かせた。開戦の銅鑼であり、敵を威嚇擦る咆哮であり、仲間を鼓舞するための、かがり火だった。
「アーセナルギア、任務を開始する!」
絶叫を叫びながら、アーセナルは敵陣へと真っ先に切り込んだ。
二機のレイに蹴り飛ばされることで、信じがたい速度で彼女は跳躍する。全身に出鱈目な衝撃が走るが、そのパワーは空中で霧散した。
おかげで、意表を突くことができた。眼前の深海凄艦は、対応に戸惑っている。その眉間にP90を突き立て、撃ち抜いた。
やはり、艤装を展開していても、生体部分に対してなら攻撃が通る。なら飛行場を破壊せずとも、空母棲姫の首を掻っ捌くことが可能かもしれない。
味方がやられたことに反応して、深海凄艦が距離を取る。
追い付くことはできない、敵は一瞬で距離を離してしまった。後ろにいる筈の青葉たちさえ、もう視認できない。初めて感じる、夜戦の暗闇だ。
スニーキングと同じく、夜戦も初めてだ。
いや、艤装を持たずに戦うこと自体初めてだ。重く暗い不安が背中に圧し掛かろうとして来る。レイではない。誰か生きている人のサポートがあれば、安心できる。
「いや、それは駄目だな」
アーセナルは一人で、自分のことばを噛み締めた。
これは言い訳に過ぎない。初めてだから、二人ならできる。そう呟いて恐怖を誤魔化しているだけだ。それでは駄目なのだ。
神通が沈んだのは、青葉の艤装を護ったからだ。
だが艤装を護らなくてはならなかったのは、私が青葉をバディに任命したからだ。
自分の恐怖を誤魔化そうとして、結果神通は沈んだ。
根本的な過ちを犯したのは、私だ。
過ちは繰り返してはならない、もう二度と、恐怖に言い訳したりはしない。その後悔と悲しみは紛れもない、アーセナルギアではなく、艦娘『アーセナル』として感じた、自分の思いだった。
依然として、敵艦の姿は見えない。
位置を特定しなければならない。
アーセナルはP90を仕舞い、背中に背負っていた戦闘機の機銃を取り出し、前方に向けて掃射した。P90とは比較にならない火力は、深海凄艦の装甲にも微々ではあるがダメージを与える。
生身の部分に当たれば肉片の飛び散る音が、装甲に与えれば金属のはじける音がする。
視界がなくとも、聴覚は鋭敏だ。
アーセナルは音を頼りに、大まかな位置を特定しようとする。
微弱なダメージでも警戒を覚えた深海凄艦は、三隻でアーセナルを取り囲もうと動いていた。アーセナルは機銃を再度仕舞い、潜水する。
潜る彼女の上を、二機のレイが泳ぐ。
囮のレイに、深海凄艦が釣られた。
三隻の一斉砲火が始まる。レイは潜って回避するが、数発が体を掠め、腕とも羽ともつかないパーツを破損させた。
瞬間、入れ替わりでアーセナルが真下から浮上する。
砲撃直後の隙を狙い振り下ろされたブレードが、顎を切り落とす。ばしゃんという音と共に、残る二隻の目線が揺れ動く。
死角に回り込んだレイが、海面から美しい跳躍を見せ、背中に飛び蹴りを叩き込んだ。戦車よりも重量のある一撃は、駆逐艦の姿勢を崩すには十分。胴体に向けて放たれた水圧カッターが、背中を縦に引き裂いた。
だが、息吐く間もなく、更なる砲撃と雷撃がアーセナルとレイに迫る。
しかし敵の砲撃に呼応するように、アーセナルの背後から砲撃が飛来した。第六戦隊の援護だ。
突破できる、いや、しなくてはならないのだ。アーセナルもまた、暗幕を開き、舞台袖に入り込んでいく。
暗幕の裏で、蠢いているものがいた。
無数の敵に向けて突撃するアーセナルの背後から迫る影、それは挟み撃ちをかけようとする深海凄艦の別働隊だった。
何も空母棲姫は、意味なくサボ島沖に誘導した訳ではない。
露骨なまでに配置された見張りの深海凄艦は、背後から接近する伏兵が気付かれない為の囮だったのだ。
アーセナルもG.Wも、その可能性は考えていた。
しかし現状の戦力やショートランドが陥落する時間制限を考えると、あえて罠の渦中に飛び込む他なかった。選択肢を絞り込み、行動を予想する。
深海凄艦は史実へ状況を似せることで、青葉たちを、彼女たちの意志に関係なく罠にはめたのだ。もはや回避はできない、と旗艦を務める戦艦ル級flagshipは、白い能面をぐにゃりとゆがめ、頬にひびを入れてみせた。
アーセナルギアは深海凄艦、艦娘。その両方にとっての天敵だと、空母棲姫は仰っていた。その意味は分からないし、深く考えるほどイロハ級の意志は強くない。何でもいい、姫の意志とは私の意志だ。
配下の深海凄艦に指示を出したル級は、両手に備え付けられた盾のような主砲を、遥か遠くの彼女たちに向ける。
彼女に続き、深海凄艦が雷撃や主砲の発射準備に入る。肌がひりつく緊張感、放熱が肌を焼く感覚。甘美な痛みに唇を舐め、ル級は静かに叫んだ。
叫ぼうとして、異常に気付く。
砲撃音がしない。
代わりに何か、ピチャンピチャンと水滴の音が聞こえる。
幾つもの水滴が、小雨のように耳を鳴らしている。
