【完結】アーセナルギアは思考する   作:鹿狼

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File40 対メタルギア・イクチオス

 しかし事態は、想像を上回る事態へと以降し始めた。

 メタルギア・イクチオスが、その姿を消したのである。今さっき、大和級の主砲を直撃させたのに、残骸もなく消えてしまった。

 

 消えた後には、近海へと繋がる大穴が空いていた。肉片のようなもので創られた空洞、呉鎮守府や、硫黄島にあったものと全く同じものだ。証拠はないが確信した、これは、イクチオスによるものだと。

 

「ジョンさん、これは……」

 

〈分からない……イクチオスが何故か大きすぎるのは分かってたけど〉

 

「大きすぎる?」

 

 兵器としては非効率的過ぎるイクチオスの巨体は、エノラ・ゲイを滑走路なしで発艦させるための、カタパルトを乗せる為だった。しかし、それを踏まえても尚、イクチオスは大きすぎると開発者は言う。

 

〈まさか……この液化が理由なのか?〉

 

 正体について思考を始めた時、大和が絶叫した。

 大和の飛ばした零式観測機が、恐ろしい光景を捉えたのだ。それは海中から上半身だけを伸ばし、エノラ・ゲイを発艦させようとするイクチオスだった。

 

 

 

 

―― File40 対メタルギア・イクチオス ――

 

 

 

 

――2009年8月6日7:30 江田島

 

 イクチオスを止める為、二人は走っていた。

 エノラ・ゲイのプロペラがどんどん加速していき、目的地に向けて飛び立とうと振動する。最終調整が完了したということだ。

 しかし、次から次へと現れる深海凄艦が二人を阻む。行きの時は、全くいなかったのに、どこから湧いて来たのか。

 

「これが事情です」

 

「事情? 大和さんが、こちらに来た?」

 

「何隻沈めても、敵が減らなかったんです。このままでは終わらないので、大和は雪風さんの支援に行くようにと」

 

 イクチオスとは何だ、ただの核を乗せた潜水艦ではないのか?

 メタルギアの意味することを、雪風は知らない。しかし単なる核搭載戦車ではない、それは既存の兵器バランスを簡単に崩してしまう悪魔の兵器なのだ。

 

 走る、ひたすらに走る。

 二人掛かりで深海凄艦の群れを蹴散らし、二人は走っていた。だが、途中で気づいた。遠目に見るイクチオスの艤装から、水鬼のパーツが消えていたのだ。

 

「大和さん、こんな時にごめんなさい、イクチオスは任せていいですか?」

 

 嫌な予感があった、水鬼はどこへ行った。まさか逃げたのか、しかしただ逃げただけとは思えなかった。彼女の野望が成就する瞬間に、遠い場所にいるなど、なにか狙いがあるとしか思えなかった。

 

「分かりました、後は大和にお任せを」

 

「お願いします!」

 

 雪風と別れ、大和は全てを振り絞ることにした。そうでなければ、エノラ・ゲイを止めることは間に合わなかった。砲撃を撃つのも煩わしい、全て力押しで引き千切り、無理矢理突破した。

 

 その分大和自身も傷つくが、構わない。この程度なんてことはない。自分が何をしようしたか、忘れてはいない。自身の存在価値を満たそうとしたばかりに、此処を核が落ちる瀬戸際に追い込んでしまった。

 

 出撃前の、雪風や北上、ジョンの話を、実はこっそり聞いていた。

 ジョンは建造した責任があるからと、償おうとしている。なら、この大和にも責任はあるに決まっている。戦う為の私が、こんな時に戦わなくてどうするのか。

 

 しかし、時間はとことん無常だった。

 一秒経つごとに、エノラ・ゲイ発艦は近づいていく。敵の妨害も激しさを増していく。大和がどれだけ強くとも、一隻の艦であることには変わりなかった。

 

