【完結】アーセナルギアは思考する   作:鹿狼

32 / 92
File31 蔓延する輸送艦

 時と場所が違えば、これは多分、勇ましい光景だったのだろう。

 日々の食料を賄うために、男たちは海へと出る。髭を生やした壮年の男が激を飛ばし、まだまだ青臭さの抜けない新米が、喉を張って叫ぶ。一件暑苦しさに満ちた作業だが、実際は何十年もの経験に支えられた、効率的なやり方でもある。

 

 大きな船のあちこちで、同じような光景は見られる。流石に豪華客船とまではいかないが、相当大きな船だ。これだけの大きさなら、積める食料も相当なものだろう。しかしスネークからしてみると、一般的な漁船としては大き過ぎ。つまり、非効率的なサイズだ。何故なら彼女が知る漁は、当然彼女の世界の常識に基づいている。

 

 深海凄艦の跋扈する、この世界での漁船は、これで良かった。何度も出れば襲撃されるリスクも増える。なら、一度に多くを持ち帰れた方が遥かにいい。それに、何隻も出るより、彼女たちもやりやすい。

 

 この、肌を痛めつける感覚は、潮風だろうか、深海凄艦だろうか。それとも、脅威を感じずにはいられない、人間の怯えだろうか。

 曇天の空も相まって、とてものどかな日常には見えない。時と場所が違うだけで、同じことをしても、何もかもが違う。それは、あらゆる事柄にも言えるのだ。

 タバコの味だけが、変わらず肺を蝕んでくれていた。

 

 

 

 

―― File31 蔓延する輸送艦 ――

 

 

 

 

――2009年8月4日 13:00 大型漁船内

 

 ゲバラの愛用したタバコを、スネークは積荷の影で嗜んでいた。別に彼女は、漁師として船に乗ったのではない。機械的なサポートの作業員が、今の肩書だった。だから常に動いている必要はない。しかし彼らが汗水垂らしている中、堂々とやるのは気不味い。

 

 あと、残りは何本だっただろうか。

 日本に侵入してから、余計な痕跡は残せない。タバコも気楽に買えないし――買えたとしても、同じ銘柄は手に入りにくい。

 

 タバコの残りは少ない。口に咥えた一本を長く楽しみたいが、ただ吸っているだけでは暇は潰せない。スネークはぼんやりと、空を見上げる。曇天の空は、少しは見慣れたシャドー・モセスの空を、そしてここへ戻る原因となった、フョードロフの言葉を思い出させるのだった。

 

 

 

 

 ――我々の目的は、愛国者達の打倒なのです。

 と、フョードロフは言った。その言葉に固まったのは、スネークだけでなかった。事情を聞かされていたガングートも、絶句していた。

 

「お前は、愛国者達を知っているのか」

 

「ええ勿論、そうでなくては、名前など出しはしません」

 

 まさか、いやしかし、スネークは心のどこかで、納得していた。スネークの世界とは違い、この世界の愛国者達は、存在を秘蔵しきれていない。その証拠に、北方棲姫も愛国者達を知っていた。

 

 愛国者達とは、深海凄艦の結社を意味する。

 以前モセスへ向かう時、北方棲姫はそう語った。目的は不明、規模も不明。だが深海凄艦が現れてから、歴史の節目に、その名を語る姫がいた。今回愛国者達を名乗ったのは、戦艦棲姫だった。

 

「我々が愛国者達について掴んでいることは、そう多くはありません。しかしスネーク、それだけでも貴女にとっては、大きな意味を持つのでしょう」

 

「おい、確かお前のいた世界でアーセナルギアを建造したのは」

 

「愛国者達、この世界にない筈の存在が、存在しているのです。知り得ることの一つを教えましょう、彼女たちは世界中で活動していますが、その主な拠点はアメリカです。つまり、愛国者達の増大はアメリカの増大でもあるのです」

 

「何故アメリカなんだ、別に、合衆国だけが超大国というわけではないだろ」

 

 CIAの諜報機関から発展した、元の世界での話なら分かる。冷戦後、世界を支配したのはアメリカの規範だ。だがこの世界では冷戦が終わるどころか、日本と言う三つ目の大国まで現れている。わざわざ米国を拠点に置く必要性は感じられない。

