頭が割れそうな絶叫が響いた。脳の芯が焼き切れそうな痛みを堪えようと、歯を食い縛る。痛みは治まらない、勝手に涙が溢れ、涎まで垂れ始めている。息を吸っているのか、それさえも分からない。
何もかもを塗り潰す痛みの濁流で、私は気づいた。これは悲鳴なのだと。誰かの悲鳴であり、そして、底なしの怒りなのだと。この痛みはそれだ。私たちが受けた痛みなのだ。私自身が受けた訳じゃないけど、確かに感じる痛み。それは幻肢痛だ。
彼の怒りが、私にあった。彼は、私になった。私とは彼だった。痛みと怒りと憎しみで私は私たちになった。そう理解できた時、痛みは収まった。自分自身が煮えたぎる硫酸になった。これをあいつらに叩き込むこと。それが重要だった。
ペットボトルに入った水を、半分近く一気に飲み干す。少し酒匂は咽て、小さく鳴いた。それを見てサラトガは微笑ましい気分になる。呑んだのが貴重な水だとしても。残る半分をサラトガが呑む、しかし渇きは癒えても、疲労は抜けない。
ずっと二人で歩き回り、半日近く経過していた。途中うっかり敵兵のいる集落に迷い込み、危うく殺されかけた。そんなこともあり、二人は疲弊しきっていたのだ。
待機していろとスネークには言われたが、途中で運悪く警備の深海凄艦に見つかってしまい、逃げ回るしかなかった。お互いに艤装は半壊していた。
ただ、今までよりマシな地獄だった。
周りが全員敵でも、ビーチよりは生きている人を感じられる。今は酒匂も隣にいる。逃げ切ったと確信したら、途端に膝から力が抜ける。無防備に、岩肌へと寝ころんでしまった。
安堵はしばらく経つと、嫌な予感に変わり始めた。
サラトガは落ち着きなく周りを見渡すが、何もない。それでも視ずにはいられない。理由など存在しない。まさに『直感』としか言えない予感があった。
「ねえサラトガさん、なんなのかなこれ」
「酒匂も?」
「凄い不安なんだ、それに気持ち悪い」
二人ともとなると、ただの予感とは思えない。恐怖の原因を突き止めるために、サラトガは歩き出した。飛行甲板も壊れたままで動くのは危険だが、じっとしているのも危険な気がする。
二人は直感に従い歩く、不気味な感覚のする場所は、彼女たちが迷い込んでいた集落だった。前来てしまった時は、こんな雰囲気ではなかった。深海凄艦のテリトリーにいる時の感覚がする。遠目に観察していると、集落からは前よりも、人の気配が減っていた。
視界に収めた時点で、二人は撤退を決めた。この嫌な気配の発生源は明確になった、後は反対側へ移動すれば良い。そ思い振り返る。しかし、もう手遅れだった。踏み出した足が、泥沼にはまったように動かなくなる。固い岩場が、赤いタール状の液体に変わっていた。
赤い津波が押し寄せていく、触れた物も全て溶けていくか、錆びて朽ち果てる。浸食は空さえ覆い尽し、赤かった太陽は白く染まり、灰色の曇天に覆われた。ビーチが、何かを切っ掛けに再び現れたのだ。
酒匂は言葉を失い絶句している。しっかりと見てしまうのは、これが始めてだろう。こんな世界を見て、冷静でいる方が無理だろう。驚いてばかりもいられない。ビーチ──深海凄艦のテリトリーに呑まれたのだ、いつどこから深海凄艦が現れてもおかしくない。
周囲を警戒するサラトガは、遠くに巨大な影があるのに気づく。傍から見ると巨人が膝を追って俯いているようにも見えるが、巨人は鉄でできていた。
メタルギア・イクチオスが、そこにいた。
元々の場所と照らし合わせると、丁度集落があった場所になる。まさかあの集落には、イクチオスが隠されていたのか。
イクチオスは座り込み、沈黙を保っている。周囲には深海凄艦が四隻いる。
人間は何処へ行ったのだろうか、少なかったが集落には人が残っていた。現実世界で生きているのか、それとも、赤い水底に沈んだのだか。
予想していない遭遇だが、どうすればいい。
あれを破壊すれば、ビーチから出られるのだろうか? 最初の発生は、『液化』が起きた時だった。ビーチから出たとしても、液化は起きてしまっているかもしれないが、何らかの干渉はできるかもしれない。
