【完結】アーセナルギアは思考する   作:鹿狼

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File22 スペクター

 うっそうとしげったジャングルの中は、海とはまるで違っていた。

 風が吹く度に、葉がこすれ、枝が揺れ、生き物がなく。止んだ時もその反動で揺れて、また雑音が静寂を呑み込んでいく。

 

 いや、それがここにとっての静寂なのだ。雑音に満ちた世界こそ、この世界の普通なのだ。

 海とは全てが違う。見渡す限りの地平線、圧迫している木々の群れ。照り返す太陽、光を遮る葉の数々。

 

 油断すれば静寂ごと呑まれそうな中、神通はスネークのあとを歩いていく。

 騒音に身を任せ、静寂となったスネーク。目の前にいるのに、消えているように存在感がない。

 早く開けた場所に出たい、素直な感想だった。

 

 

 

 

―― File22 スペクター ――

 

 

 

 

 アーセナルギアは、自分をスネークと呼ぶように言った。強制はしないし、どちらでもいいとも言っていた。軽く考え、神通はスネークと呼ぶことにした。自分を含む少数しか知らないアーセナルの名前、何となく親しくなれた気がした。

 

「G.Wの情報によれば、あれが敵の潜伏地点だ」

 

 スネークが渡してきた双眼鏡を、神通も覗いた。物音は森の雑音ぐらいだが、人影が動いている。そこだけは霧が薄く、遠くからでも何となくだが分かる。森の中に唯一開けた場所があり、小さい小屋が幾つか立ち並んでいる。

 

「敵影は少ないです」

 

「あくまで一時的な中継地点、ということだろう」

 

 敵の本拠地が乗っ取られたアリューシャン列島なら、単冠湾泊地からかなり距離がある。休みなしで行くには、人の身は過酷過ぎる。明石を奪還できるとしたら、今のタイミングしかない。

 

「姉さんたちは?」

 

「まだつけてないらしい、我々が先に行く」

 

 スネークが小走りで駆けだした、慌てて神通も後を追う。彼女たちの足音は、森のざわめきが消してくれた。一つ目の小屋に張り付いたところで、スネークが耳を叩く。無線機をつけろということだ。

 

〈時間が惜しい、二人で別々の小屋を確認していく〉

 

〈……分かりました〉

 

 一瞬間が空いてしまった。敵が少ないのは分かっている。しかし小屋の影から敵が現れて、平静でいられる気がしない。

 

〈大丈夫だ、何かあればすぐに助ける、必ずだ〉

 

〈ありがとうございます〉

 

〈……気にするな〉

 

 スネークの返事にも間が空いていた。少し気になったが、こちらへ近付く足音に、疑問は飛んでいった。目を合わせ、スネークとは別の小屋に向かって移動する。

 川内型の艤装は、腕に沿う形で主砲が装備されている。左手で右手を抑えて、震えを堪える。

 

 扉が音をたてないよう、ゆっくりと開けた。

 小屋の中は、小さくなどなかった。地下への階段が伸びていたのだ。ということは、この辺り一帯に地下通路が掘られていることになる。厄介なことになるかもしれない。

 スネークからも似た内容の無線が入る、彼女は別の入り口から明石を探すと言った。神通もそれに習い、唾を呑み込みながら階段を下りた。

 

 途中なんどか、冷や汗をかくことになった。どれだけ歩いても、地下空間に、敵兵は見当たらない。代わりに無数の罠が仕掛けられていたのだ。海岸線や森の中と同じだ。しかし――敵艦隊がキスカに一時上陸したのは、ほんの数時間前だ。そんな時間で、これだけの罠が仕掛けられるものなのか。

 

「いたか?」

 

 それらを回避している内に、スネークと再開してしまった。ほとんどの部屋を見たが、何も無かった。

 

「あと残っているのは、この部屋だけか」

 

「敵兵はいたんですか?」

 

「いるにはいたが、全員黙らせた。トラップに重点を置いた警備だな」

 

 どうかここに居てくれ、そう願いながら神通は扉を開けた。果たしてその祈りは通じたのか、通じたが――相応の代償を払うものだったのか。

 

