【完結】アーセナルギアは思考する   作:鹿狼

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File37 衝角潜鬼

 目の前が、眩しい。何も見えない、全部が真っ白だ、眼も体も、激しい光に呑まれてしまった。なのに聞こえる、声にならない嗚咽が。悲鳴の鳴りそこないが、そこら中をのたうち回っている。ただ、渇きを満たそうと彷徨って、ドンを強い衝撃で、そのままいなくなる。落下したということも、自覚できない。これはなんだ――誰が見せている?

 

 

 

 

―― File37 衝角潜鬼 ――

 

 

 

 

――2009年8月6日1:30 呉鎮守府地下独房

 

 スネークの意識は、突如として覚醒した。

 勢いよく飛び起きた途端、彼女は吐き気を堪えるのに必死だった。眩暈がする、喉も乾いて、全身が悪い汗で濡れていた。理解すらできなかったが、途方もない悪夢を見ていた。そのことは鮮明に覚えていた。

 

「……ここ、は」

 

「独房です、呉鎮守府の」

 

 心配そうにこちらを見つめる雪風も、同じように囚われているのか。段々と思い出してきた、私は大和に奇襲をうけ、意識を失ってしまったのだ。彼女は慌てて時間を確認する、体内のナノマシンによれば、現在時刻は――8月6日の、1時40分だ。相当寝てしまっていたらしい。

 

「状況は、どうなっている」

 

「変わっていません、大本営はイクチオスを引き込む予定です」

 

 そうであれば問題はない、だが、スネークはそうとは思えない。このデモンストレーションは、戦艦棲姫にとっても待ちに待った機会だ、別の罠が張っている可能性は高い。脱出しようとしたが、手も足も厳重に手錠で拘束されていた。

 

「あら、もう起きたんですか」

 

「おかげさまで良い睡眠がとれた、お前も試してみるか、加減はするぞ」

 

「大和に無駄な睡眠は不要ですので」

 

 にやにやと笑う大和の顔面を殴りたい、と思った。しかし艤装もなく、四肢を拘束された私は完全に無力だ。これから拷問でもされるのだろうか、そう考えると胃の奥から気持ちの悪い物が込み上げてくる。

 

「大本営は正気なのか」

 

「言った通りです、メタルギア・イクチオスでしたか。あれを迎撃すれば大本営の権益は揺るぎないものになる。それに加え、あの機体を解析すれば技術向上にも繋がります」

 

「それで負けたら、一生笑い者だ」

 

「負けませんよ、ジョン・Hからイクチオスの特性は聞きだしました」

 

「それだけで万全なものか、戦争には必ず予測外のことが起きる」

 

 戦場で起きることを、事前に全て予測なんてできやしない。だからこそ、リアルタイムで何が起きているか解析するシステムが必要とされるのだ。スネークはその実物(SOP)を知っていた。

 

「アーセナルさんの言う通りです、戦いにはリスクが付き物。だからこそ賭けに勝てば、大きな利益が手に入る」

 

「呉を、危機に晒してでもか」

 

「権威、技術、そして平和。なによりも替えがたいものでは。有事に備えて、極秘裏に避難は完了済み、もしも核が撃たれても被害は最小限ですから」

 

「……知っていたのか、知っていて、これをしているのか、お前たちは」

 

 独房のどこかから、水漏れの音が跳ねる。ピチョンと水は波紋を放って、張り詰めた空気を甲高く響かせた。反響が止む頃、スネークの頬からも、水漏れが一滴零れ落ちた。耐え切れなかったのは、雪風だった。

 

「核、が、撃たれる?」

 

「私の予想が正しければ、メタルギア・イクチオスは新型核弾頭を搭載している。何らかの使用手段も兼ねている」

 

「同じ予想は大本営もしています、単冠湾で起きた事件、戦艦棲姫が新型核の一発を持ち逃げしたという報告は富村提督から受けました」

 

 一連の事件に関わっているのは戦艦棲姫だ、彼女がこのタイミングで核を持ちこまないとは考えにくい。なによりも、イクチオスは、『メタルギア』なのだ。

 

