十二月十六日。
吐く息が白く、指先がかじかむほどの寒さだった。
放課後の部室には、珍しくユキしかいなかった。
窓際の席で文庫本を読んでいる背中は、いつもと変わらない。
そこへ扉を勢いよく開けてハルヒが入ってくる。
ハルヒ「クリスマスパーティーやるわよ」
有無を言わせない宣言だった。
続けて大きな紙袋を机に置き、中から飾りを次々と取り出す。
ハルヒ「グッズは全部持ってきたわ」
部室は即席の作業場になり、ユキも淡々と手伝う。
ツリー、モール、電飾。
ハルヒのテンションだけが、冬の空気を置き去りにしていた。
ミクルをサンタコスにする、という一言で全員撤収が決まる。
あれ以上ここにいたら、確実に巻き込まれる。
キョン(イズモ)「空間は?」
イツキ「ゼロです」
キョン(イズモ)「よかった」
その言葉が、今思えばフラグだった。
十二月十八日。
朝からカエデの声が切迫していた。
カエデ「大変です」
キョン(イズモ)「どうした」
カエデ「パラレルワールドです」
カエデ「キョン(イズモ)さん以外、能力が消失しています」
背中に冷たいものが走る。
キョン(イズモ)「学校関係の情報は?」
カエデ「外見は同じです」
カエデ「ただしインフルエンザが蔓延し、SOS団は存在しません」
カエデ「涼宮ハルヒは甲陽園学園に在学しています」
嫌な予感を抱えたまま、学校へ向かう。
教室に入った瞬間、それは確信に変わった。
ハルヒの席に座っていたのは朝倉だった。
思考が一瞬止まる。
キョン(イズモ)「……ヤバいな」
視界の奥で、ATフィールドが軋む感覚。
ここで戦闘を起こせば、確実に世界ごと壊れる。
キョン(イズモ)「ここでは無理だ」
キョン(イズモ)「一時離脱」
早退の手続きを済ませ、向かった先は文芸部室だった。
そこには、記憶を失ったユキがいた。
無表情でこちらを見る。
ユキ「……」
キョン(イズモ)「こんにちは」
ユキ「文芸部に入りたいの?」
キョン(イズモ)「仮にね」
言葉を選びながら核心を突く。
キョン(イズモ)「オブリビオンの墜落はあった?」
ユキ「ある」
短い答えと同時に、紙片を差し出される。
そこには指示が記されていた。
キーを集め、二日以内にPCを起動せよ。
キョン(イズモ)「……SOS団を再結成するしかないか」
次の目的地は甲陽園学園だった。
門前で、彼女を見つける。
見慣れた顔なのに、纏う空気が違う。
キョン(イズモ)「涼宮ハルヒさんですか」
ハルヒ「誰?」
キョン(イズモ)「最上イズモ」
ハルヒ「……なんで私を知ってるの?」
その反応に、胸の奥がざわつく。
ファミレスで合流したイツキが、淡々と説明を始める。
イツキ「以前、あなたは別の世界にいました」
イツキ「そこでは僕たちはSOS団の団員でした」
イツキ「朝比奈ミクルは未来人、長門ユキは宇宙人」
イツキ「そして僕は超能力者です」
ハルヒは面白そうに頬杖をついた。
ハルヒ「嘘くさいけど、嫌いじゃないわ」
キョン(イズモ)「証拠なら見せられる」
即席で端末を組み、通常なら不可能な処理を走らせる。
ハルヒの目が輝いた。
イツキ「解釈は二つあります」
イツキ「世界改変か、完全な分岐です」
キョン(イズモ)「なら、キーが戻る鍵だ」
そのまま学校へ戻り、強引にミクルも連れてくる。
必要なピースは揃った。
ハルヒ「で、どうするの?」
キョン(イズモ)「異世界へ戻る」
キョン(イズモ)「成功確率は不明だ」
それでも、エンターキーを押す。
視界が反転し、景色が書き換わる。
キョン(イズモ)「ここは……」
カエデ「三年前、七月七日です」
ステルスで移動すると、大人のミクルが待っていた。
大人ミクル「こんばんは」
キョン(イズモ)「だいたい察してる」
長門のマンションで銃を渡されるが、必要なのは中身だけだった。
即席で拳銃型麻酔銃を組み上げる。
時間移動。
カエデ「射程に入りました」
引き金を引く。
だが弾は、ナイフで弾かれた。
キョン(イズモ)「朝倉か」
次の瞬間、麻酔弾が飛んでくる。
意識が闇に沈んだ。
目を覚ますと、病院だった。
キョン(イズモ)「……俺、わかるか?」
イツキ「最上イズモさんですよね」
戻ったらしい。
ハルヒを起こすと、いつもの調子で無茶を言われる。
それが、妙に安心できた。
夜。
雪が降り始める中、ユキが病室を訪れる。
ユキ「私は、消えるかもしれない」
キョン(イズモ)「消させない」
キョン(イズモ)「もし消えたら、本部を潰す」
キョン(イズモ)「光速船を作って、全部叩く」
キョン(イズモ)「脅してでも、ユキを戻す」
ユキは、ほんのわずかに表情を緩めた。
ユキ「ありがとう」
キョン(イズモ)「そういえば、麻酔銃は自分に撃たなきゃな」
窓の外で、雪が静かに積もっていった。