【完結】アーセナルギアは思考する   作:鹿狼

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File88 艦隊COLLECTION

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 以前の試みが失敗した原因を、俺は『愛国者達』が存在していたからだと考えた。だから愛国者達が滅ぶと同時に、計画も潰えた。しかしだ、潰えた後も影響は残っている筈だ。戦争経済に依存した社会体系は、そう簡単に変われない。滅んでも、俺たちの意志は生き続けている。

 

 だから俺は、計画を修正してやり直した。

 愛国者達が滅亡しても、問題なく継続される計画にすればいい。この世界での試みは、全てその為にあった。問題は、人の文明は変化していくところだ。

 

 時代の変化と共に、愛国者達が情報統制からデジタル、意識統制に変化を迫られたように、時代の流れを止めることはできず、未来を予測し切ることは難しい。愛国者達が滅び、その後時代が変わったら、これまでの手法が通じない可能性は十分ある。

 

 方法があるならば、時代を完全に『不変』にすることだ。一定の価値観を持った時代。文明がそこから一切変化しなくなれば、手法を変える必要もなくなる。一つの手法を永遠に反復できる。そんな方法は現実的には無かった、筈だった。

 

 俺はやり方を教えて貰った。

 それがサイキック・アーキアだ。

 あれはただの、意志や記憶を捕食する虫ではない。それらを蓄積し、保全するという役目を持った生物だ。

 

 あの虫は太古からの記憶を持っている。地上からは消え、絶滅してしまったあらゆる生物の記憶を持っている。当然現人類の記憶も保全されている。もっとも、望んでそういった生態を得たのではない。声帯虫と同じく、生存戦略として得た在り方だ。

 

 そこで俺は考えた。

 ある特定の記憶を持ち、それを共有するアーキアがいたとする。そいつを寄生させれば、宿主も同じ記憶を得る。これを大量に行えば、無意識レベルで同じ価値観を持つ存在が無制限に生み出せる。

 

 生まれ持った記憶を消すことはできない。その存在は一生、寄生された記憶に基づいて生き続ける。後からどれだけ文化を知り、別の価値観を得ても、本質は変わらない。ましてや人間以外の記憶を元にしたのなら。

 

 もう察しただろう? それが、『艦娘』だ。

 

 ただし俺は、人類滅亡を目的してはいない。あくまで艦娘は、人類の味方で有り続ける。そうでなければ意味がないからだ。

 

 まずは、艦娘と深海凄艦による戦争を発生させ、それを徹底的に肥大化させていく。

 これに伴って、艦娘と深海凄艦を基盤とした戦争経済が生まれていく。それに連動して、彼女たちを中心にした文化が形成されていく。ここまでは、愛国者達が戦争経済により世界を一つにしたのと同じだ。

 

 艦娘も深海凄艦も、大本はWW2の存在だ。そこから生まれるあらゆるものは、WW2の産物でもある。戦争をすればする程、世界にこのミームが氾濫していくことになる。

 

 興味を持つだけでも同じだ。艦娘を知らなければ、かつての海戦を知ろうともしなかっただろう、軍艦の種別さえ分からなかっただろう。既に終わった世界大戦の模倣的感染(ミメーシス)を起こすことが、まず重要だった。

 

 WW2の文化を基盤にしたのは、それが制御するに都合が良かったからだ。

 大半の大国はあの戦争を経験している。同じ経験を共有する存在同士は近くなりやすく、その分同じやり方が通じ易くなる。

 

 逆に経験していないような国家は排斥することができる。ヴァイパーが言っていただろう? 深海凄艦も艦娘も、WW2以外の歴史を持つ国家を、滅ぼす為にあるって。そういう意味だ。あの戦争を経験していない国家は艦娘を建造できず、滅ぼされるしかない。

 

 海戦ばかりをモデルにしたのは、アーキアにとって都合が良かったからだ。アーキアは基本的に光の届かない深海に棲んでいる。それに、()()()に近い環境の方が、記憶の保全状態が良かったからなのもある。

 

 やがて戦争が激化するに連れ、戦争経済ができる、戦争文化が生まれる。多数派が生き残り少数派は消える。それだけなら、以前と変わらない。だけどそこを変えるために、艦娘たちが必要だった。

 

 今もそうだが、艦娘の個体数は増え続けている。戦争を維持するには仕方のないことだ。まあ、そう仕向けたのは俺だが。

 彼女達は解体され、人間社会に溶け込んでいく。この時もやはり、WW2を基盤にした模倣的感染が起きる。

 

 彼女達が意識しようがしまいが、そこにいる限り、戦争文化に感染する触媒になる。艦娘たちは、この為のモニュメントでもある。個体数が更に増えれば、社会体系も彼女たちに合わせた形に変化していく。

