【完結】アーセナルギアは思考する   作:鹿狼

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File71 メッセンジャー

 誰かが言っていた。違う誰かを演じ続けていると、次第に元の自分が思い出せなくなっていくと。誰かはそうなった、他人の心にダイブし過ぎて、自分が呑まれてしまったと。自分さえ思い出せなくなった時、人は何を信じるのか。

 

 私は思う。仲間がいれば良いのではないか。

 元の自分を覚えている仲間が、生きていてくれる。それは、私が生き続けていることと同じだ。私が自分を忘れても、誰かの中に残り続ける。

 

 だが、仲間さえいなくなった時はどうすればいいのか。

 自分は誰か分からない。信じられるものも何一つない。それでも、何かを信じられるのか、護ろうと心から思えるのか。もしくは、信じない選択をするのか。

 

 

 

 

 

── File71 メッセンジャー ──

 

 

 

 

 残骸になっているイクチオスを遠目で観察した後、スネークは整備区画の奥へ移動する。あんな怪物でも、イクチオスの燃料はオイルだ。つまり、貯蔵タンクがある。工場を纏めて破壊するには、タンクを壊すのが一番効率的だ。

 

 とは言え、さすがに一隻が破壊されたからか、兵士の警備レベルは今までの比ではない。中枢棲姫か、北端上陸姫が圧でもかけているのか、緊迫感も集中力も跳ね上がっている。スネークは思った、隙だらけだと。

 

 集中するということは、視野が狭まることと同じ意味だ。本来なら兵士同士の協力で狭まった視野を補うが、少なくない死角が生まれている。強化されたオクトカム迷彩も活用して、次々と警戒網を抜けていく。

 

 貯蔵タンクが格納されている区画まであっと言う間に辿り着いた。同じくレイを活用し、扉のロックを解除する。タンクは一つだけではないが、地下工場を破壊するなら、目の前の物を壊すので十分だ。

 

 勿論、考え無しにミサイルは撃たない。逃げ遅れて巻き込まれたら笑い話にもならない。どこに、どのタイミングで撃ち込むか考えていく。思った以上にタンクは固い。艤装のミサイルでなければ、破壊は難しかった。

 

 脱出する時だが、どうビーチを抜けたものか。無事も確認したい。ガングートに無線を繋ぐと、通信がONになった。

 

〈スネーク、無事だったのか〉

 

「ああ、そっちも無事なようだな」

 

 ガングートはなぜか、すぐに返事をしなかった。裏切っていたことの負い目だろう。ともかく無事なら良い。時間もないので要件を話す。近くに来れたら来てほしい。しかし、良い反応は得られなかった。

 

〈今の場所が良く分からない〉

 

「分からない?」

 

〈マップにも表示がない、妙な場所に出てしまったみたいだ〉

 

 ある程度新築しているといっても、ビーチの浸食もあり、地下工場内は微妙に古びている。ところどころに赤錆まで付着している。ガングートのいる場所は全く違う雰囲気だった。汚れもない、壁にも床にも、ダクトらしき穴すらない。

 

 穴の開いてないホースの中や、生き物の体内のような場所らしい。とにかく不気味なところだ。だから、スネークの場所に行くことは現状不可能だった。

 

〈そっちこそ何かないのか、改二になって、深海凄艦の力が強まったとか……それで、ビーチのことを理解できるようになったとか〉

 

 さっきガングートと一緒だった時は、今までとさして変わらなかった。集中していなかったからかもしれない。できるならそんな賭けはしたくない。頭を悩ませていると、G.Wが無線に割り込んできた。

 

〈良い状況だ、お前を動かすのに良い理由ができた〉

 

「急になんだG.W」

 

〈ビーチをお前単独で突破できる可能性がある、先程モセスから連絡があった。同じAIの私では解析できなかったエリアの解析が終わった〉

 

 T.JもG.Wも、本来は同じ権限を持っている。だが、全く同じでは権限を分けた意味がない。それぞれの管轄があり、それ以外には干渉できないのだ。あの時、リキッド・オセロットが掌握できたのが兵器関係だけだった理由でもある。

 

〈その工場の最深部に、ある存在が囚われていることが分かった〉

 

「存在? 人でないと言っているようだが」

 

〈そうだ、人ではない。妖精だ〉

 

 妖精が単独で囚われている?