 

「それ以上をお答えするには、対価がなければ難しい」

 

「白鯨の、開発者か」

 

「我々共産勢力からすれば、合衆国の力の根源である愛国者達は、最大の敵なのです。それに、合衆国中枢に、何故深海凄艦がいるのか。それを突き止めることは、貴女の利益にもなり得るのではないですか」

 

「スネーク、受けるべきだろう」

 

 フョードロフの間に立ち、ガングートが顔を覗き込む。

 

「別に、同じソ連だからってわけではないさ。だがな、今のお前は危険なテロリストだ。それも北方棲姫という人類の敵と手を結び、新型の核を独占している」

 

「あれが他の勢力に渡れば、より不味いだろう」

 

「ああ、それはそうだ。だが違法に核を持った武装勢力が、どんな最後を辿ったのか、お前は知っているだろ?」

 

 嵐の中、この小屋の中だけが静かだった。

 まるで、地中海の穏やかな海だ。一瞬の後、炎に包まれて崩落する間際の白昼夢を、スネークは見た。阿鼻叫喚の悲鳴と怒声、血と虐殺から這いでる、鬼の(ファントム)

 

「答えは、でましたか」

 

 再び、風で軋みだした小屋の中で、スネークは再び国家と接触する。入れた三人分のコーヒーは、とっくに無くなっていた。

 

 

 

 

 日本への侵入は、おおむねフョードロフが手配してくれた。丁度この時期に、大型漁船が出る。その中に作業員として紛れ込み、広島にある呉鎮守府まで連れていってもらう。開発者の最後の足取りは、この呉で途絶えていた。

 

 問題は上陸したあとだ、呉にいるのは大本営の人間だけではない、CIAの工作員まで紛れている。彼等の全てを出し抜き、単独で開発者を発見しなくてはならない。スネークは事前に見せて貰った、開発者の顔を思い出していた。

 

 まあ、どの道つくまでやることはない。

 スネークは今の内にと、二本目の葉巻に手を伸ばす。この後襲来する苦労と苦悩を考えたら、これぐらいの贅沢は許されるはずだ。

 

 しかし、下から突如伸びたワイヤーが、一瞬で葉巻をかすめ取っていった。取られた葉巻は宙を舞い、そのまま足元の機械へ収納されていく。

 

〈吸い過ぎだスネーク、ただでさえ健康に悪いものを、これ以上吸うな〉

 

〈機械のお前には分かるまい、これはリフレッシュだ〉

 

〈葉巻、煙草に含まれるニコチンがどれほどの悪影響を与えるのかは言うまでもない。我々と君は一蓮托生なんだぞ、それを理解しろ〉

 

 この光景を視られたら、多分終わりである。

 足元の、何もない空間に向けて、文句を垂れているのだから。しかしG.Wはそこにいる。正確には、G.Wの端末を乗せた自律機械が、ステルス迷彩を纏っている。

 

 それはメタルギアMk-4と言う、超小型メタルギアだった。元々はスネークのいた世界の、とある科学者が開発した小型サポートマシンだ。その設計図を、全世界のネットを把握するG.Wは持っていた。先ほどのワイヤーは、このMk-4が出したものだ。

 

 スネークの随伴として、アーセナルギアの艤装は余りにも巨大過ぎた。という訳で、北方棲姫に作らせたのである。ただ北方棲姫は、あくまで科学者でありエンジニアではない。完成度は本来のメタルギアに劣るが、それでも便利にはなった。

 

〈それで、何か情報はあったか〉

 

〈いや、今のところ有力な情報は入っていない。この開発者は、かなり諜報機関を警戒して動いている。頭の良い奴だ、街のあちこちにある監視カメラまで意識している。大本営もCIAも、足取りは掴めていない〉

 

 そこまで完璧に身を隠せる方法は限られている。蛇はむしろ隠れ進む生き物だ、隠れる側の立場になり切ることは簡単だ。その中で真っ先に浮かんだのが、内通者の存在。つまり鎮守府の人間が、開発者を匿っている可能性だ。

 

〈木を隠すなら森の中だ、開発者は鎮守府内にいる可能性が高い〉

 

