【完結】アーセナルギアは思考する   作:鹿狼

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File36 自律歩行潜水戦機

 嵐が過ぎた、圧倒的暴力と狂気を伴った暴風が過ぎ去った。

 全ては砕け散り、吹き飛ばされ、散乱している。崩れ去った瓦礫もバラバラにされたスペクターの残骸も、そこら中にぶちまけられていた。

 

 まさに、嵐の過ぎたあとのようだった。辛うじて生き残ったスネークと雪風は、まずジョンの元に駆け寄る。独房の中にいたお蔭で外傷はないが、白目を剥いて気絶している。仕方ない、あれは完全に狂っていた。

 

 だが、寝かせている暇はない。スネークは彼の肩を若干乱暴にゆすり、ジョンの意識を覚醒させた。ここからだ、ここからやっと事態が動きだす。

 雪風は覚えていた、呉が消滅するという、彼の言葉を。

 

 

 

 

―― File36 自律歩行潜水戦機 ――

 

 

 

 

――2009年8月5日20:00 硫黄島米軍基地跡

 

 安心して良いのか悪いのか、とにかく三日間に及ぶ観艦式は無事終わったと、青葉から連絡が入った。輸送艦の不振な動きがあった時点で、大本営は予測していた。襲撃があるとすれば、それは観艦式の最中だと。

 

 その目的は、もしかしたら白鯨の実戦投入なのではないか。開発者が呉に現れたことで、大本営はそう予測した。観艦式の警備に人を割いていたのは、この辺りが理由である。しかし結果として、襲撃は行われなかった。

 

 潜水艦の追跡部隊も、じきに此処に来るらしい。その時点で大本営も確信することになる、白鯨が此処にあることを。もっとも雪風たちは、先んじて知ったわけだが。無線機から、青葉の声が聞こえる。

 

〈白鯨はどうしましたか〉

 

〈開発者を優先したせいで逃げられてしまった、ゴーヤ辺りは見てないのか〉

 

〈見てないか、見れなかったかのどちらかでち〉

 

 実は硫黄島内部に立て籠もっているか、もしくはソナーで発見できない速度で逃げたか。いずれにせよ、この硫黄島でできることはなくなったということだ。残っているのは、やっと目を覚ましたジョンから情報を聞き取ることである。

 

〈大本営は、今後の襲撃に備えて警備を強化する予定らしいです。なので、スネークたちを掴まえるために、大部隊は出さないと思います〉

 

〈了解した、引き続き監視を続けてくれ〉

 

〈ゴーヤは?〉

 

〈特にはないが……〉

 

〈あ、なら青葉から良いでしょうか。硫黄島の近くの、父島に行って貰いたいんです〉

 

〈何かあるのか?〉

 

〈ガングートさんから、話があるので繋ぎますね〉

 

 果たしてこのまま聞いていいのだろうか、雪風は少し不安になる。だがどうせもう売国奴だ、今更どうでもいいか。

 

〈スネーク、早速だが本題に入らせて貰う。雪風はそこにいるな? お前たち呉の面々が掴んでいた囮の輸送艦だが、どうも、ただの囮でない可能性がある〉

 

〈囮ではない、どういうことですか?〉

 

〈囮にしても、積荷が鉄屑なのは不自然だ。だから私たちの元で、鉄屑の出所を調べてみた。そしたらとんでもないことが分かった。あの輸送艦は、『単冠湾泊地』の周辺海域から出港していたんだ〉

 

 単冠湾泊地といえば、多摩から聞いたスネークが活動した場所である。そして冤罪とはいえ――ブラック鎮守府だった場所だ。

 

〈海底調査を北方棲姫傘下の潜水艦に頼んでみたが、予想通りだった。海底で、人が何かをサルベージした痕跡がある〉

 

〈まさか〉

 

〈轟沈した艦娘の艤装だ〉

 

 無線の奥で、伊58の声が詰まるのが聞こえた。

 

〈その運び先が、父島だ。何があるかは分からないが、何かがあるかもしれない。頼めるか〉

 

〈了解、でち〉

 

 しかし轟沈した艦娘の艤装など、なにに使うのだろうか。錆びているし浸水していて使い物にならない筈だ。まさか、轟沈した艦の怨念から、深海凄艦を生み出すのか。生憎彼女たちの生体は解明されておらず、否定はできなかった。何かに利用されていることは確かだった。甦らされて、遺体さえ利用される。この黒幕は、死者をなんだと思っているのだろう。

 

「……あいつだ」

 