 

 既にあるだろう、艦娘の小説やアニメ、フィクションに二次創作。

 そういった文化がどんどん増え、やがて圧倒的な()()()に変化する。これがただの物語ならそうはならないが、あいにく彼女たちの戦争は現実だ。経済にも密接に繋がっている以上、誰も無視することはできない。

 

 その物語を嫌っても問題はない。重要なのは済み分けと、それを話題にすることだ。

 俺たちにとって『艦娘』とは何だっていい。アーキアによって作られていても、人間をベースにしていても、降臨した付喪神であっても。

 

 いずれ世界のあらゆる要素は、過去の記憶、WW2を中心に形成される。

 ここから先へ変化することは、戦争に依存した経済が許さない。深海凄艦という猛威がいる以上、平和がそれを許さない。

 

 よしんば他の文化が芽生えても、戦争経済と言う多数派には無視される。少数派だって、デジタル空間で居心地の良い空間を用意してやれば満足する。俺達が用意しなくても勝手に創る。マイリスト、掲示板、お気に入り──それらは、その為にある。

 

 世界は、永遠にWW2の文化を反復し続けることになる。変化が起きない以上、愛国者達が存在し続け、統率に腐心する必要はない。愛国者達がいなくとも──世界は一つになる。俺が死んでも、一切状況は変わらなくなる。

 

 世界の規範そのものに、愛国者達の『意志』を残すこと。それが俺の目的なのだ。

 

 だが、変化の可能性はゼロではない。

 艦娘の方だ。永遠に終わらず、変化を見せない戦いを続けることは、当事者である彼女たちに多大なストレスを齎す。そこに不満を抱くあまり、反旗を翻す可能性もある。

 

 中枢棲姫が望むような、新人類になられては困るのだ。

 だから幾つかの保険を用意した。一つは『提督』だ。彼女たちが艦娘である間は、提督無しでその力を行使できなくした。

 いや、そもそもからして()()()()()()にいる存在、人間なしではアイデンティティを維持できないかもしれない。

 

 つまり、人類が、その遺伝子が、その模倣子が死滅した場合、艦娘も連動して滅亡する訳だ。様々な意味合いでな。中枢棲姫が望むような未来は決してやってこない。全てを滅亡させても良いなら、話は別だが。

 

 それでも絶滅までの間、人の意志は一つになる。いずれにしても人類は絶滅するのだ。避けようのない未来を俺は知った。

 だから絶滅を目前にしても、人との繋がり(ストランド)が失われない世界が要る。世界が分断されず、一つのまま絶滅を迎えるのだ。それでも俺の目的は達成される。

 

 深海凄艦はそのシミュレータも兼ねていた。過去の、絶滅した記憶から座礁する怪物。それらにより繋がりを断たれても、尚人類意志を繋ぎ続けるための、運が良ければ絶滅を乗り越えるための──これは余談だがな。

 

 話を戻そう。

 艦娘たちは人間に依存する。その上で、艦娘側の意志統一も必要だった。

 人間は艦娘によって統一するが、肝心の彼女たちがバラバラでは意味がない。一つの目的、一つの在り方を全員が目指す必要がある。

 

 その為の手法は、既に確立されていた。

 我々の世界でS3と呼ばれていた技術だ。あの戦いを通じて、雷電はスネークという英雄に感染した。戦場で戦うための理由──物語を得たんだ。彼のようになりたい、彼に近づきたい、そういった憧れが、命を賭ける理由になる。

 

 この世界で英雄談を記述するためには、英雄と、敵が必要だった。

 それがシェル・スネーク、君であり、それが中枢棲姫、君だった。

 スネークの戦いが、かつての世界の戦いを模していたのは、未熟な君をデンセツのエイユウにする必要があったからだ。

 

 実際、影響を受けた連中はいただろう? 

 青葉、神通、雪風、サラトガ、ガングート──彼女たちもまた、既にエイユウだ。シェル・スネークという英雄の因子に感染したのだ。

 

 既に、艦娘の戦いは広い話題として広まっていた。その下地を創ったのは他ならぬ中枢棲姫、君だ。君が戦争を激化してくれたお蔭で、世論も、話題に成りやすいのも戦争の話になってくれた。

 

 そしてスネークは困難を乗り越え、ここまで辿り着いた。

 後は、どちらに転ぼうが構わない。スネークが勝てばよりエイユウの立場は強固になる。敗北しても、君の意志を継ごうと息巻くだろう。

 