〈そう予測される、だが今回は単冠湾と違い、身分を偽装することは難しい。単独で潜入し、素早く回収する方が効果的だ〉

 

〈分かっている、あの時は大規模戦闘のあと、大きな人事入れ替えがあったからできた荒業だ。それに、どうせ人を()()攫う予定だ。長居する気はない〉

 

〈伊58の提督奪還は、あとにすべきだ。今優先すべきは白鯨の開発者〉

 

〈いいや、これはあいつとの約束だ〉

 

 ソ連のフョードロフが提供した情報は、もう一つあった。それはブラック運営の責任を押し付けられ、逮捕された伊58の提督である。なんと彼も、今この呉鎮守府内のどこかに監禁されているらしい。

 

 G.Wの言う通り、わざわざ開発者と同時に攫う必要性はあまりない。しかし、スネークは今決行すべきだと信じている。いつ別の場所に護送されてしまうかは分からない。

 

 それ以上に、伊58との約束があった。私はあいつと、「助けてやる」と約束したのだ。アーセナルギアに乗っていた人間は、皆騙され利用された。同じような行為は、絶対にしたくなかった。合理的ではないが、それが、人間というものだ。

 

〈スネーク、聞こえているでちか!〉

 

 その伊58から無線が入る。今彼女は、この漁船の遥か下を、ゆっくりと潜航していた。提督を助け出すと告げた時、伊58は私も行くと、言って聞かなかったのだ。だが、彼女の声は妙に焦っている。

 

〈不味いことになる、早いとこ逃げる準備をするでち〉

 

〈おい、どういうことだ〉

 

〈この先の進路に、深海凄艦の艦隊が待ち受けている。輸送艦の護衛部隊が六隻、内何隻かは戦艦でち〉

 

 運悪く、輸送作戦中の艦隊と遭遇してしまったのだ。逃げるとは考えにくい、輸送艦まで見つけてしまったのだ、なにかコンタクトをしているだろう。

 

 スネークは、漁船の下を見下ろす。護衛についている艦娘は、駆逐艦二隻と、軽巡一隻だけ。しかも経験も薄いのか、旗艦は慌てふためている。何故こんな脆弱な護衛しか派遣していないのか、今更疑問に感じる。

 

〈幸い対潜能力持ちはいない、ゴーヤは戦えるけど〉

 

〈いやいい、お前は私の艤装を守れ、それに我々の存在が露見する方がまずい〉

 

 間もなくして、深海凄艦と艦娘が会敵した。

 レーダーを持っていた艦娘の方が、攻撃は早かった。次々と砲撃が降り注ぎ、輸送艦に何発か直撃する。すると、護衛艦隊が怒涛の勢いで動きだす。砲撃するまで、防衛に専念していたのが嘘のようだ。

 

 まず、前衛の駆逐艦が突撃してきた。

 イロハ級らしい、策も何もない突撃。なりふり構わない、追い詰められた獣の咆哮だった。当たり前の方に、四方八方から攻撃を受け、一瞬の爆発と共に消え去った。

 

 その突撃を、全ての駆逐艦がしたのだ。一隻一隻の対処は容易いとはいえ、漁船を護らなくてはならない艦娘にとっては、大きな負担だ。

 何よりも、混乱したそこに、戦艦ル級が躊躇なく砲撃を撃ちこんでくる。巨大な波が立ち、漁船を大きく揺らす。余りの衝撃に、乗員が振り落とされたのが見えた。あの、若い漁師だった。

 

 助けたいが、余裕がない。

 悔しさに顔を滲ませながら、軽巡艦娘が声を張り上げる。深海凄艦の目的は、輸送艦の護衛なのだろうか。それにしては、攻撃的過ぎる。

 

 いやな汗が、頬を流れた。こいつらの目的は護衛ではなく、秘蔵なのではないか。輸送しているという事実そのものを護るための艦隊。ならもっとも上位の目的となっているのは、輸送艦を見た存在の残滅だ。

 

 そのためなら、仲間の犠牲はまったくいとわない。疑問に思う頭さえない、イロハ級とはそういう存在だ。アリや蜂のように、群れで一つの生命として振る舞うからこそできる戦法だった。

