【完結】アーセナルギアは思考する   作:鹿狼

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File35 水面の巨影

 その日の海は、いつになく荒れていた。

 落ちてきそうな分厚い雲を、海は真っ黒に写している。たまに隙間から見える青空は、突風がすぐに隠してしまう。風は同時に、黒い海を揺さぶっていき、彼女の進路を惑わそうと襲い掛かる。

 

 乱された海面が、重く、響き渡る唸り声を上げた。美しさは欠片もないが、それは船乗りを惑わすセイレーンの歌声だ。人の理性を、感覚は瞬く間に溶かされて、気づけば私は、海の底に居る。

 

 そうさせるのは、スネークの周りの全てが定まらないからだった。

 攫われたジョン、なぜか研究を継続していた北条、そして鎮守府内のスペクター。もし羅針盤があるならば、どうかこの先に彼がいますよう。

 

 

 

 

―― File35 水面の巨影 ――

 

 

 

 

――2009年8月5日17:00 硫黄島近海

 

 一隻の潜水艦が、海上で単独行動をしていた。それをたまたま目撃した下級の深海凄艦は、本能的に逃げていった。イロハ級に自我はない――訳では無い。人間のように高度な知能を持たないだけで、爬虫類(レプタイル)のような本能的な自我はある。

 

 彼らのような野生動物の行動はシンプルだ、いかに効率よく、生存するか。方法こそ違え度、全てそこに集約される。深海凄艦の場合人類や艦娘への攻撃本能が加わり、目的達成のために動く。潜水艦一隻のために無駄死にするより、生きてその後多くを抹消するのが良い。

 

 ミサイルの針山であるアーセナルを見たイ級は、だから逃げたのだ。小笠原諸島の中で、具体的にどの島を目指せばいいかまでは、分からなかった。しかし途中入った雪風の情報提供によって、場所の特定ができた。

 

〈雪風の言う通り、確かに、近くを潜水艦が通っているでち〉

 

〈行き先は分かるか〉

 

 ガラクタを積んだ輸送船は囮であり、本命は潜水艦によるモグラ輸送だった。その潜水艦たちも、どうも小笠原諸島付近を目的としていた。その行き先にこそ、ジョン――もしくは彼の手掛かりがある、とG.Wは推測した。

 

〈自力じゃ分からないでちか?〉

 

〈アーセナルギア級にソナーの類はない〉

 

〈冗談でちか〉

 

〈で、分かるのか〉

 

〈分かる、見当もついているでち〉

 

 伊58から潜水艦の居場所と航路を纏めたデータが送られてくる。G.Wがそれを纏めると、小笠原諸島の中の、一つの島に光点が集約された。

 

〈硫黄島、か〉

 

 既に、島は目の前にあった。緑豊かな島は、しかしだからこそ、あらゆる陰謀を隠し持っているようにも見える。

 しかし、呉鎮守府も似たようなものだ。どうして基地内部にスペクターがいたのか、誰かが手引きをした――つまり深海凄艦につく裏切り者だ――としか思えない。

 

 スペクターの残骸は、北条提督と共に、こっそりとモセスに運び込ませている。

 今更軍にも戻れないと、北条は協力を申し出てくれた。彼にはスペクターの不死性の研究を任せてある、きっと結果を出してくれる。私は、私のできることをしよう。目の前の密林に、呑まれないように。

 

 

 

 

 小笠原諸島は日本の領土において、生物地理区におけるオセアニア区――おおざっぱにいえば亜熱帯に属する諸島だ。長年外界から隔絶されてきたこの島は多様な生態系を持ち、日本のガラパゴスとまで呼ばれていた。

 

 しかし、そこに向かって、深海凄艦の潜水艦は入って行った。上陸した痕跡はない。となれば水路がある。同じ潜水艦のスネークは、すぐ穴を発見した。海の中に巨大な大穴が空いていた、艦娘ではない、通常の潜水艦も通れそうな巨大地下水路だった。

 

 奇妙だった。青葉からの報告によれば、深海凄艦の活動が活発化したのはつい数日前からだという。たった数日で、どうこの大穴を掘ったのか。しかも、定期的にくる警備の眼を掻い潜って、どうやって? やるなら、本当に一瞬で大穴を開けなくてはならないが、そんな方法があるのか。

 

 水路の壁に接近したスネークは、ハッキリと違和感を覚えた。水路は全面コンクリートで補強されていたが、かなり雑な作りになっていた。均一ではなく、そのまま張り付けたのか、あちこちのバランスが悪い。

 

