【完結】アーセナルギアは思考する   作:鹿狼

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File8 CO-OPS

 運命の軛とは何だ、アーセナルに向かって青葉は答える。

 それは、史実通りの運命を護ろうとする力だと。アーセナルは反射的に考える、何故そんなものを護らなくてはならない。

 

 だが、青葉は更に続ける。

 だからアーセナルギアは、英雄として称えられるのだ。

運命を捻じ曲げ、容易く粉砕し、艦娘の未来を切り開く。故に彼女はレイテの英雄になったのだと。

 

 ならば、この海域は何だ。

 コロンバンガラ島に展開された敵兵力と、それを支える前線基地。時刻は夜間2時へ入りつつあり、光を消した拠点はジャングルに隠れている。その中央に潜む白鯨は、何の再現なのか。

 

 

 

 

―― File8 CO-OPS ――

 

 

 

 

 夜間の闇に紛れて、アーセナルと青葉はコロンバンガラ島に設置された敵拠点に侵入した。前回と同じく、G.Wが搭載されたメイン艤装は、近海海底に沈めてある。いざという時は、海底からミサイル群やメタルギア・レイでの支援を要請する。

 

「古鷹たちは大丈夫でしょうか」

 

「いざという時はミサイルやレイを飛ばすことにしている」

 

 あの拠点とコロンバンガラはそんなに離れてはいない、敵艦隊を発見してからでも、ミサイルは十分間に合う。圧倒的な速度と射程距離こそ、ミサイルの強みだ。

 

〈そのコロンバンガラ島拠点は、いわば中継基地だ。ソロモン諸島に展開する部隊や、ヘンダーソン飛行場。それらへ供給する物資拠点であり、物資を振り分ける港でもある。ソロモン諸島の兵站を支える基地だ、警備は比較にならないぞ、見つかれば終わりだ〉

 

 更にヘンダーソンほどの規模ではないが、ベラ飛行場も存在している。物陰から顔を出す。暗闇でも尚、ひしひしと伝わる張り詰めた空気が、警備の多さを物語っていた。

 

〈念のためレイを二機だけ先行させ、待機させてある。しかしメタルギアとは言え数的には不利だ。分かっているだろうが、見つかるなよ〉

 

 ここからは、下手な会話も危険だ。

 アーセナルは青葉にアイコンタクトを送る、潜入技術は、アーセナルの方が上だ。彼女が先行し、P90を持った青葉が続く。

 

 この基地の構造は、例のデータベースからG.Wが見つけている。基地同士でネットワークを構成していたので、そこから逆探知したのだ。

 

 アーセナルの瞼に、立体的な映像――ソリッドビジョンとなった基地情報が浮かび上がる。ベラ飛行場に隣接する場所に、巨大な建造物がある。そこから海に直接、船一隻が十分入れる水路がある。白鯨も深海凄艦だ、ここが白鯨の保存庫に違いない。

 

 青葉とアーセナルは、順調に基地を抜けていく。人員が多い分警備が厳しいかと思ったが、案外そうでもない。白鯨の整備に気をとられているのか、何処か集中力を欠いている。もしくは緊張し過ぎている。その合間を練れば、見つからないのは簡単だった。

 

 順調に足を進めていき、二人は苦も無く白鯨の保存庫に侵入した。

 しかし、ここに来て二人は困難に直面する。

兵器格納庫への入り口は、一か所しかなかったのだ。

扉の前には敵兵がいる。発見されるのは避けられない。

監視カメラがG.Wが誤魔化しくれるが、あれは二人で始末するしかない。

 

 さて、どうする。

 P90で脳天を撃ち殺すのは簡単だ、だが銃を使えば音が反響して、建物内の深海凄艦に聞こえてしまう。高周波ブレードで首を落とすか、締め上げるか。どちらにせよ接近しなくては。

 

〈青葉、敵兵が二人――いや二隻いる〉

 

〈ど、どうするんですか?〉

 

〈誘き寄せて一隻、その後お前はもう一隻の注意を引け、一瞬で良い〉

 

