【完結】アーセナルギアは思考する   作:鹿狼

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File26 影のモセス

 シャドー・モセス、と謎めいた単語を呟いた瞬間、スネークは倒れた。胸から血しぶきを吹きながら、ぐらりと彼女の巨体が崩れ落ちる。神通は、呆然とその光景を見守っていた。彼女の死が、スローモーションで再生される。

 

 地面に倒れ、指一つ動かなくなった体を中心に、赤い水たまりができあがった。べたべたした血は広がり、神通の足元まで塗らす。スネークと一緒に、自分まで止まったような気分だった。

 

 黒ローブの敵が動いた時、神通も動いた。

 報復心のような、怒りのような、混乱のような。わけの分からない力が、彼女を動かしていた。

 

 

 

 

―― File26 影のモセス ――

 

 

 

 

 黒ローブは再び、ナイフを構え突撃してきた。

 単調な動きだ、と神通は受け止めようとする。その瞬間強力なカウンターを叩き込む。できる自信はあった。

 

「違う、魚雷だ!」

 

 神通からは見えなかったが、北方棲姫からは見えた。

 ナイフと反対の手に隠し持っていた、酸素魚雷の影。気づいた瞬間、魚雷が放り投げられ、機銃が撒かれた。

 

 誘爆、このままでは巻き込まれる。

 神通はとっさに、主砲で床を撃った。

 破壊された床は瓦礫を撒き、それは魚雷の爆発から神通を守った。代わりに瓦礫の破片が飛び散り、彼女の肌に傷をつける。

 

 艤装を装備して、通常兵器が効かないのに、瓦礫で怪我を負う?

 ならこの液状化は、深海の力によるものか。敵の黒いローブも同じように、何か所か切られていた。

 

 上手くいかなかったからだろう。

 忌々しげに、小さな舌打ちが聞こえた。しかしあの距離で魚雷を使えば彼女もただでは済まない。覚悟か、それとも狂気か。

 

「神通、伏せろ!」

 

 北方棲姫の声と同時に、地鳴りが起こる。このダッチハーバーはすでに、彼女の領土へと戻っている。ダッチハーバーこそ、彼女そのものだ。

 

「建物モロトモ、埋モレテシマエ」

 

 ダッチハーバーに設置された固定砲台が、旋回する音だった。

 戦艦の主砲に匹敵する砲撃は、中央棟そのものに放たれた。神通は発射音が聞こえると同時に、スネークを抱えて中央棟の窓を突き破る。

 

 直後、中央棟は粉々に吹き飛んだ。

 凄まじい火力だ、軽巡とは比較にならない。仮とはいえ、北方棲姫が味方で良かったと、素直に感じる。

 

「……スネーク?」

 

 抱えていた彼女に、何か違和感があった。

 しかしそれを確かめる間もなく、追撃が始まる。自覚した時はもう、黒ローブの手が真下から生えていた。そして神通の足首を、力強く掴んだ。

 

 あの砲撃を受けたあと、瓦礫の中を掘り進んできたとでも言うのか。

 逃げようとするが、凄まじい力のせいで逃げられない。それでも諦める気はなかった。違和感を確かめないといけない。

 

 やはりどうやっても、そうなのだ。

 仲間を見捨てることなど、生理的、いやもっと深く、本能的に許してくれない。それがあの罪を背負う、『神通』という存在なのだ。

 

「すみませんスネーク、お借りします」

 

 神通が借りたのは、スネークの腰につけられた高周波ブレードだった。引き抜いた途端それは微振動の高周波で、獰猛な獣のように唸る。彼女はブレードを、迷いなく黒ローブの腕に振り下ろした。

 

 スネークの時と同じく、激しい血しぶきが手首から吹き荒れた。

 手首は切断までいかず、深い切り傷を作ったに留まる。それでも激痛に敵は一瞬動きを止めた、今がチャンス――本当か、と踏み止まる。

 

 ローブの下には、まだ魚雷があった。

 内部に搭載された機銃は、内側を向いている。迂闊に接近したら、自爆に巻き込まれていたわけか。

 

 敵は幽霊のように立ち上がる。

 体は傷まみれで、あちこちから出血している。北方棲姫の砲撃のダメージは十分だった。そこまでしても、止まらないのか。

 

「貴女は、誰なんですか」

 

 黒ローブは答えない。

 

「どこの勢力なんですか、何故襲ってくるんですか!?」

 

 深海凄艦か、米艦娘か、いや忍者の仲間?

