『私』の名前は、リアス・グレモリー。年齢は四歳だ。
だが本人ではなく、前世の記憶を持ったままこの肉体に憑依した…いわゆる転生者というやつである。
それに気づいたのは、サーゼクス、グレイフィア、ソーナ、セラフォルーという交流のある人物の名前、そして彼らが私を呼ぶ時のリアスという名前に(何か聞き覚えがあるなぁ)と思っていた時に前世の記憶と一緒に思い出したのである。
私は、元は人間であったこと。
ここが前世でも知っていたハイスクールⅮ×Ⅾの世界だということ。
私は、ヒロインの一人であるリアス・グレモリーとして……悪魔として生まれ変わったのだということ。
何故前世の記憶が戻ってきたのかは分からない。
思い出した時、私は実家の自分の部屋に籠ってこれからどうするかを考えた。
ハイスクールⅮ×Ⅾのことを思い出した私は、当然原作の流れや登場人物なども思い出している。
せっかく原作の知識があるのだから原作通りに生きればいいのではないかと思ったが、よくよく考えてみれば面倒くさいことこの上ない。
その理由の一つが、リアス・グレモリーの眷属である。
原作では、悪魔の駒というものを使って他種族を悪魔に転生させて眷属にするのだが、はっきり言って他人の面倒なんて見る気はないし、王と眷属という上下関係も鬱陶しいだけだ。
いつだって自由に生きたい私は、前世の記憶を思い出した時に眷属は作らないと決めた。
だが原作のリアス・グレモリーの眷属は、リアスの眷属になったことで救われたものがほとんどだ。しかも、その内の三人は一度は死んで眷属になったことで生き長らえている。さらに、その三人の内の一人は主人公である。
彼らの辛い過去や死んでしまうことを知っていながら放置するのはどうかと思うが、だからって眷属にしても逆に迷惑をかけてしまいそうで怖い。
私に愛想を尽かし、はぐれ悪魔にでもなって原作の黒歌のように追われる身になってしまうのは絶対に避けたいのだ。
二つ目の理由が、私は悪魔だということ。
悪魔という力を持った人外として生まれた以上、否が応でも力は必要になる。
原作でも主人公とヒロインの一人は、人間でありながら神器という特別な力を宿していたために堕天使に目をつけられて殺されてしまうのだ。
リアスも好きではない男と婚約させられそうになったり、三大勢力の戦争を再発させるために堕天使幹部に命を狙われる。
それ以前に悪魔社会は実力主義なため、自由に生きたいのならば、死にたくないのならば、力は絶対に必要なのだ。
もし、力をつけないままダラダラと過ごせば、二次創作で稀に見かけた『リアスアンチ』になりかねない。周囲の評価などどうでもいいが、無能姫や駄肉などと罵られるのは流石にくるものがある。
最後に余計なことを付け足してしまったが、私は考えに考え、そして答えを出した。
原作の眷属達を救うために、そして私の自由のために、先ずは力をつけよう。
♦
前世の記憶を思い出してから十数年経ち、あと数日で原作が始まる今日この頃。
原作通りに人間界の駒王学園に通い、高校三年生となった私は、駒王学園への通学路を歩く途中でため息を吐いてしまう。
その理由は、今の現状にある。
この十数年で、私は悪魔の基本知識は勿論のこと、身体能力や魔力は幼少の頃とは比べ物にならない程に上がった。
魔力は超越者と呼ばれており魔王でもある兄のサーゼクスや、最強の女王と呼ばれたグレイフィアに鍛えてもらったし、二人がいない時も幼馴染であるソーナと一緒に修行したり、独自で鍛えて前世の記憶を頼りに技を生み出したりもした。
身体能力は、リアス・グレモリーの母方のいとこであるサイラオーグに頼んだ。
原作では生まれつき悪魔の魔力がなかったために、そんなサイラオーグを産んだ母共々周囲から迫害を受けたが、それでも折れずに自分を鍛え、純粋な身体能力のみで若手悪魔のナンバーワンにまで上り詰めた強者。
そんな彼は、肉体を鍛える相手としてはうってつけと言えた。
何をしたかというと、彼がやっている筋力トレーニングを一緒にやらせてもらったり、魔力無しの殴り合いをしたのだ。
私は魔力の修行もしていたため、全ての期間を筋トレに捧げてきたサイラオーグには流石に劣るが、それでも魔力なしの戦いならサイラオーグ以外には負けないだろうと思えるほどには鍛えられたと思う。…………魔王にも勝てるのか?と聞かれれば無理と答えるだろうけど。
大変ではあったが、人間の頃にはなかった力を扱えることや、自分は確かに成長していると実感できるあの時間には興奮と高揚を覚えた。
おかげで原作の初期のリアス・グレモリーよりは強くなれたと思う。…………そこまで大きな差はないだろうけど。
次に原作のリアス・グレモリーの眷属達だが、現状誰も私の眷属にはなっていない。
つまり、私は未だ一人である。
だがそれで構わない。これこそが私の思い描いた現状なのだから。
先ずは主人公である兵藤一誠。
一誠が悪魔に転生するのは物語が始まった後なため、始まっていない今は転生していないのは当然ではあるが、例え原作通りに事が進んだとしても転生することはないだろう。
原作での一誠は、その身に宿している赤龍帝の篭手という神滅具を堕天使達に感づかれ、危険と判断した上の命令を受けた堕天使レイナーレに殺され、その場に召喚されたリアスによって悪魔として転生して蘇るのだ。
だが一誠を……というより誰も眷属にするつもりがなかった私は、まだ幼い頃に偶然を装って一誠に近づき、悪魔という人外だと正体をばらした上で何度か顔を合わせてそれなりに仲良くなった時、さも今気付いたかのように赤龍帝の篭手のことを話し、このままでは自分のような人外に命を狙われるだけでなく家族も危ないと言って危機感を与えた。