 

 こいつらは、自分たちがどうなっても漁船を沈めるだろう。可哀想だが、彼等はここで死ぬことになる。スネークはそう予感していた。

 

 

 

 

 死の予感に凍り始めた空気を、激しい爆発音が打ち破った。

 護衛の艦娘の攻撃ではない、もっと別の場所から、魚雷が発射されていた。深海凄艦も、突如爆散した味方に、驚きを禁じ得ない。皆一隻に、一つの咆哮を向いていた。

 

 地平線から、小さな、本当に小さな影が現れる。

 単騎で奇襲をかけたのは、一隻の駆逐艦だった。たったそれだけか、それも駆逐艦か。相手には戦艦もいるのに。抱きかけた艦娘たちの希望は、一転して絶望へと変わる。

 

 逆に、深海凄艦は更に怒り狂った。偶然とはいえ、たかが一隻の駆逐艦にやられるとは。沈められた駆逐艦の憤怒は、群れで生きる彼女たち全員に伝搬する。なら望みどおりにしてやろうと、漁船に向いていた砲火が彼女に集中した。

 

 と思われた直前、砲撃音が、三回連続で響いた。

 駆逐艦の放った三発の主砲は、まるで吸い寄せられるかのように、駆逐艦へと向かっていく。焦って回避しようとするが、その行動さえ予測した地点に、砲撃が向かう。そのまま勢いにしたがい、砲撃は駆逐艦たちの頭部に直撃した。完璧なまでの、ワンショットキルだった。

 

 誰も予想出来なかった一撃に、戦艦の動きが止まった。弱点を狙い撃ちにされるかもしれない、わずか三発の砲撃が、戦艦の足を止め、それが命取りとなる。少しの間動かなかったばかりに、もう周囲は魚雷に包囲されていた。

 

〈スネーク、あの駆逐艦が誰なのか分かった。呉鎮守府所属、建造から18年間、最前線に居続けている最古参の艦娘だ〉

 

〈18年だと、何て年月だ〉

 

〈彼女の名前は、『雪風』だ』、恐ろしい動きをする艦だ。長年生存できていた理由も、納得がいく〉

 

 しかし、スネークには、あの雪風が不気味に見えた。彼女の戦い方は、余りも完璧で、効率的で、だからこそ人間味を感じなかった。人間らしい戦いというのも、悪い冗談にしか聞こえないが。

 

 だがそのイメージは、さきほど海に落ちた若者を助けようと、歯を食い縛る彼女を見て、あっさりと消え去った。無事な様子に、満面の笑みで喜ぶ姿のどこが不気味なのか、と自分でも感じる。

 

 穏やかな空気は、男の怒声で壊された。漁船の船長は雪風と、元々いた護衛艦に向かって怒り狂っている。駆逐艦たちは萎縮してしまった、動じていないのは雪風だけだ。

 

〈どうやら、砲撃が少し漁船に当たってしまったようだ。その修理費を出せと叫んでいるらしい〉

 

 それは、彼女たちの責任ではないだろう。こんな薄い護衛しか出さなかった大本営――鎮守府が負うべきだ。別のところに相談してください、と言えれば良いが、男の剣幕は凄まじい。途中で、雪風が助けた青年が仲裁に入り、やっと場が収まった。

 

 雪風に続いて現れた艦隊が、その後護衛をすることになった。彼女は艦隊から抜け、単身突撃していたのだ。どちらにせよ、恐ろしい戦闘力だった。その彼女は疲れたのか、漁船のデッキでのんびりとしていた。スネークは特に意味もなく、彼女を遠巻きに見ていた。

 

「……あの、雪風になにか」

 

 間違い無く、こちらに向けて呼びかけた。一応スニーキングモードにしているのに、どうやって気づいたんだ。スネークは自分の経験不足を実感しながら、雪風の隣に座りこむ。

 

「別に用と言うほどではない、お礼の一つぐらいは言おうと思ってな」

 

「外人さんですか」

 

「ああ、国籍はもう日本だが」

 

 誤魔化せているのか、不安しかなかった。見た目に反して、この駆逐艦は得体が知れなかった。少なくとも戦闘になったら、多分勝てない気がする。

 

