【完結】アーセナルギアは思考する   作:鹿狼

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File73 北端上陸姫

 何が正義で何が悪か、誰が敵で誰が味方か。それらを決定するのは『時代』だ。

 誰も、完全に未来を予測できない。いつだって想定できない方向へ向かって行く。ソ連が崩壊したのも、対艦巨砲主義が滅ぶのも、艦娘や深海凄艦が現れるのも、誰も思ってもいなかっただろう。

 

 絶対的な概念は存在しない、なら私達は何を信じれば良いのか。

 答えは簡単だ。そんなものはない。しかし、それでも尚信じ抜くことが、生きることへの強い力になる。間違った考えで、いつかの時代、排斥される思いだったとしても。

 

 今の行動が正しいのかさえガングートには分からない。この行動は恐らく後世には伝わらない。忘れられて死ぬものを、私は信じて戦っている。忘却されると知っていても、それは戦いを諦める理由にはならないのだから。

 

 

 

 

 

── File73 北端上陸姫 ──

 

 

 

 

 ガングートは即座に逃走を選択した。手持ちの武器は拳銃しかない。

 北端上陸姫はただの姫とも、陸上型とも違う。かつてのソ連上陸部隊の『怨念』から生まれた彼女は、言うなれば海上移動要塞と言うべき深海凄艦だ。

 

 陸上型と同等の火力を誇りながらも、平然と海上を航行できる。水路が張り巡っているこの階層も、何の問題なく素早く移動できる。対するガングートは艤装を持っていない。走って逃げなければならない。現状勝ち目は皆無だった。

 

「一方的ニ攻撃サレル気分ハドウカシラ……あの日のブラック・チェンバーも、こういう風に蹂躙されたのだ」

 

 逃げ場を塞ぐように砲撃が放たれる。陸上型の火力はただの姫と比較にならない。一撃が放たれるだけで、地下工場が激しく揺さぶられる。天井から落ちてくる崩落物にも注意しなければならない。

 

「この程度で蹂躙だと、ブラック・チェンバーとは随分軟弱な集まりだったんだな」

 

「ソンナ挑発ニ乗ル性格ジャア……諜報員ハトックニ首ニナッテイルワ、無駄口ハ怪我ノ元ヨ……?」

 

 すこしでも狙いが甘くなれば。そう思ったが全く効果はない。当たり前だ。彼女の言う通り、こんな挑発で怒る奴にスパイが務まる訳がない。それどころか、照準は更に正確になりつつある。

 

 強烈な固定砲台の一撃を紙一重で回避する。砕けた壁の破片が体に当たる。艤装無しの体には十分なダメージだが、足を止める程ではない。再び走り出そうと力を込めた時、ガングートは激痛にバランスを崩した。

 

 踵の近くに、小さな風穴が開けられていた。いつやられたのだ。振り返ると、北端上陸姫の周辺に大発動艇が数隻浮かんでいた。その上には戦車がいた。主砲から煙を吐いている。しくじったと、顔を顰める。

 

「聞こえなかったのか? まあ、そうなるように、同時に主砲を撃ったんだがな」

 

 戦車が主砲を撃つ音を、固定砲台の爆音で掻き消していたのだ。何度も言うが北端上陸姫は上陸部隊を基にしている。だから他の姫では運用できない、いわば()()()()を使用できるのだ。

 

「マサカモウ、終ワリ……何テ事ハナイワヨネ……?」

 

「当たり前だ、こんな傷で私が止まるか」

 

 ガングートは唯一の武装である拳銃を投げた。

 勿論何のダメージもない。しかし気は引けた。グレネードの類かと誤認して、一瞬目を閉じた隙に、再び走り出す。

 

 目的もなくは知っているのではない。伊58が指定した場所に艤装を残してくれている筈だ。そこまでいけば、やっとまともな勝負ができる。開けられた風穴から出血していく。痛みが止まらないが、歯を食いしばって耐える他ない。

 

「そんな子供だましの技で、俺を止められると思うな!」

 

 背筋の凍るような轟音が聞こえた。階層一杯にプロペラの音が響きはじめる。そうだ、北端上陸姫は陸上型だ。振り返った後ろに、黒い壁が迫っていた。そう見間違える程の、夥しい艦載機の軍勢だったのだ。

