【完結】アーセナルギアは思考する   作:鹿狼

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ACT3 WHITE SUN
File29 赤いクライアント


「死者の名前を英雄のそれに呼び変えて、生者はあらたな死者を増産する。歴史はその繰り返しだ。」

――『メタルギア ソリッド ピースウォーカー』より

 

 

 

 

 

 

 

――2009年7月27日 フォックス諸島

 

 気晴らしに外へ出たのは大きな間違いだったと、スネークは早々に後悔した。

 その日は一段と風が強く、冷気もその分鋭い。突風に煽られた小さな雪が彼女の白い肌を切り裂いていく。身を切るような寒さとは、こういうことを言うのか。

 

 だが出てすぐに小屋に戻るのも、何か情けない気がする。此処に来てまだ寒さに慣れていない事実を晒すのは、戦士としては相応しくないのだ。今はじっと寒さに耐え、環境に適応すべきだ。それが今だ拭いきれない、ルーツへの小さなコンプレックスなのは明らかだった。

 

 少しでも寒さを誤魔化そうと取り出したのは、やはり葉巻だった。品名はモンテクリスト、キューバ共和国で生産されている銘柄であり、チェ・ゲバラも愛用していたという代物だ。彼は喘息持ちにも関わらず、喫煙者でもあったのだ。

 

 例えそうであっても、喫煙は止められない。戦争という過度なストレスに晒される兵士にとって、煙草は癒しだ、止められる筈もない。害だと分かっていながらも、それを棄てることはできない。そんな矛盾を孕みながらも戦い、自由を勝ち取ったからこそ、彼は新しい人間と呼ばれたのだ。

 

 そんな新しい人間でもあるスネークは、今度はライターの点火に苦闘していた。どう考えても、この冷気が原因だった。苛立つ彼女の脳天からは、湯気が上がっていそうだ。今更葉巻で体を温める必要は実際ない。

 

「何故外にいる、こんな糞寒い中で」

 

 情けなさすら醸し出すスネークの背中に、女性が声をかける。スネークと同じ銀髪を吹雪で彩ってはいるが、その体格は大幅に劣る。遠くから見れば大人と子供にも見える。中身を見れば、どちらが子供っぽいのは明らかだったが。

 

 役に立たないライターを横から見て、彼女はマッチ棒を取り出す。手馴れた仕草で箱に先端を擦らせる、赤燐が瞬く間に燃え上がる。まず自分の持っていたパイプに火をつけ、満足そうに煙を吸う。

 

「使うか?」

 

 スネークにマッチを貸したのはその後だった。ライターも構造は単純だが、マッチはその比ではない。その分時として、複雑な文明の利器よりも役に立つ。風で火が消える前に、葉巻に火を灯す。

 

 それと同時に風が吹き、葉巻の炎が消えかける。素早く手を翳し、至福の一服を吹雪から守り抜く。苦労しているスネークと比べ彼女は慌てない、火元がパイプの中にあるから消えないのだ。その様子を見て、改めて彼女が問う。

 

「風も雪も強い、海を観ながら吸うにしても、何も見えないぞ」

 

「ガングート、この世界でもじきに禁煙ブームが来る。室内での喫煙は今から控えておけ」

 

「それは一般社会での話だろ、戦場では例外さ」

 

 そもそもあそこに、煙を嫌う奴はいないぞ。

 ガングートが指差す先には、あちこちに隙間が空いた粗末な小屋が立っていた。ここはシャドー・モセスではない、同じフォックス諸島に属する別の小島だ。そこには深海凄艦が現れる前、近隣の漁師が利用していた、休憩所が何か所か残っている。使う人がいなくなって数年、すっかり朽ち果てて、風で飛ばされそうだ。

 

「戦場だからこそだ。ニコチンもアルコールも結局は有害物質、体内に入ったそれらが制御される時代が来る……かもしれないぞ?」

 

「明日も知れない命に、それは酷過ぎないか」

 

「毒は毒だ」

 

 そうは言っても、しかし戦場と毒は切り離せない。かつてナチス・ドイツは禁煙を政策としておこなったが、戦場までは行き届かなかった。国際法で酷使を禁じられ、ブラック鎮守府防止のため大切に運用される艦娘だが、一方喫煙は禁止できていない。