酒匂がサラトガの肩を叩く。片手には主砲が握られている。怯えていたが、闘志が滾っていた。そうだ、目の前に最大の敵がいて、何もしない訳にはいかない。サラトガが頷くと同時に、酒匂の主砲が轟音を鳴らした。
軽巡の一隻に直撃し、護衛は私たちに気づく。同時に彼女が放った魚雷に陣形が崩れ、その間をサラトガが走り抜けた。目的はイクチオスただ一隻だ。一対一で見れば、イクチオスはただの潜水艦に過ぎない。装甲は薄い、対物ライフルなら、ある程度ダメージは通る。
事前の情報通り、足の関節に向けてライフルを撃つ。イクチオスはとっさに姿勢を変え、凄まじい高度まで飛び上がるとそのまま着水した。空母の私では、水中のどこにいるのか分からない。
「サラトガさん、後ろから来る!」
酒匂は流暢な英語で叫んだ。軽巡の彼女ならソナーを持っている。だが、対物ライフルを撃っても、最大速度のイクチオスは止められない。ただ回避するだけでは、また水中に潜られる。
だからサラトガは、飛び出したイクチオスを
壊れた飛行甲板を盾に衝撃を削ぎ、空母の出力で動きを止めたのだ。空母と潜水艦。どちらにパワーがあるのかは歴然。そのまま衝角を圧し折ろうと力を込める。
「また、迷い込んだ奴がいる」
男の声だって?
あり得ない声に動きが止まったところに、爆弾が投下された。巻き添えから逃れようとイクチオスが暴れたから直撃はしなかったが、爆風に吹き飛ばされる。
「いや、お前は……」
最悪だった。吹き飛んだ方向は、まさに男のいる場所だったのだ。隣には姫級の空母もいる。このまま沈められてしまうのか。サラトガが強く眼を瞑る。
その時、また誰かの声が聞こえた。
「ヴァイパー!」
「フン、追ってくるのか。そのまま逃げていれば良いものを」
スネークだ、シェル・スネークの声だ。
瞬間、脳裏を突き破る激痛が走った。
続けて体中が熱くなる、炎に包まれているような痛み。あの時の光を連想させる暑さが、視界を真っ白に塗りたぐっていく。
その痛みの正体は、激烈な怒りだった。スネークへの怒りだった。
どうして、スネークが憎いのか?
幻肢痛は疑問さえ破壊し、サラトガを絶叫するだけの獣へと変えていく。
強過ぎる痛みは、サラトガの認識を破壊していく。
感覚、記憶、自分と他者。走馬燈のように流れる記憶が、途中でバラバラになっていく。時間的なつながりを失い、崩れたパズルのようになる。
掠れる視界の端で、私と同じようにのたうち回る影があった。深海海月姫だ。彼女の傍にいた彼が、混乱した様子で駆け寄ってくる。
悲鳴が聞こえる、断末魔が聞こえる。
私の悲鳴なの? 誰の? スネーク? 彼?
悲鳴が私に重なる。殺される、スネークが見下ろす。
そして、ブラックアウトした。
最後の一瞬に見えたのは、太陽に伸びる、
*
ヴァイパーが戦闘を放棄したのは、イクチオスだとガングートは推測していた。
彼にとってメタルギアは計画の為の重要な要素。それがサラトガと酒匂に襲われたから、イクチオス防衛を優先したのだ。ヴァイパーが黒幕だった、という前提があればの話だが。二人の襲撃は、予想外だったのだろう。
またそのお蔭か、今回液化は発生しなかった。あの湖が更に範囲を広げることはなかった。それでも液化直前に行った影響は残っている。付近の集落などで、屍病に感染している情報が増えていたのだ。この原因がイクチオスなのかは、分かってない。
いったいアフリカで何が起きているのか、シャドー・モセス基地ではその解析が急ピッチで進められていた。イクチオス、ビーチ、屍病、ヴァイパー。想像を絶する混沌はまさしく暗黒大陸と呼ぶにふさわしい。
しかし、ヴァイパーに限って言えば、彼が誰なのかはすぐに発覚した。
「ブラックアーツ・ヴァイパー、それが奴のコードネーム。同時に特殊部隊ブラック・チェンバーのリーダーだった男だ」
「
「データによれば、奴はブービートラップのプロフェッショナルだ。戦場を自由自在に駆け回り、あらゆる罠で敵を抹殺してきたことから、そんなあだ名がついたらしい。本来罠とは事前に設置するものだ、それを実際の戦闘中に活用するなど、普通の奴ができることではない。あらゆる罠──地雷や機雷など──に精通していたのも、異名の一因だった」