 

 先頭に立つ艦上戦闘機が機銃を乱射する。生身の私にはそれさえ致命傷だ。とても回避しきれる気がしない。ガングートは意を決して、水路の中にダイブした。この中なら弾丸は減速する。

 

 その判断はある程度正解だった。陸上型の姫はそんな強力な対潜兵装を持っていない。潜水艦ではないが、攻撃を緩和できる。と思ったのもつかの間だった。ガングートの頭上に、無数の爆雷が迫っていた。

 

 躱し切れない。防御姿勢をとった彼女を爆雷は容赦なく吹き飛ばす。水中から叩きだされ、ガングートは水面を何度も跳ねた。遠目に見た時、奴の懐にはある装備がされていた。迫撃砲だ。聞いたことがある、一部の迫撃砲は対潜兵器としても使用されていたと。

 

「サアドウスル、マダ逃ゲルノカシラ? ソレトモ生身デ戦イヲ挑ム? どちらにしても俺には勝てないが。何故だか分かるか」

 

「さあな、狂人の考えなど知らん」

 

「シンプルな理屈だよ、俺とお前では『執念』が違う。何トシテモ目的ヲ遂ゲル……ソウイウ執念ガ足リテイナイノ。例えば、自分を捨て去る覚悟だ。こうやってな」

 

 唐突に北端上陸姫が顔を手で覆う。次の瞬間、彼/彼女の顔は全く別の人物に変わっていた。川路でも北端上陸姫でもない。日本人の顔に変化している。この能力で、色々な人物に成り替わってきたのだ。

 

「こうやって鎮守府に紛れ、ジェームズ・ハークスの手錠に爆弾を仕込んだのだ。スネークの報復、イクチオスの情報を漏らされない為に必要だった」

 

「子供にまで手を伸ばすのが執念だと、やはり狂っているな」

 

「そうさせたのは誰だ? だが自覚はしているさ、狂っているし、決して正しくはない。そう分かっていてなお信じる、これが執念だ」

 

 再び手で覆い、顔を変異させる。今度はガングートの顔になっていた。スネークもこれでだまし討ちを喰らったのか。

 

「ソレガ足リナイカラ……ドンナ組織ニモ長居デキナイ。貴女ミタイナ半端ナ存在ハ、一番気ニ入ラナイノ。ダカラ沈ンデ……元部下ノヨシミデ、楽ニ沈メテアゲル」

 

「半端なのはお前の顔の方だろう」

 

「そんなに生意気な子ではなかった筈だがな、なら苦しんで死ね」

 

 ここまでなのか? あっさり諦めそうな自分がいた。北端上陸姫の言う通り私は半端だ。誰かも、自身の執念も信じ抜けない存在だ。だが、それを変えたくて、深海の過去を捨てたのだ。ガングートは叫びながら立ち上がる。少しでも時間を稼がなければならない。

 

 とうとう狂ったか。そう北端上陸姫は誤認した。こんな奴をどう殺すべきか。そう逡巡した時間が致命的だった。

 

「ガングート!」

 

 叫び声と同時に、天井が爆発する。流れ込んできた大量の流水が北端上陸姫を押し流す。ガングートはその中に、複数のレイがいたのを見つけた。スネークではない。今レイを運用していたのは。

 

「遅いでち、待ちくたびれてきちゃったでち」

 

 伊58が、ガングートの背中に艤装を接続した。

 疲労していた体に力が漲っていく。四肢に力が入り、水面に波紋ができていく。助かった。そう感謝を告げて、北端上陸姫に向き直る。

 

「執念執念言っているが、お前のそれはただの怨念だろう。怨念は祓われるのが必然だ」

 

「祓う? 貴様なんぞにできる筈が……」

 

「ああできないね、お前に同情心なぞ全く湧いてこない。元上司という義理も知らん。だから、潰させて貰う!」

 

 思えば此処に来てから主砲を撃てなかった。鬱憤を晴らすが如く、出鱈目に砲撃を撃ち続ける。やはり戦艦として、思いっきり砲撃できるというのは気持ちが良かった。しかし、今は戦いの真っ最中だ、油断はできない。

 