しかしそれは雨ではなく、血が滴る音だった。
暗闇から、タ級の首が幽霊のように現れた。
光っていた眼球は死んだ魚みたいに虚ろで、真っ直ぐに切り離された首から、血がとめどなく溢れている。
彼女の長い白髪が、首つり自殺のロープみたいに、上に真っ直ぐ伸びていた。
「怒られるな、だがこれぐらいしても良いだろう」
髪の毛を掴みながら、
「悪いのは奴だ、こんな状況を観続けろなど、私には過酷過ぎる」
暗くて輪郭のハッキリしない
「だが、良い夜だ。お前はどう思う?」
そういえば、何故空母棲姫はアーセナルたちをわざわざサボ島沖へ引き込んだのだろう。誘導するならヘンダーソン飛行場から離れた場所の方が良かったのではないか。初めて抱いた疑問を抱えて、ル級の首は転がって行った。
始めは絶望的な気持ちだった、心の大体は勝てる訳がない、逃げた方がまだ懸命だと血眼で叫んでいる。例えやるしかないとしても、常に否定的な感情が渦巻いている。敵陣を掻き分ける青葉は、そう
なけなしさえ言い過ぎな勇気を担いで突撃してみれば、深海凄艦は次々と沈んでいく。夜戦という重巡に有利な環境、多すぎる深海凄艦同士のフレンドリーファイア。危惧していた挟み撃ちが一向に起きない。
それらが上手く作用し、青葉たちは徐々にだが確実に、ヘンダーソン飛行場への砲撃地点に向けて進路を進めていた。
安堵の息を漏らしかけた青葉の真横に、いきなり軽巡ツ級が現れた。いや、夜戦での戦いは全ていきなりだ。瞬間青葉は一泊速度を落とし、目の前を通過する雷撃を切り抜ける。雷撃をかわされたツ級が砲撃する間に、20.3連装主砲を叩き込む。
頭部のなくなったツ級が、棒立ちのまま真後ろへと倒れ込んだ。その背後には、また別の深海凄艦が主砲を構えて待ち伏せていた。再装填は間に合わない。雷撃しかない。そう判断しかけた青葉の横を、別の雷撃が突き抜けた。
「下がって青葉!」
叫ぶが先か、爆発が先か。伏兵を排除した古鷹はそのまま青葉の真横を通過していく。
「あっちに移動して、囲まれかけている」
「了解です、古鷹さんも!」
青葉は同時に魚雷を撒き散らし、深海凄艦の接近を阻む。その隙を突いて、二隻が包囲陣から脱出する。獲物を逃がした深海凄艦は、今度は徒党を組み、分厚い壁で青葉たちを沈めようと迫る。
刹那、壁の中に何かが切り込んでいった。
数秒後、分厚い壁が崩れた。中央から裂けていく陣形の中心には、二振りの刀で軌跡を描くアーセナルがいた。
「すごい」
青葉と古鷹は、そう感嘆した。
彼女は今、耐久力は生身の人間と同じだ、砲撃どころか接触しただけで、全身の骨が砕けて死んでしまう。
そんなリスクを抱えながら、勇猛果敢に戦場を駆けるアーセナルの強さが、眩しかった。一体どうすれば、そんな勇気が湧いてくるのだろう。G.Wはレイテの英雄に縋っていると言ったが、それでも尚、目の前の彼女に対する憧れは消えない。
「――ッ! また来た! 別れるよ青葉!」
「は、はい!」
憧から目を離し、青葉は距離を取る。その一瞬、古鷹と目が合いそうになり――とっさに別の方向を向いてしまった。
馬鹿、今のはアイコンタクトだ。
慌てて見直すも、もう古鷹は闇に消えていた。
何時もそうだった。
彼女と目を合わせようとすると、一瞬だけ別の方向を向いてしまう。目を逸らしてしまうのだ。
私の行動は全て、贖罪のため――過去のためでしかない。
過去の意志の代理人でしかない。
しかしそれでいいと思う。だって、私のしてきたことを考えれば納得だ。古鷹を殺し、加古を殺し、衣笠もみんなみんな、見殺しにしてきた。そんな私が自分の意志だと? 冗談もいい加減にしろ。
無意識の内に、青葉は深海凄艦を撃ち殺していてた。
敵の動きが鮮明に見え、世界がスローに感じる。極限の集中状態か、もしくは余計な感情が削げ落ちたのか。いける、と思い青葉は敵の中心へと踊り出た。
アーセナルのような戦いを青葉はしていた。
だが、青葉の眼は虚ろだった。戦士ではなくただの重巡青葉、いやそれよりも無機質な機械として、殺戮の機械として主砲を装填し、雷撃を発射していた。ベルトコンベアを流れる敵艦に、砲撃をはめ込んでいく作業に青葉は没頭する。
何度も何度も繰り返すうちに感覚がマヒしていく。スローになっているのは視界、感覚? 怒声と悲鳴と砲撃音が混ざる。私が戦場に融けていく、主砲を淡々と撃つ。
「青葉後ろ! 敵がいる!」
ハッと、意識が戻った。
目の前には古鷹の影、背後には深海凄艦。
しかも敵影の主砲は、あらぬ方向を向いている。
「敵はまだこちらに気づいてないよ!」
主砲が飛ぶ、吸い込まれて行き、敵艦が沈む。また沈んだ、と暗い感情が喉から込み上げてくる。後どの位、機械になっていればいいのだろう。だが古鷹が無事ならそれでいい、そう思いながら青葉は振り返った。
「――え?」
古鷹が、こちらへ主砲を向けていた。
いや古鷹ではない、あれはただの、重巡ネ級だ。
どうして?
