えふえふヘブン 作:クライムハザード
悲劇は回避できたはずだった。
「眠い。すごく眠いよ」
ジェノヴァ計画の研究員の1人が、夜遅くまで作業をしていた。
新人類を作り出すための装置。
その調整に手間取っていた。
「ちょっとだけ。ちょっとだけ寝よう」
目の前の、快適な温度が保たれるように調整された空の装置。
研究員は服を脱いで装置の中へ入っていく。
「おやすみなさぃ……」
ウィィン、ガコン、プシュゥゥゥ……ヴヴヴヴヴ……ジョボジョボジョボジョボ。
「つべた?!」
頭上から青い液体が注ぎ込まれる。
眠気が一気に覚めた。
「え? なんで? ちょ、まずい、まずい、まずい!」
覗き窓のガラスを叩いて助けを叫ぶ研究員。
バシャバシャバシャ。
ふくらはぎまで溜まってきた。
「だれかー! うぉおお! だれかー!」
バシャバシャバシャ……。
お腹……鎖骨……唇。
とうとう、装置の中は液体で満たされてしまった。
「ごぼごぼごぼ……」
激しく暴れる研究員は、やがて動かなくなり、ゆらゆらと装置の中で漂うだけとなった。
◇ ◇ ◇
ジェーンにとって、リック=ヘルガーは頭の痛い後輩である。
根は良い奴なのだが、たまに突拍子も無いことをするのと、胸のコンプレックスが絡むと手に負えない。
初めて出会った時、リックは人の胸を揉むなり「ちっ、本物か……」と舌打ちをした。
同性でなかったら張り倒していたところだった。
またある時は、ジェノバという謎の生命体を抱き枕にして寝ていた。
何を考えているのだと叱りつけると「ご利益があると思って」などと訳の分からないことを言っていた。
他にも挙げればキリがないリック=ヘルガー。
それでも、バカな子ほど可愛いということなのか、不思議と憎めない奴だ。
ジェーンは研究所に入り、自分のデスクへ座る。
今日も一番乗りかと思ったら、リックのパソコンが動いていた。
「あら珍しい」
自分より早いとは、変わったこともあるものだ。
今やっているプロジェクトは本社も注目している。
ようやくリックもやる気を出すようになったか、と思うとジェーンの唇が上がっていった。
ここにいないとなると装置のある部屋にいるのだろう。
どれ、少し様子を見に行くかとジェーンは歩き出した。
ウゥーン……ウゥーン……。
カードキーを通し、装置の置いてある部屋に入ってまず聞こえたのは、装置が稼動している音だった。
ジェーンはおや、と思った。
稼働日はまだ先のはずだ。
どうして今装置が動いているのだろうか。
米神がヒリヒリするのを感じながら、ジェーンは動いている装置に近づいていく。
「Oh……」
ジェーンが見たものは、脱ぎ散らかされた服と、装置の中で青白く光る液体の中でユラユラと漂っているリックの姿だった。
想像の斜め上だった。
せいぜい動いている装置の横で涎を垂らしながら爆睡でもしているのかとジェーンは思っていた。
さすがリック=ヘルーガー。
愛すべきバカである。
「……と、感心している場合じゃなかったわ」
もう死亡しているとはいえ、このまま裸を他の、特に男性職員に晒すのははばかられた。
ジェーンはパネルを弄り、装置を停止させる。
すると装置の蓋が開き、ぷかりとリックが浮いてきた。
「よいしょ……きゃっ」
引っ張り上げる途中で、手が滑った。
リックの体が「ベシャ、ゴン、ドサ」と音を立てて落っこちる。
急いで装置から床を見下ろすと、リックの体がビクンビクンと痙攣していた。
「げほっ、ごほっ、ごほっ」
「え?!」
死体がむせながら大量の水を吐き始めた。
それどころか、よたよたと立ち上がり始めている。
「リック、あなた生きてたの?」
「げほ、げほ……あ~……先輩? わたし、溺死したんじゃ……お?」
「え?」
リックはぐわし、と両手で胸を掴んだ。
「お……おおおおお!」
そこには、こぼれるくらいに育った、たわわな果実が2つ。
「こ、これがジェノバ・プロジェクト! これさえあれば……貧乳のみんな! 今すぐ助けにいくからね!」
「待ちなさい!」
「ぐへえ!」
装置から飛び降りたジェーンの、渾身の蹴りが決まった。
ここまでありがとうございます。
魔晄を注ぎ込めばソルジャーの出来上がり、そう思っていた時期が作者にもありました。
足りない素材についてはウィルス感染、寝惚けてかじったとか考えてみましたが、結局どうするかまだ決まっていません。
短いですが楽しんでもらえたらと思います。