 狭い通路だから回避はそこまでできていないが、砲撃が効いている様子もなかった。さすがは陸上型だ、タフさは比較にならない。むしろ、砲撃を受けながらも無理矢理距離を詰めてきている。

 

「コノ程度デ、怯ム訳ガナイデショウ……」

 

()()ではな」

 

 轟音が轟き、北端上陸姫の姿勢が大きく揺れた。驚いた顔で足元を見て、彼女は顔を顰める。どうしてもダメージは小さいが、始めて有効打が入った。ガングートは密かに『魚雷』を発射していたのだ。

 

 普通の戦艦は魚雷を装備してないが、ガングートという艦娘は例外的に装備している。当然搭載数は多くない。それでも、至近距離なら中々のダメージになる。海上移動型という特徴のせいで、雷撃が効くのも運が良かった。

 

「効いたようだが?」

 

 眉がピクリと動いたが、動かない。やはり挑発の類は効かないと考えていい。むしろ油断がなくなり、一層冷静になってしまった。再び砲撃を押しのけながら、力技で距離を詰めていく。再度雷撃を撃つべきか悩んだ瞬間、手元の無線機が揺れた。

 

 とっさに身をよじりながら、北端上陸姫の足元に砲撃を放つ。

 大きな爆発が起きる。煙の中から戦車や大発動艇の破片が飛んできた。ガングートの砲撃が水しぶきを立てた。それを目晦ましに攻撃を試みていたのだ。

 

 やはり、不意打ち気味に雷撃を当てるしか有効打はない。三式弾でもあれば話は違うが、そんな都合よく持ってきていない。ガングート一人なら、そうやって少しずつ追い詰められていただろう。だが、真下に味方がいる。

 

 北端上陸姫の背後から、金切り声が轟いた。

 水面を切り裂いて放たれているのは水圧カッターだ。死角からの攻撃に反応しきれず、北端上陸姫の白い肌が切り裂かれる。

 

「メタルギア・レイダト、誰ガ……」

 

「ゴーヤでち!」

 

 一瞬だけ顔を出して、再び伊58は水中に潜り直す。レイと伊58を排除するために迫撃砲を背後に乱射するが、恐らく伊58は真下に移動している。証拠に、北端上陸姫の体が大きく揺さぶられた。下からレイが体当たりでもしているのだろう。

 

 そうやって気を取られていれば、私の攻撃がしやすくなる。ガングートは距離を詰めて砲撃する。何発も撃てば、装甲を破れるかもしれない。だが、接近したことで見えた北端上陸姫の顔は、笑みを浮かべていた。

 

「何故、伏兵を仕込んでいるのが、お前だけだと思っている?」

 

 ガングートは一か八か、跳躍して空砲を放った。

 支えを失ったことで、わずかに後退する。瞬間目と鼻の先を、巨大な獣の口が喰らい付いていった。遅ければ喰われていた。水中に何かが潜んでいるのだ。

 

 下からの攻撃は止まらない。次々と襲い掛かる獣が、ガングートを喰おうとしてくる。低速の自分が、この攻撃を掻い潜るのは無謀だ。止むを得ず距離を取る。射程距離から外れたのを見て、北端上陸姫が指を鳴らす。

 

「貴重デ、最後ノ……アウルノ遺産ヨ。感謝シナサイ……堪能シテネ」

 

 獣──()の持ち主が浮上する。

 眼前に展開されたのは、5隻ものスペクター達だった。しかも民族衣装を着ている。サラトガたちが交戦した『特注品』だ。顔が青ざめている気がした。一隻のレイが喰われて破壊されている。

 

 これと正面からやり合うのは絶対に沈む。ガングートはすぐさま身を翻し、その場から逃走を図る。さっきとは違い火力がある。連続で天井や壁に主砲を叩き込み、瓦礫の山で追撃を塞いでいく。伊58とレイたちは、それよりも前に水中を移動できる。

 

 だが状況はかなり不味い。この狭い、しかもスネークの破壊工作で崩れつつあるフロアを逃げ続けるのは不可能だ。時間もない。スペクターを一隻ずつシズメル余裕もない。北端上陸姫のみを、確実に沈める方法は何だろうか。

 

「大丈夫でちか、あいつどうするでち」

 

 浮上してきた伊58が、少し血を流していた。水中にいたスペクターの攻撃を喰らったらしい。

 