「なるほど、それにしても……
ため息交じりに青葉が呟く、我々のリーダーもまたスネークなのだ、因縁があるのかもしれない。
「それで、どうしてそんな男がアフリカにいるんだ?」
「分からないが、少なくとも合衆国の都合ではなさそうだ」
ブラック・チェンバーは、数十年前に壊滅した部隊だった。
元々この部隊は、艦娘と人間による合同特殊部隊として設立された。デルタフォースと同じく非公式の部隊だが。これからは艦娘を活用する時代が来る、そう考えてアメリカが設立した。なお、艦娘を対深海凄艦以外で用いるのは国際法で禁じられている。だから非公式部隊なのだ。
しかし数十年前の在る日、従事した任務の時、極めて強力な深海凄艦と交戦。僅かな人員を残して部隊は壊滅し、そのまま解体されたらしい。だが実際は、表向き壊滅したことを言い殊に、更なる非合法部隊として活動していたのだ。
信憑性は高い、だが、かなり疑わしい原因がある。
「この情報、フョードロフからなんだ」
「フョードロフって、あのKGBの諜報員ですよね。彼が情報をくれたんですか? 頼まれた任務は結局失敗したのに」
「ああ、なんの文句もない。それどころか口約束に過ぎなかった支援もしてくれている。代わりに新たな依頼があった。アフリカでのイクチオスの出所を連合艦隊よりも先に探ることだ。イクチオスを建造したのはソ連だ。アフリカでのルートを辿られてしまえばソ連に行きつく。そうなれば追及される責任は大変なものとなる」
だが、それも妙な話だ。ジョン・H──もといジェームズ・ハークスの捕獲に失敗しておいて、文句の一つもない。基地の誰もが怪しんでいた。イクチオスの証拠隠滅以外の目的があるのではないかと。
スネークにとっては、アフリカにあるという愛国者達の謎を追うのが目的だ。だがガングートたちはそうではない。ガングートや北方棲姫、伊58に北条提督は、仕方なくここに来たようなものだ。だからこそ、自分の身を護る方法をつけなければならない。
アリューシャン列島は北方輸送の要だ、北方棲姫は周囲のイロハ級を支配し、この航路を安全なものとしている。それにより、この辺りを使う日米企業の密かな支持を受けていた。だがそれでもやはり、テロリストなのは変わらない。
故に、フョードロフが何を目的としているのか突き止めることも急務だ。このままでは第三各国よろしく、大国に利用されるのが目に見えている。それに抵抗する気があるのは、私たちしかいない。ガングートは会議をそう締めた。
もう一つの目的はどうなっているのか。それを確認するためガングートはシャドー・モセスの地下研究所を目指した。彼女は知らないが、そこは別の世界でメタルギアREXの研究をするためのスパコンが置かれていた部屋だった。
ガングートのブーツがタイル状の床を鳴らす。パソコンに顔を突き合わせる北条は気づかずに、眉間にしわを寄せている。二つ持って来たカップにはコーヒーがある。それを机に置いて、彼はやっとガングートに気づいた。
コーヒーを一気に飲み干して、大きく腕を伸ばす。瞳は半分しか空いておらず、疲労がにじみ出ていた。この数日間でモセスに送られたデータを、彼は急ピッチで調べ上げていた。それは全て、死体だった。
「駄目だ、あと少しが分からねえ」
死体とはつまり、
「やはりか」
「深海凄艦の細胞は、死亡から数分で粒子状となって消える。スペクターにはこれを保護するためのフィルターのようなものがある、多分、スペクターを構成する、深海凄艦の死体はこいつで保管されている」
「ならそれを調べればいいだろ」
「それができねえ、触れねえんだ」
「触れない?」
「ああ、確かに見えているのに、物質的な接触ができねえ。電子顕微鏡で見る以外のやり方が全くねえ」
まるで本物の幽霊だ。そう言って北条は再びパソコンに向き直る。この辺りは専門外だ、彼に任せる他なかった。
敵──ヴァイパーは明らかに、どの国家よりも隔絶した技術力を持っている。その一端でも掴まない限り、どうすることもできないだろう。もっとも、ヴァイパーが黒幕ならの話だが。