 確かに、明石はいた。

 しかし、喜びの声は、驚愕に打ち消された。部屋の奥で彼女は項垂れていた、手錠に繋がれた右手が、宙刷りの首のように延びている。全身傷まみれで治療もいる、一か所を除き。

 

「そんな」

 

「連中は、何故こんなことを?」

 

 スネークの疑問は、憤怒ではなく、純粋な疑問だった。何故ピンポイントでやるのか、分からなかったからだ。

 明石の左手が、肩からなくなっていた。

 その部位は火傷の傷で止血されている、撒かれている包帯も綺麗だ。だが入渠で治るか分からない。

 

「……だ、れ……?」

 

「明石さん、私です、神通です、助けに来ました」

 

「……わたしの、手、が……」

 

 虚ろな目で、明石が首を動かした。

 死体の首が、ごろりと動いた。

 工作艦の命は手、その片方が無くなった明石は、死んでいるのと同じだ。いやまだ半分は生きている、神通は助け出す意志を強くする。

 

「明石、何があった、誰にやられた?」

 

「……綺麗な、て、って」

 

「綺麗、だと?」

 

「あいつ、誰か分からない、けど、言ってた。工作具で擦り切れた、理想的な、手だって。お礼まで、言って、私の腕を、腕を……あ、手が? 何で……!?」

 

「分かった、もういい、大丈夫だ」

 

「……本当に、大丈夫?」

 

「ああ、心配するな、我々に任せろ」

 

 と言ったのを皮切りに、明石の意識はプッツリ途絶えた。いったい何が起きたのか、今のだけでは想像がつかない。左手だけ奪い取ることに何の意味があるのか。様態が落ち着いたら聞き直さないといけない、その為にも逃げなければ。

 

「明石はお前がかつげ、援護は私に任せろ」

 

 固そうな手錠だが、スネークの持つ高周波ブレードなら問題ない。どんな鋼鉄でも両断する神通の知らないテクノロジーだ。

 それを手錠に触れさせた途端、凄まじい爆音で、サイレンが鳴り響いた。

 

「な……!?」

 

 地下全体が揺れているようだった、まさか、手錠を切ることが、サイレンのスイッチを入れたのか。用意周到すぎる。

 

「すまない、地獄を見る羽目になりそうだ」

 

「失敗を悔やむ暇はないですよ!?」

 

「それもそうだな」

 

 実際そうだ、悩んでいる暇はない。全力で走らなければ、手遅れになる。明石の呼吸を背中で感じながら、神通は踏み出した。

 スネークと共に走る彼女の姿は、いつかの光景に似ていた。

 

 

*

 

 

 地下室を飛び出した神通たちを出迎えたのは、近隣を警備していた全ての深海凄艦だった。目の前にいるのは四隻、ぼやぼやしていたらまだ増える。神通はなりふり構わず、腕に並んだ主砲を斉射した。この至近距離なら撃ったもの勝ちだ。

 

 艦に積むような砲台の威力は凄まじく、一発で敵を消し、地面を抉り、木をなぎ倒す。しかしそれは敵も同じだ、一隻がやられたのを見て敵艦は散開し、神通たちを取り囲むように動きはじめる。

 

 スネークが両手から高周波ブレードを抜き、二刀流の構えをとる。深海凄艦にだってスネークの噂は広まっている、姫級の装甲さえ切り裂くオーバーテクノロジーは、十分敵を怯ませた。

 

 瞬間、合わせるように神通は再度主砲を撃つ。怯んだせいで回避が遅れ、狙った一隻がまた沈んだ。だが死の間際に、返しの砲撃が撃たれていた。

 

「伏せろ!」

 

 主砲が動き、発射を予測したスネークが、ブレードで砲弾を切りさいた。二つに分かれた砲撃は神通の左右に着弾する。衝撃に明石が呻き声を上げた。

 

「……逃げて、早く」

 

「分かっている、だがまずこいつらを」

 

 庇っている間に、挟み込まれてしまった。どちらかでも倒さなくては逃げられないのだ。その時、神通は気づいた。背中の明石が異常に震えていることに。

 

「『亡霊(スペクター)』が、来る……!」

 

 あいつら? と首を傾けた瞬間、スネークが神通の体を押し倒した。

 直後、無数の砲撃が降り注いだ。

 深海凄艦も巻き添えにしている、無差別攻撃だ。地面どころか島ごと揺らす、戦艦級の主砲が放たれていた。

 