「まあ、核を持っていても、せいぜい自爆でしょう」

 

 それは、確かにそうだ。新型核はその特異性から、リトルボーイやファットマン――つまり投下型核弾頭がベースになっている。だからミサイル発射はできない。艦載機で運ぶにしても、巨大な陸上爆撃機でなければできない。仮に詰めても、離陸の為の滑走路がない。だから直接持っての、自爆しかあり得なかった。

 

「そういう問題か、どちらにしても、核が爆発するんだぞ」

 

 だがそうではないだろう、人的被害の問題ではないだろう。

 しかし、全ては可能性の問題だった。そんなことを言えば、原子力発電所などは人の住んでいる場所でも動いている。そちらは良くて、人のいない場所で使う核だけが許されないのは、理由が通らない。

 

 それでも、スネークには抵抗があった。恐らく、私の中にいるスネーク達が、核に翻弄されてきたからだ――そう自覚した。

 だが大和の次の一言は、それさえ些細に思わせた。

 

「人的被害はありません、もし水鬼が核を使うのなら、日本も報復として、()()使()()()()()()()()

 

 大和はこう言っていた、日本が核を保有していると。

 日本には、非核三原則があったのではないか。だがスネークは思い出す、大本営がモセスの核を確保しようとしていたことを。

 

「と言うことで此処で待っていてください。正直な話、貴女方に出られると、とても困るんです」

 

「そうか、なら絶対に脱出してやる」

 

「英雄アーセナル、幸運艦雪風。実は、ことの発端は貴女方にもあるんですよ? 貴方達が活躍し過ぎたせいで、肝心の大本営の権益は落ちたのですから」

 

 そんなこと、私には関係ないだろう。

 雪風はもっとだ、彼女は一軍人として役目を全うしていただけだ。なのに活躍し過ぎただと、ふざけている。

 

「ではまた後で、世界が平和になったら」

 

 大和の足跡が、虚空に響き渡る。

 何としなくては、このままでは大変なことになる。スネークはそう感じていたが、だがやはりどうにもならない。だが足掻かずにはいられない。そうしていた時、突如手元の手錠が切断された。

 

「早くするんだスネーク、時間はないぞ」

 

「G.W、お前どうやって」

 

「メタルギアMK-4がステルス迷彩を持っていることを忘れていたのか、肝心な時に役に立たない、これだからアナログは」

 

「やかましい、さっさとナイフを寄越せ」

 

 迷彩を解除したMk-4の触手に、小さなナイフが握られていた。スネークはそれを取り、続けて雪風の拘束も解除する。父島に向かった伊58からの報告では、イクチオスは残る下部パーツとの接続を済ませてしまったらしい。

 

「あれから十分時間が経った、いず襲撃が起きてもおかしくない」

 

「待ってくださいスネークさん、雪風は艤装を探したいです」

 

 考えてみればスネークもだ、彼女の艤装は海底。今から取りに行く時間があるのだろうか。しかしG.Wは、既に鎮守府内部に移動させていると言った。あんな大型艤装を気づかれずに、と思う。

 

「協力者がいた」

 

「協力者?」

 

〈私だよ、久し振り……いやスネークは初めてか、重雷装巡洋艦の北上だよー、よろしく〉

 

 話しぶりからして、雪風の知り合いだろうか。なら信用してもいいはずだ。雪風や私の艤装の置き場、それに加え、敵兵に見つからずに移動するルートも確保してくれているという。心の底から、助かったとスネークは感じた。だがこうも思う、都合が良すぎないかと。

 

「一応聞くが、何故協力してくれる?」

 

〈いらない犠牲なんていらない、あと大和が気に喰わない、あと核が爆発する危険なんて、もっとヤダ、後は?〉

 

「十分だ、感謝する!」

 

 心なしか、地鳴りのような音が聞こえる。

 独房の天井から小さな塵が零れ落ちる、猶予はないかもしれない。スネークは二本の足で、地面を駆け抜けていく。

 

 

*

 

 