 さすがに駆逐艦や海防艦といった艦は、世間の眼が不味すぎるからか禁じられている。幸いにもその認識は多くの艦娘で共有され、戦艦や空母たちが目を光らせている。記憶がそうさせるのか、監視の目を盗んで吸う少女は後を絶たないが。

 

 轟沈を禁じるのに、着実に死に接近する喫煙は禁じきれない。規則とはつまり自由の抑圧だ、その分どこかで自由が噴出する。それが彼女たちや兵士にとってのタバコなのだろう。それさえ無理矢理封じた先に何があるのか、スネークはナノマシン越しに見たことがあった。

 

「毒と知って止められるなら、この世界は平和だろう」

 

 この世界は多くの矛盾を孕んで生きている、全ての人が効率的に動けば世界は間違いなく平和だ。だが、そんな不安定な存在こそ人間だ。故に喫煙を止めれない艦娘も、そういった人間的側面があるのだ。

 

「まあ、私は今ぐらいが丁度良い」

 

 ガングートは、スネークが北方棲姫と合流した後コンタクトを図ってきた艦娘だった。だが国家に属してはいなかった。戻るべき国も港も持たない、いわば『野良』とでも呼ぶべき艦娘だ。

 

 当然この胡散臭く、仲間にしてくれと宣う艦娘を怪しんだし、色々あった。そんなことをしている内に、スネークは彼女を気に入ってしまっていた。帰るべき国から追放されてしまった彼女は、自由であるがゆえに孤独なスネークと、似ていたからだろう。

 

「さて、やっとお客のお出ましだ」

 

 ガングートの見下ろす先には、数隻の護衛が乗った小舟が停泊していた。その中央には、深く帽子を被った男性がいる。

 国を棄て、国に見捨てられて。

 しかし国家という枠組みからはみ出ては生きられない、アーセナルギアという艦。最大の矛盾は、なのに自由を求める彼女にあるのかもしれない。

 

 

 

 

―― File29 赤いクライアント ――

 

 

 

 

 客を出迎えてから、雪に関しては多少弱まったように見える。遥か北の地とはいえ、夏に差し掛かれば気候は変わる。それでも冷え切った空気は温まらず、粗末な小屋を鈍く軋ませる。隙間風もまた冷たい、艦娘である私がそうなのだから、人間の彼は更に過酷に違いない。

 

 だが目の前に座る男は、寒さなど気にしていないように、ガングートの入れたコーヒーを飲み干していた。むしろこの冷気を楽しんでいるようにすら見える。それはある意味当たり前かもしれない、寒さこそ、彼の国の特徴なのだから。

 

「貴重な一杯、感謝する」

 

「安物のアメリカン・コーヒーだ、気にするな」

 

「いやいや、今の時代、コーヒー一杯も貴重になってしまった。産地の多くは第三各国だ、交易もままならない」

 

 深海凄艦が何にもっとも影響を与えたかと言われれば、それはシーレーンへの大打撃に他ならない。貿易一つをするにも、艦娘の護衛は必要不可欠だ。近場の大陸ならまだしも、より長距離航海が必要なアフリカ等はもう、交易どころか現状さえ碌に分かっていない。そもそも深海凄艦に滅ぼされたのではないか、という噂も立っている。

 

 この男が連れてきた護衛の艦娘は、小屋の外で待機している。コートを深く羽織り、艦種が何なのか分かりにくくしている。警備に、軍務、商船の護衛。社会の至る所まで艦娘は喰い込んでいる。貴重な一杯を一気に飲み干し、男が満足げに口を拭う。

 

「で、テロリストでしかない私に何の用だ」

 

「今日は貴女と、取引をしに此処へ来ました」

 

 口を拭った男の顔は、コーヒーを楽しむ紳士から、狡猾な狩人に変わっていた。ガングートからある程度は聞いていたが、実際に見ると、やはりそうなのだと実感が湧く。かの国が崩壊してから建造されたアーセナルにとっては、未知の存在とも言えた。

 

「私はニコライ・フョードロフ、KGBの使者として、頼みたいことがあるのです」

 

 自分をソビエト連邦の工作員だと、一切誤魔化さずに男は言った。

 