 何とかしのいだ神通は、顔を上げる。

 森と霧の奥から、砲撃を撃った影が四つ歩いてくる。味方もお構いなしに撃ち抜く深海凄艦に、神通は怒りを覚えた。

 

 ――が、その姿を見て、神通は言葉を失った。

 

「あれは……!?」

 

「戦艦レ級、まさかあの時の個体か」

 

 レ級が、四隻で歩いて来た。

 

 それだけでも絶望的だ。

 なにより、あの車の中で襲ってきた、不死身のレ級を思い出してしまう。スネークも同じ敵を連想したらしい。

 

「確かめてやる」

 

 マントに覆われていたスネークの肩から、触手が伸びた。

 それはスネーク・アームと呼ばれる、使用者の意図のまま動く機械の腕だ。見た目に反してパワーもある。アームがレ級の足を掴んだ一瞬で、スネークはレ級の頭を切り飛ばした。だが――

 

 ()()()()レ級は、生きているように腕を伸ばしてきた。

 頭部がなくなっても、しばらく動くことはある。だが、これは、一目で異常と気づいた。見間違いなどではなかった、不死身のレ級は確かにいる。しかも四隻。

 

「先にいけ神通!」

 

「スネーク!?」

 

「どうやっても時間はかかりそうだ、そんな暇はないだろう?」

 

「死なないんですよ!?」

 

「なら、動けなくなるまで細切れにする」

 

 と、スネークは突撃した。考えることを止め、神通は反対方向へ走り出した。爆音と衝撃が後ろから響く、彼女を信じよう、大丈夫、あの人は英雄アーセナルなのだから。そう何度も半濁し、海岸線に向かう。

 森を通らない分、道は真っ直ぐだ――いや待て、海岸の地雷はどうすれば? 海が見えた時、そのことを思い出した。

 

「神通、こっちにゃ」

 

 視界の端に、大発動艇を連れた多摩がいた。複数個あった大発が、ボロボロの状態で乗り上げている。

 一度大発を無理やり通らせて、地雷を全て起動させたのだ。大発の跡にはもう地雷はなく、そこを辿れば安全に歩ける。

 

 スネークを助けに行きたいが、明石の治療もしなくてはならない。敵から大発を守る方が優先だ。神通も乗り込んで、大発が発進する。

 また霧が濃くなってきている、脱出する側からすれば、好都合だが。しかし何か、嫌な予感がしてならない。

 

 その予感は、最悪の形で当たることになった。

 

「雷撃にゃ、急旋回」

 

 振り落とされるかと思った、が、直後本当に振り落とされかねないほどの爆発が起きた。ギリギリのところで、魚雷が爆発した。捕捉されてしまっている。神通は息を整える暇もなく、海面に降りる。

 

「任せていいにゃ?」

 

 自信満々に返事ができればなあ、と神通は思った。しかし、譲ることはできない。彼女の様子を見た多摩が溜め息をつくと、大発の中を漁り出す。

 

「預かりものにゃ、持っておくにゃ」

 

「これは?」

 

「スネークの暗視ゴーグルにゃ、これとレーダーを組み合わせれば、霧の中でも戦えるにゃ」

 

「多摩さん……」

 

 お礼を言おうとしたが、彼女は無表情に手を振った。

 

「にゃあ」

 

 大発動は、まっすぐ島の外へ消えていった。

 あっと言う間に見えなくなった、神通の意識は、霧の中から現れた――最悪の敵に、集中する。

 

 人型の影が、鮮明に見えている。

 霧を鏡にして、自分の姿を見ているようだった。それを自分と認めるわけにはいかない。あってはならない。あり得ない。意識しない内に、奥歯を強く噛み締めていた。

 

「軽巡、棲姫……!」

 

「自分ト話スノハ、アル意味新鮮ネ……貴女モ、ソウ思ワナイ……?」

 

 

*

 

 

 今すぐ、主砲でもなんでも叩き込みたかった。

 あの仮面を剥ぎ取って、どんな顔をしているのか拝んでやりたかった。だがそれをするには、実力がかけ離れている。

 新米の私と、青葉さんを育て、改二になっている那珂と同期だった彼女。怒りがなければ、震えていたかもしれない。

 