自らの直感に従い、スネークは高周波ブレードで壁の一部を切断した。

 剥がれ落ちた壁の向こうにあったのは、()()()()()()()だった。正確には土が溶け、かつ赤く変色していた。それがまるで、肉片のように見えるのだ。

 

〈この壁、いや肉片を覚えているかスネーク〉

 

〈北方棲姫の基地の、あの建物か〉

 

 以前訪れた北方棲姫の基地も、一部が同じように溶け落ちていた。あの時みた肉片と、ほとんど同じ現象が起きていた。

 

〈それだけではない、雪風が侵入した呉鎮守府の地下牢も、近い現象が起きていたようだ〉

 

〈一瞬で溶かした、そういうことか?〉

 

〈分からん、だが注意を怠るな。水路にはソナーが仕掛けられている、そこを通るのは無謀だ。地上のジャングルに身を潜めて進め〉

 

 

*

 

 

 押し付けるような熱気が彼女の体力を奪う。その苦痛を我慢しなければ、しかし生きてはいけない。ジャングルには多くの生物がいるが、人間は自然の摂理から、自ら外れた生き物だ。その時ジャングルで生きる術も置いてしまった。この森で、私はもっとも脆弱だ。だから文明を発展され、化学の装備を纏うしかない。

 

 硫黄島という時点で、敵の拠点のおおざっぱな位置は分かる。この硫黄島には、かつて米軍の基地があったのだ。アメリカの兵士が、数人がかりで星条旗を立てようとする写真を知っているだろうか。それこそが、この硫黄島で米軍が日本軍に勝利した時の写真だ。

 

 深海凄艦の襲撃で米軍は撤退したが、すぐに日本軍が奪い返した。だが大本営はここに人を置いていない。小笠原諸島がGHQから返却された後も、アメリカとの軍事バランスで、微細な調整を続けていた。あくまで定期的な警備に留めていた。結果暗躍を許したわけだが。

 

 国と国の間で引き裂かれ、結局住民は帰れないまま今に至る。穏やかな自然も荒らされ、ところどころに戦火の爪痕が残っている。人々を護るためにあった国は、国であるが故に、その土地を破壊せずにはいられないのか。

 

 いっそ深海凄艦が支配している今の方が、こういった場所の自然は、護られているのかもしれない。そうスネークは思った。

 

 だが、目の前にある元米軍の拠点を見て、考えを改める。そこからは基地の活動で排出される汚水やごみが散乱していたのだ。それはジャングルへと、そのまま垂れ流しになるのだろう。その水路を利用し、スネークは潜りこんだ。

 

 

 

 

 拠点深部へ行けば行くほど、基地の状態は異様と化してきた。

 かつて人が暮らしていた名残はどんどん消えていき、凹凸さえないのっぺりとしたコンクリートが、床も壁も覆っている。照明も最低限しかなく、まるで深海に――いや、深海だってもう少し生き物はいる。

 

 しかし、軍事拠点として見るなら、この内装は正解だ。一般的に軍事施設は、生活感を徹底的に排除した作りになっている。人の生きる日々の要素を切り離し、同時に人間性をも徐々にそぎ落とすのだ。そして完全な機械に変える、この思考の果てにあるのが、無人兵器というものだ。

 

 最初から機械のように従順なイロハ級は、兵士としてすこぶる優秀だ。だが不思議なことに、同じ機械である艦娘は人格を持っていた。しかも人間的な人格だ。不要である個性を持たせたのには、誰かの意志が関わっているのだろうか。

 

 もちろん彼女たちも、訓練などにより人間性を削られる。だが決して機械には戻らない。いや、機械だったからこそ、『人間』であろうとするのかもしれない。観艦式で見たあの笑顔は利用されているとしても本物だった。

 

 しかし国の為、人の為と笑顔で言われて、笑顔で突撃する艦娘は、人間なのだろうか。いっそ感情のないイロハ級に、無表情で命令する姫の方が人間らしいのではないか。だが無表情とは機械なのではないか? この戦争は機械同士の戦争か、それとも人間同士の戦争か?

