部室に午後の光が差し込み、埃の匂いと古い机の軋む音が混じる。
いつものSOS団の溜まり場だが、今日は空気が違った。
ハルヒが椅子を蹴るように立ち上がり、机に手をついて宣言する。
ハルヒ「学校祭で映画作るわよ」
その一言で、部室の温度が一段上がった気がした。
また来たか、と内心でため息をつきつつも、嫌な予感より先に懐かしさが胸に浮かぶ。
この展開、知っている。
三回目の異世界だが、やはりハルヒはハルヒだ。
キョン(イズモ)「おれはVFXと衣装、タイトルロゴ、ナレーション、その他やるわ」
ハルヒが一瞬だけ目を見開く。
予想外だったらしい。
キョン(イズモ)「中学生の時、VFXとCG作って遊んでたからな。クオリティはそれなりに保証する」
自分で言っておいて何だが、嘘ではない。
この世界の技術水準なら、少し本気を出せば過剰なくらいだ。
ハルヒ「楽しみね」
その笑顔に、背中に嫌な汗が流れる。
本気になったハルヒほど厄介なものはない。
キョン(イズモ)「あと役者だな」
ハルヒ「もう決めてるわ」
そう言って、指を鳴らす。
ミクル、ユキ、イツキの三人が前に出される。
ミクルは主役。未来人。
ユキは敵役。宇宙人。
イツキは超能力者。
キョン(イズモ)「……まんまじゃねえか」
心の声がつい漏れる。
だがハルヒは気にも留めない。
キョン(イズモ)「足りないシーンはCGで足していい?」
ハルヒ「いいわよ」
ハルヒ「狙うわ。文化祭ベストイベント投票一位よ」
キョン(イズモ)「予算ゼロでいける」
ハルヒ「本当に?」
キョン(イズモ)「うん」
自分でも可笑しいほど即答だった。
素材も環境も、揃っている。
問題は、どこまでやるかだけだ。
キョン(イズモ)「明日、衣装の画像持ってくる」
翌日。
部室の机にタブレットを置き、画像を並べる。
キョン(イズモ)「これが候補」
ミクル用のプラグスーツ。
ユキ用の、透明樹脂と人工翼を備えた近未来スーツ。
イツキは、あえて普通の制服。
ハルヒ「……どこでこんなの用意したの?」
キョン(イズモ)「この前の施設のガラクタ。
使えそうなのがあったから、イメージはこんな感じで組む」
ハルヒはしばらく黙り込み、やがて頷いた。
ハルヒ「そう。
カメラは?」
キョン(イズモ)「こっちで用意する」
ハルヒ「わかったわ」
キョン(イズモ)「あと銃。これでいい?」
机に置いたのはP90のエアガン。
弾は入っていない。
ハルヒ「デザインいいわね。それで」
ハルヒ「もう一挺ある?」
キョン(イズモ)「ある。撮影の時に持ってくる」
翌日、衣装を持って部室へ行く。
ハルヒの指示で、皆が着替える間、俺は廊下で待つ。
数分後、扉が開いた。
ミクル「フィットしすぎですーーー」
涙目で訴えるミクルに、少しだけ罪悪感を覚える。
キョン(イズモ)「未来人っぽいの、これしかなかった。
移動の時はインナーにしとけ」
ミクル「は、はい……」
ユキは無言だが、スーツは驚くほど似合っていた。
キョン(イズモ)「ユキは問題なしだな」
ハルヒ「銃はBB弾なしでいい?」
キョン(イズモ)「問題ない」
休日。
市内でロケが始まる。
オープニングは、カラコンを入れたミクルが全力で走るシーンから。
息を切らし、不安と使命感が混じった表情が、妙にリアルだった。
戦闘シーンでは、ミクルに銃の構え方だけ教える。
撃たせる必要はない。
後は全部、映像でどうにでもなる。
ユキには動きだけを頼む。
無機質で正確な動きが、そのまま異質さになる。
ミクルがビームを撃つ仕草をする。
目からレーザーが出る演出は、後処理だ。
頭の中で完成形がすでに見えている。
翌日はイツキの番だ。
池の近くで、目から超高分子カッターを放つ演技。
冗談めいたシーンなのに、妙に説得力があるのが怖い。
撮影が進むにつれ、季節感がずれていく。
春になったはずなのに、時間の流れが妙だ。
異常事態が増え始める。
ハルヒが無意識に世界を引っ張っている感覚が、肌に刺さる。
クライマックス前。
俺の家の庭に作ったドーム型スタジオで、VFX用の元撮りを行う。
イツキ「涼宮さんに内緒で集合って、何するんです?」
キョン(イズモ)「合成用の光線とかを撮る」
キョン(イズモ)「ここは内部で核が爆発しても耐える。
反動は俺のATFで処理する」
二人の3D写真を撮り、位置データを保存する。
キョン(イズモ)「あとは俺がグリーンスーツ着て動くから、外で待ってて」
モーションを一気に撮り終え、合図を出す。
キョン(イズモ)「いいよ」
イツキ「早速光線ですね」
俺は壁に向かってレールガン、加粒子砲、空中放電を順に放つ。
轟音と光がドーム内を満たすが、外には一切漏れない。
キョン(イズモ)「こんなもんかな」
イツキ「妙に張り切ってた理由、これですか」
キョン(イズモ)「楽だし、クオリティ高い」
最終確認。
ナレーションとアフレコもドーム内で済ませる。
ハルヒ「あんた、すごいわ」
キョン(イズモ)「ありがとう」
ハルヒ「これならハリウッド映画にも負けない」
キョン(イズモ)「アフレコだけは勝てないけどな」
最後にハルヒのナレーションを収録して、全工程が終わる。
スタッフロールを確認すると、ほとんどが俺の名前だった。
嫌な予感と達成感が、同時に胸に残っていた。