*
連合艦隊のベースキャンプから、長門は出てきた。安否が不明だったサラトガと酒匂の帰還だ。今艦隊には陰鬱な空気が漂っている。彼女たちの帰還を宣伝するだけでも、大分マシになる筈だ。
だからこそ長門は、二人の話に聞き入っていた。突如ビーチに呑み込まれたスネークとオイゲン、続けて呑まれたサラトガと酒匂。そして深海海月姫を連れたヴァイパーという男。ブラック・チェンバーについての概略は、モセスを経由してスネークから聞いた。
やはり通信が不安定になる時は、ビーチの湖を隔てる時限定だ。ここからアラスカには、さすがにビーチはない。
それらの事実を、長門は一切宣伝しなかった。イロハ級しか生み出さないイクチオスでさえこれだけの脅威なのだ。感染症を撒いている噂も立っている。これでもし、深海凄艦の姫級を人間が支配できると知られれば、更なる混乱が起きる。報復心に駆られ、虐殺が起きてもおかしくない。そうなれば、更に敵の思うつぼだ。
だが、不思議なことは、深海海月姫がヴァイパーやイクチオスと共に撤退したことだった。スネークたちから見ると、その理由は海月姫が苦しんでいたかららしい。
「本当なのか。サラトガが苦しむと同時に、深海海月姫も苦しみだしたと言うのは」
「間違いないよ、私たち全員見たもの」
オイゲンの回答に、酒匂とスネークも頷く。当のサラトガは苦しそうに寝込んでいた。怪我はないが、寝込んでいる原因は全く分からない。分かりやすい怪我でもあった方がまだ良かったかもしれない。
「命に別状はない、じきに目を覚ますだろう。軍医はそう言っていた」
「じゃあ原因は分かったの?」
「それは今調べている最中だ」
分かっていない時の常套句だった。そんなことは長門も分かっている。それでもこれしか言えないのだ。全員が不満になるのは当たり前だ。長門自身も不満だった、彼女がどうなっているかさえ分からないのだから。
長門はきっとそう思っている。彼女は思った。
「……
少し前からサラトガは眼を覚ましていたのだ。
しかし、上手く体を起こせない。長門に支えられてやっと起き上がる。意識がまだぼんやりしていて、中々覚醒まで至らなかった。
「おはようサラトガさん!」
「おはよう酒匂、それに皆さんも」
「大丈夫、ではなさそうだな」
スネークの声が聞こえた途端、サラトガがビクンと震えた。勝手にこんな反応が起きる。スネークを前にすると平静ではいられない、内蔵に手を突っ込まれて、ゆっくりと抉り出されるような不快感が喉から湧き出てくる。必死で堪えようと、シーツを握る手に力が入る。
「やはり、私が駄目らしいな」
「どういうことだ?」
「私にも分からない、本人に聞いてくれ」
スネークが部屋から出て行くと、不快感が収まっていく。サラトガの様子は長門たちから見ても異様なものだった。
「いったいなにがあったんだ、スネークとなにか?」
そんなものはない、むしろ下手したら命の恩人だ。理由を知りたいのはサラトガだって同じだった。この煮え立つ気持ちは何なんだ。訳が分からない、深海海月姫を目にした時の、凄まじい激痛も分からない。
「落ち着けサラトガ、一つ一つ、話してみてくれ」
サラトガは言われた通り、素直に話した。
スネークを見ると、なぜか少し苛立つこと。海月姫を目にした途端、凄まじい激痛が体を襲ったこと。その時流れ込んできたのは、サラトガ自身の記憶ではなかった。冷静になっている今だからこそ、そう判断できた。だがあの時は、それが自分の記憶のように感じられた。知らない誰かが、寄生しようとしているようだった。
「──知らない筈の痛みを知っている、か」
そう言うが、知らない痛みは想像することもできない。
だからきっと、これは忘れている痛みなのだ。なぜ忘れたのか? なぜそんな痛みを? その理由は分からない。忘れたからこそ、罰のように痛みが響くのかもしれない。
「あたしもあるよ、そういうの」
「酒匂も? どんな?」
オイゲンが質問する。だが、オイゲンも私たちも、その質問を後悔する羽目になる。
「眩しい光を視るとね、一瞬だけ全身がとっても痛くなるの、それに凄い熱いの。私が私がなくなるみたいに。だから大きい音も嫌い」
