【完結】アーセナルギアは思考する   作:鹿狼

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タグ追加しました。監督繋がりということでご容赦を……


ACT4 VENOM SUN
File43 座礁地帯


「存在が消えても、言葉が残ることで、それはある種の永続性を獲得する。それは希望だ。

 だが一方で、存在だけが残って、言葉が消えたらどうだろう。それは生きていながら死んでいる状態を意味する。言葉を奪われるとは、そういうことなのだ」

 

──『メタルギア ソリッド ファントムペイン』より

 

 

 

 

 

 

 

 

 なぜこうなってしまったのだろうか、炎が焼き付いて目が剥離する。

 どうしてこうなっているのだろうか、耳が破れて血が噴き出す。

 分からない、何も分からない。痛い、苦しい、眩しい、気持ち悪い、嫌だ、辛い、苦しい、苦しい、悲しい。

 

 映像がまた広がる。何度も何度も、壊れたビデオみたいに、同じ映像を繰り返す。燃える炎、燃える海、そして世界が壊れていく。

 けど、それがどういう意味なのか分からない。

 燃えている──そう分かっても、その映像に意味を持たせられない。文字通り、それを言葉にできない。

 

 言葉がないから、私は叫ぶことしかできない。

 獣のように呻き、暴れることしかできない。

 また炎が上がる、光が爆ぜる。人が死に、艦娘が沈む、みんな消える。

 我慢なんてできない、それは、私を食い破ってでも、外へ出たがっているのだから。それは私だ、私が、それに、変わっていく。

 それは、出たがっていた。

 

 

 

 

ACT4

VENOM SUN(毒の太陽)

 

 

 

 

 彼女を包む世界は、突然壊れてしまった。

 地面はひび割れて溶けだし、底から赤い血が噴き出る。タールのようにドロリとした赤い液体が瞬く間に地面を覆い尽していく。岩が溶けてマグマのと同じく、地面が崩れて赤い海となった。

 

 同時に空も赤く染まり、ずっと夕方にいるような気分となる。その癖太陽だけはいつも通り白く輝いている。溶けたのも地面だけで、所々にある木々や建物はそのままに見える。だが、木は朽ちて、人工物は悉く赤く錆びている。

 

 地獄だ、そう理解する他なかった。

 世界がそのままそっくり、地獄へ呑み込まれてしまったのだ。その証拠に人の姿は見あたらない、いるのは艦娘と深海凄艦。死者の国から帰ってきた私たちだけだ。

 

 律儀というか、深海凄艦はこの世界でも、私たちを敵としているようだ。

 たった一隻で彷徨っていたところに現れた艦隊は、彼女を容易く中破させた。中破なら──しかし夜間空母である彼女では、もう艦載機の発艦はできない。

 

 狂った世界は、今のところ夜だった。

 中破さえしなければ、狂った空でも戦えたのに。一隻で洞窟(これもまた海上にポツンと浮かんでいた)に身を潜めながら、彼女は震えていた。

 

 ただ一隻、故郷から離れたアフリカで。

 無力感に苛まれながら、サラトガは歯を食い縛っていた。

 

 

 

 

── File43 座礁地帯 ──

 

 

 

 

 どれくらいの時間が経ったのだろう、時計の針は止まっている。変わらない暗闇の中では、時間感覚も狂っていく。1時間にも、1週間にも感じられる。幸い飢えや乾きは感じない。しかしそれがかえって、サラトガの気力を奪っていた。本当に死人になっている錯覚が、彼女を苛んでいた。

 

 動きだそうにも、中破した体ではひとたまりもない。深海凄艦は熱心に、私を探しているのだろう。こんな世界でも一切迷わない姿勢は、少し羨ましかった。それに、仲間がいるのも羨ましい。

 

 連合艦隊の仲間たちは無事だろうか、日本やソ連、ドイツなど色々な国が協力して結集された多国籍連合艦隊。言葉も文化も異なる彼女たちだが、そんなことは些細なことだった。今は誰でも良いから、話し相手が欲しかった。

 

 限界だった、だから、サラトガは自分へと話す。ここにいる理由を思い出そうとする。彼女がここに来た理由は、『イクチオス』にあった。

 

 

 

 

 日本で『衝角水鬼』と呼ばれる深海凄艦は、一瞬で世界各地に拡散した。

 ヒロシマでの戦いが起きた時点で、もう量産は終わっていたのだ。もとより湾岸強襲に特化した深海凄艦だったがために、各国は莫大な被害を受けることになった。

 