 青葉は少し戸惑ったような顔を浮かべた、素人故に不安なのだ。気持ちは分かるが、選択肢は最初からない。彼女も分かっている、すぐに覚悟を決め、P90を強く握りしめる。しかし体中の筋肉が力んでいる。

 

〈実はな、お前をバックアップにしたのは理由がある〉

 

〈え?〉

 

〈私も潜入の素人なんだ、正直に言うと、今も油断すると膝が笑いそうになる〉

 

〈冗談ですよね?〉

 

 青葉が絶望した顔を浮かべた、しかし冗談などではない本心でもあった。

 確かにアーセナルギアの搭乗員、その記憶からスニーキングの知識はある。だが実際に経験したのは、まだ一回だけ。VRの経験すらない。不安で不安で仕方がない。

 

〈だから、誰でもいいから誰かいて欲しかったんだ〉

 

〈アーセナル……〉

 

〈ピンチになった時、盾にできるからな〉

 

 青葉が絶望した表情を浮かべた、これは半分くらい冗談だった。どれほど孤高を好んでも不安は感じる、群れを組めば不安は和らぐ。人間として生きているアーセナルにも、人間らしい集団心理は合った。

 

 そして人の心理は、冗談一つで和らいだりもする。青葉の筋肉はほぐれていた。

 緊張のほどけた青葉を見て、アーセナルはポケットをまさぐる。取り出したのは本来メイン艤装に装備されている筈のミサイル、その弾頭だった。

 

 ミサイルを通路に向けて転がすと、敵兵が興味を持った。

 WW2の記憶から生まれたという深海凄艦。知識のない彼女たちでは、この塊が何なのか遠目には分からない。危険かどうか、艤装を展開しながら歩み寄っていく。

 

 瞬間、通路の陰からアーセナルが跳ねた。

 全身の筋肉をバネのように飛ばし、勢いのままひじ打ちを深海凄艦の側頭部に食らわせる。何が起きたのかも分からなかったに違いない、深海凄艦はそのまましめやかに、壁に叩き付けられた。

 

 異常に気づいた深海凄艦が、即座に艤装を構える。だが同時に青葉が飛び出し、P90を構えた。

 

 勿論こんなもの、艤装を展開した深海凄艦には効かない。人と同じ大きさでも、実態は巨大な艦艇だ。だが一瞬しか見ていない彼女には、それが単なるサブマシンガンか艤装の武器か判断できなかった。

 

 その隙に、アーセナルは気絶した深海凄艦を投げ飛ばした。

 主砲を撃とうとする、轟音が鳴る。増援が集まる――それは防がないといけない。砲撃するよりも早く、アーセナルは高周波ブレードを深海凄艦の足元に滑り込ませ、片足の筋を両断した。

 

 血しぶきが上がり、バランスが崩れる。立ち上がったアーセナルは深海凄艦の首元を掴み、艦艇一隻分の体重を利用、柔道の動きで投げ飛ばす。それは柔道ではなく、CQCと呼ばれる格闘術でもあった。

 

 二隻を排除して振り返ると、青葉がホッとした顔を浮かべている。

 アーセナルはその反応を好ましく感じた。

 共に命を張ったからだ。共同意識が芽生えているのだ。人の意識は言葉だけではない、行動でも伝染するのだ。

 ついでに冗談が言えた自分に驚きつつ、アーセナルは格納庫への扉を破った。

 

 

 

 

 長い通路だ、そう青葉は思った。

 格納庫は複雑な通路が何重にも包まって構成されていた。敵兵はあまりいないが、少し時間がかかるらしい。何回も曲がり角があり、その度に敵兵が飛び出て来ないかヒヤヒヤする。だが、アーセナル(英雄)がいるだけで、その心配は少し落ち着く。

 

 運命の軛を覆す彼女と一緒に戦える、それだけで自分も運命を覆せる気がしてくる。今回は自分のではなく、神通の運命だ。このコロンバンガラ島にあるベラ湾こそ、彼女が最後を迎えた場所なのだ。

 

〈青葉、聞こえてるか?〉

 

〈加古? どうかしたんですか?〉

 

〈青葉の艤装が治ってさ、それの報告ってわけ〉

 

〈本当ですか?〉

 