 鎮守府の中はガラガラだ、大体がイクチオス迎撃に駆り出されているのだ。その大半は後詰めの第一艦隊のための捨て駒だが。全力で走りながらスネークは、一本の無線を繋ぐ。相手はジョンだ。無線機を持っているかは、賭けだ。

 

〈スネーク? スネークなの!?〉

 

「悪いが時間がない、教えてくれ、イクチオスは核を発射できるか?」

 

 絶句する声が聞こえたが、彼はすぐに思考し答えを返してくれた。これは重要だ、核発射能力を持つかどうかで、状況は激変する。

 

〈……ない、というか、無理だ。メタルギア・イクチオスはあくまで潜水艦でしかない、核ミサイルサイロなんて積めない。できてせいぜい、運搬と自爆だ。なにせ20メートルもある。本物の潜水艦にしたら、凄い大きさになる、核弾頭だって運べる〉

 

「自爆か……」

 

〈イクチオスのAIはイロハ級ベースだ、戦艦棲姫がやれと命令したら、迷いなくやる〉

 

 機械が意志を持ったのが艦娘や深海凄艦だ、しかしイクチオスに意志はない。それをやったのは、意志を持った深海凄艦だ。意志があるからこそ、機械を求めるのは、皮肉に見えた。

 

〈でも、おかしなことがある〉

 

「おかしなこと?」

 

〈核を運ぶとしても、イクチオスは大き過ぎる〉

 

 艦娘と深海凄艦最大の利点は、小ささにある。人型サイズで大型艦艇並みの火力を運用できることが、色々な特徴の中で最大の強みだ。イクチオスはこれを、意図して棄ててしまっている。

 

〈最悪の可能性は、考えておいてくれ〉

 

「分かっている」

 

 スネークは更に走る速度を高めようとして、巨大な振動が鎮守府を襲った。窓の端から見えた海岸に、巨大な魚影が写っていた。

 

〈……来た〉

 

 巨体が飛び出し、腹を擦りながら着地する。

 それは、名前の通り、驚くほどに真っ白だった。

 肩から生える衝角に血が滴っている、先端にはまだ艦娘の肉片が残っていた。機体が白い分、赤い血が目についた。だがこれでは陸に上げられた鯨でしかない。

 

 しかしイクチオスは両生類だった。

 衝角を肩へしまい、変形を始める。肩は上下に分かれ、そして前足が現れた。

 前足と後ろ足で立ち上がり、メタルギアは吼える。地面を踏み締め、歩く喜びを表現する。

 

 イクチオスとは、地球で初めて生まれた――と考えられていた両生類、イクチオステガから取られている。

 しかし、もう一つ意味がある。

 白亜紀に棲息していた水生爬虫類『イクチオサウルス』だ。サイズは違う。だがこの生物と機械の間の存在は、間違い無く恐竜のどう猛さを内包していた。

 月明かりの下で、もう一度メタルギアは駆動した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 イクチオスのやって来た地平線には、餌食になった艦娘たちの黒煙が立ち込めていた。戦艦や空母は衝角で貫かれ、駆逐や軽巡はスペクターの火力に圧倒されていた。ジョンから聞いていた通りの、理想的な運用が成されている。

 

 大本営も、そうなるよう準備したのだろう。大型艦がやられ、上陸を許す。内地に誘き出すのが目的なのだ、理想的な流れを演出しなければならない。その上で撃滅することで、始めて価値が生まれる。水面に浮かぶ大破した艦娘は、必要とされた犠牲ということか。

 

 上陸したイクチオスは、巨体を揺らしながら一歩一歩前進していく。追いついた護衛のスペクターも上陸し、イクチオスに続いた。イロハ級程度のAIということは、原始的な知能は持っている。つまり、感情だ。

 

 野生動物は複雑な思考をしない、代わりに本能や感情によって、素早い行動決定を行う。スペクターは気づいていないが、イクチオスの本能は嫌な予感を告げていた。言葉にするとしたら、『敵が少なすぎる』、と言った具合だろう。

 

「撃ち方、始めて下さい」

 