 

 スネークは、自身の頬を叩いた。

 いけない、機械的な空間に呑まれ、自身を迷っていた。私は私の意志で動こう。そうでなくてはならない。

 

 敵兵を無力化しながら、無機質な基地の最深部へと、スネークは足を踏み入れる。小さな扉を開いた先には、巨大な空間が広がっていた。彼女が居たのは、最下層から遥か上の、三階の渡り廊下だった。

 

 真下を見下ろすと、海水が満たされていた。拠点前で見つけた潜水艦もいる。あの水路は、ここへ繋がっていたのだ。

 

 だが、スネークの眼を引いたのはそこではなかった。この空間は、普通の格納庫にしては大きすぎる。深海凄艦は人間サイズ。こんな大規模なサイズはいらない。その大きさが丁度良く見えたのは、眼下の水面に除く、超巨大な深海凄艦のせいだった。

 

 半分水面に浸っているせいで上半身しか見えないが、まるで、巨大な魚のようだった。

 尻尾に加えて、ヒレまでついている。背びれの代わりに付いているのは、潜水艦のスコープだ。

 頭部に当たる部位は、空母ヲ級の帽子みたいな形をしていて、深海の生き物のように、真っ白に輝いている。

 

 まさしくそれは、『白鯨』と呼ぶにふさわしい深海凄艦だった。

 

「白鯨を発見した」

 

 スネークの報告に、ガングートが反応する。

 

〈白鯨があるのか、なら、核弾頭はどうだ〉

 

「付近には見当たらない」

 

 合衆国が開発した新型核弾頭は三つあったが、一つは戦艦棲姫に奪われてしまった。核の奪ったのには、何か目的がある筈だ。使用するのが目的なら、必ず手元――もしくは、近くに持ち込んでいる。いや、新型核は、手元になければ、まともに使用できないのだ。

 

〈スネーク、新型核を覚えてる?〉

 

 北方棲姫の声は、やはり焦っているようだった。無言を肯定と受け取るが、念のためにと、彼女は話す。

 

〈新型核の開発は、合衆国も慎重に行っていた。それに、今までに例のない爆弾だ。だからこれまで培ってきたミサイル技術を用いずに生成されている〉

 

リトルボーイ(ヒロシマ)ファットマン(ナガサキ)と同じ、爆撃機に搭載するタイプ。つまり、ミサイルの核弾頭以上に、持ち運びが難しい。そういうことだな?」

 

〈白鯨と同じ場所に置いているとは考えにくいけど、万一の可能性もある。水鬼の痕跡のある場所では、必ず核を探して欲しい〉

 

 北方棲姫の無線を切ったスネークの前には、白鯨が鎮座している。核の有無も重要だが、まず目の前の脅威を排除するのことも重要だ。手元のブレードに手をかけたその時、ホールを揺るがす絶叫が聞こえた。

 

〈ジョン・Hの悲鳴だ〉

 

 そんなことはG.Wに言われなくても分かっている、地上一階にある小さな横穴から、あいつの悲鳴が聞こえたのだ。なにごとかと、警備の深海凄艦もそちらへ移動している。スネークも彼女たちを追い、声の元を目指した。

 

〈スネーク、開発者よりも白鯨の破壊を優先しろ〉

 

「うるさい」

 

 しかし心のどこかで、G.Wに賛同する自分がいるのも確かだった。白鯨を破壊する方が、最終的にはきっと良い結果を生む。だからいって、眼前で起きていることを無視はできない。艦娘は、私は機械ではない。人間とはそういうことなのだ。

 

 途中、積荷が剥き出しになった潜水艦を見つけた。背中から降ろされていたのは、羽やタイヤといった、航空機のパーツだった。あれは何に使うのだろうか、もしや白鯨に関係あるのか――それを含めてジョンに聞けばいい。

 

 そう考えるスネークの意識は、目の前の光景に吹き飛ばされた。

 ジョンのいる――恐らくだが――研究室に繋がる通路には、スペクター()()()ものがあった。

 

 手と足、頭と体が、あらゆる場所に散乱していた。使い過ぎて千切れた人形。もしくは地面に叩き付けたプラモデル。体に見える物は何もない、有機的な部品だけが、鮮血と共に転がっている。肉体のつなぎ目はとても綺麗だ。鋭利な刃で、切られたのだろう。

 

「誰か! た、助けてくれ! 誰かいないのかよ!?」

 

 再び悲鳴が聞こえ、スネークは扉へ進んだ。ロックもやはり破壊されていた。赤く赤熱している。どれだけの速度で切ればこうなる。

 部屋の中央でジョンの前に立つそれは、スパークにライトアップされた役者だ。服装には何の特徴もない、人体標本のように滑らかなシルエットが、光に浮かび上がる。

 

 間違い無く、あの忍者だった。

スペクターと遭遇した単冠湾泊地での戦いで、突如亡霊を切り払った怪人が、今再び、スネークの前にいた。

 

「お前はなぜ、白鯨を建造した?」

 