原作では変態ではあっても根はお人好しな一誠は、私が自分を狙っているのだと疑うことはなく、寧ろ自分を鍛えてくれと言ってきた。
当然私は了承し、長い時間を掛けて一緒に鍛えた結果、今の一誠は禁手化できるほどまでに成長したのだ。
レイナーレは下級……大げさに言っても中級程度だから、これで一誠が殺されることはないだろう。
同時に私が一誠を眷属にする必要もなくなったわけだ。
次に白音……原作では『塔城小猫』として、リアス・グレモリーの戦車として悪魔に転生して眷属となった彼女だが、彼女は原作でははぐれ悪魔となった姉である黒歌と幸せに暮らしている。
妹のために悪魔に転生した黒歌が妹のために主を殺してしまってはぐれ悪魔扱いされる前に手を打ったのだ。
具体的に言うと、兄に黒歌のことを聞いた時、黒歌の主にも問題があったのではないかと兄に抗議したのだ。
原作ではシスコンであったサーゼクスも妹である私の言葉に耳を傾け、黒歌の主のことを調査し、妹である白音には手を出さないという契約を破ったことが明らかになり、黒歌ははぐれ認定されずに済んだのだ。
主を殺したのは事実なために監視付ではあるが、白音と黒歌はある程度の自由を許されて保護された。
これで白音を眷属にする必要はなくなった。
兄に私のことを聞いていたのだろう。顔を合わせた時は、二人に泣きながら抱き着かれて礼を言われた。
その時は少しだけ嬉しくて、胸が暖かかった。
リアスの女王として転生するはずだった姫島朱乃だが、彼女は堕天使の勢力に属している。
原作で朱乃が悪魔に転生したのは、堕天使の血を継いでいる朱乃を快く思わない親族の襲撃によって母が殺され、堕天使である父だけでなく堕天使そのものを憎むようになり、家を飛び出して天涯孤独となったからだ。
その時私は思った。そもそも母親さえ殺されなければ朱乃が堕天使を憎むことはない=天涯孤独にはならず、リアスの女王として転生する必要もない。
そう考えた私は行動に移った。
ソーナと一緒に人間界に遊びに来ていた時、偶然を装って姫島家へ向かい、姫島親子を殺そうとする姫島の親族たちを私の手で倒したのだ。
かなり苦戦したが何とか撃退し、あの時は本気で鍛えてて良かったと思った。
おかげで朱乃の母親は殺されることはなく、今でも親子三人で暮らしている。
まぁ、堕天使の血を継いだことが原因で殺されかけたというのは事実なために、父親である堕天使のバラキエルと朱乃の距離感が微妙になっているらしいが、憎んでいるわけではないから特に問題はないだろう。………多分。
ついでにいえば、二人を助けた時にバラキエルだけでなくアザゼルとも対面することになってしまったが、原作でも悪い堕天使ではなかった、寧ろリアス達を成長させてくれたから特に問題もないだろう。………ないよね?
騎士として転生するはずの木場裕斗・本名イザイヤだが、彼は原作と比べてそこまで違いはない。
悪魔に転生してはいないが、グレモリー家に保護された後に、身寄りがないということで悪魔の援助を受けながら人間界で暮らしている。
兄達が悪魔らしくない悪魔でよかったと、この時は思った。
ちなみにだが一誠と面識があるらしく、時々一緒にいるところを見かける。
私も何度か声を掛けられたことがあり、その時の様子からして聖剣への憎悪も今は収まっているようだ。
原作ではリアスの僧侶でありハーフヴァンパイアであるギャスパー・ヴラディは、ヴァンパイアハンターに殺されてしまう前に私が保護し、最終的には一誠の元へ預けた。
原作でもギャスパーに対して親身になっていた一誠なら何とかしてくれると思ったからである。
一誠も、一誠の両親も、吸血鬼であることに驚きこそしたものの、快く了承してくれた。
一誠を鍛えるために何度も兵藤家に訪れていたが、その際にギャスパーとも顔を合わせていた。
どうやら神器を宿しているという共通点もあって、時間は掛かったものの、一誠に心を開いたようだった。
その際に、一誠を鍛えるついでにギャスパーの神器を制御する特訓もしたため、私もそれなりに仲良くなっていると思う。
最初は誰に対しても怯えていたギャスパーの笑顔を見ると、少しだけ微笑ましい気分になった。
余談だが、ギャスパーを紹介した時に一誠は『金髪美少女だヒャッホウ!』と喜んでいたのだが、女装した男の娘だということを伝えると、膝から崩れ落ちていた。一誠の両親は驚いた後に苦笑いしてたわ。
こうして、何時だって自分の好きに……自由に生きるつもりだった私は、誰も眷属にすることなく、一人で物語を迎える訳だ。
先に言っておくが、私は原作の眷属達と仲良くなりたかったわけではない。
あくまで彼らの不幸を知っていながら何もしないのは後悔しそうだったからであり、目的を果たした後は、付き合いも必要最低限にすると決めていた。
原作の知識があるとはいえ、前世の記憶を思い出した以上、どうしても彼らは他人としか思えなかったからである。
「おっはにゃん♪ リアス♪」
「おはようございます。リアス姉様」
後は私の知らないところで幸せに生きてくれればそれで良かった。
「うふふふ。おはよう リアス」
順調だった。全てがうまくいっていたのだ。
「おはようございます。リアスさん」
それなのに……
「お、おはようございますぅ。リアスお姉ちゃん」
「おう。おはよう リアス」
何で皆ここにいるの?
今作のリアスは、基本他者には無関心ですが、根はお人好しです。
感想をください。