 スネークはハッと思い出した。愛国者達に捕まっている妖精がいる。それも、半ば私を庇って捕まってしまった奴がいる。だいぶ前になってしまうが、奴の顔はハッキリと思い出せた。

 

〈エラー娘の、本体……とでも言うべきか〉

 

「つまり、猫じゃない方か」

 

 随分アレな言い方だが、これが一番分かりやすい。

 G.Wの言いたいことも分かった。猫単体でもビーチに干渉できたのだ、本体ならもっと強い。ビーチの突破もできると、猫に確認も済ませたらしい。

 

〈工場地帯の更に下、最下層にエラー娘はいる。場所はガングートが近い〉

 

〈ここは工場の最下層だったのか、私が探して問題ないのか?〉

 

〈らしい、とにかく自由にさえなれれば、スネークを()()()()ことも可能だと言っていた。嘘を吐く理由もない、信じて問題ない〉

 

 呼び出すとはどういうことだ。まさかワープでもする気なのか。非現実的過ぎるが、この状況で嘘を吐く理由は確かにない。

 

〈ガングートにマップデータを転送する。それを基にエラー娘を探し出せ〉

 

「了解した」

 

 そう言ったまま、ガングートは無線を切らずに黙り込んでしまった。しばらく迷って、再び口を開く。言い難いのではなく、形容しがたい不安が渦巻いていたのだ。

 

〈さっき、北端上陸姫に遭遇した〉

 

「何だと」

 

〈戦闘には入らなかったが、妙に意味深なことを連呼していた。正直、あいつの考えが分からない〉

 

 ガングートの知る北端上陸姫は、快楽のまま動く破壊主義者だったが、今はそうでないらしい。どう動くか分からない以上、可能な限りの警戒をするしかない。警告を残して、無線は切れた。

 

 だが、今の私にどうしろと言うのか。

 オイルタンクに背中を預けて、スネークは葉巻を吸いたくなった。しかし、此処は火気厳禁なのだ。代わりに深い溜め息が出た。

 

 

 *

 

 

 今更オイルタンク前から動く訳にはいかない。しかし、ガングートがエラー娘を見つけるまで……率直に言えば暇だった。やることがない。葉巻も吸えない。できることはないか考える。忘れていることはないか。

 

 スネークの顔が、若干蒼ざめた。そういえば、脱獄できたことをモセスの連中に言っていない。G.Wから情報は伝わっているが、肝心なことは別にある。礼儀の問題だ。通信途絶の間間違いなく心配していた。それを察していて何も言わないのは礼儀がない。慌てて通信を入れる。

 

〈一言入れる時間もなかったのか?〉

 

「……すまん、心配をかけた」

 

 若干機嫌の悪い北条が無線に出た。彼に続いて明石や北方棲姫も話しかけてくる。予想通り、連絡しなかったことへの文句が大半だ。もっとも本気ではない。ずっと心配していた感じが伝わってきた。

 

〈そっちの状況はG.Wからあらかた聞いている。エラー娘の救出はできそうなのか〉

 

「ガングートに聞いてくれ、奴に頼んだ」

 

〈ガングート? だが、あいつは確か……〉

 

「信用していい、私はそう判断した」

 

 裏切ったといっても、こちらを陥れようとした訳ではない。敵でもない。立場が違っただけだ。ビーチで語ってくれた内容に嘘はない。あちこちの組織を転々としていて信用できないと言うなら、私だって同じだ。

 

「それに、私を助けてくれた。十分な理由だ」

 

〈信じるのか、スネークが良いならそれで良いさ。こっちは順調だ。お前の回収したコードトーカーのデータのお蔭で、川内の治療の目処が立った〉

 

「本当か」

 

〈当然だ……にしても、俺がずっと調べていた存在の正体が、こんな出鱈目な生物だったとは〉

 

 北条の気持ちは察せられる。元々メタリックアーキアなんて代物を知っていた私でも信じられないのだ。記憶や魂から、生き物を生み出す虫なんて誰が想像できる。もはや悪夢だ。挙句、その産物が人類を襲っているのだから。

 

