ゼーレ管轄下の地下施設。
無機質な白い壁と、低く唸る機械音が支配する部屋で、十四歳の少女は目を覚ました。
天井の光が滲み、状況を理解できないまま、震える声を漏らす。
少女「……ここは?ママも、つれてこられたの?」
そばにいた母親は、怯えを隠すように少女の手を握り返した。
自分自身も不安に飲み込まれながら、それでも娘を安心させようと微笑む。
母親「……そうみたいね」
扉が開き、無表情のゼーレ職員が入ってくる。
その視線には、人を見る温度がなかった。
ゼーレ職員「母親を連れ出せ」
少女「ママ……ママを連れてかないで……ママ!」
必死に腕にしがみつく少女を、職員たちは容赦なく引き剥がす。
母親は引きずられながらも、最後まで娘を見つめて叫んだ。
母親「いいから……あなただけでも、生きなさい……逃げなさい!」
少女「ママ……!」
その声が、重い扉に遮られて途切れる。
少女は泣き叫びながら床に崩れ落ち、やがて暗闇に引きずり込まれた。
その後、母親はコアに変換され、少女は拷問と洗脳を受け、感情と意志を削られた。
選択肢は与えられず、少女はエヴァのパイロットとして調整されていく。
――――
クデュック側。
警報が鳴り響き、戦闘態勢が敷かれる。
ゼーレが送り込んだエヴァが、都市へ侵入していた。
直前の戦闘で零号機は半壊。
その穴を埋めるため、最上イズモも臨時出撃する。
カエデ「敵エヴァ内部に生命反応を確認。さらにコア部にN2反応あり」
イズモ「……追い詰められた組織がやりそうな手だな」
自爆前提。
中に人がいるとわかってなお、切り捨てる選択。
イズモの胸に、嫌悪が込み上げる。
イズモ「ミサトさん。パイロットの救出、許可をください」
ミサト「……スパイの可能性もあるわ」
イズモ「それでもです。スパイだったら、俺が責任を持って対処します」
一瞬の沈黙の後、ミサトは決断する。
ミサト「……わかったわ。救出を優先して」
イズモは即座に行動に移る。
ゼーレエヴァへ侵入し、ハッキングを敢行。
強制射出プロトコルを起動し、同時にダミーの損害データを送り込む。
機体は爆散したように見せかけ、実際には完全に回収。
その中から、意識を失った少女が救い出された。
――――
クデュック内部、尋問室。
だがその空気は、尋問というより隔離に近い。
ミサト「あなたの名前は?」
少女は怯えた目で周囲を見回し、か細く答える。
キイ「……震海キイです……」
ミサト「どうして、あのエヴァに乗っていたの?」
キイ「……ママは? ママはどうしたの……ねえ、ママのところに連れていって……」
言葉が途切れ、視線が揺れる。
その様子に、イズモが一歩前へ出た。
イズモ「……もう十分だ。尋問はやめよう。今は心のケアが最優先だ」
ミサト「……そうね」
イズモは声を落とす。
イズモ「コアのサルベージは明日にするけど、キイに合わせた方がいい?」
ミサト「いいえ。完全にケアが終わってからの方がいいと思う」
イズモ「わかりました」
イズモはキイの前にしゃがみ、視線を合わせる。
イズモ「僕は最上イズモ。君のお母さんは、今第三ケージにいる。無事だ。でも、今は会わせられない」
キイ「……ママ、無事なんだ……よかった……」
張り詰めていた表情が、わずかに緩む。
キイ「……ここは?」
イズモ「クデュック。幸福って意味だ」
キイ「……そうなんだ」
イズモ「君がいた場所と戦って、君みたいな人を助けてる場所だ」
キイ「……そうなんだ」
イズモ「これから、よろしく」
少し間を置いて、イズモは続ける。
イズモ「もしよかったら、SOS団ってところに入らない?」
キイ「……どんなところ?」
イズモ「普通の高校生が、部活みたいに集まって活動してる場所だ」
キイ「……それなら、入ってみたい」
イズモ「団長に話しておくよ」
――――
翌日午前。
コアのサルベージが行われ、キイの母親はクデュック病院へ搬送される。
キイも別の階で入院し、本格的な洗脳解除が始まった。
その後の部活動。
イズモ「今クデュックで、ある女の子を匿ってる。SOS団に入りたいらしい。ただ、退院してからになる」
ハルヒ「新入生は大歓迎よ」
イズモ「……それと、この件はSOS団だけの話にしてくれ」
ハルヒ「わかったわ」
――――
部活後、クデュック病院。
イズモ「お見舞いに来たよ」
キイ「……ありがとう」
イズモ「体調はどう?」
キイ「まだ気持ち悪いけど……前よりは楽」
イズモ「SOS団の件、君のお母さんと団長とで話して、大丈夫だった。退院したら一緒に活動しよう」
キイは、ゆっくりと頷いた。
恐怖に縛られていた世界の外に、初めて差し込む光を感じながら。
しばらくして、キイとその母親は揃って退院する。
新しい日常が、静かに始まろうとしていた。