 まず神通はその正体を暴きたいと思った。この北方での戦いは隠し事だらけだ、敵が合衆国の艦娘だったこと、深海凄艦と彼等が手を組んでいたこと、そして核弾頭。このまま知らないまま戦っていいものなのか。

 

 しかし黒ローブは再びナイフと魚雷を構え、神通へと襲い掛かる。

 

「北方さん、手を出さないでください」

 

 あのフードを剝くには、一撃で気絶させるしかない。

 向こうから近づいてくるなら、好都合だ。

 神通は主砲も機銃も構えず、黒ローブと相対する。撃ったら確実に誘爆するだろう。

 

 敵はゆっくりと歩きながら、機を伺っている。相手もこれで決める気だ、恐らくまた、特攻まがいの攻撃で、トドメを刺しにくるだろう――ならば、神通は誘爆しかねない機銃を撒き散らした。

 

 しかし今爆発しても、神通も北方棲姫も巻き込めない。無駄死にになる、それは嫌だろう、自爆してもいいぐらいの覚悟なら尚更。だから敵が次に取る行動は一つ、機銃の隙間を練っての突撃だ。

 

 予想通り、それは来た。

 同時に神通も、深く、一歩踏み込み距離を詰める。あと少しで顔が見えてしまうぐらいの距離は、格闘術を――CQCを仕掛けるには完璧なタイミングだった。

 

 見様見真似の、リスペクトでしかない。それでも可能になったのは、神通という艦の才能もあった。だが再現までこぎつけたのは、彼女自身の淡い憧れなのは間違いなかった。

 

「――まだだ!」

 

 しかし、敵の執念も凄まじいものだった。

 一撃で意識を刈り取る勢いで、地面に叩き付けたのに、まだ意識がある。まずい、機銃が動きだしている。自爆が起きる!

 

「いや、終わりだ」

 

 誰かの声と共に、敵は空中へ投げ飛ばされた。突然のことに受け身も取れず、地面に激突する。そして彼女は瞬く間にブレードを振るい、体に巻き付いていた魚雷を切り離した。そのブレードは、高周波ブレードだった。

 

「スネーク!? どうして!?」

 

 確かにしぶきのような血が溢れ出たはず。

 

「あれはメタルギア・レイのナノペーストだ」

 

 スネークが従える自律兵器ことレイには、自己修復用のナノペーストがある。同じ機械的存在、彼女はそれが自分にも使えないかと思い、スニーキングスーツの下に仕込んでいたのだ、ナノマシンの赤色が、血に見えたのだ。

 

 実際に使ってみたところ、軽い傷なら治癒できると分かった。これで長時間入渠しなくて済む、とスネークは小声で喜んでいた。しかしすぐ気を取り直し、床で呻いている敵を睨み付けた。

 

「さて、ナノペーストが使えると教えてくれた礼をしなくては」

 

 スネークが、黒ローブの服を掴み取る。

 

「その顔、見せて貰う」

 

 勢いよく引かれた黒い暗幕は、ゆっくりとはためいて開いていく。見る人たちをじらし、現れた役者。ローブの中にいた人物を目の当たりにして、スネークと神通は、思わず瞼をこすり、もう一度それを見た。

 

「お前だったのか、伊58」

 

 偵察として潜りこみ、連絡が取れなくなっていた伊58が、こちらを睨んでいた。痛みでうるんだ瞳だが、鋭く敵意に満ちた顔が、真っ直ぐに写る。

 

「……どうして?」

 

 それは神通の、悲鳴と言えた。

 目の前の光景を信じたくない、と何度思ったか。しかし今のは群を抜いている。よりにもよって、信じていた仲間の裏切り。忌々しい軽巡棲姫は――深海凄艦だから、と無理矢理納得できた。だが彼女は伊58、艦娘だ。仲間であるはずの、守らなくてはならない仲間が、裏切ったのだ。

 