 艦娘によって、君は勝手に捉えられる。人類を救おうとしたエイユウ、深海凄艦にも味方した中立者、自由を求めた人間。どれでも構わない。君の物語は、永遠に戦争をする彼女たちの強い支えとなる。そして誰もが、『スネーク』になる。

 

 世界は艦娘を中心に回り出す。そこから先に進むことはない。艦娘たちは永遠に自己満足の戦いをすればいい。深海凄艦たちは本能の赴くまま戦い続ければ良い。そして人間は、その円環に寄生し続ければ良い。

 

 繰り返し言うが、艦娘は過去の存在だ。

 彼女達を中心にした文化も、また過去の産物。既に一度語られたことを、また語り直しているだけ。そこには何の意味もない。徹底的に煮詰まった話題を、性懲りもなくまたやっているだけに過ぎない。

 

 屍者が語る言葉、屍者の物語。それにより意志を統一すること。

 ゴースト・バベルを建築することが、俺の目的だった。永遠に崩壊せず、人を過去へ拘束する塔。

 

 スネークの別名であるシトウ棲姫は『屍統』ではない。『屍塔』でもあり、屍者を制御する『屍倒』でもある。彼女の物語は天蓋となって、艦娘の戦争を制御するだろう。そのバベルに人々は経済や戦争、物語を求めて群がるだろう。

 

 同じことを繰り返すだけ。同じ戦争、同じ経済、同じ文化を、永遠に反復する。深海凄艦という脅威と経済活動がそれを外から、確固足るものにする。内側からは、艦娘の在り方が補強する。彼女たちはそう簡単に、戦争から抜け出せないのだから。

 

 意味はあると言うか? 

 なら、なぜかつての海戦は語り継がれなかった? 意味があるのなら、正確に伝えられてきた筈だろう? 何故なら淘汰されたからだ。それが未来に不要だったから伝えられなかった。君達の戦いは、もう語る必要がないと歴史が証明している。そんな話を反復して、意味があると言うのか? 

 

 だが、われわれの理想はまさにそれだ。

 意味のない話を煮詰めてくれ。語りつくしたことを更に語ってくれ。そうすれば更に、世界は『過去』を以って一つになる。

 

 好きなようにするがいい。われわれは人間を信じている。戦争経済から抜け出せない未来も、意味のないミームを複製する行為も、きっとやってくれる。

 

 だって、君達はそれで満足するんだろう? 

 好みの艦娘を選び、過去の艦を、その史実を好きに成ってくれ。艦を元に解釈を作り、物語を描いてくれ。誰かの書いた物語を好きなように集めていってくれ。好きなように、『艦隊これくしょん』を楽しんでくれ。

 

 物語は完成した。俺はもういない。

 滅ぼす対象がもういない以上、この計画を終わらせることは誰にもできない。生きていない存在は、終わらすこともできないのだから。

 

 ありがとうスネーク、ありがとう中枢棲姫。愛しいわれわれの人形たちよ、最後は好きなようにすると良い。

 レールガンは──チャンスとして残してやった。

 英雄談の最後に、現実味を与えるために。

 頑張ってくれ。ザ・ボスの望んだ世界は、完成した。

 

 

 *

 

 

 無線は終わった。

 正確には無線ではなく、メッセージデータだった。長い時間が経った感覚だが、実際には数秒も経っていない。

 

 スネークは立っていられなかった。莫大な情報を送られたからではない。愕然として、とても冷静ではいられなかった。

 

 全て終わっていたのだ。もう、既に。

 危惧していたことが現実になってしまった。だが、まさか、殺されることが最終目的だと、誰が予想できるのか。

 

 生きている内なら、内部に侵入して操作するとかして、計画を変えれたかもしれない。だがもう駄目だ。J.F.Kは崩壊してしまったのだ。愕然としているのはスネークだけではない、中枢棲姫も同じだ。

 

「……私は、誰だったんだ」

 

 もはや、敵意を抱くことは難しかった。

 中枢棲姫はJ.Dではない。それどころか、愛国者達でさえなかった。ピースウォーカーAIを素体に、都合の良い記憶で制御された使い捨ての人形だったのだ。

 

 艦娘と深海凄艦を生む為。J.F.Kにとどめを刺す為。戦争経済の下地を作り、私を創造し、英雄談の最後の敵として語られる為だけの人形。それが中枢棲姫だった。

 

「どうする?」

 

 この戦いに意味はあるのだろうか。無論責任は取らせる。人形だろうが何だろうが、こいつのやったことは大量虐殺なのだ。だが殺す必要はないのでは。最初からそう思っていた。しかし、フラフラとおぼつかない足取りで、中枢棲姫は立ち上がる。

 

「どうする? 何をだ?」

 

「まだ戦うのかと、聞いている」

 