 それでも、命を賭けた甲斐あって、大和は遂に、イクチオスのいる海上へ着地した。同時にそれは、四隻のスペクターが出迎えてくることも意味する。なんてことはない、たかがレ級が四隻、突破してあげましょう。

 

 既に血塗れになり、何本か折れた腕に力を込めて、大和は主砲を乱射する。一発一発正確に、スペクターの飛ばした艦載機が盾になる。爆炎を煙幕に、反撃の爆撃が大和を襲う。碌に護衛のない、一方的な爆撃。まるであの時のような。

 

 しかし止まってはいけない、今度止まれば、惨たらしい上陸戦どころか――核が落ちる。そして日本が、核を撃ち返してしまう。

 

 素直に言って、非核三原則のなにが良いのか、大和には実感が湧かなかった。強い兵器を持つことのなにが悪いのか――だが、そういう問題ではなかったのだ。既に問題ではなくなっていたのだ。

 

 敗戦から今に至るまで、日本はこの平和憲法と共に歩んできた。GHQから押し付けられた憲法かもしれないが、実際に歩んできたのだ。もはや日本は、平和憲法なしには語れない国になっていた。

 

 核を撃つということは、その戦後の全てを否定することと同じだ。そして、平和憲法の未来の、その可能性を壊すことになってしまう。過去を否定し、未来を壊す権利なんて、誰ももっていない。正しくないかもしれないが、簡単に捨てて良い訳がない。まだ、それを考える為の時間が必要なのだ。

 

 だって私は、この国を守りたいのだから。

 

 そして、時間は大和に味方した。

 

 突如、スペクターの一隻が、その場に崩れ落ちる。

 胸からは、激しいスパークを放つブレードが伸びていた。死なない筈だった怪物の体が、バラバラに崩壊していく。

 

「やっと北条が解析を終えてくれた、種が割れれば簡単なのものだ」

 

 彼女の手には、小さな――深海機雷を小型化したような――部品が蠢いていた。

 

「死体で創った()()()()()を、超小型深海凄艦に操作させる。今まで斬りまくっていたのは、ただの艤装だったという訳だ」

 

 漆黒にきらめく鉄のマントが、轟音を鳴らしながらはためく。電子的に張り巡らされた幾何学が光る度に、装甲がスライドし展開される。無数のミサイルと、無数の火力を捻じ込んだ鋼鉄の翼が、朝日を反射して眩しく光る。

 

 より分厚く重厚なマッスルスーツ――兼スニーキングスーツに身を包み、シェル・スネークの眼が、蛇のように真っ赤に燃える。深海凄艦のeliteのような、血みどろの赤。対極に銀色だった髪の毛は、深海凄艦のような白髪へと変貌していたのだった。

 

「ありがとう大和、お前がこいつらの注意を引いてくれたお蔭で、ここまで接近できた」

 

 英雄は遅れてくるのなら、彼女は間違いなく、英雄だった。

 

「待たせたな、アーセナルギアMk-2、作戦を開始する」

 

 

*

 

 

「スネークさん、なんですか?」

 

「私が深海凄艦にでも見えるのか」

 

 皮肉を言っては見たものの、気持ちは分かる。目から燃える赤い炎、白い髪の毛。肌色の皮膚がなければ、どう見ても立派な深海凄艦だ。第一改装が終わった直後、明石も絶句していた。彼女も想定外だったらしい。

 

「とにかく待たせた、後は私に任せろ」

 

「ですが」

 

「メタルギアは、私の敵だ、それに悪いが、邪魔だ」

 

 レイに大和の後頭部を叩かせると、彼女は卒倒してしまった。少し小突いただけで気絶だ、相当消耗していたのだろう。しかし、これで戦われても足手纏いでしかない、速やかに避難させる。その隙を練ってスペクターが襲い掛かるが、スネークは寸前で回避する。

 

 水しぶきを破り、追撃する。しかしスペクターは驚愕する、スネークが一瞬で、その姿を消し――背後から両断された。

 