「お前はどこの艦娘だ、合衆国か、日本か、深海凄艦か、それとも愛国者達か?」

 

「どこでもいい、もう、終わりでち」

 

「何を言っている?」

 

「もうお終いだよ、ゴーヤたちも、提督も!」

 

 憎しみに満ちた顔が一転した。

 いや、憎しみと悲しみが入り混じっている。どうしてそんなに混乱しているのだろうか、神通はこのやり取りを、白昼夢として眺めていた。

 

「提督? 富村のことか」

 

「違う、あいつじゃない、ゴーヤの提督だ、濡れ衣を着せられた……」

 

 白昼夢から神通を叩き起こしたのは、無線の音だった。伊58の懐の無線機を奪い、スネークが応える。

 

 

 

 

〈聞こえているのか、伊58〉

 

〈その声、川路か?〉

 

〈スネークか、ということはミッションに失敗したんだな〉

 

 ミッションだって? 軽巡棲姫を沈める以外の任務とは何がある、伊58はそれを遂行していたのか。混乱する神通を更に叩き落とす一言を、彼は言った。

 

〈お前何をしている〉

 

〈今しがた、富村提督を拘束した。彼ではもう役不足だ〉

 

 何故、と馬鹿みたいに反芻していた。

 分かっている、こいつは裏切ったのだと。何処の所属か分からないが、味方ではないどこかの勢力だったのだ。その現実を受け止めまいと、逃げていた。

 

〈そこに神通もいるのか?〉

 

 神通は無言だった、話したくなかったし、答えたら、本当に取り返しのつかなくなる気がしたからだ。だが川路は、無線の向こうで、神通がどんな様子か想像し、笑った。紛れもなく、嘲笑だった。

 

〈どうせ最後だ、教えてやる。お前たちは全員捨て駒だったんだよ〉

 

〈捨て駒、ですって〉

 

〈核弾頭の存在を知った時、お前たち単冠湾泊地の連中が、独断行動に走るのは予想できていた。素直に持ち帰るはずもないとな〉

 

 神通自身は、確かにそう思っていた。核は誰にも渡してはならないと。その後どうするか考えてもいなかったが、それだけは思っていた。

 

〈その結果が北方棲姫、アーセナルギアとの協力だ。恐らくお前たちではなく、核を手にするのはどちらかだ〉

 

〈それじゃ納得できないと〉

 

〈当然だ、核は我々が管理する。これを使い、戦争が終わったあとも日本が米国と対等でいるための力とする〉

 

 使う気はないらしい、それだけは安心できた。それしかないとも言えるが。

 

〈だから伊58を潜伏させた、核の場所が分かったあと、お前たちを始末できるようにな〉

 

〈どうして、彼女が従うんですか〉

 

 仲間殺しの苦痛はよく知っている、だからこそ理解できなかった。艦の時とは違う、今の私たちは、最後の逃げ道として『死』を選べるのに。

 

〈前任だ〉

 

 答えは、スネークが言った。

 

〈伊58の前の提督を、ブラック鎮守府運営の責任をとった提督を、人質に使ったな?〉

 

〈その通りだスネーク、さすがはデンセツのエイユウだ〉

 

〈ほざけ、私はお前のような奴がもっとも嫌いなんだよ〉

 

〈好きに言ってくれ〉

 

 伊58と以前の提督は、ケッコンカッコカリの直前だったのだ。

 艦と人間、遺伝子のくくりを越えた絆の証。伊58も提督も、その瞬間をどれだけ楽しみにしていたのか。

 

 だがそれは壊された、核を奪われたくない合衆国の陰謀。それと責任を押し付けられて。その上、壊れたあとも、その感情を更に弄ばれた。伊58がどうしてあんな顔で襲ってきたのか、自爆もいとわなかったのは理解できた。

 

〈だがこいつは失敗した、となれば仕方がない、核は諦める〉

 

〈意外と諦めがいいな〉

 

〈いや、綺麗さっぱり清算するだけだ〉

 

 と、無線機の奥から指鳴りが聞こえ――視界が滅茶苦茶に歪んだ。

 

「どうした!?」

 

「あ…たま、が……いたい……」

 