「……お前、魚雷持ってきているか」

 

「そりゃ、潜水艦だからね。あと対地兵装も持って来ているでち」

 

「方法は、一つしかなさそうだな。レイはまだいるな?」

 

「いるけど、あと二機だけでち」

 

 それだけいれば十分だ。ガングートは伊58に戦術を耳打ちする。早口で言い終わったと同時に、積み上げられた瓦礫が吹き飛ばされた。嵐の様な爆風がガングートを覆う。一瞬で視界が黒煙に覆われてしまった。

 

 これでは攻撃が見えない。真下からは上陸部隊、正面から北端上陸姫、上からは艦載機。その全てをスペクターが補強する。ガングートはやはり、がむしゃらに距離を取る以外に方法がない。

 

「逃げられると思うなよ」

 

 予想通り、あらゆる方面から攻撃が襲い掛かる。備え付けの機銃から主砲、副砲の全てを使い、ギリギリのところで攻撃を裁きながら後退していく。弾かれた砲弾は壁や天井に辺り、再び崩落を招き、壁を積み上げる。北端上陸姫が再度それを崩した時、ガングートは曲がり角まで逃げ込んでいた。

 

 ガングートはそこで振り向き、自らのオイルを、あえて流した。活動時間は短くなるが、『罠』になってくれる。続けて砲撃を周囲に撒き、再度瓦礫のバリケードを構築する。その中に砲撃ができる程度に穴をあけ、待ち構える。

 

 背後から来る可能性もあり得る。全方位にバリケードを作り上げた。その中に伊58も入れておく。潜水艦の装甲は脆いが、有効打を撃てるのは彼女だ。ギリギリまで護らなければならない。

 

「無駄な足掻きだということが、分からないのか」

 

 地鳴りのような轟音を立て、バリケードが破壊されていく。艦載機の爆撃に砲撃が続いている。上陸部隊もどこかにいるはずだ。このまま黙って破壊されるものか。ガングートはさっきの穴に主砲を突っ込み、すかさず砲撃する。

 

 たまたま至近距離にいたスペクターが、攻撃をまともに喰らって吹っ飛んでいく。だが即座に再生する。コアまで撃ち抜けなかったが、時間が稼げればそれで良い。すぐに別の穴に入れ直し、再び砲撃する。

 

 そうやって、ガングートに気を取られている間がチャンスだった。目配せで合図を出し、伊58が水中に潜る。沈んだ瓦礫は水中にもバリケードを構築しているが、彼女が通れるぐらいの隙間をレイに作らせておいた。

 

 再び穴越しに向こうを見ると、スペクターは二隻いた。残る二隻は恐らく水中だ。水面下のバリケード破壊と、潜水艦の奇襲を警戒しているのだ。この二隻をどうしかしなければ、チャンスはものにできない。

 

 その為の囮として、残る二機のメタルギア・レイを先に向かわせた。水圧カッターとミサイル群を利用すれば、少し時間は稼げる。その間に伊58が、北端上陸姫の真下に雷撃を叩き込む作戦だ。

 

 彼女達が水中に潜った時、反対側のバリケードが轟音を立てて崩れた。

 なぜだ、攻撃は受けていなかったのに。振り返ったガングートが見たのは、超小型のPT小鬼群が戦車や装甲車両に乗って襲い掛かる姿だった。

 

「聞コエテイルカシラ……私ハツマリ、囮ヨ」

 

 反対側だった。上陸部隊はあちらに回っていたのだ。そして静かに、ゆっくりと瓦礫を除去してきたのだ。最悪なことに、中央にはスペクターも一隻混じっていた。ということは、水中にいるのは一隻だったのか。

 

「アラ、ソッチニ気ヲ……トラレテ良イノカシラ……」

 

 北端上陸姫の攻撃が激化する。妨害しなければ、この内側に伊58がまだいると思わせなければならない。しかし、もうスペクターは眼前まで迫っていた。信じがたい速度で、丸太のような尻尾の横薙ぎが迫る。

 

 一瞬姿勢を下げ、頭部スレスレで回避する。スペクターの腹部に潜りこんだ。どてっ腹に砲撃を浴びせようと構える。砲撃しようとした時、ガングートは眼を疑う。スペクターの腹部から、無数の副砲が()()()来たのだ。