「明石には感謝しなくてはな」

 

〈まさか解析されるとは、予想内ではあるが想定外だった〉

 

「オクトカム、か」

 

 オクトカムとは、スネークの世界に存在する迷彩技術の一つである。まるでタコのように、周辺の模様と同化することから、そう命名された。アーセナルギアの改良型でもあるアウターヘイブンにも、同じ機構は搭載されているが、明石はこれを、独力で解析、搭載させたのだ。

 

 ブレードを引き抜くと同時に、スペクターのコアを両断する。亡霊の艤装は、ただの肉片へ還る。基本的にコアは心臓部位にあるが、そのサイズは極端に小さい。つまり有効打は、回避を許さない奇襲――スネークの得意技だった。

 

「さて、これで残り一隻」

 

 イクチオスはいつの間にか、エノラ・ゲイを引っ込めていた。まともな護衛が一隻になってしまったのだ、警戒もするだろう。スネークも慢心せず、油断なくP90と高周波ブレードを両手に構え、迫る。

 

 だが、不意に炎が、煽られた。

 残る一隻のスペクターが、身の毛もよだつ絶叫を上げ、空気が震えだす。放たれた声が、艤装の残骸を共鳴させると、それは再び命を持ったように、動きだした。

 

 最後の亡霊と、破壊したスペクターの残骸が、次々とイクチオスへ殺到していく。継ぎ接ぎの艤装は更に細かく崩れ、這いずりながら、破壊した右前脚へと終結していき、そして、再び形ができた。

 

 破壊したイクチオスの右前脚が、再生してしまった。スペクターの残骸が、義手のように新たな腕を作り上げたのだ。

 

 これは、どういうことだ。幾ら深海凄艦でも、まったく違う生物のパーツが、そう簡単にくっつくとは考えにくい。例えば、臓器のドナーは、親族の方が拒絶反応が出にくいとされる。遺伝子が近いからだ。そういった、なにかしらの共通点があるのではないか。

 

「そうか、こいつもスペクターなのか」

 

 一つの答えに、スネークは辿り着いた。

 イクチオスもスペクターなら良いのだ、このあらゆるイロハ級を合体させた見た目も、納得がいく。

 

 だが、それでもかなりの無茶だったに違いない。

 無理な結合故か、幻肢痛故か、スペクターと違いイクチオスは、本気の悲鳴を上げながらのたうち回っていた。

 

 同じスペクターなら、イクチオスも轟沈した深海凄艦や艦娘の艤装、屍で出来ているのだろう。そしてメタルギア(悪魔の兵器)として、水鬼に使われる。いったい何処のどいつに、そんな権利がある。

 

〈スネーク、メタルギアを完全に破壊してはならない。万一核が発射された時の代替プランの為に、コア・ユニットは残せ。動きだけ、完全に止めるんだ〉

 

「分かっている」

 

 撃破の勢いで核が暴発する可能性もありえる、水鬼がどんな罠を仕掛けていてもおかしくない。仮に罠がなかったとしても、もう時間もない。ミサイルの残弾を気にしている場合ではなかった。

 

 だが、改装されたスネークの武装はミサイルだけではなかった。

 補給もままならないこの世界で、ミサイルがなくなった時を想定した改装。性能だけ見れば劣化だが、この時代においては、もっとも適した姿だった。

 

 スネークの号令で、無数の対潜ミサイルが空を覆った。

 それを認識したイクチオスが速やかに水中の奥深くへ、人間では耐え切れない速度で潜っていく。降り注ぐアスロックを、イクチオスは流れるように回避していく。

 

 イクチオスはそのまま速度を上げていき、スネークの足元を目指した。大型艦を一撃で沈める巨大な衝角は、アーセナル級でさえ破壊し得る威力を持っていた。それに、アーセナル級の巨体で、イクチオスの突撃を回避するのは不可能だった。

 