 頭の中が、万力でしめつけられているようだ。苦しい、息も上手くできない。視界がどんどん暗くなっていく。掠れた景色の中で、北方棲姫も同じように苦しんでいた。スネークだけが無事だ、その事実と安心感だけで、意識を紡いでいる。

 

〈貴様、なにをした!?〉

 

〈核を合衆国に奪われれば、逆にこちらの立場が悪化する。伊58が言っただろう、貴様らのミッションは失敗だと。なら証拠は消さないとならない〉

 

〈私は何をしたのかと聞いている!?〉

 

〈フフフ……虫けらのことを誰よりも知っているのはお前たち艦娘でも深海凄艦でもない、我々なのだよ〉

 

 川路は艦娘のメンテナンス、特に遺伝子絡みの調整を行っていた。正体不明の()()はその時仕込まれたのだろう。北方棲姫の治療も、あいつがしていた。唯一体をいじられていないのは、スネークだけだ。

 

〈間もなく合衆国と深海凄艦の連合艦隊が来る、別行動をとっていた川内たちは、そいつらが始末してくれる。味方のいなくなった状況で、アーセナルギアという艦は生き残れはしない〉

 

 万一生き残ったら、その時は神通たちを率いて暴走させた張本人になってもらう。と川路は笑う。

 なんてやつだ、これが国か、これが国家か。

 朦朧とする意識の中で、憎しみが芽生える。しかしそれを自覚する暇はない、今遠くの場所で姉妹が、仲間が危機に陥っている。必死に口を動かし、息を吐きつくす。

 

〈エイユウは嫌なんだろ、だからテロリストに変えてやるのだ〉

 

「……待って、下さい」

 

 無線が切れかけた時、やっと声が出た。幸いにも無線機は、小さな彼女の声を拾ってくれた。

 

〈核、が、あれば……皆生かして……くれますか……?〉

 

〈神通? 何を言っている?〉

 

〈……そうだな、核弾頭さえあれば、それに越したことはない。お前が奪ってくるというのか、既に敵が跋扈している中、単独で〉

 

〈止めろ神通、こいつがそんな約束を守ると思うか〉

 

 スネークの言っている事も分かる。ここまでされておいて、こんな可能性に賭ける私は阿保なのだろう。それでも、それしか仲間を助ける方法がないなら、迷う理由は存在しない。

 

〈私が、やります〉

 

〈完璧だ、まさにお前は『神通』だ。だが向こうは待たない、別動隊は全滅するかもな〉

 

〈貴様……!〉

 

 どうしてそこで、軽巡棲姫の名前が出てくる?

 

〈軽巡棲姫に聞いてみれば分かるさ〉

 

 無線が切れたと同時に、体が楽になった。普段と同じ感覚で動くことができる。しかし北方棲姫はまだ苦しそうにもがいている。別動隊の仲間もきっと同じだ、急がないといけない、私がやらなくてはならないのだ――それでも何故か、充足感があるのは。

 

 

*

 

 

 神通とスネークは、急いでダッチハーバーを出港した。

 北方棲姫は動けないが、基地型の力はある。自衛ならできるから、置いていけと向こうから言ってきた。さすがに彼女を守る余裕はない、言う通りにした。だが長時間持ちこたえる力は残されていない。

 

 それに、別動隊のこともある。

 彼女たちは深海凄艦の大群と交戦していたが、その途中であの異常な体調不良に襲われていた。今は命からがら暗礁地帯に逃げ込み、時間稼ぎを試みている。しかしすでに取り囲まれている、長くは持たない。

 

 原因でも分かれば対処もできるが、それは叶わない夢だ。できそうな明石は結局、治療と療養のため内地に下がってしまった。今思えば、普通の艦娘より貴重な彼女を守るための避難だったのかもしれない。

 

「核はシャドー・モセス島、という場所にあるんですよね」

 

「ああ、アリューシャン沖、フォックス諸島、その北よりに、ひっそりと存在している」

 

 スネーク曰く、戦後の火山活動によって生まれたその島は、周囲を断崖絶壁に覆われ、しかも無数の暗礁に覆われた場所らしい。年中吹き荒れる吹雪も相まって、海と空、どこからの侵入も拒む天然の要塞。誰も近寄れないその島は、いつしか近隣の漁師たちから、影の(シャドー)モセスと呼ばれるようになった。