〈それはそれとしてだ、青葉から別件がある。今、通信を繋ぐぞ〉

 

 しばらくノイズが響き、雑音が晴れるとモセスとは違う音が聞こえ来た。

 

〈スネーク!? 大丈夫でしたか!?〉

 

「大丈夫だ、心配をかけた」

 

 ここまで心配してくれるとは。良い考え方ではないが、少し嬉しかった。私はそれだけ思われているということだ。理由は色々あるだろうが。しかし、所詮は一時的な協力関係だ。ここまで心配しなくても良い気がする。

 

「別件とは?」

 

〈ある人物に関して、聞いていただきたいことがあります〉

 

 その情報は、コードトーカーの行先や行動を追っていた時に見つけたものだった。あるタイミングでコードトーカーはチェコへ飛んでいる。半ばソ連から亡命する形で。あれだけのテクノロジーを抱えた人物が逃げるのを容認する程、KGBは甘くない。

 

 そこには、亡命の手引きをした人物がいたのだ。CIAの工作員だった。一般的な──勿論エリートと呼ばれる部類だが──エージェントだ。問題は、この工作員が、この後辿った経歴だった。

 

〈彼はその際、KGB側のある工作員と接触しています。どうやら亡命を止めようとしていたらしく、KGBの方は死んでしまったようです〉

 

 良くある話だ。しかし、殺害までいくとはよほどの状況だったのだろうか。殺しをすれば跡が残る。証拠を消すにも時間がかかる。簡単ではあるが、便利な解決法とは言えない手段を取っているのだから、それなりの事情があったのだろう。

 

〈ですが……同時に、CIA側の工作員が消息不明になっています〉

 

「なんだそれは、両方の工作員が同時にいなくなったのか?」

 

〈記録上は。ですが、実際には違うことが起きています。死んだと思われたKGBの工作員は、数年後に帰還しているんです〉

 

 加えて、どちらも遺体さえ発見されていない。消息不明だから暫定的に死亡と見なされていたのだ。首を傾げるスネーク。奇妙な話だが、これがそこまで重要なのだろうか。その疑問は、青葉から告げられた名前で解決した。

 

〈この時のKGB側の工作員は……『川路』という別称を持っていました〉

 

「川路、だと」

 

〈そしてCIA側の工作員の偽名は『ブライアン・マクブライド』……後に、ブラック・チェンバーに在籍していた記録がありました〉

 

 これは偶然なのか。決定的な確信を齎す情報もあった。マクブライドはブラック・チェンバーの中で、もっとも変装に長けていた工作員だという。部隊壊滅時には別の場所で活動していた、死ぬことを免れたと情報にはあった。

 

〈嘘か本当か分かりませんが……変装する人の中には、自分の皮や血液まで取り換える兵士もいるそうです〉

 

「何が言いたい」

 

〈川路とマクブライドは、同一人物ではないでしょうか〉

 

 察していて言わなかったことだった。それを認めてしまえば大変なことになるからだ。川路は単冠湾泊地の頃から関わってきた。奴がブラック・チェンバーなら、その時から私たちは踊らされていたことになる。

 

 変装の達人であるマクブライドが、川路──ブラック・チェンバー最後の生き残りなら、もう一つ説明ができる。

 

 ジミーを殺した犯人はずっと捕まっていない。しかし、冷静に考えれば、軍事施設に潜りこみ、更には手錠に爆弾を仕掛けることは簡単ではない。相当な変装の達人でなければできないことだ。

 

「まさか、ジミーを殺したのも」

 

〈あの事件はブラック・チェンバー壊滅後に起きました。残るメンバーはアフリカに逃げていた頃です。その時、呉の近くに来れるなら、数か月前まで単冠湾にいた彼以外あり得ません〉

 

「まて、だとしたら、ガングートは無事なのか」

 

 ガングートは元々、川路の手引きで基地内に侵入している。一番危険に晒されているのは彼女だ。そう分かっていても、今のスネークは助けに動けない。歯がゆい思いをしながら待つしかない。

 

〈ガングートさんではなく、スネークを狙うのではないでしょうか。ヴァイパーを殺したのはスネークですし〉

 

「唯一の生き残りを殺した怨敵か、今はむしろ、狙ってくれる方がありがたい」

 