 建物の影から、一斉に砲撃が始まった。

 砲撃は続けて怯みを呼び、その間に選りすぐりの正規空母たちが、莫大な量の艦載機を発艦させる。逃走は不可能か、と思われた。

 

 だがイクチオスは誰よりも早く、高く軽やかに跳躍し、埠頭付近まで一気に後退してのけた。あの巨体から信じられない動きだ、2,3階建てのビルなら簡単に飛び越えられそうだ。残ったスペクターが艦載機を出し、抵抗を始める。

 

「砲撃を緩めないで下さい、一気に畳みかけます」

 

 それでも、包囲されている戦術的不利は覆らない。スペクターが不死身とは言え、押されてしまえばどうしようもない。複雑な動きをする艦載機や砲撃にも、第一艦隊は完璧に対応してみせた。良く見たら北上と大井も混じっている――とてもやる気なさげだ。

 

「サスガノ第一艦隊、伊達ジャナイ」

 

 イクチオスから、声が聞こえた。背中から生えていた艦橋が動き、内部のハッチが開く。黒いドレスを着込んだ、()()の姫級が、不敵に笑っている。

 

「貴女が、戦艦棲姫ですか」

 

「エエ、デモソウジャナイ。私ハ『戦艦水鬼』、世界平和ヲ望ム鬼ヨ」

 

「化け物風情が世界平和とは、世迷い事も大概にしてください」

 

「貴女ガソレヲ口ニスルノ、ネエ大戦艦大和様?」

 

 戦艦水鬼と似た笑顔を張り付けた大和の、頬が少しだけ強張った。すぐ元に戻ったと思ったが、彼女の眼は冷たい銃弾のように変わっていた。

 

「全艦照準、目標、戦艦水鬼」

 

「馬鹿ナノ?」

 

 戦艦水鬼が、指先をパチンと鳴らした。

 瞬間、地獄が艦娘たちを襲った。第一艦隊が、それ以外の艦娘が、顔を真っ青にしながら、地面に崩れ落ちていった。

 

「私達愛国者達が、この時をどれだけ待ち望んだか。その為に、どれだけ下準備を重ねたのか」

 

「……なに、を……した……」

 

「内通者の存在に気づかない貴女達の猿知恵で、騙せると思ったのかしら」

 

 G.Wからの無線が激しく鳴り響く、彼女たちだけでなく、雪風も苦しんでいるらしい。伊58と青葉、そして私は無事だ。距離的な問題なのだろうか。しかしスネーク自身は有効範囲内にいる。動けるのは、私しかいない。やっと艤装を手に入れたスネークは、すぐさまミサイルのスタンバイに入る。

 

「ジャア、サヨウナラ」

 

 イクチオスの背中がまた開く、そこから一本のカタパルトが伸ばされた。先端には巨大な航空機が取り付けられていた。イクチオスは潜水母艦でもあるのか。その時、無線機から、青葉の絶叫が響いた。

 

〈嫌だ、なんで!? どうしてあれが!?〉

 

 それが何なのか、スネークにも直ぐに分かった。硫黄島で見た、潜水艦が運んでいた航空機の正体が、あれだ。

 

 しかしそれは、艦載機ではない。陸上爆撃機だった。

 

 スネークはやっと、イクチオスの『巨体』を理解した。無駄だと思っていた巨体は、全てあれを発射可能にするための、カタパルトを乗せる為にあったのだ。

 

 しかも――最悪の爆撃機だ。

 

〈スネーク、止めて下さい、青葉は、青葉はあれを知っています、瀬戸内海から来て、動けない青葉の後ろで、光が、雲が……!〉

 

 スネークも同じことを思い出していた。独房で見た夢を、あれは、まさに、今日の夢(8月6日)だったのだ。

 意味することはただ一つ、メタルギア・イクチオスは核発射能力を持つということ。

 全てを嘲笑い、戦艦水鬼が宣言した。

 

「サア、トビナサイ、ヒロシマヘ、『エノラ・ゲイ』!」

 

 最悪の6時間が始まった。

 

 

*

 

 