 ジョンの目線は不安定だったが、遥か遠くを正確に見つめていた。正確に言えば、サイボーグ忍者が過ぎ去った方向だ。

 

「僕が日本に亡命しようとして、ソ連からの輸送船に紛れた時、警備に見つかりそうになった時、あいつが、助けてくれたんだ」

 

「あの忍者が?」

 

 思わず繰り返してしまった、どう見ても狂人でしかないアレが、ジョンを助けるとは思えなかったが、実際に助けてしまっている。しかし、恩人の筈の人物が、あんな言動で現れて、ジョンは完全にショックを受けているようだった。忍者の目的はなんなのか、だが、それより前にやるべきことは白鯨だった。

 

「ジョンさん、酷いことはされませんでしたか」

 

 雪風の声を聴き、彼の顔が少しだけ緩んでいた。

 

「大丈夫」

 

「じゃあ、教えてください、此処で今、何が起きているんですか」

 

「……明日だ」

 

 ジョンは俯きながら、ぽつりと呟いた。

 

「明日?」

 

「明日、呉鎮守府を、白鯨は襲撃する。デモンストレーションのために」

 

 やはりそうなのか、頭が痛いが、大本営の予想は当たっていた。

スネークの言った通りだ、ソロモン諸島の時から、戦艦棲姫の目的は変わっていない。

 

「白鯨は、なんなんですか。警備を厳重にした連合艦隊を撃滅しうる兵器なんですか」

 

「いや、万全な艦隊なら迎撃できる。やり方を知っていればだけど」

 

「やり方?」

 

「戦術的には弱い、けど戦略的には無敵。それが白鯨だ、でもまだ、止められるかもしれない」

 

「止められる? 抜錨前にですか?」

 

「スネークは、ここで白鯨を見たんだよね。その時、『足』はあった?」

 

「足? いや、そんなものなかったが」

 

「ならまだ白鯨は未完成だ、もう半分の足は、きっと父島にある。ゴーヤって艦を向かわせたなら、皆も急いだ方が良い。『上部パーツ』と『下部パーツ』の接続が終わったら、もう止められない」

 

 顔を、始めて上げた。

 彼の眼は真っ赤に晴れていて、眼もとに跡がついていた。憔悴しきっているのか、頬がまた痩せている。ジョンは縋るように、雪風の制服を掴んだ。

 

「あれは白鯨だけど、足がある。だから魚類(フィッシュ)じゃないし、哺乳類(ママル)でもない。勿論鳥類(バード)でもないし、ましてや爬虫類(レプタイル)ですらない。その間だ」

 

「つまり、両性類(アンフィビアン)か」

 

「そう、生き物らしく動く、海と陸のミッシングリンク。戦艦棲姫はそう言ってた」

 

 その一言を聞いた時、確かにスネークは硬直した。

 

「『自律歩行潜水戦機メタルギア・イクチオス』、それが白鯨の、真の名前だ」

 

 

*

 

 

 メタルギア――その名前が、雪風の中でぐるぐると回る。

 

「またの名を『衝角潜鬼』、名前の通りイクチオス最大の特徴は、両肩に装備されたラム・ユニットだ」

 

「衝角? まさか、この時代にラムアタックを仕掛けるというのか」

 

「そうだ、けど、可能だ。イクチオスは一瞬なら、水中で40ノット出せる」

 

「40ノットですって!?」

 

 通常WW2当時の潜水艦が水中で出せる速度は、せいぜい2.3ノットだ。それが一瞬とはいえ40ノットとは、普通ではなかった。いや、深海凄艦出現以前の最新鋭潜水艦でも、ここまでの速度はあり得ない。

 

「どうやってそんな速度を出している、40ノットとなると、(アーセナル級)と同じ速さだ」

 

「知らない、僕が関わっていたのはあくまで基幹部位とその制御AIだけで、推進装置や内部システムは別のチームがやっていたんだ」

 

 一瞬、他のチームの話をした時、ジョンの顔が曇った気がした。

 

「とにかく、潜水艦の質量体が40ノットで水底から突っ込めば、どうなるか分かるでしょ」

 

「殆どの艦は一撃で沈むな、水底に大穴を開けて、一気に浸水させる。しかも戦艦や空母では、潜水艦に対し有効打を撃てない。対大型艦用とは、そういう意味か」

 

「でもそれなら、対潜特化の駆逐艦や海防艦、軽巡洋艦には弱いのでは?」

 

「弱いよ、でもイクチオスはあくまで潜水艦だ。つまり艦隊を組むことが前提、必ず強力な水上戦力を連れている。特に今回はデモンストレーションだから、一番やばいのを連れてきてる」