 私を狙ってくれれば、ガングートはある意味安全だ。どうせ殺しにくるなら早い方が良い。こっちも用がある。ジミーを殺した連中には、必ず報復すると誓っている。あの光景を思い出すたびに、もう無い眼孔が痛みだすのだ。

 

 

 *

 

 

 青葉と無線をしてから、どれぐらい時間が経ったのか。待っていると、また無線機が作動した。見た事のない周波数だ。警戒しながら通信を繋ぐ。

 

〈スネーク、聞こえている?〉

 

「川内? いいのか、無線なんかやっていて」

 

〈大丈夫、私の施術は無事終わったから。まあ絶対安静って言われたけど〉

 

 なるほど。見た事ない周波数なのは、隠れて通信しているからだ。ただそれで苦しくなっても自己責任だ。今は施術が成功したことを喜んでおく。これで、今すぐ死ぬという状況ではなくなった。

 

「……川内、お前はあとどれぐらい生きれるんだ」

 

 施術は成功した。原因は艦娘と深海のバランスが、長期間の活動で崩れていたからだ。私のデータと、コードトーカーの記録を基に再調整を行い、不具合は直った。だが、そもそもからして、艦娘の活動限界は数十年と言われている。

 

 川内はもう、二十年を超えてしまっていた。なぜだか不明だが、深海凄艦が現れるよりも早く活動していた。限界はとうに超えている。コードトーカーが関わっているから、例外かもしれない。そう期待していた。

 

〈あと数か月かなぁ?〉

 

 余命数ヶ月。その事実を告げるにしては、川内は明るかった。もしくは諦観か。ショックを隠せないのはむしろスネークの方だった。

 

〈そんなに気にすることなの。私とスネークは全然関係ないんだよ?〉

 

「折角生き長らえたんだぞ、なのに数か月……辛いと思わないのか」

 

〈全然、むしろ私は生き過ぎたから、きっと潮時ってやつなんだ。助けてくれたスネークの仲間たちには、申し訳ないけど〉

 

 まるで、死を待ち望んでいるような言い草だ。だからといってスネークは何もできない。語ることもできない。独りで驚き、独りで悲しんでいるだけだ。川内がそれを望むなら、そう納得する他ない。

 

〈でも、まだ死ねない。まだコードトーカーから託された仕事が残っている〉

 

「川内、お前とコードトーカーはどういう関係なんだ」

 

〈やっぱりそれを聞いてくるかぁ、まあそりゃそうか。そうだね、しいて言うなら父親かな。色々な意味で〉

 

「色々?」

 

〈ご察しのとおり、私を建造したのはコードトーカーだ。世界初の艦娘として。だけど、今の艦娘と違う点が一つある。私は元々、()()()()()だったの〉

 

 パラサイト・セラピーという技術がある。欠損した身体機能を特殊な寄生虫で補うという治療法だ。全身やけどで皮膚呼吸ができなくなった人間に、肌の代替となる虫を寄生させる、といったように。

 

 もちろんコードトーカーはこの技術に精通していた。むしろ自分にも施していた。この技術のオリジナルは、自力で光合成ができたらしいあるスナイパーにもって齎されたものだ。

 そして、艦娘や深海凄艦を建造したサイキックアーキアもまた、寄生虫の類だ。

 

〈私が失ったのは、こころだった。精神欠損とでも言えばいいのかな。本来あるべき精神を失って、私は廃人同然だった〉

 

「それを、パラサイト・セラピーで補った?」

 

〈うん。アーキアは私にとって余分な記憶を捕食して、それを欠損した部位に還元した。脳の機能代替みたいにね〉

 

 パラサイト・セラピーには治療以外の用途もある。寄生虫の力を借り、身体能力を向上させる力がある。サイキックアーキアを宿した彼女は、副次的に艦娘の力を得て『川内』になったのだろう。

 

〈だから命の恩人でもある。けど、元を辿れば、コードトーカーは元凶でもある〉

 

「中枢棲姫に、半ば脅されていたことか?」

 

〈関係ない、私たちにとっては。私のこころが壊れたのは中枢棲姫が理由だ。あいつにこころを『喰われた』の〉

 