 しかし、そもそも回避の必要は無かった。

 衝角を構え、水面から飛び出したメタルギア・イクチオス――その衝角を、スネークが掴む。スネークはイクチオスを引き上げ、その頭部へ片手をかける。そして、突撃の勢いを利用し、そのまま遥か空中へ放り投げたのだ。

 

 空中で身動きの取れないイクチオスは、本能で恐怖を感じた。原始的な感情に動かされ、主砲に加えて魚雷、機銃、全ての兵装を乱射する。スペクターで形成された片手からは、無数の艦載機や戦艦級の主砲が放たれる。接近はできない、艦載機の盾もある、着水までは、ミサイルを撃たれても時間を稼げる――筈だった。

 

 おもむろに艤装を解除したスネークの肩から、更にスネーク・アームが解除される。外れた補助ユニットの下には、小型のブースターが仕込まれていた。それは、ソリダスが装備していた物と同じ兵装だった。

 

 アーセナル級を飛ばす出力など、存在しない。

 しかし艤装を解除したスネークの質量は、見た目のままの女性と同じだった。そして、爆音を鳴らして熱を撒き、スネークは空へと飛び出した。

 

 いつか見た忍者のように、ブースターを吹かしながら、艦載機を足場に蹴り進んでいく。腸へと潜りこんだスネークは、腰から新たに撃ちなおした高周波ブレードを滑らせる。風を切る音が聞こえて、イクチオスは真っ二つになった。

 

 海面に墜落する、イクチオスの上半身と下半身。

 下半身はそのまま海底へ沈んでいく――しかしスネークは驚いた、残る上半身は、上半身だけで泳ぎ出したのだ。スペクター程ではないが、恐るべき生命力を持っている。しかし足を失ったイクチオスはもはや両生類ではない。

 

 イクチオスのソナーに、無数の光点が表示される。光点はイクチオスを取り囲む形になっている、そして光点から、大量の光点が分離した。スネークのメタルギア・レイが、イクチオスに向けて雷撃を放ったことの証明だった。水中での戦闘能力向上の為に、レイもまた改装を受けていた。

 

 海底のイクチオスにとって、逃げ場は水上しかなかった。

 

「終わりだ」

 

 水面から飛び出たイクチオスへ、P90が突き立てられる。

 頭部パーツの、装甲の隙間へ、照準が定まる。トリガーが引かれ、装甲が捲れた。内部が弾け、また弾丸がめり込んでいく。トリガーは引かれたまま、イクチオスの脳髄がぐしゃぐしゃにされていく。体を動かすための大脳(レプタイル)が破壊され、思考する小脳(ママル)だけが活かされる。

 

 イロハ級なら震えでもしたのだろうが、イクチオスは無抵抗だった。

 しかし、それが本来の私たち――艦艇の姿だった。スネークは少しだけ複雑な思いを抱きながら、更にトリガーを引き絞るのだった。

 

 

*

 

 

 静止したイクチオスから銃を離し、空へ向かって大きく息を吐く。追い続けてきた白鯨――メタルギア・イクチオスを破壊できた事実が、ゆっくりと胸に広がるのを感じていた。まだ水鬼が残っているが、それでも少し気が緩む。

 

 スネークは首を振り、緩んだ気を引き締めた。まだエノラ・ゲイ発艦の可能性はある、水鬼もいる。エノラ・ゲイ発艦の可能性をなくしてこそ、危機を脱したと断言できる。不確定な代理プランには、頼りたくなかった。

 

〈スネーク、駆ったのか〉

 

「ああ、完全に停止された、イクチオスの本体はな」

 

〈よし、エノラ・ゲイをそいつから引き剥がせ、核弾頭だけでも構わない〉

 

 ガングートの指示に従い、イクチオスへ手を伸ばした――その時だった、出しぬけに、足元が崩れ落ちた。

 