 スネークの放ったミサイル群が、次々とイクチオスに迫る。しかしスペクターの放った無数の艦載機が、そのまま盾となる。残りの分は回避される。見ている間に、B-29のプロペラが加速していく。

 

「コノミサイルハ、ソウ、スネークネ」

 

「その通りだ」

 

 スペクターをどうにかしなければ、イクチオスにミサイルは浴びせられない。しかしスペクターの沈め方は知らなかった。どうすればいい。会話しながら彼女は考え続ける。

 

「なんのために、こんなことをする」

 

「ナンノコトカシラ?」

 

「世界平和だ、だがそれならお前の言う、イクチオスだけで十分だ。なぜ核まで使おうとする」

 

「足りないからよ」

 

 イクチオスはまだ、エノラ・ゲイの発艦体勢をとったままだった。もしかした発射シーケンスに入ってから、実際に撃つまで、数分間時間が必要なのかもしれない。潜母に陸上爆撃機を搭載する無茶をしたからだろう。

 

「確かに戦争経済への依存を深刻化させれば、人間は決して戦争を止めなくなる。でももしも、他で代替できるようになったら?」

 

「人間同士の戦争を言っているのか」

 

「ええ、別に艦娘と深海凄艦の戦争じゃなくても、戦争経済は作れる。スネーク、いやG.Wなら、良く知っているんじゃないの?」

 

 G.Wは黙したまま様子を伺っている。彼の様子を見ても、戦艦水鬼は笑みを崩さない。

 

「でもそれじゃあ本末転倒、私が止めたいのは、人類同士の戦争。でも大国同士で争ったら世界は滅んでしまうわ」

 

「だから代理戦争で調整をしようというのか、世界の王にでもなったつもりか」

 

「まさか、私は愛国者達のエージェントに過ぎない。でも理想は本物よ。でなければ、核を使う覚悟には耐えられない」

 

 イクチオスのハッチに足をかけ、戦艦水鬼は遠くで倒れる大和を指さした。

 

「経済以外に、人を束縛するものがある。それはなんでしょうか」

 

「……さあ、生憎そういうのには縁がない」

 

「正解は『報復心』よ、例えばあの大和、実は硫黄島に現れたのは、ただの無断出撃だったって知ってた?」

 

 倒れる大和の顔が、わずかに動いた。

 考えてみれば当然だ、動くだけで莫大な資源を消費する大和型を、偵察目的で出すことはない。今回はアーセナルギアと雪風とジョン・Hという、大物を持ち帰ったから、お咎め無しで済んだだけだと戦艦水鬼は言う。

 

「こんな無茶な行動に出たのは、スネークや雪風への嫉妬――もしくは報復心があったから。いえ、依存してしまうのよ」

 

「何が言いたい」

 

「……今日は何日かしら?」

 

「8月6日、ヒロシマに原爆が投下された日だ」

 

 大正解、と戦艦水鬼はパチパチと、スネークを褒め称える。ここまで悪意に満ちた称賛を受けるのは初めてだった。

 

「そんな日に、原爆を投下されて、世界中の人々は深海凄艦をどう思うかしら。間違い無く敵意を燃やす、絶対に許さないと誓う。そう、世界中の人々が深海凄艦への報復を誓うでしょう、そうなればもう、絶対に戦争は終わらなくなる」

 

「それだけの為に、核を使うのか!?」

 

「核は報復のために使うものよ、だからこそ核抑止という夢物語が維持できた、でも夢の時間はモウオワリ」

 

 イクチオスのうなりが激しくなる、プロペラの回転は最大となり、カタパルトも射角調整を終えた。四肢で地面を踏み締めて、エノラ・ゲイの発射準備が完了する。

 

「報復とビジネスで、世界平和が実現する」

 

 報復心が、人類の意志を敵対で纏める。そんな話があってたまるか。

 だが、答えは歴史を見れば明白だ。リメンバー・アラモ(アラモを忘れるな)リメンバー・パールハーバー(真珠湾を忘れるな)。そう言って人々はモニュメントを建設し、人は報復で一つになっていった。 次はベトナム戦争、次はテロとの戦い。明確な敵を作ることで、世界は一つになる。