〈だから今から、神通姉ちゃんを入渠させる。時間はかかると思うけど、これでやっと怪我が治せるよ〉

 

〈それはもう、本当に良かったです〉

 

 だが青葉の顔は、どこか後ろめたさを伴っていた。

 心臓の奥底から冷たい水が湧き出て、血流に乗り全身へと巡る。指先まで冷えていき、血を巡らせた心臓自身が息苦しくなるような。

 

〈でも神通姉ちゃん、辛そうだった〉

 

〈何故だ?〉

 

 不思議そうにアーセナルが尋ねた。

 

〈何もできないで見てるのは、やっぱり辛いんじゃないかな〉

 

 更に青葉の胸が抉れていく。

 何もできず、仲間が沈むのを見送るだけ。身に覚えがあるどころではない、何度も何度も味わったあの無力感が体中から、蛆のように這い出てくる。

 

〈誰だって同じ状況なら辛いですよ、でも今は神通さんには我慢して貰わないと〉

 

〈……やっぱそういうもんなのかね〉

 

 今度は、加古の言葉が詰まりそうだった。青葉はしまったと後悔する、加古はともかく、私はあの時を知っているのに。

 

〈あたしは第六戦隊で真っ先に沈んじゃったから、分かんないんだ、そういう気持ちが。きっと神通姉ちゃんも同じだよ。二水戦のあいつら残して真っ先に沈んじゃって〉

 

〈言わないで下さい、もう良いんです、青葉も加古も此処にいるじゃないですか〉

 

〈そうだけどさ、でも思い出しちゃうんだよ。青葉の感じた寂しさなんかとは比較にならないと思うけど、あたしも寂しかった。三人いっぺんに亡くしたようなもんだから。目と鼻の先に墓場があっちゃ余計にね〉

 

〈青葉は、神通さんが出れなくて良かったと思ってます。此処(コロンバンガラ)に来なければ、運命に巻き込まれないで済むから〉

 

〈ごめん青葉、変なこと言っちゃって〉

 

 何故だ、何故謝る?

 原因は私にある、加古がこんな後ろめたい話をせざるを得なかったのも、トラウマを抉ったから。そのトラウマの根本的原因も、私が潜水艦を見逃したから。他のも原因はあるが、青葉はそう頑なに信じていた。

 

〈言ったらなんだか、少しだけスッキリしたよ。ありがとう青葉〉

 

〈お願いですから、神通さんが出ないように注意して下さいね〉

 

 見ているしかできないのは、相当辛い。

 だがそれが原因で、史実通りの最後を辿ったら、それこそ一巻の終わりだ。

 彼女を此処に来させてはいけない。その為には白鯨を破壊しないといけないのだ。

 白鯨の鎮座するドッグは、もう目の前に迫っていた。

 

 

 

 

 重厚な扉を二人掛かりで開けると、油と鉄の入り混じった臭いが噴き出す。海水の臭いも混じっていた、そして機械を扱う場所故の、充満した熱気。顔を手で保護しながら、青葉とアーセナルは格納庫の中へ入り込む。

 

 似たような通路をぐるぐる回っていたせいもあるが、格納庫の天井は異常に高く見えた。深海凄艦ではなく、本物の艦艇を建造できそうな大きさだ。白鯨とはそこまで巨大なのだろうか、だがサイズのアドバンテージを無くした深海凄艦とは強いのか?

 

 敵兵はほとんどいなかったが、念のため壁に張り巡らされたハンガーに隠れる。腰を落としながら、三階で構成されたハンガーを昇る。中央は丸見えだ、だから白鯨が見えてなければならない。歩きながら、中央を何度も見返す。実は小さくて、見逃しているだけに違いない。

 

 しかし、一階を一周し二階に上がっても、白鯨の姿は見えなかった。

 白鯨が鎮座していたであろう、海へと続く玉座は、空っぽに悠々と波しぶきを浮かべている。何もない、証拠さえ。

 

「遅かったか」

 

 冷静そうに言うアーセナルも、悔しそうに歯を食い縛っていた。

 

「だがまだそう遠くへは行っていまい、G.W、探せ、衛星もレイも何を使ってでも良い」

 

〈分かった、すぐに――探――を――――〉

 