「そうですか、でもお礼は遠慮します。この船を、完璧に護れませんでした」

 

「お前は元々の護衛艦隊ではないだろ? 責任を負うとすれば、あんな薄い護衛しか用意しなかった大本営だ」

 

「それは、ありがとうございます」

 

 申し訳なさそうに、または困ったような笑みを雪風は浮かべていた。こういっても、責任を感じている。どうして自分の関係ないところまで責任を負おうとするのか、スネークには分からない。

 

「いつもなら、もっとちゃんとした護衛がいたんです」

 

「……観艦式か?」

 

「主な艦は、そちらに取られてしまっているんです。出る艦も公表済みなので、今更変更できません……観艦式に失敗したら、国際的な面子まで駄目になるので、しょうがないって分かってますけど」

 

 観艦式の影響は、年々大きくなっている。海軍の肥大化、艦娘の肥大化、戦争経済の肥大化。式が失敗すれば、その全てに影響が及ぶ。合理的に判断すれば、たかが漁船一隻よりも、式の方が重要だ。

 

 アピールしなくてはならない、世界平和を実現するのは日本だと。食料も戦力の助けも、植民地も要らない。艦娘が、世界を規定する。それをリードするのが、我が国家日本なのだと。

 

 しかし、されど漁船一隻。積まれた食料や人員が消えることを、ただのリスクで計算していいのか。艦娘たちは、それで良いとは思っていない。彼女たちは機械ではないのだから。だが同じ人の集まりである、大本営は機械的判断を下したのだ。それは人間の判断なのか?

 

「お前たちが護衛するわけにはいかなかったのか」

 

「はい、別の任務もあるので、余計に人員が少なくなっているんです」

 

 雪風が指差す方向には、四隻の深海の輸送艦が浮いていた。先ほどの深海凄艦が護衛していた艦だ。頭は砕かれ、既に絶命している。

 

「最近、輸送艦が頻繁に目撃されていて、その調査です」

 

「言って良かったのか」

 

「駄目です、でも、貴女が黙っていてくれれば大丈夫です」

 

 にっこりと雪風は笑った、スネークは引きつった笑いを返すしかなかった。子供のような見た目に押し込まれているのは、十八年間溜め込まれた戦歴と経験、酸いも甘いも放り込まれた混沌だ。やはり苦手だった。

 

 この世界は、何をするにも深海凄艦が立ち塞がる。だから何をするにも艦娘がいる。艦娘を最も運用する日本が、大国に成り上がるのは当たり前だ。その内、全ての人間が艦娘と関わるのかもしれない。

 

 艦娘を通じ、全ての人間が戦争生活者(グリーン・カラー)になる。大人も、子供も。駆逐艦や海防艦が子供の見た目なのは、この未来のメタファーなのか。また金髪の男が、スネークのなかで愚痴っている。

 その世界の中心で、愛国者を名乗る深海凄艦は何をする気なのか。スネークには、まだ分からなかった。




『観艦式』

「……おい、スネーク」
「なんだ」
「お前の任務はなんだ?」
「呉鎮守府に潜入し、伊58の提督と、開発者を奪還することだ」
「ではお前のいる場所はどこだ?」
「護衛艦の上だが」
「手に持っているのは?」
「えーと、ソースの掛かったチキン(焼き鳥)グリルしたコーン(焼きトウモロコシ)、ラムネとタコ焼き焼きそば……」
「お前は何をしているんだ!?」
「落ち着けガングート、これは任務の一環だ」
「そうか、任務か、言ってみてくれ」
「開発者は亡命したというが、その分腹を空かせている筈だ。しかし金はない、飢えているだろう。だからこそ――」
「その食い物で釣るとか言うなよ?」
「さすがだガングート、その通りだ」
「……一応言っておくが、それ、経費で落ちないからな」
「なんだと」
「当たり前だ! お前一隻動かすのに、どれだけ金と資材が掛かると思っている!? 北方棲姫もG.Wも頭を抱えていたぞ!」
「仕方がない、自腹で食うか」
「それでも喰うんだな……」
「……これも食い物の屋台か?」
「金魚すくいだ! もうヤダこいつ」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。