 ただ一つの幸いにして、核を搭載しているのは最初の一機だけだった。湾岸の都市が核攻撃を受けることはなかった。それでも、凄まじい被害が出た。想像できない場所から上陸し、大型艦は一瞬で撃破。防衛施設をやられた時にはそこから攻め入れられ、湾岸部の街は何個も消えている。

 

 全ての国家が被害にあった、だから、敵は同じだった。

 合衆国や日本、ソ連といった大国を中心に、ヨーロッパも加えた多国籍連合艦隊が組織された。その任務はメタルギア・イクチオスが出撃する場所、アフリカへ向かい、イクチオスを用いる組織を潰すこと。これ以上の流用を止めること。

 

 サラトガは、その部隊に組織された。

 まだ建造されて一年も経っていない新人にも関わらず、こんな大役の一つを担わされたこと。プレッシャーは大きいが、それ以上に期待が大きかった。私は、活躍できるのだと。そう意気込んで行った結果が、これだった。

 

 連合艦隊は、無数のイクチオスに包囲され壊滅したのだ。

 

 

 

 

 脳裏に、死に絶える艦娘の悲鳴が木霊する。瞼の裏に炎が焼け吐く。

 悪夢のフラッシュバックに苦しむ中、遠くに光が見えた。遅れて爆音と、誰かの声が聞こえた。幻覚ではなく、本物の光だ。

 人だ、生きている人がいる──リスクはあるだろうが、既に限界だった。

 

 飛行甲板は壊れているが機関部は生きている、サラトガと同じく機関部も興奮しながら煙を上げる。洞窟から飛び出して加速する。人影はやはり艦娘だった、苦戦しているが、深海凄艦に対抗できている。

 

「加勢します!」

 

 サラトガの飛行甲板は、確かに使い物にならなかった。しかしもう一つの機能は生きていた。接近された時のために組み込まれた「銃」としての機能。トリガーを引き、マズルフラッシュが顔を照らす。

 

 暗がりの中の奇襲は敵に混乱を与えた、この隙に逃げなくてはならない。さらに弾丸をばらまく、牽制になればそれでいい。艦娘の手を引き引っ張ろうとする。だが彼女は、同行を拒絶した。

 

「そこだったのか」

 

 彼女は巨大な光るブレードを取り出し、敵の中へと突撃する。凄惨な光景を想像してしまい、小さな悲鳴を上げる。

 一瞬閉じてしまった目を開けると、凄惨な光景があった。だが彼女は、その中央で立っていた。あのブレード一本で、全員叩き切ったのか、ならなぜ苦戦していたのだ、まさか演技? 血塗れの顔を拭いながら、真っ赤な目がサラトガを貫く。

 

「人、艦娘、なのか」

 

 しかし、心から安心し切った彼女の声に、サラトガはあっさり警戒を解いた。彼女もこの世界に怯え切っていたのだ。

 それでもサラトガは警戒を完全には解かない。彼女の兵装が今まで見たこともないものだったからだ。

 

「貴女は?」

 

「私はアーセナルギア、シェル・スネークと呼べ」

 

 Really(リアリイ)? サラトガは呟いた。否定ではなく、驚きによるものだった。サラトガは最初からスネークの存在を信じていた。心の片隅では実在を疑っていたが、過去を打ち破る彼女の姿は、例え作り話であったとしても、憧れるものだったのだ。

 

「それでお前は誰だ?」

 

「サラトガです、皆はサラって呼んでいるわ」

 

「サラ、そうか、連合艦隊にいた」

 

 名前を呼んでらえたことに、心が跳ねる。

 そのまま握手でもしたくなったが、突然胸が痛んだ。軽い吐き気が沸く、心配したスネークが背中を摩ってくれるが、その手を優しく押しのけた。無意識の行動だった。

 

「スネーク、とりあえずどこかに身を潜めましょう。ここは危険だわ」

 

 返事を待たなかったことに、背中を見せてから気づいた。

 今は些細な心を気にしている状況ではない、そう自分に言い聞かせて、地平線へと向かって行った。

 

 

 *

 

 

 サラトガとスネークは歩き続けていたが、しかしあてはなかった。

 雲は分厚く星も見えない、今どの方向へ歩いているかも分からないのだ。せめて気を紛らわすためだけに、二人は歩いていた。

 

「スネークさんもイクチオスに巻き込まれたの?」

 

