当日。
文化祭の校舎は朝から異様な熱気に包まれていた。
廊下は人で埋まり、どこからともなく歓声と拍手が重なって響く。
映画上映教室の前には長蛇の列ができ、立ち見すら出るほどの大盛況だった。
映画を見ずに帰る生徒を探す方が難しい状況に、内心で小さく息を吐く。
やり過ぎたかもしれない、という感覚と、やはりハルヒ絡みだなという諦観が同時に湧く。
校内を一通り回る。
他の出し物は、良くも悪くも普通の学校祭だった。
演劇部では、ユキが台本を一切見ずに未来を予言する役を淡々と演じ、観客を静かに震えさせている。
イツキは別の劇で、必要以上に丁寧な世界観解説を入れ、観客を納得させつつも困惑させていた。
あいつらはどこに行っても、結局あいつらだ。
少し前にミクルからもらった割引券のことを思い出す。
正直、気が進まなかったが、この混雑から逃げる理由にはなる。
覚悟を決めて、メイド喫茶の看板をくぐった。
中は想像以上だった。
満席。
行列。
視線の集中点は、言うまでもなくミクルだ。
本人は必死に笑顔を作っているが、限界が近いのが一目でわかる。
吹奏楽部の演奏が聞こえてきたので、テラス席で少し落ち着く。
金管の音が、騒がしい頭の中を少しだけ整えてくれる。
その直後、軽音部のステージが始まった。
何気なく視線を向けた瞬間、最悪の予感が的中する。
ステージ中央に立っているのは、涼宮ハルヒだった。
キョン(イズモ)「なぜ~ーーーーーーーーーーー」
マイクを握ったハルヒは、臆することなく歌い出す。
声量、音程、表現力。
どれも素人の域を軽く超えている。
キョン(イズモ)「……歌、うま」
力技で押し切るいつものやり方だが、今回は実力も伴っていた。
イツキ「素直に上手いですね」
ハルヒマイク「臨時だけど、私とユキね」
ハルヒマイク「本当のメンバーが聞きたい人は、軽音部まで行ってあげなさい」
翌日、軽音部の連中が部室を訪れ、礼を言って帰っていった。
あまりの反響に、逆に落ち着かないらしい。
ハルヒ「来年は映画とバンド、両方やるわよ」
キョン(イズモ)「はいはい」
それから二週間後。
世界が少しだけ軋む感覚があった。
ユキ「目標、方位下十度、方向百五十。機数一万五千捕捉」
キョン(イズモ)「了解。半径五百Bで包囲」
キョン(イズモ)「全砲門解放」
ハルヒ「撃ち方始め」
キョン(イズモ)「全弾着弾」
――話は一週間前に遡る。
コンピューター研に全員集合させられた。
部長が不敵に笑う。
部長「ゲームで勝負だ」
キョン(イズモ)「いいよ」
部長「このゲームで」
賭けるものは、向こうのPC四台。
こちらはハルヒの一台。
無茶な条件だが、断る理由もない。
帰り際、ユキにだけ小声で伝える。
キョン(イズモ)「この地球のC言語で頼む」
ユキ「了解」
翌日、ゲームを起動する。
盤面は将棋に似ているが、敵の駒が見えない。
索敵と判断がすべてだ。
既存の対AIモードで試すが、負けが続く。
キョン(イズモ)「分隊モードか」
イツキ「取扱説明書にありましたね」
試してみると、引き分けが増え始めた。
イツキ「誰も使いこなせないと思って実装した機能らしいです」
翌日、対策を詰める。
キョン(イズモ)「ヒットアンドウェイを潰す」
ミクルに基本操作を教え、確実に一機ずつ落とさせる。
キョン(イズモ)「ナイスキル」
ミクル「ありがとうございます」
ハルヒには戦略だけを渡す。
キョン(イズモ)「敵を囲んで叩け。索敵は任せろ」
決戦日。
キョン(イズモ)「作戦開始。五、四、三、二、一、ゼロ」
キョン(イズモ)「分隊モード起動」
ユキ「了解」
敵の揺さぶりに一瞬遅れるが、ユキと連携し、痕跡を残さない調整を行う。
盤面が崩れた瞬間、勝機が見えた。
ユキ「目標捕捉」
キョン(イズモ)「包囲」
ハルヒ「撃ち方始め」
全弾命中。
続いてボス級を沈め、完全勝利。
部長「負けたよ」
部長「誰だ、あの完璧な処理は」
キョン(イズモ)「俺とユキ」
部長は静かに笑い、PCを差し出した。
こうして、戦利品は四台。
文化祭は、最後まで騒がしいまま終わった。