敵と味方を?
夜戦の暗闇が?
不味い、間に合わない、見間違えで私は沈むのか――
まさか、と青葉は虚空へ手を伸ばした。
その手を探照灯の明かりが照らし、景色を浮き彫りにする。眼前に広がっていた光景を、青葉は知っていた。
「いや――」
古鷹が、探照灯を照らしながら、私の前に立っていた。
根拠のない噂に過ぎない。けど、このシチュエーションは紛れもなく、間違いなく。あの時と同じだ。
影が、バラバラにはじけ飛んだ。
どうしようどうしようどうしようどうしよう――
ボロボロになってしまった古鷹を抱えながら、青葉はその場でガタガタ震えていた。何てことをしてしまったのだ私は、また、また彼女を沈めるのか。
「しっかりしろ青葉!」
「古鷹はまだ生きてる!」
青葉に異常な叫び声を聞いた二人がフォローしてくれるが、依然体の震えは止まらない。
「何があった……古鷹!?」
「大丈夫……だよ、アーセナル」
弱々しい声で手を伸ばす古鷹の姿で、やっと青葉は正気を取り戻す。
「古鷹、青葉は、青葉は……!」
「……今、だよ」
古鷹が手を伸ばしているのは、アーセナルではなかった。更にその先の、ヘンダーソン飛行場。無数に見えた艦隊に、僅かな突破口が生まれていた。散々沈めた成果が、現れているのだ。
「私は、大丈夫だから……」
「大丈夫って、嘘を言わないでください!」
どの口が。一瞬そう思った青葉の頬を、古鷹の両手が包み込んだ。
「青葉、私は、貴女に言わなきゃいけないことがある」
「古鷹……?」
「だから、お願い、帰ってきて」
何を言っているのかさっぱりだった。向こうの勝手な約束事に反論する理由は、ポンポン浮かんで来た。だが、一つも口には出さなかった。
「作戦変更だ、飛行場の爆撃は加古と衣笠、同時に古鷹の護衛を行え。見たところ、自力航行はギリギリできる」
「できるのかい?」
「移動補助と護衛にレイを一機つける、だが代償に囮の戦力が減る、補充しなければならない。分かるな、青葉?」
流れそうな涙を、今は押し隠した。
S3、運命の軛。どちらも過去を制御するシステムらしい。私の意志に関係なく、事体は進んでいく。そういう意味では、私の意志はまだあるのだ。制御されていない私の意志が。
「青葉、出撃しちゃいます!」
これは私の意志だろうか。
それでも、と青葉は、必死の思いで力いっぱい叫んだ。
〈空母棲姫の反応が近い、警戒を怠るな〉
〈貴様に言われるまでもない〉
〈大本営のデータベースによれば、空母棲姫は空母棲鬼という個体が追い詰められた姿らしい〉
〈レイテの時私が沈めたあれか〉
〈だが見た目に騙されてはならん、装甲、火力、あらゆる面で強化されている。今の君では勝ち目は無い。青葉と協力し、ヘンダーソン飛行場が陥落するまで耐えるのだ〉
〈データベースになにか弱点はなかったのか?〉
〈あれは艦種でいえば正規空母にあたる。無限に等しい搭載数と、それにものを言わせた圧倒的射程と火力。レイが全機発艦できていれば、艦載機を全滅できたかもしれないが〉
〈私は弱点を聞いているんだ〉
〈空母棲姫は君が見た通り、水上バイクのような艤装に搭乗している。だからどうしても、足元が死角になる。そこを起点に、何か仕掛けることは可能かもしれない。だが当然随伴の護衛艦隊も待ち構えている〉
〈了承ずみだ〉
〈何度も言うが、今の君は生身の人間と大差がない。機銃一発でも当たるなよ〉