「貴女に再度、日本国内に侵入して頂きたいのです」

 

 フョードロフは暗に、モセスの事件も知っていると示す。つまり、北方棲姫と共同で管理している新型核も知っていることになる。そこまで掴んでいるこの男は、工作員として有能な部類に入るのだろう。

 

「実は最近、日本に送り込まれる米兵の数が増えているのです」

 

「在日米軍のことか?」

 

 日本は1951年にアメリカと締結した日米安保条約、現在は安全保障条約により、国内に米軍を置くことになっている。第二次世界後GHQの支配下に置かれた日本は、マッカーサー主導の元、同じ戦争を繰り返さないために新たな憲法を作ることになる。

 

 それが平和三原則を元とする、平和憲法である。これにより日本は、世界でも貴重な軍隊を持たない国となった。しかしそれは、いざ責められた時防衛することができないということでもあった。

 

 当時の日本を支配していた合衆国にとって、最大の敵はソ連や中国といった、共産各国だった。合衆国は日本を共産主義に対する防波堤とするため、警察予備隊――後の自衛隊である――や、在日米軍を組織したのだ。自前の軍事力を持たない日本もこれに賛同し、特に沖縄を中心として多くの米軍基地が設置されることになる。

 

「日本を中心に活動する第七艦隊の数は、本土防衛のために削減傾向にありました。しかし減っていたはずの戦力が、今、再び増えているのです」

 

「第七艦隊といえば、解体の話も出ていたはずだ、怪しいと思わないかスネーク」

 

 ガングートの言う通り、第七艦隊は縮小傾向にある。第七艦隊は日本を中心に活動しているが、あいにく対深海凄艦相手には役に立たない。今の日本は艦娘で十分自衛ができる。合衆国本土の人手が足りないこともあり、急速に本土への引き上げが始まっていた。

 

「合衆国はどう説明している」

 

「日本政府に対しては、対深海凄艦用部隊の強化と。その通りアイオワ級や、フレッチャー級といった、貴重な主力艦までも動員されています」

 

「日本と比べアメリカは艦娘運用において一歩劣る、そんな状況で、そいつらを本土から離すとは」

 

「しかし我々は無論、大本営も騙されてはいません。実際は艦娘の支援人員に紛れ込ませ、CIAの工作員を送り込む為の偽装です」

 

 その単語に、スネークとガングートの眼がぴくりと動いた。

 

「それだけではないのです」

 

 これを見て頂きたい、とフョードロフは一枚の書類を取り出す。そこには日本語で、艦娘の名前がいくつも記されていた。

 

「これは最近行われた、新規の建造と配置転換の一覧です。この短期間で、急ピッチで建造が次々と行われています」

 

「何のためにだ、無暗な建造は国際法で禁じられている」

 

「艦娘に対抗するため、でしょう。具体的な部分は秘匿されていますが、彼女たちの多くは工作員としての指導を受けているようです」

 

 CIAの送り込んだ工作員の中に、艦娘も紛れているのだろうか。確かに超人的な身体能力を活かした、艦娘のエージェントは実在する。それに対抗できるのも、同じ艦娘だけだ。しかしフョードロフは、敵は艦娘ではないと言う。

 

「今日本国内には、無数の人型深海凄艦が潜りこもうとしています」

 

「何だと?」

 

「いえ、無論大半は事前に探知され、合衆国や日本のエージェントに対処されてします。しかしそれでも、何隻かは」

 

「深海凄艦の強みは、圧倒的な数だ。だがそんな目立つ真似をして、何がしたい?」

 

「ある人物を、確保するためです」

 

 その言葉を聞いた時、スネークの時間は止まった。まさか、そんな人間がいるとは思わなかったからだ。予兆のように風が荒れ、小屋の中を蹂躙する。突風が瞬く間に通り過ぎ、静寂が場を支配する。張り詰めた糸は、彼の一言で断ち切れた。

 

「今、日本にいるのは、「白鯨」の開発者なのです」

 

 フョードロフは、スネークの頬に流れた汗を見逃さなかった。いやらしく頬を釣り上げ、彼は指を突き出す。

 