 

 そんな場所だからか、隠し事にはうってつけと言える。スネークは核弾頭がモセスに隠されていると知り、妙に納得したようすだった。何でも少し――いや結構縁がある場所だと、彼女は言った。

 

「今しがた衛星写真で確認した、やはり敵艦隊はもう、モセスに上陸しているようだ」

 

「遅かったんですか」

 

 幾らなんでも時間をかけ過ぎた、しかも深海凄艦に協力しているのが、核を隠した張本人である合衆国なら、見つけるのは簡単だ。となるとこの後起きるのは、合衆国と深海凄艦同士の、壮絶な奪い合いだ。

 

「……いやそれが妙なんだ」

 

「どうかしたんですか」

 

「深海凄艦と艦娘が、敵対しているように見えない。それに艦娘の数もやはり少ない、あいつらに対抗できる戦力ではない」

 

 どういうことだ、彼らの協定は、最終的に奪い合いになるのではなかったのか。ならこの後待ち受ける戦いは、更に壮絶なものになる。

 

「それともう一つ、悪い知らせがある」

 

「どうぞ」

 

「シャドー・モセスの真正面に、軽巡棲姫がいる」

 

 やはりか、そう神通は感じた。

 心なしか、そこで待ち受けている気がした。理由はない、直感的に軽巡棲姫の考えていることが予想できた。彼女は私との戦いを望んでいると。

 それと同じことを、神通も考えていた。

 

「……行くのか」

 

「勿論です」

 

「止めた方がいい、お前では厳しいぞ、改二にもなっていないお前では……」

 

「あいつを止めるのは、私です。他の誰でもない、誰に任してもいけない、私の役割なんです」

 

 スネークは、それ以上何も言わなかった。

 一言も発せず、真っ直ぐに目線を合わせていた。不意に、彼女が敵から奪ったスナイパーライフルが、構えられた――と同時に、持ち手がこちらに向けられる。先端にはサーマル・ゴーグルもついていた。

 

「実力差は埋めがたい、あらゆる方法で勝ちにいけ。そこまで言うなら私も、別動隊の防衛に専念する」

 

「スネーク」

 

「だが、必ず返せよ」

 

「……これスネークの持ち物でしたっけ」

 

 デコピンを額にされた、物凄く痛かった。

 思わず目を閉じてしまい、開けた時にはもう、スネークはいなかった。けれど渡されたライフルは、とても重さを感じさせた。

 

 重い、それだけではない、仲間の命、神通という艦の誇りが、重い。

 けれども、不快には感じなかった。むしろその重さが、力を与えてくれるようだった。そうだ、味方の中で何が起きようと、敵が何だろうと、私が私であるために必要なのは、一つしかない。

 

 大切な人を護りたい、たったそれだけで、私は戦えるのだから。

 

 

 

 ――ダガ、ソレサエモ。




―― 140.85 ――


〈スネーク、念のため耳に入れておいて欲しいのだが〉
〈何だ?〉
〈米艦隊の行動に矛盾が多過ぎる〉
〈深海凄艦と手を組んでいることとかか〉
〈軽巡棲姫がモセスの前にいることから見て、深海凄艦はもうモセスの中で核を探しているだろう。米艦隊は妨害が入らないように、その付近を警戒している〉
〈おい待て、核を見つけたあとは、奪い合いになる予定ではなかったのか〉
〈いや、奪い合いをする気配はない。むしろお互いに協力的ですらある。敵対しているという認識自体間違っていたとしか思えない〉
〈……なら何故米国は核を追っている、存在が世界に露見する前に、確保したいのではなかったのか〉
〈それだけではない、妙なのは日本も同じだ〉
〈日本も?〉
〈川路だ、奴は日本の利益のため行動していると言っているが、どの行動も博打が過ぎる。伊58一人に全てを任せたり、正体不明の体調不良を引き起こしたり〉
〈確かに、作戦成功の為にしては余りにも無謀だ〉
〈……この作戦で知った真実は、全て偽装なのかもしれん。注意しろ〉
〈分かっているが、まずは木曽たち別働隊を護るのが優先だ〉
〈分かっている〉

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