 返事をしているのだろうか、無線機から聞こえるG.Wの声はノイズ塗れで聞こえない。アーセナルのオーバーテクノロジーに、無理矢理合わせたツケが来たのかもしれない。二人は指示が届いたと信じ、仕方なく情報でもないか探そうとする。

 

「無駄ヨ、白鯨ハモウ遠クヘ行ッテシマッタワ」

 

 尊大な声が、上から聞こえてきた。

 誰かに日ごろから命令をする、リーダー、もしくは権力者の声だ。此処は深海凄艦の基地、権力者でもあり、力で全てを支配できるリーダーでもある。当てはめるなら、『姫』と呼ぶべき存在だ。

 

 だが、三階に立っていたのは空母棲姫ではない。

 

 空母棲姫は黒いガントレットやブーツを履いていたが、髪の毛などは白かった。しかし上から見下ろす姫は、髪も、ドレスのような服も黒。背中に従者のように佇む獣のような艤装も黒。さながら美女と野獣(ビューティ&ビースト)だ。

 まさか、と青葉は叫ぶ。

 

戦艦棲姫(せんかんせいき)!?」

 

 姫級の中にも艦種はある、戦艦クラスの姫は恐ろしいまでの脅威であり、それ故に姫の中でも特に有名な個体だった。

 

「空母棲姫が言っていた時は信じられなかったけど、本当に会えるなんて、嬉しいわ」

 

「お前があいつの言っていた仲間か」

 

「エエ、とはいっても一時的な関係だけど」

 

 最悪だ、青葉は絶望していた。

 姫一隻でも圧倒的なのに、二隻目までいたとは。果たしてどうすればこの状況を切り抜けられるのか。震える青葉を見て、戦艦棲姫がほほ笑んだ。

 

「そんなに怖がらなくてもいいじゃない、貴女はまだ沈まないもの」

 

「何のことでしょうか」

 

「フフフ、()()()()よ。知っているでしょ?」

 

 戦艦棲姫は青葉を見降ろしながら嘲笑っていた、無知な子供に同情するような笑いだ。実際青葉は童のように、どうしてこいつの口から運命の軛が出たのか、分からず混乱していた。情報的な意味でも、敵は優位に立っていると感じる。

 

「あれは噂に過ぎません!」

 

「ええそうよ、それが真実。でも噂の力も馬鹿にならないって、青葉や貴女は理解しているんじゃないの?」

 

 情報が力なら、噂も力だ。

 より多くを知る者が他者を支配できるのは、与える情報を制御できるからだ。嘘でも構わない、情報を制御されているから、嘘か確かめる手段さえない。限られた情報で可能な行動は、予測可能な範疇に納まる。

 

 噂も、嘘か確かめられないという点では同じだ。

 絶対王政が神から与えられたのか確かめられないように、正当な血を継いでいるか確かめられないように。権力者はその嘘を、噂として流し、多くの人に信じさせ『真実』とした。    

 同じことをする戦艦棲姫に抵抗するには、自分の信じる真実を翳すしかない。目つきを鋭くし、青葉はP90を構える。アーセナルも既に抜刀していた。

 

「青葉たちは敵同士です、それは間違いありません」

 

「敵? 誰が敵と決めたの? それは運命とやら? 私たちの存在が何なのかも知らずに、敵と決めつけるの?」

 

「神通さんを痛めつけておいて、何を今更!」

 

 もう一つ真実があった、こいつらは神通を拷問して痛めつけている。

 そのくせ笑いながら敵じゃないと言い張るなんて、認められない。許し難い、これは噂ではない、目の前で見た真実だ。

 

()()()()()から聞いたことでしょ?」

 

 確かにそうだが、だが彼女は信頼できる、嘘など――いや待て、今戦艦棲姫は()()()()()と言ったのか?

