昼下がり。
キョン(イズモ)は端末を操作しながら、ある違和感を覚えていた。
プログラムの構造自体は単純だが、どこか既視感がある。
キョン(イズモ)「……この処理、前にも触ったような」
その瞬間、通信音が鳴った。
表示された名前は涼宮ハルヒ。
ハルヒ電話「今日、暇でしょ」
キョン(イズモ)「まあな」
ハルヒ電話「二時前に駅前集合だから」
キョン(イズモ)「必要なものは」
ハルヒ電話「水着一式」
キョン(イズモ)「了解」
約束の一時間前。
キョン(イズモ)はすでに駅前に立っていた。
念のため、ステルス防水仕様のパワードスーツを展開する。
見た目はただの服装だが、水中でも行動に支障はない。
やがてハルヒと長門ユキが現れ、何事もないように車に乗り込む。
市民プールに到着すると、ハルヒは迷いなく飛び込んだ。
ハルヒ「速く来なさーい」
キョン(イズモ)「飛び込み禁止だぞ」
イツキ「実に夏らしい光景ですね」
キョン(イズモ)は周囲を警戒しながら、イツキに視線を送る。
キョン(イズモ)「閉鎖空間は」
イツキ「最近はゼロです」
それを聞き、わずかに胸を撫で下ろす。
ハルヒは水面から上がり、満足そうに息をついた。
ハルヒ「そろそろご飯にしましょう」
ハルヒ「今日はミクルちゃんの手作りサンドイッチよ」
キョン(イズモ)「いただきます」
イツキ「これは美味しいですね」
何事もない一日。
そう思っていた。
帰り道、喫茶店に立ち寄る。
ハルヒは紙ナプキンに大きく予定を書き始めた。
盆踊り。
花火。
バッティング。
昆虫観察。
肝試し。
釣り。
ビーチバレー。
天体観測。
キョン(イズモ)「二週間で全部やる気か」
キョン(イズモ)「明日は出店のある盆踊りだな」
キョン(イズモ)「明後日は花火大会」
キョン(イズモ)「肝試しは出店のお化け屋敷で済ませればいい」
ハルヒ「今日は解散」
翌朝。
浴衣の買い出しに付き合わされる。
キョン(イズモ)は内心、瞬時に生成できるのになと思いながらも口には出さなかった。
盆踊り会場。
出店を端から端まで巡り、夜が更ける。
ハルヒ「花火しましょ」
キョン(イズモ)「見るのとやるのは別物だが、まあいいか」
手持ち花火、噴き出し、打ち上げ。
夏らしい光景が続く。
その後も予定通り、遊び尽くした。
だが、夏休みは終わらなかった。
キョン(イズモ)「……このプログラム、前にも修正してないか」
カエデ「ループしています」
キョン(イズモ)「何回目だ」
カエデ「二回目です」
キョン(イズモ)「まだマシだな」
その予感はすぐに確信へ変わる。
夜中、天体観測を終えた直後、電話が鳴った。
キョン(イズモ)「どうした」
ミクル電話「未来に帰れなくなりました……」
イツキ電話「どうも、小泉です」
キョン(イズモ)「時間が閉じてるな」
キョン(イズモ)「今行く」
夜の公園。
ミクルは震えながら説明を始めるが、禁則事項ばかりが続く。
キョン(イズモ)「もう分かった」
キョン(イズモ)「原因は勉強だ」
キョン(イズモ)「最後のミーティングで勉強会を提案しないと、ループが確定する」
イツキ「普通なら何万回も繰り返さないと気づかない現象ですね」
キョン(イズモ)「今回は運が良かった」
そして最後の日。
全ての予定を終え、ミーティング。
ハルヒ「これで課題は終わったわね」
ハルヒ「なんか、物足りない気もするけど」
キョン(イズモ)「まだある」
キョン(イズモ)「みんなで勉強会だ」
ハルヒ「まだ終わってなかったの」
キョン(イズモ)「俺は初日に終わった」
キョン(イズモ)「一番危ないのはミクルと小泉だ」
ミクル「まだです」
イツキ「私もです」
ハルヒ「しょうがないわね」
ハルヒ「四人でやりましょ」
翌日。
静かな教室で勉強会が開かれた。
その瞬間、世界は前へ進み出す。
長い夏は、ようやく終わった。