「なぜですか」

 

「ナンノ話カシラ……?」

 

「なぜ裏切ったのか、と聞いているんです」

 

 時間稼ぎの意味が強かったが、聞いてみたいことでもあった。私と同じ神通が、なぜ裏切り深海凄艦側についているのか。

 

「ソンナコトヲ、キニシテイルノ?」

 

「貴女は、私と違ってもっと強かったと聞いています。誰よりも、本当の意味で強い人だったと」

 

 新米で力のない、むしろ守られる側の自分とはまるで違う彼女に、神通は憧れていた。同じ艦なのにかけ離れている実力に嫉妬もした。だからこそ、彼女のようになりたい思いは、強くなる一方だった。

 

「……フフフ、アンナノハ強サジャナイ、馬鹿ダッタダケ」

 

「ば、か?」

 

「ソウ、馬鹿。何モ知ラナイデ喚イテタ馬鹿。仲間ダノナンダノ、アリモシナイ物ニ縋ッテイタ……」

 

 仮面の下の顔が、一瞬悲しそうに見えた。

 彼女は何を見たのか、一度沈んだあとで、何を知ってしまったのか。それを考えようとして、神通は首を横に振る。

 

「貴女ハドウナノカシラ……?」

 

「貴女が、私の憧れるような方でないことは分かりましたよ!」

 

 不意打ち気味に放った主砲は、容易く躱されてしまった。多摩から通信が入った、大発はあと少しで安全圏まで出ると。もう時間稼ぎの必要は無い――しかし、こいつはここで沈めなくてはならないのだ。

 

「野蛮、ネ……」

 

「せめて、私の手で沈めてあげます」

 

「ヤレルモノナラ、ヤッテミナサイ……」

 

 途端に足元で爆発が起きた。

 音もなく、いつの間にか魚雷が発射されていた。会話で時間を稼いでいたつもりが、逆に注意を逸らされていた。冷静にならなくては、相手が相手とはいえ、沈んだらどうしようもない。

 

 爆発で起きた水しぶきが、視界を覆う。

 その間に、軽巡棲姫は霧のなかに隠れていた。何せ岩陰を敵艦と見間違えたほどの濃霧だ。一瞬で影も形もなくなってしまった。だが、それは敵も同じだ。むしろ装備の関係で、私の方が有利だ。

 

 神通は多摩から貸して貰った暗視ゴーグルを装備する。北方の冷たい海と、艤装の熱。敵艦の姿はすぐに見えた。だが、一隻ではない。数体の駆逐艦が、軽巡棲姫を取り囲んで動いている。

 

 影の群れから、一瞬だけ熱源が見えた。

 すぐに海に沈んで消えた、ということは魚雷だ。発射された時の数からいって、かなり広範囲にまかれている。ゴーグルがなければ、気づくのが遅れていただろう。神通は全力で距離をとり、雷撃の合間を縫う。

 

 お返しに主砲を撃とうと思ったが、止めておいた。わざわざ場所を教える必要はない。スネークのように霧に身を隠しながら戦おう。数的には不利なのだから。

 神通は一発だけ、魚雷を発射する。撃ってから移動すれば、場所は露見しない。その分敵艦の移動を予測しないといけないが、無理とも言っていられない。

 

 だが、魚雷は敵にも誰にも当たらずに爆発した。

 

〈残念、ネ……〉

 

 何故、周波数を知っている。

 

〈驚イテイルノ? ダッテ私ハソッチニイタノヨ? 共用ノ波数ハシッテイルワ……〉

 

 そうだろう、だが今使っているのは独自の周波数だ。

分かる訳がない、神通はふと、スネークが言っていたディープ・スロートなる人物を思い出した。彼(彼女?)も秘匿された無線にかけてきたらしい。まさか軽巡棲姫と密告者(ディープ・スロート)には繋がりが?