 

「スペクターか」

 

「皆は、そう呼んでいる。けどイクチオス最大の特徴は、もっと別にある、『足』による、強襲揚陸だ」

 

 白鯨だが、足がある。水中に棲みながらも最後は陸に昇れる。だからこいつは両生類の生を冠しているのだろう。

 

「手順としてはこうだ、まずイクチオスが先行し、水中からラムアタックを仕掛け大型艦を撃破する。決定打を失った防衛部隊は、そのままイクチオスの突破と上陸を許す。水上で暴れている間、その援護を護衛部隊件支援艦隊が行う。接近には気づけない、速度を大幅に落とせば、完全無音航行が可能だし、上陸も一瞬。しかも衝角をピックに見立てることで、垂直の断崖絶壁からも上陸できる。あらゆる地点から瞬時に本土上陸が可能、それがメタルギア・イクチオスという兵器なんだ」

 

 出鱈目も良い所だった、こんな兵器が量産されれば、日本どころか、世界中が湾岸防衛のアップデートを強いられる。今までのような大型艦だけでは無理だ、戦艦から駆逐艦まで、あらゆる艦種をあらゆる場所にまんべんなく配置しなくてはならない。一体どれだけ莫大な戦費が掛かるのか。

 

「大それた兵器だが、裏を返せばあらゆる艦を揃えておけば、対処できない兵器ではない、合っているか?」

 

「正解さ、だから言ったじゃんか、対処法を知っていればどうにかなるって。勿論とんでもないお金は掛かるけど」

 

「それが、戦艦棲姫の目的か」

 

 スネークも、私と同じ結論に到達しているようだった。戦争を続けさせることで、戦艦棲姫は世界平和を実現させると言った。人間の代わりの代理戦争を終わらせないための軛が、白鯨なのだと。なら、戦争を終わらせないためにはどうすれば良いか。簡単だ、世界が()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「戦争経済の実現が、真の目的か」

 

「そう、戦艦棲姫は、この世界の平和が代理戦争で成り立っていると考えている。あいつはそこに眼をつけた。イクチオスに対抗するには多くの艦娘が必要だ、保有制限の国際法も緩くなる。鎮守府や泊地の数も増える」

 

 通常であれば、そんなことは実現できない。

 戦争には金が掛かる、いずれ尽きる。だから止めて溜めるタイミングがいる。俗にいう平和という奴だ。だがそれは、相手が国家だった時に限られる。

 深海凄艦の金は尽きない、どういう訳か資材も尽きない。限界はあるようだが、ある程度自然回復してしまうからだ。だから戦争を続けるしかないのだ。

 

「元々現代国家の多くは、経済活動の多くを戦争に依存している。艦娘の整備、建造、彼女たちの生活を維持する為のライフラインに娯楽施設。そこから生み出される労働力への需要。知ってる? 今深海凄艦との戦争が終わったら、日本国民の四割は失業するらしいよ、それぐらいに戦争経済は発達しちゃっている」

 

「戦艦棲姫は、イクチオスでよりそれを深刻化させるつもりなんだな」

 

「観艦式の人だかりを見たでしょ、今でさえあれだ。

 イクチオスへの対抗として、艦娘と鎮守府は更に増える。連動してそこから生まれる戦争特需も更に増える、世界は更に戦争経済に依存に、もう二度と抜け出せなくなる。世界中の人が、グリーンカラー(戦争生活者)になる」

 

「戦争は終わらず、だが金を生み、世界は平和……ふざけているな」

 

「良い世界かもしれない、経済は好景気のまま世界平和なんだから。戦争が終わらない点を除けばね」

 

 1950年の朝鮮戦争により、日本は戦争特需へと突入した。それにより戦後の不景気から脱したとも言われている。戦っている当人たちはとにかく、周りには需要を齎すのだ。なら疲弊し切らないタイミングで、戦争――ビジネスの場を移せば、戦争経済は永遠に継続できてしまうだろう。

 

 これを突き詰め、永遠に回そうとするのが、戦艦棲姫の狂気だった。終わらない戦争が、しかしもっとも平和に近い。私たちを永遠に食い物にすることで――ビジネスの場という、代理戦争をすることで。

 

 

*

 

 

「お願いだ雪風、止めてくれ、あんな奴の夢に協力したなんて、嫌だ」

 

「分かっています、必ず止めます」

 

 戦争が終わらないことは悪夢なのだろうか?