 思わず横の彼女を見ると、アーセナルは信じられない現実に直面し、脂汗を垂れ流していた。

 

「何故、私の名前を、知っている」

 

 アーセナルは深海凄艦の前で、一言も艦名を話していない。

 

「盗聴はされていたんじゃ」

 

「いや、そんな気配は探知できなかった」

 

「サアテ、ドウナノカシラ」

 

 この状況が楽しくて仕方がないらしい。

 戦艦棲姫は微笑みながら、ハンガーの通路を優雅に歩く。均等な足音がテンポを刻み、張り詰めた空気が弦となって鳴らされる。弾ける緊迫、聞きなれない音楽に、気分が悪くなる。

 

「そもそもが傲慢よね、運命を覆そうだなんて。もう起きてしまった過去を歪めて、望む形に捻じ曲げる。そう考えると、悪いのはむしろ貴女たちじゃないかしら? 貴女はどう思う、アーセナル?」

 

「そんなことを聞いてどうする」

 

「だって、ナイジャナイ、貴女ニハ過去ガ」

 

 どういう意味だ? 比喩なのか?

 艦である以上、建造された経緯がある。設計図として書かれた過去がある。全く過去を持たずにできる艦が、いや生物が存在する筈が無い。

 

「何を言っている」

 

 アーセナルの脂汗は止まっていた。

 それどころか血の色が引っ込み、死体のように真っ白な仮面を張り付けて固まっていた。初めて見るアーセナルに、英雄らしい尊大さはない。むしろトラウマに怯える青葉と同じ震え方が、根底に見えた。

 

「S3、だったかしら?」

 

「ッ!!」

 

「正解かしら、だとすると流石に……哀れだわ。全部が全部偽物でできた艦――まさにビッグ・シェルね」

 

「貴様、いったい何者だ!」

 

「教えて欲しいなら、素直に捕まりなさい。貴女は助けてあげる」

 

 戦艦棲姫がハンガーの上から手を伸ばす。離れていても届きそうな距離だと錯覚する程に、近く見える。彼女の顔もまた、眼前にある。

 

「いやいい、お前たちが全員死ねば済む話だ」

 

「いいえ、ここで死ぬのは貴女でも私でもない。神通よ。運命の軛によればそうあるわ」

 

「奴は基地に残っている、ありえない」

 

「……S3を知る貴女なら、運命の軛の意味が分かるでしょう?」

 

 二人の会話に耳を貸さず、青葉は無線機で神通を呼び出そうとした。

 

 だが、無線は繋がらなかった。

 

「どうした、G.W! 応答しろ!」

 

 アーセナルも同じく、繋がらなかった。

 戦艦棲姫は何をした。神通たちの身に何が起きている。青葉はこの状況全てを放棄すると決め、走り出した。

 

「青葉!?」

 

「ごめんなさいアーセナル、見てきます!」

 

 青葉は走り出した、白鯨がいたであろうドッグに向かって。

 海に繋がる通路から、白鯨の破壊のためギリギリまで海中で待機していたレイが浮上する。行きと同じく、青葉はレイにしがみ付き、海へと漕ぎ出した。道中会敵したらとかそういったものは、全く考えていなかった。

 

 要る筈が無い、来ている訳がない。

 一筋の祈りを乗せて、一機のレイが動きはじめる。アーセナルが仕方なく気を回してくれたのだ、感謝の言葉を叫ぼうとして、止めた。

 代わりに響いていたのは、戦艦棲姫の止まらない笑い声だった。




 川内型軽巡洋艦 二番艦 『神通』(艦隊これくしょん)
 1923年12月8日進水、25年7月31日就役。「神通こそ太平洋戦争中、最も激しく戦った日本軍艦である」と言われ、日本海軍最強の水雷戦隊、『華の二水戦』旗艦をもっとも長く務めた武功艦。その艦娘としての姿である。尚二水戦の役目は、敵艦隊に真っ先に突撃し、直接漸減を行うことである。
 この個体もその例に漏れず、南方を拠点に水雷戦隊を率いていた。また同時に豊富な戦闘経験から、教導艦を務めることも多く、第六戦隊の指導も彼女が行っていた。元々建造で産まれる艦娘では、見た目と上下関係が一致しない方が多いのである。
 ただその指導は熾烈を極めており、さながら地獄よりも酷いと指導を受けた全員に思われている。しかしその評価をもっとも気にしているのは他ならぬ本人であり、度々姉妹艦に泣きつく姿が目撃されている(青葉新聞より引用)。

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