 落下しているのか、上がっているのかも、分からなくなった。方向感覚が滅茶苦茶になり、全身がバラバラになり、またくっつく。スペクターのようになってしまった体は、借り物の体となって、まともに動かせない。無線機からノイズが聞こえると、ノイズが頭の中で反響し爆発する。

 

 それが幻聴の類だとは分かっていたが、余りに鮮明な実態を持つ幻覚は、現実と変わらない。ノイズがガングートの叫び声だと分かっていても、取り合う余裕はない。少しでも現実に近付こうと、スネークはG.Wを呼んだ。

 

〈巻き舌宇宙で有名な紫ミミズの剥製はハラキリ岩の上で音叉が生ばたきする用ハサミだ六十三、としてな、いつも応援してくれてありがとう。だがそんなことはどうでもいい、君の任務はスナイパー・ウルフに対抗できる捕虜に潜入し武装要塞ガルエードに侵入、最終兵器メタルギア・ガンダーのレールガンは、莫大な電力を消費する。だがそれよりも重要なことは、ところで私はアイデア・スパイ2.5(ツー・ハン)として、○ボタンを押すと、敵と戦う基本はパンチだ、だがそんなことはどうでもいい、どうでもいいと言ってどうでもいい、これはゲームだ、いつも通りのゲームなんだ!今すぐパソコンをシャットダウンさせるんだ――〉

 

 馬鹿な、スネークは信じられなかった。AIでさえ蝕むこの病魔の正体は、いったい何なんだ。スネーク、スネーク! 混じって聞こえ始めたのは、ガングートの声だ。呻き声を噛み殺し、どうにか声を搾り出す。まるで慣れないが、しかし少しは慣れてきた。

 

〈あれが起きている、お前から聞いたモセスと、イクチオスが始めて呉を襲った時と同じだ、艦娘が全員倒れている〉

 

 ガングートたちが無事なのは、きっと射程距離外だからだろう。もし射程がなければ、世界はとっくに阿鼻叫喚となっている。しかし、私は今までこの現象に影響されなかった。なぜ今になって?

 

 思いつくのは、明石による第一改装ぐらいだが、その可能性は否定された。

 あの明石は、私と無関係ではない。単冠湾泊地で一緒だった彼女なのだ。そもそも裏切るつもりなら、鎮守府の資材を無断使用してまで私を改装しないし、もっと別の、効率的な方法をするだろう。なら、誰が。

 

〈スネーク! エノラ・ゲイが!〉

 

 一言で疑問は霧散した、しかし、遅かった。

 いや、時間の流れさえ滅茶苦茶なのだ。認識した時にはもう――エノラ・ゲイは、飛び立ってしまっていた。

 

〈代替プランをするしかない〉

 

 冷徹極まった声で、ガングートが淡々と続けた。あえて冷徹に務めているのだと、すぐに分かった。それがスネークに伝染し、彼女はどうにか、立ち上がることができた。

 

 万一、エノラ・ゲイが発艦されてしまった場合の代替プランとは、PALコードの入力だった。核弾頭には通常PALという安全装置が存在している。この対艦娘・深海凄艦用の新型核も同じだ。設計のベースはリトルボーイだが、新型故にPALは存在した。

 

〈コードは既に、北方棲姫が調べておいてくれた。だが入力は直接しかできない〉

 

「分かって、いる……」

 

〈破壊しなかったイクチオスのAI制御基板、つまり小脳が核発射は制御している、そこに直接PALコードを入力するんだ〉

 

 それは、ジョンが血眼で突き止めてくれた情報だった。

 あくまで彼が関わっていたのは、イクチオスの設計と制御AIの二つ。しかし、どちらにも核発射の機構はなかった。だからこそ、残る小脳に制御プログラムがあると分かったのだ。

 

 だが、無慈悲に深海凄艦が迫る。G.Wが役に立たない今、艤装も碌に使えない。ミサイルは撃てるが、狙いは碌に定まらない。そもそも視界が定まらない、このコンソールを見るにも、息がかかる程近くなければならないのだ。どれだけできるか、スネークは歯を食い縛り、イクチオスに寄りかかりながら、P90を構えた。