 

 しかしこれは、ある種の『法』だ。

 完全な自由状態では制御できない暴力を、ある一定の方向へ纏めること。報復のモニュメントも、平和を維持する為の法も、同じだ。核抑止の平和は報復が前提にある。平和と報復は、常に紙一重のところにある。戦艦水鬼は、敢えてそれを深海凄艦へ向けようとしている。

 

「ソレデモ止メルノ? 世界平和ヲ棄テテ、一時ノ満足ニ浸ルツモリナノカシラ?」

 

「ふざけるな、その先にあるのは平和ではない、完全な殲滅戦だ、貴様こそ自己満足もいい加減にしろ!」

 

「アハハ、流石英雄アーセナル! ソウデナケレバ、私ガイル意味ガナイ。ナラヤッテミナサイヨ!」

 

 スネークは再びミサイルを放つ、だがスペクターの艦載機が盾となり、残りはイクチオスに回避されてしまう。直接攻め入ろうにも、不死身のレ級と戦艦水鬼の支援砲撃の壁は厚い。発射までの時間は、刻一刻と迫っている。

 

 条件は最悪だ、スペクターの艦載機に阻まれず、かつイクチオスが回避できない距離で攻撃をしなければならない。しかし今のままでは、辿り着く前に蹂躙され、無力化されるのが関の山。どうすればいい――

 

「スネーク!」

 

 遥か遠くの空から、何かが飛来した。

 零式水上偵察機――青葉が搭載していたそれが、彼女の叫びに押し出されて、まっしぐらに突っ込んで行った。コックピットの妖精が、この世界のものではないように見えた。この世ではない場所に、行くからだった。

 

 カミカゼ(特攻)が、イクチオスの衝角に直撃した。

 発射シーケンスそのものは中断できていないが、姿勢を崩した。そして戦艦水鬼の注意が、一瞬だけそれた。

 

 スネークは、迷わず突撃した。

 盾突くスペクターは、無理矢理引き千切った。たかが継ぎ接ぎのガラクタと、原子力潜水艦。出力差は圧倒的だ。だがアーセナルギアは潜水艦だった、自身の過剰出力に肉体(装甲)が耐え切れない。亡霊を蹴散らした両手から、夥しい量の血が吹き出す。

 

 それでも止まることは許されない、戦艦水鬼が気づいた時、スネークはイクチオスの頭部を、地面に叩き付けていた。

 

「――ハハハ、特攻カ、イイゾ、英雄ニハ劇的ナ死ガツキモノ!」

 

 戦艦水鬼の声は聞こえない。

 イクチオスの動きを封じ、懐に入り込んだ彼女は、迷わず――全てのミサイルを、レイの分も含めて全てを打ち出した。艦載機の盾の内側で、火花が散る。

 引き剥がそうと、戦艦水鬼、レ級の砲撃、空襲が迫る。混じって飛び交うミサイルは、いっそ幻想的にさえ見えた。

 全てが、真っ白に塗りたぐられ、スネークの意識は途絶えた。




自律歩行潜水戦機メタルギア・イクチオス(オリジナル)

 大本営からの呼称は『衝角潜鬼』。名前の通り、両腕に装備された大型の衝角を最大の特徴としており、これが主な攻撃手段となっている。この巨体かつ、最大40ノットの速度から繰り出される真下からのラム・アタックは極めて強力であり、大抵の大型艦は一撃で撃沈可能。
 また同時に、地上での歩行能力も持ち、戦闘力も殆ど変わらない。地上の場合は搭載された機銃や駆逐級主砲、パイルバンカーへと用途を変えた衝角を用い、随伴艦と共に行動する。
 しかし、最大の特徴は陸上爆撃機を発艦可能とするカタパルトを内蔵している点である。また目標地点まで、自力で最接近できるため、機体の航続距離を短くできるメリットもある。現在確認されている機体は、エノラ・ゲイを搭載している。

 雑だけど書いておきました。脳内保管にでもどうぞ。

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