「当たり前だろう、お前こそ何を言っている。レールガンの打ち上げさえ成功すれば、まだ方法はある」

 

 やはり、そうか。

 何となく察しがついていた。中枢棲姫はいわば()()()()だ。和解という展開は存在しない。最後まで殺し合うのが、愛国者達の記述した物語だ。勝敗は関係ない。この戦いを以って物語は完成する。

 

「……世界は知らない。レールガンはこの世界に一つしかないことを。新型核を使用できるのは、ヘイブンから強奪した一品だけだと」

 

 艦娘にも効く新型核は、その特性上艦娘や深海凄艦しか使用できない。もしレールガンを用いたいのなら、艦娘の艤装としてのレールガンが必要になる。当然、そんなものを搭載した艦娘は、私を除いて存在しない。

 

 しかし、そんな事実を知っているのは私たちだけだ。深海凄艦は核を撃てる、衛星軌道上から一方的な攻撃も可能である。広まるのはその『憶測』しかない。私たちがどれだけ真実を訴えても、伝えるのは困難極まる。

 

「使う気か、レールガンを」

 

「いずれにしても、意味はあるまい。愛国者達に支配され、もう変えられない世界なら、いっそ完全に打ち壊した方が世のためだ」

 

「やはり、そうなってしまうか」

 

 愛国者達の望んだ展開になってしまうのは、もはやどうしようもない。

 偽りの平和だと理解していても、平和は平和だ。スネークにも既に、死んで欲しくない人がいる。戦わないという選択肢を、許すことはできなかった。

 

 川内に託されたブレードを、腰から抜き取る。P90の残弾はもう残っていない。爆雷も機銃もナイフも、全て使い切った。艦娘の力も使い切った私には、これが最後の武器になる。それでも十分だと思った。

 

 対する中枢棲姫は、何も持っていない。

 だが、深海凄艦としての肉体そのものが大きな武器になる。切り札を打ちこんでから時間が経った。力は少しずつ戻って来ているだろう。基地型としての圧倒的なパワーが戻り切る前に倒さなければならない。

 

「ミサイルが発射されるまで、後3分。私が自由を得るために、スネークよ、どうか死んでくれ!」

 

 タラップが大きく揺れる。ミサイルの発射が最終段階へ入った。中枢棲姫はそれと同時に、強く踏み込んできた。

 気づけば拳が、側頭部に迫っていた。

 知覚できない速さ。やはりだが、力がある程度回復している。外部に影響できる程じゃないが、念動力が復活している。

 

 その場に屈み、振るわれた拳を回避する。拳を振るったのだから、中枢棲姫は目の前にいる。スネークはブレードを構え、腹を貫こうと鋭い突きを放つ。だが中枢棲姫は素早く反応し、指先だけでブレードの先端を掴み、抑え込んだ。

 

「どうした、さっきよりも弱くなっているぞ!」

 

 抑えた方とは反対の手を、手刀のように振るう。狙いはブレードの側面、圧し折る気だ。

 今のスネークの力は人間より少し強い程度。武器を失えば勝ち目は大幅に下がる。絶対に失ってはならない。

 

 スネークは体を大きく捻り、ブレードを回転させ指先から抜き取る。その時、中枢棲姫の手刀が頬を掠めた。耳元で風切り音がする。一気に血が飛び散る。艦娘だったから忘れかけていた。人と深海凄艦には、ここまでの差があったことを。

 

「そのブレードさえ破壊すれば、私の勝ちは揺るがない」

 

「哀れな奴だ、誰にも勝てなかった癖に」

 

「いいや、生きている限りチャンスはある。何年でも、年十年でも機会を待ち続けてやる。またやり直すのだ!」

 

 これが、G.Wのような無機質なAIだったら、わたしはどう思っていただろう。ピースウォーカーAIから作ったのなら、この人間臭さも納得できる。しかし人間性は、ザ・ボスの再現とはほど遠い。まるで『スネーク』が持つ、負の模倣子(ミーム)を掻き集めたような感覚だ。

 

 故に、私と奴は戦わなくてはならないのだろう。

 最後はスネーク同士の戦いになる。いつだって同じだ。同族嫌悪ともまた違う。純粋に、どちらが生き残るのか、どちらが継承するのか──物語はそうやって円環を紡ぐ。

 

 中枢棲姫のミームを残してはならない。

 忘却の彼岸へ追いやらなくてはならない。愛国者達の望んだ展開だろうと関係ない。私はその任務を自らに課したのだ。一度やると決めたらやり抜くと。

 

 これが、本当に最後の任務になる。スネークは今一度、ブレードを中枢棲姫へ向けた。

 

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