 

 スネークのP90の前に、人影があった。

 戦艦大和の巨体が、深海凄艦に立ち塞がっていた。スネークは怯んだ、彼女は全身から血を流し、艤装に亀裂が入り、油をこぼしながら、立っていたのだ。

 

 大和はただ、無言でスネークを見つめた。そして、獣のような絶叫を上げながら、深海凄艦の群れへと突っ込んでいく。

 

 あの状態、普通ではない。この場の艦娘は全員、異常な不調に襲われている。G.Wの様子を見るに、艤装に影響を与えるものだ。そんな状態で動いた結果が、あのボロボロの姿なのだ。理由は分からないが、スネークはまだ、マシな方だ、大和は話さなかったのではなく、その余裕さえないのだ。

 

 なにを呻いているのだ、大和でさえ命を張っているのだ、私が張らなくてどうする。スネークは舌を噛み、激痛を持って覚醒した。G.Wが壊れている今、入力は全て私がしなくてはならないのだ。

 

〈……エノラ・ゲイ、阻止限界地点まで、残り、約十分だ〉

 

 しかし、思わぬ壁が現れた。それは、北条からもたらされた。

 

〈スネーク不味いぞ、このままだと入力ができねえ!〉

 

 絶望的な真実が、告げられた。

 

〈スペクターの制御機構の解析をしたが、こいつらは特定の遺伝子コードの認証を持って、管理者登録がされる仕組みになってやがる。管理者権限がなけりゃ、システムは全てを弾く〉

 

 スネークは自分自身の発言を思い出す。

イクチオスもまた、一種のスペクターなのだと。もしイクチオスの制御機構がスペクターと同じだったとしたら。

 

〈どうすれば良い、方法はあるんだろう!〉

 

〈今登録されている管理者が、文字通り死ねば、権限はフリーになる。そうなりゃ介入できる……イロハ級を統率できる、姫級なら〉

 

 スネークは懐にある、北方棲姫の艤装の一部を確認する。万一に備え、伊58に運んでもらったものだ。しかし、北方棲姫の居場所とは離れ過ぎている。それこそが不確定要素だったが、もはやそれしなかった。

 

〈……おい待て、水鬼は確か〉

 

 スネークが絶句した、まさか、その為に逃げたのか?

 万一の時、管理者権限を奪われない為に、殺されない距離で、かつ姫級の影響が及ぶ範囲まで。そうなれば、スネークにも、誰にも、できることはなかった。

 

 だが、思い出した。

 彼女はこの結果を、分かって行動した訳ではないだろう。ただの偶然に過ぎない、単に少し、用心深かっただけ、しかしそれこそが『幸運』を呼ぶのだと理解した。

 

 無線機は、雪風にも繋がっていたのだ。




アーセナルギアMk-2(MGS2)

 超ド級潜水艦アーセナルギアに第一改装を施した姿。
 現状、ミサイルなどの補給がままならない点を考慮し、直接戦闘能力の向上を目的とし、改修されている。その為正確にはコンバート改装に近い面がある。
 具体的にはVLSの数を数千から500発程度まで削減。空いた部分はメタルギア・レイの搭載数を25機から28機に増量。そのレイには酸素魚雷を搭載。加えて格納型の対空機銃を装備。更にWW2基準だが、水中でも動ける様にパッシブ・アクティブソナー両方を搭載。アーセナル級の巨体だからこそできる技である。
 更にアウターヘイブンに搭載されていたオクトカムを装備し、艤装を解除すればソリダス・スネークの装備していたジェットユニットも使用可能になる。また艤装の稼働も改造し、艤装装備中でもCQCに支障がでない構造となっている。
 ちなみに改装資材は明石が勝手に持ち出した物であり、この時点で明石は軍法会議確定である。もちろん逃げる気しかないようだ。

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