 今だってどこかで戦争は起きている、全世界の平和は夢でしかないのか? だが、雪風自身は、悪夢だと考えた。だから、止めるべきと決意した。

 

〈ス、スネーク!〉

 

 急に入ってきた青葉の無線に、スネークが渋い顔をする。

 

〈大本営の動きが変わりました、不味いことになりそうです〉

 

 大本営は、呉が白鯨――メタルギア・イクチオスに襲撃される可能性を考えて、作戦を練っていたが。

 

〈イクチオスを、引き入れるつもりみたいです〉

 

 何を言っているか全く分からない。何故、そんな必要があるのか。

 

〈デモンストレーションを逆に利用して、大本営の威信を証明して、国際的に有利な立場になりたいらしく。だから敢えて懐に入れて、精鋭だらけの第一艦隊で包囲残滅を行うと。それにどうせ襲われるなら、日程を調整してやろう……とのことでして〉

 

 言っている全てが間違ってはいない。襲撃が来るまで永遠に厳戒態勢の維持はできない。だが、そこまでする必要があるのか。誘き寄せること自体には反対しないが、計画を知らないであろう防衛部隊は、多くが犠牲になる。本来の襲撃予定と一致した日に誘き寄せれば、間違い無く来るだろうが。

 

 威信を高める必要はもっと分からない、

 威信と国力が上がれば、他国との無駄な戦争を避けられる。だがこんな犠牲を負ってまで、必要な事なのか。これは平和のための犠牲なのか。

 

「ぼ、僕のせいだ、僕が早く、イクチオスの情報を出しておけば」

 

 こんな時になんだが、どうしたのだろう、と雪風は心配した。

 始めて会った時は、自分の作った怪物に、何の責任も抱いていないようだった。だが再会したらこれだ。

 

〈スネーク、雪風〉

 

 真下から声がした、妙な機械からG.Wの声が流れている。メタルギアMk-4というらしい。

 

〈付き合って欲しい場所がある、この独房の更に地下に、部屋を発見した〉

 

「どんな部屋だ」

 

〈……AIである我々がこう言うのは不服だが、言葉にできない〉

 

 小さなタイヤを転がして、メタルギアが走る。その後ろを雪風たちがついていく、ジョンは彼女に抱かれたまま、うわごとのように魘されて、階段を降りる事に熱が上がる。見ている悪夢が、どんどん鮮明になる。

 

 最後の階段を下りた時、悪夢は現として実体化した。

 広々とした研究室が広がっていた、ここまでで見た人間性を削る見た目ではなく、綺麗でシンプル、あらゆる物が種類や分類ごとにラベル付けされ、丁重に保存されていた。だからこそ雪風は、心の底から戦慄した。

 

「なんだ、これは」

 

 整理整頓されていたのは、まず駆逐艦娘の生首だった。

 それが艦種、サイズ、骨格などで、綺麗に分類されている。隣には深海凄艦の生首が、同じように整えられていた。

 

 腕も、内蔵も、大脳小脳、やった人物の几帳面さが伺える。

 あらゆる部位が、部屋の壁という壁に保管されていたのだ。丁重に、綺麗さを意識し、心の底から大切に扱われていた。だがそれは、『人』ではなく『物』への取り扱いに他ならなない。

 

〈死体だ〉

 

「視れば分かる、これはなんだ、何の為にこんなものがある!?」

 

「……スペクター、だ」

 

 ジョンが呟いた、悪夢に魘されながら、後悔と恐怖でがんじがらめにされ、搾り出された悲鳴だった。

 

「連れて来られた時、戦艦棲姫に見せられた、これが、スペクターの部品なんだって、艦娘や深海凄艦、それに、人間の部品を継ぎ足されたものが……」

 

「もう良い、もう分かりました」

 

「それだけじゃない、目の前で……仲間が、僕以外の、ソ連の時一緒だった、スタッフも、あの、中に……」

 

 整理整頓されているから、分かった。

 死体の保管室の横には、染みの一つもなく洗濯された白衣や、身分証などが並べられていた。彼らは、白鯨の最終調整のため連れてこられたのだ、そして最後は用済みとして、処分され、更に利用する為に保管されている。

 

「一人で、ソ連に拉致された僕に、皆優しくしてくれた。皆、あんなに、意気込んでたのに、もう、もう、いない……」

 

 言葉が出なかった、何故、こんなことをする? なぜ、彼のような子供に、こんなものを見せた? 確かに加担したのは間違い無い、だが、だからって。雪風の中で、やるせない思いが行き場もなく渦巻く。