 

 艤装の装甲部分を回して、副砲を受け止める。だが、視界が一瞬塞がった隙を突かれ、振り降ろされた尻尾に吹き飛ばされた。勢いを殺せず、自分が作ったバリケードに叩き付けられる。肺から息が搾り出される。苦しいが、喘いでいる暇はない。

 

 姿勢を立て直そうとした瞬間、ガングートは、その場に崩れた。

 何が起きた。真下を見ると、自分の膝に風穴が空いていた。立つことなんてできない。重力のまま崩れる。艤装と片足で、転倒だけは何とか避けた。

 

「どうやら、命中したらしいな」

 

 足元のバリケードが僅かに破壊されていた。そこから砲撃されたのだ。一か所が壊れれば一気に崩れていく。バリケードが消えていき、大量の埃が舞い上がる。煙幕の向こう側からは、当然おびただしい物量の攻撃が襲い掛かる。

 

 このままでは挟み撃ちになる。ガングートは意を決して、まだ壊れ切っていないバリケードに主砲を接射する。反動が全て自分に襲い掛かり、一気に吹き飛ばされる。全身を激痛が襲うが、これで、スペクターを上陸部隊を飛び越えることができた。

 

 だが、着水した体には幾つもの弾痕ができていた。大体は艤装で受け止めたが、生身の部分からどんどん出血している。上陸部隊の戦車隊か、スペクターの艦載機にやられたのか──どちらでも大ダメージだ。

 

「あの潜水艦がいないな、成程、囮だな? だが水中にもスペクターがいる」

 

「分かっている、だが、これでも発見できるかな」

 

 事前にオイルを撒いておいた海面に向かった、機銃を一発撃ちこんだ。何てことのない火花が飛び散り、地下水路を一面火の海に変えていく。黒煙が充満していき、お互いの視界がぼやけていく。

 

「また悪足掻きか、効くと思っているのか」

 

 だが、視界関係なく水路は狭い。適当に撃っても何かに当たる狭さだ。圧倒的物量を持つ北端上陸姫の猛攻に、ガングートは今度こそ追い詰められていく。膝をやられたせいで、少しずつ近づくこともできない。

 

「おっと、潜水艦ガ……イタワネ」

 

 そう言うと、北端上陸姫は残るスペクターを水中へ送り込む。自身は辺り一面に迫撃砲を撒き散らし、伊58を牽制し出す。だが二機のレイが囮になってくれる。必ず突破できると信じて、ガングートは攻撃に徹する。こっちが追い詰められても、全力で砲撃を続ける。

 

 何よりも、護衛のスペクターが消えた今が好機だった。ガングートは一瞬砲撃を止め、全ての砲に次弾を装填させる。一時的に砲撃を止めたことで、延々と攻撃してきた北端上陸姫のテンポがぶれる。

 

「今だゴーヤ!」

 

 無線に叫ぶ。そして隙残る全ての弾を一斉に放った。

 ガングートの全ての砲撃が、一瞬だけ北端上陸姫を押し込んだ。隙が生まれる、だが、更に駄目押しを重ねるべく、水中からメタルギア・レイが浮上する。

 

 レイたちが残ったミサイル群を一斉に放った。艦載機は大混乱に陥り、海面にいた上陸部隊も掻き回される。肝心の北端上陸姫は、装甲を駆使して受け止めたが、これで意識は、上に向いた。下から迫る雷撃には気づかない。

 

 火災による黒煙を吹き飛ばして、爆発が通路を覆い尽す。爆発の中央には、雷撃を喰らって沈んでいく北端上陸姫がいる──筈だった。

 

「無駄な足掻きだと、何度言えば分かるんだ、お前は」

 

 北端上陸姫は健在だった。ミサイルがつけた傷以外ダメージはなかった。その片手には全身から血を流す伊58が握られていた。

 

「たかが潜水艦だけで、このスペクターたちを突破できると思ったのか。甘いな、スペックガ違ウノヨ……」

 

 煙幕の奥に、ガングートの影が見えた。力尽きて膝をついているようだ。止めを刺すべく、北端上陸姫が接近していく。伊58がやられた理由は単純だった。スペクターは強かった、潜水艦一隻では、どうにもならないレベルで。