 

〈考エテイル暇ハ、ナイワヨ……?〉

 

 立て続けに、主砲が飛んできた。

 慌てて動きだし、逃げようとするが、すんでのところで思いとどまる。魚雷が勝手に爆発した理由。それを知らないで逃げるのは、危険過ぎる気がした。

 

 結果から言って、その判断は正解だった。

 壊れるのを覚悟で覗き込んだ水中に、答えがあった。そうか、どうりで爆発が普通より大きかったわけだ――納得より、驚愕の方が大きかったが。

 

〈神通ちゃん、聞こえている!?〉

 

〈こんな時になんですか!?〉

 

〈今海上にいるの!?〉

 

〈そうですよ、軽巡棲姫と戦ってるんです、通信切っていいですよね!?〉

 

〈軽巡……あ、じゃあ一つだけ、海の中に注意して〉

 

〈深海機雷のことですか!?〉

 

〈気づいてたの、なら良かった!〉

 

 信じられない、キスカに上陸してから今に至るまでの間は、一時間もなかった。

 なのに、海中は大量の深海機雷で埋め尽くされていた。泊地正面海域の時と同じだ、よほど罠に長けた深海凄艦がいるらしい。

 

 魚雷は、これに引っ掛かって爆発したのだ。那珂は応援に行きたいが、機雷のせいで上手く進めないと伝えたかったのだ。下手に動き回ることさえ難しくなるとは。一歩動けば、リスクが高まる。

 

 再び暗視ゴーグルをつけた神通は、あるものを見つけた。

 海面に、熱源が道のように延びている。

 ――軌跡だ、敵艦が通ったあとの軌跡だ。つまりこの上に機雷はない。大発でこじ開けた道と同じだ。

 

 敵がどんなやり方で機雷を回避しているかは分からないが、さすがに艦が通れる道は空いている。この先に敵艦もいる。チャンスだ。というよりそれは、アリアドネの糸に縋っているようだった。それでも進むしかない。

 

 機関を回し、速度を最大まで上げる。

 艤装が熱を吹き出すのも気にせずに、神通は突っ込んだ。主砲と魚雷をいつでも撃てるように、霧の中の熱源を睨み付けて。

 

〈サーマル、ネ?〉

 

 だが、その目論見は露見していた。

 

「――っあ!?」

 

 サーマルビジョンが、真っ白に染まった。

 熱源を探知して映像化する装置が、神通の視界を奪い去った。サーマルゴーグルは名前の通り、赤外線によって熱源を探知する装置だ。そして赤外線は、光にも含まれている。

 

 よく使っていたから理解した。

 今直視してしまったのは、『探照灯』の光だ。何も見えない、激痛が走る。よりにもよって、真正面から見てしまった。潰れたかもしれない――だが。

 

「止まると、思いますか!?」

 

 真正面にいるのは確かなのだ、目が潰れようとも、場所は分かる。

 無我夢中で神通は、持てる火力の全てを叩き込む。

爆発が、霧の中で吹き荒れた。




―― 140.85 ――


〈しかしスペクター、か〉
〈急にどうした、G.W〉
〈いや、中々良い呼称だ。これからはそう呼ぶのが良いだろう〉
〈どういうことだ?〉
〈スペクターとは、亡霊という意味だ。死んでいるのに動き、思考などしないのに統率されている。遺伝子にも模倣子にもよらない怪物、正に亡霊艦隊(スペクター)だ〉
〈亡霊だろうと何だろうと、四肢までもげば動けなくなる。そうなるまで切り刻んでやる〉
〈それだけではない、スペクターにはもう二つ、意味がある。一つはF-110、米海軍の戦闘機ファントムの、空軍からの呼称だ〉
〈なるほどな、でもう一つは?〉
〈映画だ〉
〈映画だって?〉
〈そう、イギリスのスパイ映画『007(ダブル・オー・セブン)』に登場する敵組織。対敵情報活動・テロ・復讐・強要のための特別機関、それぞれの頭文字を取って、S.P.E.C.T.R.Eになる。この組織もまた愛国者達と同じ、実態を持たない幽霊だ〉
〈どこぞの少佐が喜びそうなことだ〉
〈そうだな〉
〈…………〉
〈どうした〉
〈いや……まさか、愛国者達の発想がこいつらから来てるのではと思ってな〉
〈幾ら我々の創造主が007好きだからと言って、それはないだろう……多分〉
〈多分かよ……ああもう良い、任務に戻る〉
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