「そっか、それは辛いね」
「ううん、実際に痛いことよりもマシだよ。だってあたしは実戦に出なかったから、本当の痛さを知らないんだもん」
酒匂の発言は、一つ間違っていた。彼女はその痛みを知っている。だが、忘れてしまっているのだ。周りのサラトガたちは、記憶の正体を知っていた。実戦の痛みを知らないと言ったが、むしろ──何の痛みを知らなかった分、余計に過酷な記憶になってしまったのだろう。だから記憶がないのだ。酒匂自身が耐え切れないから。
他人の痛みは知っている、だが自分の痛みは知らない。
サラトガは、私もそうではないか、と考えた。人が覚える痛みは何も自分だけではない。他者が感じた痛みも、言葉などを介して知ることができる。だからスネークへの感情や深海海月姫との接触で見たものも、誰かの記憶ではないかと。
ならあれは、深海海月姫の記憶なのだろうか? もっとも一瞬かつ痛すぎて、まともに覚えていない。そもそも知らない人の記憶が、そんな簡単に流れ込むものなのか。超能力でもあるまいし。
「もう良いか」
スネークが慌てた様子で入ってきた。また少し胸がざわつくが、さっきよりかはマシだった。長門に色々話したおかげだろう。彼女はサラトガを少し見て、声を荒げて刺激しないように話した。
「イクチオスが発見された」
「何!?」
「位置から考えて、我々がヴァイパーと接触した時の個体だろう。しかももう、『液化』の準備に入っている」
一刻も早く止めなければ、またアフリカの一部が海と化す。深海凄艦の生産プラントとなり、不毛の土地になってしまう。ただ破壊のための兵器が動きだしてしまう。これ以上深海凄艦が増えれば、連合艦隊は敗北する。
「私が止めてしまって構わないよな?」
「それは良いが、だが……もしビーチに呑まれた時どうする。お前は確か敵艦が見えないんだろう、オイゲンから聞いたぞ」
長門の言葉にスネークが黙ってしまう。
何もできないのだ。口を閉ざしながら、奥で悔しそうにしている。何もできないまま見守るだけ。その時、スネークに幻肢痛が現れた。中破してしまい、何もできず、殺される味方の悲鳴。それが幻肢痛になっていた。
歯を食い縛って痛みに耐える、その甲斐あって、苦しんでいることは長門に悟られなかった。代わりに会話も聞こえなかったが。
「──本当か、スネークと行くのか」
幻肢痛が収まった時、サラトガはスネークとともに行くこととなっていた。敵が見えないスネークのサポートをすると志願していたのだ。無意識下で何があった。そう思ったが、サラトガは発言を撤回しなかった。
何もできないまま悔しそうにするスネークが見ていられなかったのもある。それを自分に重ねていたのもある。
だがそれ以上に、この報復心の正体を知りたかったのだ。記憶を、スネークへの、深海海月姫の。そしてヴァイパーの。
『継承(スネーク×青葉)』
「フョードロフの狙いか、碌なものではないだろうが……」
「そう言いましても、ソ連の支援があるのも確かですし、表立って荒を探すのはちょっと不味いですし」
「私が行ければ良いんだが、流石にアフリカからはそう簡単にいけない」
「支援、受けない方が良かったんですかね」
「そういう訳にもいかなかっただろ。大国の一つがテロリストではないと言うだけでも、影響力は違う。少なくとも、私の目的、愛国者達を突き止めるまでは必要だった」
「でも、何も知らずに利用されるもの、癪ですよねえ」
「そりゃそうだが」
「……表立って調べなければ、良いんですよね?」
「何が言いたい?」
「ソ連に、誰かが侵入すれば良いんじゃないでしょうか。例えば青葉とか」
「馬鹿を言え、スニーキングは一朝一夕で獲得できる技術ではない。まるで才能がないとは言わないが」
「でもスネークさん、実質生後1年ぐらいしか経ってないですよね」
「……そういう問題ではない、危険過ぎると言いたいんだ」
「一応青葉、ソロモンの時少し教わりましたけど」
「とにかく駄目だ、死にに行くようなものだ。無理にスニーキングをしなくても、できることをするんだ」
「できることですね、了解です」