 スネークは返事もせず背を向けている、話す気力さえないのだろうか。無理矢理にでも搾り出さないと、気がおかしくなりそうだ。

 

「アフリカに上陸してすぐに、イクチオスと、深海凄艦に襲われたわ。しかもイクチオスを操縦して、深海凄艦を指揮してたのは人間だった」

 

 8月7日の、ヒロシマに核が落ちた日、世界は変わった。

 同じ日にイクチオスは、世界を変えた。イクチオスは深海凄艦を生み出すことができる、それは江田島で確認されていた。そしてコックピットのようなスペースがあることも。

 だが、そこに人間が乗れる事は誰も想定できていなかった。

 

「深海凄艦を沈めれば世界はより平和になる。そう思って此処に来たけど、まさか、人間が敵だなんて」

 

「人間の残した怨念を相手どっているんだ、私たちの敵は最初から人間だ」

 

 やっとしてくれた返事は厳しいものだった。

 そうだ、これは今までのような兵器の戦いでも、人間の敵を駆逐する正義の戦いでもない。今まで背けていた世界からの、報復との戦いなのだ。

 

 メタルギア・イクチオス──それは、水陸両用の核搭載型潜水艦。そう思われていた。だが実際には違っていた。核よりも恐ろしい機能を備えていた。

 それは、『浸食』とでも呼ぶべき力だ。

 

 一般的に、深海凄艦に支配された海域は赤く染まる。そこは無限に深海凄艦が沸くエリアとなる。艦娘が海域を完全に取り戻した時、海は青さを取り戻す。イクチオスが起こす現象は原理的にはこれと変わらない。

 場所が海でなく、『地上』なのを除けば。

 

 イクチオスが強襲揚陸用として建造された理由はそこにあった。湾岸基地を奇襲し、瞬く間に基地を制圧。制海権ならぬ制地権を奪い、深海の色で大地を染める。そして完全に染まった土地は融解し、赤い海となってしまう。

 

 最初の一回だけ奪えれば、敵国の湾岸に深海凄艦の生産プラントを即席で造れる。後で奪還したとしても、陸地が消えた以上、同じ基地は二度と建造できない。基地を起点にしていた経済活動も崩壊する。国土を直接破壊する兵器、それがイクチオスだった。

 

 しかし、大国、つまり艦娘を運用できる大国以外からの国から見ると、事情が変わる。

 艦娘はWW2に主に関わっていた国家にしか現れなかった。建造技術やレシピが確立されても、特殊なケースを除いて、全く関係のない国に他国の艦が出てくることはない。だからWW2に余り関わらなかった国々は、建造すらできなかったとされる。

 

 そういった、艦娘を建造できない国からすれば、土地の一部を犠牲に深海凄艦を建造できるイクチオスは革命的な兵器だったと推測されている。推測、と言ったのは、深海凄艦出現以降、第三各国との交流は完全に途絶えていて、内情を知ることができなかったからだ。

 

 だからイクチオスは、アフリカなどを中心に活動している。そういう推測を立てた上で、連合艦隊は調査も兼ね此処へ来た。深海凄艦出現以来、初めての交流になった。しかしその返礼は、イクチオスによる残滅だったのだ。

 

「アフリカに今、国家はあるのでしょうか。深海凄艦に攻められて、全部滅んだって噂はありますが。それでテロリストに代わられて、サラ達が襲われたとか」

 

「ないな、私も居合わせたが、あの統一された行動はテロリストでは難しい。装備の品質も一律だった、軍隊と見て間違いない」

 

 スネークは無情に、サラトガの願望を崩した。襲ってきたのが人間ではなく、非道なテロリストだと思いたかったのだ。実のところ、まだ国という概念がアフリカに残っているかどうかを調べるのも、連合艦隊の役割だったのだが。

 

「でも、こんな現象見たことあるの? スネークさんはイクチオスと戦ったことがあるんでしょう?」

 

「ない、全く分からない」

 

 しかしイクチオスに、こんな狂った世界を創る能力など聞いたことがない。スネークも知らなければどうしようもない。力を持たせる意味も分からない。こうして巻き込まれた艦娘をひたすら苦しめるのが目的なのだろうか。海も空も真っ赤に染める程の憎悪が、ここには犇めいている。

 

 そうだったのなら、巣食うのは怨霊が相応しい。

 スネークが急に足を止め、あたりを警戒し始める。サラトガも偵察機を発艦させようとして、飛行甲板が壊れていることを思い出した。

 