 

「もう、嫌だ」

 

「…………」

 

「ずっと、他人事だと、思ってた。でも、人が死ぬって、こんなに……でも、こんな最後なんて……」

 

「まだだ、お前にはまだやってもらうことがある」

 

 スネークが、ジョンの前にしゃがみ込む。雪風は怒鳴りたかった、貴女はまだ、彼を利用しようと考えているのか。けど、スネークの顔は、怒りと悲しみでぐしゃぐしゃになっていた。それを何とかして抑え込んで、口を動かしていた。

 

「もしもイクチオスの起動を止められなかった場合、お前の知識が絶対に必要だ。あれを止めるまで私は戦う。だからお願いだ、それまで、堪えてくれ」

 

「……分かっている、僕が、止めなきゃ。あんなことをする奴に協力してたなんて、僕だって嫌だ」

 

「ありがとう」

 

 スネークが、彼の手を取ろうとした。ジョンもその手を握ろうとする、こんな形で、人の死を実感してほしくはなかった。できるならもっと長い時間をかけて、知ってもらいたかった。それでも、今でなければならないなら。

 

 

 

 

「駄目ですよ、そんな人の手を取ったら」

 

 

 

 

 常軌を逸した轟音が鳴り、スネークが吹き飛ばされた。

 咄嗟にジョンを庇った雪風は、幸運にも瓦礫に揉まれるだけで済んだ。雪風はこの声を知っている、この砲撃を知っている。

 

「大和、さん……!」

 

「情報提供ありがとうございます、ですが、イクチオスを止められるわけにはいかないので」

 

「あくまで迎撃するのは、大本営、そうしたいのか、貴様たちは」

 

 朦朧とする意識を保ちながら、スネークが怒りに溢れた声で唸る。大和はそれを一瞥し、嘲笑っていた。

 

「ええ、でもそれで世界平和がより近づくなら良いですよね? 私たちは、平和のために戦っているのですから」

 

 戦艦大和の出力が、スネークの腹を抉る。無様に吐しゃ物を撒き散らし、彼女の意識は失われた。

 

「さて、今更、抵抗はしないですよね?」

 

 何故彼女がここにいる、大本営の動向は探っていた、硫黄島捜索は、もう少し先の筈だ、どうして分からなかった――もはや、意味のない疑問だった。

 

 彼女にとって、大本営の命令は絶対なのだ。例えどんな理由があろうと、大本営の下した命令なら従う。それが最優先であり、その為ならどんな犠牲もいとわない。物でしかない艦艇は、使い手の意志通りに動かねばならない。

 

 だが私たちには、明確な意志がある。

 なら大和はなぜ疑問を持たない、どうして機械として振る舞う。それが、艦艇として正しい姿だからなのか。だが機械を操るのは人間だ、人間の集まりである大本営が下したこの判断は、人間的なものなのか?

 

 ただ一つ言えることがある。

 この時、なにかしなかったことを、私は一生悔いるということだ。そして他ならぬ、大和自身も――その体が錆びるまで。




『イクチオス(スネーク×ジョン・H)』

「……おええ」
「まだ気分が悪いか」
「あんなの……酷いよ……」
「艦娘に深海凄艦に人間の死体まで継ぎ接ぎしたキマイラ、まさに亡霊か」
「亡霊と言ったら、艦娘だって似たようなものだけどね」
「だが、あれでは侮辱でしかない」
「スペクターの根絶も頼みたいけど、僕はスペクター製造には関わってなくて、役に立てそうにない」
「いいや、お前はイクチオスだけで十分やってくれている。これ以上、無駄なことをする必要はない」
「そっか……分かったよスネーク」
「でだ、イクチオスになにか弱点はないのか」
「弱点というと、まず装甲かな」
「装甲?」
「イクチオスは結局のところ、潜水艦でしかない。だからその強度も潜水艦と同程度だ。駆逐艦の主砲でも簡単に大穴が空いちゃう。しかもあの巨体だ、どこを攻撃しても、ダメージは通る筈だ」
「……そう簡単にはいかないんだな?」
「うん、だからイクチオスは、地上でもとにかく機動力を損なわないような設計になっている。しかもAI制御だ、狙いをつけて撃っているようじゃ、絶対に当たらない」
「どうすれば良い」
「イクチオスは水陸両用だけど、それでもかなりの無茶をしている。だから地上行動時に、過度な負荷がかかると行動が鈍くなる。ねらい目はそこだ」
「了解した、もしそうなったら、参考にさせてもらう」

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