 これもアーキアの活用方法だという。対象の記憶を捕食し、原型を保ったまま自らに還元して力にする。捕食対象に選ばれたのは、アーキアに干渉できるサイキッカーの才能を持つ大勢の人間たちだった。

 

〈この使い方を見つけたのはコードトーカーじゃないみたいだけど、実用可能にしたのは彼。彼が協力しなければ、私はこうならなかった〉

 

「そうか……どうしてサイキッカーなんて狙ったんだ?」

 

〈サイキッカーだけがアーキアに干渉できるから。提督適正も同じ。物を動かせなくても、心を読めなくても、才能のある人はいる。私もその一人だった。だから喰われた……代わりに虫を寄生させられて、『川内』として生き延びた〉

 

 恩人でもあるが、そもそもの元凶でもある。

 似ている。スネークはそう思った。アーセナルギアを建造したのは愛国者達だが、その愛国者達はビッグボスが生まれなければあり得なかった。川内と違い、少しの恩義も持っていないが。それでも、複雑な心境を察することはできた。

 

〈そして私は託された。コードトーカーの意志を、メッセージを誰に託すのか。託す人を見極めて、その時まで鍵を護り続ける役目を背負わされた。背負えるのは私しかいなかったし〉

 

 果たして、コードトーカーは何を思ったのか。

 スネークが知るのは情報だけだ。直接話したこともない、会ったこともない。どんな人柄だったのかデータでしか知らない。精々、さっきの記録媒体で会ったぐらいだ。

 

 だが、川内と話すことで察することはできた。決して望んだことではなかった。止むを得ない行動、一つしかない手段を選ばなければならなかった。

 

 冷徹に役割を背負わせたなら、川内が苦しむこと事態あり得ない。記憶を喰うアーキアで治療しているのだ、やろうと思えば、役割を機械的にこなす()()にもできた。コードトーカーはそうしなかった。

 

 むしろ残酷な選択かもしれない。それでも彼は彼女の記憶を残した。だから川内はこうして、複雑なこころを抱えた、『人間』として生きている。歴史から半ば消されても、コードトーカーの意志は、川内の中に残っているように思えた。

 

〈役割は終わった、でも、私の戦いはまだだ。私やコードトーカーをこんな目にあわせた中枢棲姫を、打倒しなきゃいけない。そうでなきゃ気が済まない〉

 

「だろうな」

 

〈どれぐらい持つか分からないけど、できる限り手伝うよ。デンセツのエイユウさん〉

 

 しかし、ある疑問は残っていた。些細な内容だが。

 なぜ川内は、私を選んだのだろうか。メッセージを託すに相応しい人間なんだろうか。()()()()の特性なのだろうか。どうしてエイユウなのか。まあ些細なことか。

 

 この疑問を突き詰めなかったことが、正解だったのか間違いだったのか。その答えは未だに出ていない。

 




―― 142.52 ――


〈青葉、時間もないし分かればで良いんだが〉
〈はい、なんでしょう?〉
〈ここ数十年間の間で、あちこちで行方不明者が出た時期が存在しているのか?〉
〈え? そうですねぇ、正直言って、アメリカは分からないですけど、他では一時期()()()みたいですね〉
〈記録が残されていたのか?〉
〈はい、一個だけですが。ソ連は超能力研究に熱心だったの、知ってますよね?〉
〈ああ、それがなんだ〉
〈研究施設の一つが、数十年前何者かの襲撃を受けたんです。施設や職員にけが人はいませんでしたが、代わりにいなくなっちゃったんです。研究対象のサイキッカーたちが全員〉
〈全員だって、馬鹿な、不可能だろ〉
〈そう言われましても、現実そう記録が残っているんですよ。明確に記録として残っているのはこれだけですが、似た事例は他の国でも聞いたことがあります〉
〈……それだけの力を、全て奪っているとしたら〉
〈どうかしました?〉
〈いや、何でもない、十分だ〉
〈そうですか、なら青葉からも一言。無茶しないでくださいよ〉
〈無茶なんて、私は〉
〈絶対します。中枢棲姫が同じ基地にいて、いつも通りでいられる訳ないです。一応言っておきますけど、青葉たちだって、あの子が殺されたことは、忘れてないですからね〉
〈そうか……ありがとう〉
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