 役に立たないことに苛立つが、空母としての特性のおかげか元々目は良い。地平線の彼方、黒みのかかった曇天に小さな影を確認した。ハンドサインでスネークに、敵の方向を指し示す。

 

 碌な武器もない、敵の数はさっきよりも多い。勝ち目は全くなかった。だがスネークは、混乱したようにあちこちをまだ見渡していた。

 いや、敵の大まかな方向は見ているのだが、目線がまるで定まっていない。敵がいる、と言ったのに、見つからないことに混乱している。

 

 小声で耳打ちする、「視えていないんですか」と。

 小声で答えた、「気配だけが感じられる」と。

 サラトガは強くスネークの手を握った、一瞬驚いたように目を見開いて、彼女は眼を逸らす。そういうことか、姿が見えないから、気配だけで戦っていたから、あそこまで苦戦していたのだ。

 

 よく見れば、スネークの装備はかなり破損している。私よりも長く、この世界を彷徨っていたらしい。心の疲労も恐怖も私以上に違いない。だが、こんな惨めな姿でスネークが終わってはいけないのだ。それでは駄目なのだ。

 

 もう一度サラトガは、スネークの手を強く握る。今アレを視れるのは私だけだ、私がスネークを誘導しなくてはならない。

 眼を閉ざし、観念したようにため息をつく。そしてスネークが手を握り返してくれた。始めて真っ直ぐに、私を見たのだ。

 

 慎重に足を進めながら、深海凄艦から遠ざかっていく。水しぶきの音、波紋の音がうるさいと思える。音を殺し、気配を殺す。徹底的に死人に近付いて、生きている気配を消していく。スネークの得意技だが、疲労により集中力はまばらだ。

 

 だから、どちらに反応したのかは分からない。

 深海凄艦がこちらに歩き始めた。悲鳴を漏らしてしまったのはサラトガだった。彼女を責めることはできない。見付かってはいけないステルスの緊張感は、訓練や才能なしに耐えられるものではない。

 

 サラトガの腕をスネークが引っ張る、同時に深海凄艦が動き出す。隠れる場所のない海上だ、いずれ見つかる。なら腹をくくって走るしかない。理解できない声が聞こえる。僚艦への指示か、叫び声かそれとも悲鳴か。理解できない事実が、更に恐怖心を煽っていく。

 

 周囲はたちまち砲撃に包まれる、背中が焼け、痛みに呻く。痛みもまた生者の特権だ、痛い内はまだ生きている。だがその激痛は足の動きを鈍らせる。痛みが、サラトガを死へ引き摺りこもうとしていた。

 

 その時、光が見えた。

 今まで何も見えなかった地平線に、確かに光が見える。それもあと少しで手の届く場所に、小さな光がある。

 

 まずスネークが手を伸ばし、サラトガも手を伸ばす。振り返らず、まっすぐ光だけを見ていた。伸ばし切った腕が痛い、だからこそ、より必死で手を伸ばせた。彼女たちを活かしたのも、痛みだった。

 

 そして、二人の手が触れ合う。

 視界が捻じれ、天と地がばらばらに混じっていく。混ざらない筈の、出会わない存在同士が接触し──全てが、爆ぜた。

 

 

 *

 

 

 激し過ぎる光に眼と耳をやられ、音も何も感じられない。死んでいるのか不安になる時間を過ごしていたサラトガに、少しずつ音が戻り、光が戻る。視界は真っ青だった。仰向けになって空を見上げていた。いつもの空が広がっていた。

 

 しかしいつもとは少し違う、真っ青な地平線まで続く青空ではない。巻き上げられた砂埃で黄色くかすんだ、鈍い青空。アフリカの空だ。それでもここは、生きている人の世界だった。体を起こすまではそう思った。

 

 サラトガは、言葉を失った。

 目の前に赤い海が広がっていたのだ。元々は広大な大地があった場所に、巨大なクレーターができていて、そこを赤い水が満たしている。この中心で、イクチオスが起動したことの証明だった。

 

「脱出はできたようだな、助かった」

 

 スネークも生きていたが、なぜか心から喜べなかった。

 どうして? その疑問はスネークの出したマップにより掻き消える。地図と照らし合わせると、そこは確かに陸地と書かれていた。地形もろとも変貌し、深海凄艦の生産拠点へと変わってしまったのだ。

 

「ここで陣形を張っていた連合艦隊の姿が見えない、逃げたのか、それとも巻き込まれたのか、いずれにせよただでは済んでいないだろう」

 