「そ、それがなんだよ、お前にどう関係あるのさ!?」

 

「そうか、なら残念だが、殺す。殺さなくてはならない、それが私の役割だ、仕方ないが、死んでくれ」

 

 有無を言わさぬ問答、それ以前に、会話の意図がまるで理解できない。サイボーグ忍者が、光る刀を振り上げる。スネークはすぐさま、P90を構えた。その時、カチャリ、と金属音が鳴った。

 

 ぐるり、壊れた浄瑠璃人形のように、怪人がこちらに振り向いた。赤い単眼は無機質だったが、確かな狂気が渦巻いていた。理解したくもない歓喜に駆られて、忍者が叫んだ、「スネーク!」と。

 

 

*

 

 

「なぜお前がここにいる」

 

「嬉しいぞスネーク、ようやく会えた。この時を待ちわびていた、亡霊では話にならない、やはり殺し合いは、生きているからこそ成り立つ」

 

 そういう忍者は、そもそも生物なのか。根本的な疑問が湧いてくる。何より質問の答えになっていない。

 

「私は理由を聞いている、お前はここで、何をしようとしている」

 

「大したことではない、ただそこの子供を殺すだけだ。こいつは死ななくてはならない、私がそう決めた」

 

「こいつが、何者か知っての行動か」

 

「白鯨の開発者、故に殺さねばならない」

 

 忍者が殺すと言う度に、ジョンが小さく体を震わせる。無理もない、彼はまだ子供なのだ。こんな狂気を撒き散らす怪物に迫られて、理解もできず、怯えることしかできないのだ。

 

「こいつは高い技術を持っている、しかしそれだけだ、そして子供だ。では殺すしかない」

 

「お前は何を言っている?」

 

「スネーク、お前は核の発射スイッチを子供に与えるか? 与えない、それが普通だ。しかしこいつのスイッチは頭の中だ、奪うことはできない。なら殺して止める。核よりも危険な兵器は、もう完成した。開発者を奪った勢力は、第二、第三の白鯨を完成させる。私は許さない、白鯨はあれ一種で十分だ」

 

「こいつは利用されているだけだぞ」

 

「同じだ、利用する、利用される。では殺さねば、当面は保護も考えたが、こいつにあるのは死ぬだけの道だ、私はそれを行おう。だがスネーク! お前が現れたのなら話は別だ! ようやくこの時が来た、この時を待ち続けていたのだ分かるかスネーク私のこの歓喜がお前を殺すこと殺されることどちらも同じだいや違う待っていたのは私だけではない艦娘も深海凄艦も皆お前を待っていた我々の王いや我々の姫もはや任務など二の次だ行くぞスネークスネークスネークスネーク!」

 

 忍者は狂っていた。

 理解すらしたくなかった、心からの拒絶を込めて、スネークは刀を構える。顔面蒼白のまま。

 

 するとスネークは、大空を見上げていた。

 

「遅いぞスネーク!」

 

 そんなことが、あり得るのか。

 一瞬も見えない速度で忍者はスネークを蹴り飛ばし、勢いのまま壁を破り外へと吹き飛ばされたのだ。激痛が遅れてやってくる。痛みに悶えながら、硫黄島の浅瀬を何度も跳ねる。

 

「G.W! ありったけだ! 全部やれ!」

 

 出し惜しみで勝てる相手ではない、スネークはすぐさまG.Wと艤装を召還し、ありったけのミサイルを叩き込む。このまま基地もろとも破壊しても構わないつもりだった。だが、忍者の狂気は更に加速し、常識を置いていく。

 

 飛んで来たミサイルに、忍者が着地した。

 そのまま次の、次のミサイルへと飛び移りながら、忍者がこちらへ迫る。何だろうか、八隻の船を飛び移った八艘飛び伝説を連想させる。完全に常軌を逸した動きに、スネークの思考は止まり掛ける。

 

 最後のミサイルを切り落とし、忍者が来る。

 スネークは装備した艤装を外した、こんなもの足枷にしかならなかった。

 空中にいる怪物に、P90が火花を散らす。だが忍者は目にも止まらぬ速度で彼方を振り回し、サブマシンガンの弾丸を全て切り落としてしまった。

 

 着地、と同時に、また爆発が起きる。それは忍者が地面を蹴った衝撃によるソニックブームだった。姿勢を崩しながらもブレードを構え、攻撃に備えるスネーク。だが煙が晴れると、忍者はいない。

 

「後ろ!」

 

 突如声が聞こえ、それに従いブレードを振るう。間一髪のところで、忍者の攻撃を防ぐことができた。

 