 

「あれは俺達の、ブラック・チェンバーの仲間が全力で建造した兵器だ。貴様のような半端者がしたような、即席の信頼関係とは訳が違うのだ」

 

 似てはいた、だからこそ、より一層殺意が沸く敵だった。

 北端上陸姫はガングートを沈めるために腕を振るい煙幕を払う、そして、作戦が失敗し、愕然とするガングートを見下ろそうとした。

 

 だが、ガングートはいなかった。彼女の『艤装』だけが、プカプカと水面に浮かんでいた。なら奴はどこに。そう思った時、足元から零れる泡に気がついた。逃げようとした時にはもう、生身のガングートが船底にしがみついていた。

 

「馬鹿ナ、生身デ……!?」

 

「さっきから執念と言っているな、なら見せてやるか、私達の執念って奴を」

 

「そういうことでち!」

 

 北端上陸姫が振り返るよりも早く、復帰した伊58が兵器を放つ。今まで、ずっと水中にいたのが罠、雷撃が必殺だと思わせる為だった。本当の本命は、今まで隠し続けていた、伊58の特二内火艇だったのだ。

 

 船体に内火艇が入り込む。すぐさま内側に向けて砲撃を放ち、内火艇を爆散させた。しかし、爆発した内火艇から、大量のオイルが撒き散らされた。事前に、ガングートが意図して漏らしたオイルを分けていたのか。何のために?

 

 そして北端上陸姫は気づいた。ガングートが船底に張り付いている理由を。

 全て逆だ。全て私の目を欺いて、思い込ませるためだったのだ。必殺の一撃は、『伊58』の雷撃だと。そうではない、必殺の一撃は『ガングート』が放つ雷撃だ。

 

「当然、信管は解除済み、お前はオイル塗れ……この意味が分かるな?」

 

「馬鹿ナ……オ前モ無事デハ済マナイゾ!」

 

 戦艦が、水中に潜って来るなんて想定していなかった。その為に艤装を外すなんて思わなかった。ただの機銃で致命傷になる、生の体で自爆攻撃をしようとしている。信じがたい行為に北端上陸姫は叫ぶ。

 

「これが執念というものだ。覚えておくが良い──Ураааааааа(ウラー)!」

 

 スペクターも艦載機も間に合わない。

 穿たれた雷撃は船底に穴をあけ、火花を散らす。散った火花はオイルを触媒に燃え上がっていく。こんな、野蛮な方法で。

 

 しかし、ガングートも逃げられない。

 執念を持った一撃は、北端上陸姫どころか、ガングートさえも巻き込んで、何もかもを炎で包み込んでいった。

 




―― 140.85 ――


〈つまり……北端上陸姫は、川路だったって訳か?〉
〈混乱するだろうが、その通りだ。人間と深海凄艦を継ぎ接ぎしたスペクターが、奴の正体だった〉
〈そんな出鱈目が可能なのかよ、本当に深海凄艦ってのはすげえな〉
〈前例はある。ヴァイパーと深海海月姫だ。あいつらも、コアを二人で共有していただろ? 相性が良ければ、できないことはない〉
〈相性か、ガングート、お前から見て、あの二人は相性が良かったのか? 俺はあいつらのこと、詳しくねぇからよ〉
〈良かった、そう思う。私たちのような存在にとって、価値観とは曖昧だ。一度信じても、少し時代が進めばあっさり裏切られる。だから北端上陸姫は、快楽だけを信じていたんだろう〉
〈川路の野郎はヴァイパーを信じていた、だが、それはスネークが殺しちまった〉
〈自らの報復心さえ信じられない、そんな不信感があいつらを結び付けた。だが根っこで信頼していないんじゃ、安定はしない。逆に、その安定しなさが、ビーチを維持させていたんだ〉
〈……俺には、結局中枢棲姫に利用されていたようにしか見えねえな〉
〈私もだが、それだけとは思えない〉
〈ああ、ヴァイパーを殺したのも、ブラック・チェンバーを嵌めたのも中枢棲姫だ。そんな奴に、ただで靡くはずがねえ〉
〈……私たちが、あいつらの報復心を信じれば、良いということか〉
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