 淡々と語るスネークの態度に少し腹が立った、しかし考えれば当たり前だ。彼女は彼女の目的で動いている、連合艦隊の事情など知ったことではない。仲間ではなく、あんな状況だから行動を共にしただけなのだ。

 

 無線機を動かしながら、敵に見つからない場所を探す。どの周波数に繋いでも誰も出てくれない、チャンネルを動かすたびに、不安が増大していくのが自覚できた。ふとスネークを見ると、彼女も同じような顔で唸っていた。

 

「そっちも、同じ調子か」

 

「誰もでません、まさか全員」

 

「いや、早々に離脱を試みていた部隊も確認した。諦めるには早い」

 

 行くあてはないが、だからと言って留まることも出来ない。赤い海が隣接しているここも深海凄艦のテリトリー。いつ探知されてもおかしくない。少なくとも、早めに移動すべきなのは間違いない。

 

 またあてのない移動が始まる、疲れ果てたサラトガは、自問自答に逃げ込んだ。

 仮に私たちを襲ったのが国家だったとして、どうして襲ってきたのだろう。かつてのように侵略しに来たわけでもないのに、だが、それは欺瞞だ。

 

 テロリストであれ国家であれ、第三各国の多くの誰かが、大国にイクチオスを差し向けたのは事実。土地は削られ、現れた深海凄艦は莫大な被害を齎す。経済的な損失も大きい。液化に呑まれ、死体すら見つかっていない人も多い。

 

 人々はそれに激怒した、こんなことをした連中を潰さなくては。

 この艦隊派遣は必要な行為だろう、しかし根底にあるのは、壮絶な怒りだ。報復心が国々を動かしていた。それは、サラトガも同じだ。

 

 隣の赤い湖は広大だ、それだけ大規模な液化が起きたのだ。

 あまり研究は進んでいないが、イクチオスの液化規模には、ある法則がある。

 それは辺り一帯で、どれだけ『死人』が出たかだ。艦娘も人間も問わない。そこにある屍者が多い程、液化は大きくなる。その分発生する深海凄艦も増える。

 

 これは深海凄艦が怨念から生まれた存在という俗説を助長させていた。

 死者を糧とする為か、辺り一体では新たな艦娘が建造できなくなる。深海凄艦を作るために資源も使われるので、奪還しても、資源の一つも残らない。もちろん作物を育てることも出来ない不毛の血と化す。

 

 何もかも喰らって、腐らせる。怒りさえ喰って糧にする。白鯨と呼ぶにふさわしい悪魔の兵器。サラトガは再び湖を見る。これだけ大規模な液化、どれだけの艦娘が巻き込まれたのか。もしかしたら。その可能性は、考えることすら怖かった。

 

「サラトガさん?」

 

 怯えで震えた声、岩陰から知っている声が聞こえた。

 彼女がサラトガだと確信した途端、少女は力なくへたり込む。安心感に顔がほころんでいるが、ここまで感じてきた恐怖と孤独で疲れ果てていた。

 

 反射的に武器を構えかけたスネークを制止し、あの子は味方だと伝える。もっとも彼女の弱々しさに、すぐ警戒を解いた。代わりにスネークはサラトガを見つめる、こいつは誰だと聞いている。

 

「この子は「酒匂」、連合艦隊の仲間よ」

 

「良かった、生きててくれたんだ」

 

 しかし、サラトガは気づく。

 なぜこの子は一隻で此処にいる? 仲間はどこへ行った? 

 

「他の艦娘は?」

 

 酒匂は無言のまま、湖を指さした。指先は震えていた。先に有るのは湖ではなく、底に沈む無数の仲間たちだった。

 

 全滅したのか、そうでないのか。

 もはやどちらでも変わらない。確かに灯ってしまったサラトガの炎は、そして根を張り、燻り始めていた。

 




冒頭の引用は
『メタルギアソリッドファントムペイン』(著:野島一人/角川文庫)
による。




Lexington級2番艦 正規空母『サラトガ』

 1927年11月に竣工した、WW2時におけるアメリカ海軍最大の空母。発着艦した艦載機の数は98549機であり、これは空母の最多着艦記録である。
 しかし、この個体がアメリカ海軍に加わったのは2009年の冬であり、1年程度しか実戦経験がない。
 だが、その1年間で大きな実績を残した為、新人でありながら、今回のアフリカ遠征に加わることになった。それにより、参加している艦娘の中では2番目に新参である。
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