「どうなっているんですかこれは!?」

 

 遠くから現れた影は、雪風のものだった。

 少し安心する。心を許してはいないが、しかしこんな化け物の後なら、もう知っている人なら何でもいい。

 

「よそ見しないでほしいな、スネーク!」

 

 忍者はそのあとも、異常な挙動を繰り返しながら、スネークに襲い掛かる。彼女もギリギリのところで反応し、ブレードで抑え込む。だが忍者の攻撃は熾烈で、重い。

 遂に限界がくる、スネークの高周波ブレードの片割れ、自由刀が負荷に耐え切れず、圧し折れてしまった。

 

「とった!」

 

 だが忍者の真横に撃たれた主砲が、とどめを食い止めた。刀が折れた瞬間、雪風が反射的に援護していたのだ。砲撃を跳躍して回避し、忍者が海面に着地する。

 すると、不思議な現象が起きた。凄まじい勢いで海面が蒸発し、周囲が瞬く間に霧に包まれたのだ。

 

「スネーク!」

 

 また忍者が目の前に現れる、残る一本で受け止めるが、怪物のパワーは更に上がっていた。ブレードを逸らし、格闘戦に持ち込もうとする。だがまず、触れることさえできなかった。忍者の全身は、凄まじい高熱で覆われていたのだ。

 

 怯んだ隙に、また忍者が刀を振るう。

 駄目か、と考えた時、再度雪風の砲撃が放たれた。直撃ではないが至近弾。海面が弾け、その時スネークは見た。

 こいつはいま、跳ねた『海水』を回避したのか?

 一瞬だが、確かにそう見えたのだ。

 

「スネークさん、大丈夫ですか」

 

 心配した表情をしてくれているが、安心している場合ではなかった。

 

「雪風、聞いてくれ、あの忍者は全身から発熱していた」

 

「発熱?」

 

 少し考え込んで彼女は、そうですかと呟く。

 

「雪風はどうすれば?」

 

「一瞬で良い、あいつの動きを止めてくれれば」

 

「分かりました」

 

 同じ場面を見ていたのだろうか、それにしても察しが良い。恐ろしい位だったが、この場においては心から頼もしかった。

 

〈G.W、4号機から10号機までを発艦させておけ〉

 

 再びチャンスが来た、忍者は今度は、真正面から斬りかかってきた。その一撃をブレードで受け止め、そのまま体に体当たりする。全身を高熱が焼くが構わずに突き進み、最後に渾身の力を込め、ブレードを振り上げた。

 

 押し切られた忍者は、背後に向かって跳躍する。

 その着地点に雪風が、主砲を撃ちこんだ。空中では回避はできない。海面のしぶきが当たりかける。忍者は予想通り、ブレードで飛沫を残らず弾く。

 

 そこへ、百発近くのミサイルを叩き込んでやった。

 勿論忍者は逃げようとする、だが事前に展開した6機のレイが忍者を抑え込む。機械であるレイならば、熱の痛みは関係ない。逃走は間に合わず、先程とは比べ物にならない海水を全身に浴びることになった。

 

 同時に、忍者が絶叫した。

 理屈は分からないが、確かに効果があったのだ。続けて追撃しようとするスネークだが、その手を止めたのは、また、忍者の狂気だった。

 

「良い良い良い良いぞ殺してやる殺さねば愛国者達の利は全て沈めシズメテシズメシズメシズメシズメ」

 

 言葉、というより、痛みによる絶叫だった。怨念とも執念ともつかぬ狂気をばらまきながら、忍者の姿が、また消える。

 しかし、その姿がまた現れることはなった。勝利の余韻はない。絶句だけが残されていた。




サイボーグ忍者(艦隊これくしょん)

 突如としてスネークたちの前に現れた謎の存在、初遭遇は単冠湾泊地での戦闘であり、その時はスネークたちを戦艦棲姫から助けたが、今回は敵対行動をとる。
 その目的や所属は一切不明、性別も不明(海上に浮いていることから恐らく艦娘か深海凄艦、つまり女性)。一つだけ明らかなのは、彼女が凄まじい戦闘能力を有しているという一点のみ。
 戦艦棲姫の分厚い装甲を軽々と両断し、飛び交うアーセナルのミサイル群を足場に跳躍し、一瞬の間に、消えたと錯覚する速度での移動など、異常極まった能力を持つ。
 ただし、海水を直に浴びることを避ける点から、なにかしらの原理があるのは確かである。現在はスペクターと共に、北条が研究を行っているものの、資料不足により難航中。

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