「そうです、貴女方はよくご存じの筈。深海凄艦が作り上げた最新鋭の兵器、しかしそれを阻んでいたのは、常に貴女だった」

 

「この言葉を、こんなところで聞くことになるとは」

 

 モセスの事件以来白鯨の情報はさっぱり入ってこなかった。戦艦棲姫の動向も同じだ。新型核の内一つを強奪した彼女の捜索は、スネークたちにとって最優先の目的、しかしG.Wの力を持ってしても、潜伏地点は分からなかった。G.Wは愛国者達のような勢力が、背後にいると予想していたが、予想外のところから手掛かりが現れたのだ。

 

「いや、まて」

 

「どうかしましたか、同士ガングート」

 

「同士フョードロフ、お前の今の言い方だと、こう聞こえるぞ。白鯨を建造したのは、「人間」だと」

 

「ええ、その通りです」

 

 なんだって、そう声が漏れかけた。

 新型の深海凄艦――それを人間が作った? まず深海凄艦は、人間が建造できるものだったのか?

 

「というより、これが我がソ連最大の問題なのです。白鯨の建造を行ったのは他ならぬ、ソビエト連邦なのです」

 

「内通者でもいたのか、しかしよく、そんな大胆な行動をとれたな」

 

 スネークの推測と違う答えを、彼は返す。

 

「そうでもありません、他国家には明かしていませんが、ソ連と深海凄艦は、むしろ比較的友好的な関係を築いています」

 

 なぜなら、ソ連は不凍海が少ないからなのです。そうフョードロフは言う。

 不凍海とは文字通り、一年間を通じて凍らない海のことだ。大半が普通の海に囲まれていると実感しにくいが、それは経済的にも、戦略的にも有利なことである。例えば凍った海を出るには氷砕船が必要になる、船一隻だけでも、相当なコストだ。ロシア、ソ連の南下の歴史は、不凍港を求める歴史とも言えるのだ。

 

 そんな狭い領土を取り合うのが、深海凄艦だった。北方棲姫はアメリカ寄りのアリューシャンを領土にしていたが、ソ連寄りの北方を支配する姫もいる。北方水姫や、北端上陸姫といった個体だ。

 

 だが、結果から言ってその争いは長くは続かなかった。領土として機能するのは、当然不凍港に限定される。その数は多くない、数少ない椅子を奪い合う状態なのだ。更にソ連は艦娘の戦力が少ない、建造してもそれを活かせる港が少なすぎるせいだ。

 

 こんな領土を全力で奪い合えば、お互い大きなダメージを負う。そうまでして得られる利益は小さい。となれば、両陣営共積極的な戦いは控えるようになる。敵同士だから許容まではいかないが、潰し合うこともない。

 

「敵なのは変わりません、攻撃すれば当然やり返してきます。しかしその先に有るのは、ただでさえ少ない不凍港の壊滅です。それは我々も深海凄艦も望んでいません」

 

「つまり、抑止力か」

 

 核という強過ぎる兵器が、報復の果てに地球を滅ぼしてしまうのは分かっている。だから撃たない。冷戦とはまた別の、第二の抑止力がここでは働いていた。歪なのは確かだが、現地の人からすれば、平和なことに変わりはない。

 

「しかし、それがある意味で仇となりました。KGBの中に、深海凄艦と接近し過ぎる勢力がいたのです」

 

「そいつらが、白鯨の建造をしたと」

 

「元GRUの勢力が、深海凄艦の手を借り、勢力を取り戻そうとしています。1964年の、ある将校の暴走により、GRUは権力を失い過ぎました」

 

 1964年、当時GRUにいたある将校が、アメリカ人の亡命を支援した。しかしその将校は、亡命の手土産に持ち込まれた核を――それはデイビー・クロケットと言う、世界最小の核だった――、あろうことかソ連領内で使用したのだ。この事件は何とか収まったが、その責任は当然GRUの上層部に降りかかる。

 

「OKB0、存在しない設計局を使い、彼等は白鯨を建造しました。ですが、そこにいた開発チーフが、何者かの手引きにより、日本に亡命したのです」

 

「そいつを、私に捕まえてこいと?」

 

「もし日本か合衆国に身柄を確保されれば、我々は人類の裏切り者になってしまう。そうなれば共産主義は終わりです」

 

「分からないな、それをなぜ私に頼む。KGBも工作員を送り込めば済む話だ」

 

「いまだ日本は西側勢力ですが、実質新たな「第三大国」となっています。そのおかげでソ連は資本主義の進行に会わなくて済む。当初とは逆です、日本はむしろアメリカに対する防波堤になっています。そんな状況で我々が干渉すれば、疑惑を招きかねません」

 

「だから、無関係なスネークに潜りこんで欲しいのか」

 

「日本はこれまでと同じく、資本主義にも共産主義にも属さない、いうなれば「艦娘主義国家」でいてほしいのです」

 

「おい、余計に分からないぞ、なぜそんなことを言う? 身内の尻拭いをしてくれ、と言われて了承するやつがいるか?」

 

 ソ連の身内がやらかした、白鯨開発という罪の隠蔽を、どうして私がしないといけないのか。

 相応の報酬は用意しますと、フョードロフは言う。

 

「この依頼を受けて頂ければ、貴女方の身分は我々が保障しましょう」

 

「具体的には?」

 

「今の貴女方は、土地もなにも持たない放浪者。しかし――特にスネーク、貴女は余りにも特異過ぎる」

 

「確かに、こいつが何時拉致されてもおかしくはない」

 

「本来最新鋭のミサイル兵器どこか、理解さえできない二足歩行戦車。自律思考するAI。オーバーテクノロジーの塊、どこ国家も、無論我々も喉から手が出そうです」

 

 それは、確かにそうだった。技術奪取のため監禁されるならマシなほうで、下手をすれば深海凄艦以上の脅威として、殺される可能性もある。今そうなっていないのは、アーセナルギアがやろうと思えば沈められる艦だからだ。

 

「そんな貴女の身分を保証する、それ以外にも色々。悪くはない提案では?」

 

「そうか、いいだろう、その開発者とやらは、我々が捕えてやる。だが報酬はいらない」

 

「おい、スネーク?」

 

「代わりに、開発者は我々が管理する」

 

 ソ連も合衆国も出し抜き、開発者を手に入れるのは我々だ。スネークは彼の前で宣言した。

 

「つまり、我々と争うと? ただでさえ不安定な立場の貴女が?」

 

「今更、こうなることを覚悟していないと思ったのか? 安心しろ、白鯨はしっかり破壊してやる」

 

 誰にも利用されず、自由に生きるためにこの立場を選んだのだ。例え依頼であり、魅力的な報酬でも、受ける選択はあり得なかった。

 行くぞガングート。スネークは椅子から立ち上がり、モセスへ帰ろうとする。外にいるフョードロフの護衛が妨害してきたら、突破すればいい。

 

「事後報酬がある、と言えばどうなりますか」

 

 めげずに、彼は言う。その態度に違和感があった。交渉が決裂した割に、冷静過ぎる。それにここまで自国の弱みを、話すものだろうか。フョードロフが落ち着いているのは、全て話が予定通りに行っているからではないか。

 

 やはりまだまだ生まれたてだなスネーク、とでも言いたげなガングートの呆れた目線で、彼女は過ちに気づく。しかしそれは、彼女がアーセナルギアである限り、逃れられない禁断の果実とも言えたのだ。

 

「例えば、そう、「愛国者達」についてとか」

 

 心臓が、間違いなく、文字通り跳ねたのを、スネークは実感した。

 

「我々の真の目的は、愛国者達の打倒なのです」

 

 吹雪のせいなのか、自分の心臓の音を除いて何も聞こえない。そしてスネークは、まんまと彼の話に聞き入った――聞かざるを得なかった。

 

 スネークが日本に再度潜りこむ、一週間前のことである。




冒頭の引用は
『メタルギアソリッドピースウォーカー』(著:野島一人/角川文庫)
による。



ガングート(艦隊これくしょん)
 元ソビエト連邦所属の艦娘だが、ある事情により脱走。単独でスネークと接触し、協力関係となる。
 無論なにか狙っていることは了承済みだが、それでも割と仲は良い。ついでにスネークより遥かに年上のため、スネークがサポートを求めることも多々ある。
 正直言って、スペック以外だと、ガングートの方がほとんど上である。

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